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第III部  現代社会における科学技術の役割
第3章  資源利用
I  科学技術の進歩と資源問題

かつて,わが国では天然資源の貧しさが強調され,海外の原料および燃料資源を獲得することが最も重要な国策の一つであつた。このように海外からの資源獲得の要求は程度の差はあつても,先進諸国にみられた共通の現象であり,その結果自給自足的な考え方が根強くみられた。しかし,戦後,このような考え方は次第に変貌してきている。この変貌にあたつては,植民地であつた主要な燃料生産地の独立等の国際的な政治経済情勢の変化とならんで,生産技術の発展が基本的な役割を果している。たとえば,エネルギー需要の急増にもかかわらず,油田探査技術や,採油技術の進歩は石油の供給量の増大をもたらし,石油を完全な国際商品とした。そしてマンモスタンカーの出現と港湾施設の改善は原油供給における中近東諸,国の重要度の増大とあいまつて,四面海に囲まれた日本を有利な石油入手国の一つに変えた。このようにして科学技術の進歩は石炭から石油へと資源利用のパターンを大幅に変化しつつあるが,将来は,さらに第3の火といわれる原子力がこれにかわることもあまり遠いことではないかも知れない。

以下,主として天然資源について,科学技術の進歩がどのような変化をもたらしつつあるかをみよう。
1. 資源領域の拡大

資源調査技術の進歩は,発見される資源量の飛躍的な拡大と同時に,その存在状態のより正確な把握を可能にし,合理的な開発計画の基礎を提供する。たとえば,わが国を含めて世界的に新油田の相つぐ発見をみているが,これには重錘落下法,総合解析機等の出現により微細な地質構造を決定できるまでに進歩した地震採鉱技術や格段に精度の高い新しい検層技術が主役を演じている。

資源生産技術の進歩は,各種の自然的制約を克服して供給力の拡大と価格の低下を可能にする。水力発電を例にとると,わが国の包蔵水力は昭和31〜34年度の第4次水力調査では,3,537万kmと算定され,明治末期の第1次調査とくらべて,実に10倍以上となり,水力発電技術の進歩のめざましさがうかがえる。

資源の利用技術の進歩も,また,資源領域を不断に拡大する。第1に,資源利用の効率化があげられる。製鉄技術の例でみると,高炉の大型化,原料の事前処理技術の向上等によつて,コークス比はこの5年間に2割近く低下した。加えて高炉への重油,コークス炉ガス等の吹込はさらに大幅な低下を可能にしつつある。

第2に,低品位資源,未利用資源の活用がある。低品位炭を利用する大規模な事業用火力発電の発展により,昭和35年度は3,500kcal/kg内外の低品位炭250万トンが消費された。また魚類加工技術の進展につれて,魚類缶詰,フイツシユミール製造の際にでてくる残滓はもちろん,魚汁まで活用して,魚粕やソリブル(飼料用)が生産され,余すところなく利用されている。第3に,新金属,新材料によつて代表されるような新資源の登場がある。原子力,電子工学,ロケツトといつた新しい分野の科学技術の発展は,在来のものと全く質的に異なる新しい材料の出現を促し,ゾーンメルテイング等のきわめて高純度な金属を製造する技術の出現などによつて,種々の新材料が実用化されつつある。
2. 資源の地域的偏在の克服

世界的な重化学工業の生産規模の拡大な伴つて,各工業国とも自国または近距離の原燃料産地からだけの供給では不足するようになり,遠距離にある資源への依存が強まつてきた。このため,原燃料輸送の大量化と長距離化に対応して,輸送船の大型化と専用船化が進み,輸送コストの大幅な切下げが実現した。専用船の対象も,石油,鉄鉱石から,石炭,ニツケル鉱,ボーキサイト,LPG,木材等と多様化してきている。日本は現在有利な価格で原油を入手しうる国となつており,輸送技術の革新により地域的偏在が克服されている。

国内資源についても,頚地方の天然ガス50万m3 /日を東京ガス会社に供給するため,直江津・東京間335kmのパイプラインが建設されつつある。
3. 資源間の競合

すでにのべたとおり技術革新の進展は,世界的に資源供給力を拡大し,輸送コストを引下げ,地域的偏在性を大幅に緩和しており,資源間の競合または新しい資源への代替の様子も変わつてきた。

従来は,資源に恵まれない地域では,自国で有利に入手しうる物質によつて,これに代替しようとする努力が払われてきた。たとえば,わが国では石炭液化による人造石油の製造法,コーライト法や膨潤炭法のような一般炭を使用する製鉄用コークスの製造法が推進され,またニツケルやタングステン等の特殊鋼原料が乏しいことから,マンガン鋼等の代用鋼の研究が進んだ。

しかし,最近では,需要側の技術が進み,原材料に対する要求がますます苛酷になり,在来の原材料ではその要求を満しえなくなつて,他の原材料にとつて代えられるといつたような原材料間の競合が激し,くなつてきた。すなわち,資源利用にとつて,科学技術への要請がさらに強くなつているといえる。

たとえば,機械工業とくに自動車工業などでは,軽量化が重要な問題となつてきており,鉄鋼に代つてアルミニウム,プラスチツク,マグネシウムなどの競合材料の伸びがいちじるしい。とくにアルミニウムの進出はいちじるしく,現在までの伸び率が将来も続くとすれば,共産圏をも含めて,全世界の鉄鋼とアルミニウムの生産の割合は,1970年頃には重量で3:1,容量ではほぼ伯仲すると推定されている。近年開発研究が強力に進められているグロス法,チグラー法,ペンネ法といつたアルミニウムの新精錬法の成果如何によつては,さらにこの時期は早まろう。ことにグロス法はカナダの一巨大会社がパイロット・プラントを建設しており,アルミナを処理する段階を経ないので,8,000トン規模の建設費が従来の精錬法による場合の半分ですむともいわれている。

また耐熱材料についてみても,火力用蒸気タービンの翼,ガスタービンの翼,ジエツトエンジンの燃焼器,ロケツト頭部というように,作動する流体の温度や速度が高まるにつれて,その要求を満すために,高級な耐熱鋼が開発された。すなわち,添加される特殊な元素の種類および量が次第に増加し,遂には合金元素が鉄より多いものが出現し,さらにチタン,タンタルというような金属が開発使用され,ロケットの頭部に至つては,いかなる金属を用いてもその高温に耐えられなくなつてセラミツクスという新しい材料が登場してきた。このようにより高度な材料への要求は,その原料になる資源の代替を促進している。


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