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第III部  現代社会における科学技術の役割
第1章  国民生活
II  家庭生活における新しい傾向



1 衣生活と繊維製品における合成繊維の進出

化学工業における技術進歩は各種合成繊維を誕生させ,衣生活に大きな変化をもたらした。

アメリカで開発され,合成繊維の先駆となつたナイロンは,わが国でも靴下その他に使用され始めてから約10年になる。またスフも技術の進歩により,戦時中の粗悪さから面目を一新し,現在でも合成繊維を含めた化繊の大部分を占めていることは衆知の事実である。

さらに天然繊維においても,防縮加工などの加工技術の進歩により「洗濯をしたら縮むものである」という考え方は一変した。このような繊維製品の性質の向上は,合成繊維との混紡によつて一段と向上している。すなわち合成繊維は,それぞれの特徴的な性質に応じて単一の繊維で使用されることもあるが,最近は天然繊維や他の化学繊維との混紡によつて,強度,肌合,美観,重量等のほかに洗濯の容易さ,アイロン掛けの不用の点などが改善され,その持味によつて特定の用途を持つようになつた。合成繊維は他の繊維との混紡によつて今後さらに多くの用途を開拓することになろう。

また,合成繊維の進出による質の向上と染色技術の進歩は,生活様式の変化と相まつて,繊維製品の多様化をうながした。すなわち衣料においては,軽快な服装が好まれその種類が豊富になり,また下着,シャツ類の増加も顕著である。さらに衣料のほかに生活分野関係においても,テーブルクロス,カーテン,ジュータン等の消費も大幅に増加している。

これは,国民一人当り繊維の供給量が過去5年間に6.18kgから8.55kgと約28%の上昇を示していることからも知ることができる。また,その重量構成比においては 図III-1-1 に示されるように合成繊維の進出がいちじるしく,この傾向は今後続々と新しい合成繊維が生まれるにつれて,高まることが予想される。合成繊維別のここ数年の生産量の推移はこの間の事情を裏書きしている。

図III-1-1 繊維生地別の重量構成比の推移


2. 食生活における高度化と加工食品の進出

食生活における大きな変化としてまず国民の栄養摂取量の増加があげられる。昭和30年と35年の食料費構成比を比較すれば, 図III-1-2 のように米穀類の減少と魚介肉卵乳の増加,とくに肉類卵乳の著増が認められ,その結果は一般的に国民の体位の向上となつて表われている。

図III-1-2 食料費構成の変化

たとえば,15歳の男女の平均身長は,昭和30〜35年間で男5.9cm,女2.7cmの増加となつている。これは,栄養に関する科学技術的知識が国民一般に普及したことと,多頭羽飼育による畜産技術の向上および技術革新が直接間接にもたらした収入増加などに負うところが大きい。

第2には食品工業の進歩に伴う加工食品の進出である。このうち,とくに重要なものは乳児用粉ミルク,および育児食の発達である。従来人工栄養は母乳による育て方より困難であつたが,現在では母乳にまさるとも劣らない成績を示し,育児面に大きな変化を与えるとともに,乳児の成長も年々速くなり,標準身長,体重などもしばしば書換えられるのが現状である。また,その他の加工食品についても,冷凍食品および豊富なかん詰製品の増加のほかに,濃縮および乾燥食品などが台頭し,いわゆるインスタント食品ブームをまき起こしたのは最近の傾向の一つである。乾燥即席食品は従来特定の用途,たとえば,登山などに利用されるに過ぎなかつた。それが日常の食事の中に進出した理由は,味の改善と価格の低下をもたらした食品工業の技術進歩をあげることができる。

すなわち,味については,わが国における調味の2大要素である昆布と鰹節の呈味成分のうち,前者のグルタミン酸ソーダーに加えて,最近,後者のイノシン酸も合成され,また貝類の呈味成分はコハク酸ソーダで代用されるようになつた。これらの合成調味料を基本にして幅の広い新しい調味料が生まれている。香料についても,現在すでに海苔,しよう油,バター,松茸,その他多くの香りも完成されており,これらが加味されて,食品は次第に味のよいものになつた。さらに国民の生活面における簡易化の傾向はこれらの加工食品購入の機会を増大しつつある。
3. 新しい型式の住宅

木造家屋の減少,不燃家屋の増加が,最近の住宅建設の特徴である。この傾向と建築工法および材料などの進歩とが合して新しい型式の住宅が出現している。最近数年間の間に出現したこれらの住宅は,パイプ構造組立式のもの,骨組に鉄材を用いて壁などにプラスチツクを用いたプラスチツク住宅,さらに工場で生産した鉄筋コンクリートの部材を現場で組立てるプレフアブリケーション住宅等があり,現在は木造家屋より単位面積あたりの建築費は高いが,ここ数年の間に大量生産により30%程度の値下げが可能とされている。とくにテイルアツプ工法による二階建住宅はすでに日本住宅公団によつて建設されており,近い将来は四階建ビルの建設も可能となるであろう。

住宅の現状を新設住宅の床面積についてみると不燃建築物の全体に占める割合は,昭和30年の18%から35年の39%と大幅に増加しており,また一戸当りの床面積も貸家を除いて広くなつており,質的な改善を示している。しかし住宅の改善は,衣食生活に比較して最も立遅れており,その原因は,主として宅地価格の高騰にある。これに対して技術の面からも宅地の造成,居住区を合わせた総合的な都市計画の推進などによつて,解決がはかられようとしている。
4. 耐久消費材の普及と日用品等への新製品の登場

最近の生活革新といわれる国民生活の向上の端緒を作つたものは,耐久消費財の普及,中でもテレビを中心とする電化製品の普及である。

国民生活の質的な変化は,生活環境,生活条件,し好等によつて大きく変わるが,科学技術の進歩による変化はきわめていちじるしいものがあるといえる。

図III-1-3 主要電化製品の生産台数と価格との関係

図III-1-4 生産性と所得との関係

図III-1-5 耐久消費財普及と所得との関係

いま,主要電化製品について生産台数と生産者価格の推移を見ると, 図III-1-3 に示すとおり大量生産による価格の低下の傾向を知ることができる。また,技術進歩の一指標と考えられる生産性と所得との関係および所得と主要耐久消費財供給量の関係をみると,それぞれ 図III-1-4 および 図III-1-5 のようにほぼ直線的な関係にあることがわかる。

以上の結果,耐久消費財の普及はめざましく,テレビは都市世帯においては2世帯に1台の割合に普及し,引続いて,洗濯機,冷蔵庫等に及び,さらにその内容も,ステレオ,8ミリ,オルガン,ピアノ等,生活の合理化のためのものから,家庭娯楽の高級化へと広がりを持つようになつている。

また農村においても,この傾向は非常に大きく,上記のもののほかに,モーターバイク,井戸用動力ポンプなどの耐久消費財の進出は,プロパンガスの進出とともに農村の生活合理化に大きな貢献をしている。

これら耐久消費財はいうまでもなく技術の進歩によつて生まれ,また性能を向上して来ている。すなわち,テレビ,トランジスタ・ラジオの出現は,電子技術の成果であり,電気洗濯機,冷蔵庫の普及には小型モーターの発達が大きな力となつている。また写真工業の進歩は,日本の写真機をわが国のみならず全世界に普及させた。その他,合板技術の進歩は,タンス等の木工製品の質を向上させ,化学工業の進歩は,ラバーを寝具に進出させる等,この種の例は枚挙にいとまがない。

将来にわたつて,耐久消費財の普及はさらに高次の生活向上を可能とすると考えられる。すでに生活をより高度化するものとして乗用車,カラーテレビ,ルームクーラー等が登場しているが,これらが,今後白黒のテレビと同様の普及率を示すかどうかは,所得水準の向上のほかに,広い意味での生活環境整備,すなわち,ルームクーラーと住宅構造の問題,乗用車と道路の問題などの解決が必要である。

さらに,耐久消費財以外の日用品についても新製品の登場はめざましい。化学工業の技術進歩は各種合成樹脂を創出したが,これらの日用品は各分野に進出している。すなわち各種容器,玩具,食品類の包装,電線,水道管等多くの用途に普及し,従来の紙,金属,陶器,ゴム,竹,木材,皮革セルロイド等各種の材料に代替して進出しており,今後の技術の進歩とともに日用品の大部分は合成樹脂製品となる日も近いであろう。また各種合成洗剤の登場および螢光燈の普及も見逃すわけにはいかない。

教育用品についてみても,学生服,運動靴などとともに,クレヨン,エンピツ,その他教育用品の質の向上があり,教育用玩具としてのプラモデルの普及もいちじるしい。また,テレビ,テープレコーダーなどが教育に果す役割は非常に大きいといえる。
5. 余暇消費の増加

戦後,とくに最近における労働条件の向上や,勤労感覚の変化は,運輸,通信等の流通部門の発達と,工業製品の質的改善とあいまつて,生活の高度化と余暇の有効な利用を促している。

また,耐久消費財の家庭への急速な普及は主婦の労働時間を軽減し,家庭内の余暇を生んでいる。そして人々は意欲的に余暇を過すようになり,いわゆる余暇産業の発達とともに,その内容も次第に高級な快適なものになりつつある。すなわち,余暇消費は,各種交通機関の発達たとえば,空気バネ大型バス,鉄道の発達(国鉄の週末準急,私鉄の特急)等をうながし,また,スポーツの実況放送技術の進歩,シネラマ,シネマスコープ,70ミリ等大型スクリーンの出現等とあいまつて,意欲的な余暇利用を可能としている。

さらに,登山用繊維製品,釣糸などにおける合成繊維の進歩,EEカメラ,8ミリ,カラーフイルム,ステレオ装置,レコード等の普及もいちじるしい。

これらを反映して,家計支出における雑費中の教養娯楽費の占める割合は昭和30年から5年間に,都市においては17.9%から19.4%,農村においては12.4%から16.1%と増加している。
6. 科学的知識の普及

耐久消費財をはじめとし,各種の新製品の使用によつて,生活の高度化を達成するためには,一般国民の科学的知識の普及向上がなくてはならない。

科学技術普及状況調査(科学技術庁,昭和35年6月)の結果によると,その状況は次のとおりである。

図III-1-6 国民のマス・コミの利用

図III-1-7 電気ヒユーズの取換およびラジオ修理,組立に関する調査

表III-1-1 科学的トピツクの媒体調査


(1) 科学的知識やニュースの媒体

まず,日常生活におけるマス・コミの利用状況をみると新聞とラジオが大宗をなしている。このうち,科学に関する知識や解説,いわゆる「科学もの」に関心を払つている者は,新聞の読者に一番多く,9%をしめ,ついで映画の7%となつている。( 図III-1-6参照 )。なお,これら媒体の2つ以上に重複して算出されている者を除くと,「科学もの」に関心をもつ者は18%で2割にみたない。

図III-1-8 生活の科学化に役立つ器具や薬品の普及状況

次に一般国民が科学に関するニユースや知識をどのような媒体から得ているかをみると, 表III-1-1 のように,新聞によるものが最も多く65%をかぞえ,ラジオ,テレビがこれに続いている。
(2) 日常生活における科学的知識および技術の普及状況

伝染病,ビタミン,熱伝導等についての質問に対する正解率は,伝染病については71%,ビタミン53%,熱伝導16%であるが,3間のすべてについて正解した者は全体の9%,正解2は41%,正解1は31%,正解なしは19%となつており,日常生活に必要な科学的知識は必ずしも高いとはいえない。また,電気ヒユーズの取換,およびラジオの修理,組立ができる者の割合をみると 図III-1-7 に示すとおり,一般に女性の電気的知識は低く,やや専門的なラジオの修理に至つてはきわめて低率である。

生活の科学化に役立つ器具や薬品の普及状況は 図III-1-8 に示すとおり,一般に生活に直結するものの普及率が高いことを表わしている。


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