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第II部  科学技術発展の基盤
第2章  人材養成
II  科学技術者の養成計画



1. 文部省の理工系学生増員計画

このような事態に対応するために,文部省では,昭和36年2月に理工系学生定員増加計画を策定した。本案は理工系学生を昭和36年度から44年度の間に1万6,000人増募しようというものであつた。(4年制大学については昭和42年までの7年間,短期大学については昭和44年度までの9年間に増募を達成する。)この案に対し,科学技術庁長官はさらに初期年次における大巾な増員計画を検討する必要がある旨の勧告を行なつた。

その後,文部省においては,新たに理工系学生増員計画を策定し,上記増員計画の計画年度の繰り上げをはかつた。すなわち,増員計画は,これを第1期計画と第2期計画とに分かち,第1期計画の目標数は,これを2万600人とし, 表II-2-2 のとおり昭和36年度を初年゜度として4ヵ年間で完了することを目標としている。(大学,短大については昭和36〜39年度の4年間,高専については同37〜39年度の3年間。)しかし,昭和37年度においては,私立大学および私立短期大学では,学科増設および学生定員増の届出によつて,,大学6,760人,短期大学810人,高等専門学校730人,計8,300人を増員した。その結果,理工系学生増員第1期計画における昭和37年度分の目標数を約5,000人も上廻つた。そこで,今後における科学技術者の需給をみるとつぎのとおりである。

表II-2-2 理工系学生増員計画

すなわち,国民所得倍増計画において算定した昭和45年における労働需要が各年の平均的な増加によつて到達されると仮定した場合,その結果昭和35年から45年までの各年次における高等教育卒業程度(短大,高専および大学)の理工系科学技術者の需給は,増員計画の実施によつて昭和42年からは各年ごとの供給不足を満たすものと考えられる。( 表II-2-3参照 )

表II-2-3 増員計画に基づく理工学系科学技術者の需給数


2. 需給計画の今後の問題点

人材養成政策の基礎となるべき将来の需要の測定は不確実な要素が多いためにきわめて困難なものであつて,各国における実情をみても理論的に確立されたものは見当らない。このような点からみれば,本計画が上述したとおり,さしあたり第1期計画として発足し,当面の早期充足をはかり,第2期計画については今後の理工系科学技術者に対する需要の動向,第1期計画の実施状況を勘案して別途検討されるべきであることを前提としている点において,一応是認されるべきであろう。そして今後の計画樹立にあたつては,将来の技術革新に伴う雇用構造の変化,すなわち,研究者,技術者の従業員中に占める比率が高まるであろうというような要素などを数量的に把握するための努力をつづける必要があろう。さらに就業者が現に従事している職務の内容と学歴との関連を十分に把握して,これに基づいて学歴別,職種別構成の望ましい在り方について構想をたてることも重大な課題となるであろう。
3. 企業における科学技術者の活用問題

上述したように科学技術者養成計画についての国家の施策が早急に講ぜられるべきことはもちろんであるが,同時に,それはひとり政府の責任にまつのみでなく,科学技術者不足に対応する企業側の正しい認識がなければならない。

とくに,各企業が,その科学技術者の能力を十分に発揮し,効率的に仕事を行なうことのできるよう,十分な配慮を払う必要がある。いいかえれば,今日のような科学技術者の不足の時期においては,科学技術者管理こそ企業が顧慮すべき,最も重要な課題といえよう。そしてこのような問題を解決するためには今後一層の企業の創意と努力とが期待されるのであるが,ここではそのうち技術者の適正配分による活用という点について考察を加えてみよう。

現在,企業とくに大企業における技術者の使い方には浪費が少なくないといわれている。そこで,このような技術者の浪費は一体どのような原因から生まれてくるものであろうか。まず考えられるものは労働力構成との関連である。

すなわち技術革新の進展に伴つて技能者の労働内容は,肉体的労働から頭脳的労働へとその質的転換が要求されている。ところが,技能者の採用方法や教育訓練の改善がこれに伴わなかつたために,現実の技能者は必要とする労働力構成にくらべてまだ質的に劣つている。そこで技能者の質的な低位性を補うために,実際には高度の知識をもつ技術者を彼等の監督として配置して作業現場の質的向上を保持していかなくてはならない。ここに技術者の大きな浪費があるといえよう。したがつて技能者の質的向上が必要であり,そのためにはあとでのべる企業内の教育訓練が大きな位置をしめる。

つぎに問題なのは,組織上におけるライン,スタツフの問題である。日本の企業においては,ライン,スタツフ間における責任権限の不分明,混在によつて両者の業務は重複,輻輳し,ここにも技術者の浪費があるといわれている。これはラインを重視する従来の日本的な考え方と最近において急速にその重要性を増大してきたスタツフ職務に対する要望とが,過渡的な現象として混在して現われたものであろう。

すなわちすべてのことをライン中心に考え,そのためラインに優秀な人材を配置する結果,重要なスタツフ業務をラインが担当するようになる。そのため,ライン監督者の数が尨大になると同時に,このような組織の下にあつては,技術者はラインとスタツフの両方の業務をもたなければならず,その多くは現場監督員としての現場業務の多忙のために,研究とか計画とかいうような元来のスタツフとしての重要な業務に集中的に従事することができないのが実情といえる。このような観点にたつて,今後,企業における組織上の管理方式の再検討,とくにライン,スタツフ制度の確立をはかることは,技術者の量的需要数の節減をはかることを可能にするとともに,その技術者の能力,技術を完全に発揮させることができると思われる。また,会社の経営,管理,販売,サービスなどの部門に従事する技術者についても,事務系職員に対して技術教育を施すことによつて,この部門の技術者に代替させることも考慮すべきである。
4. 教員の不足

今後における科学技術者の増員計画を達成する上において,もつとも重大,かつ憂慮される問題は教員の問題である。たとえば文部省大学学術局資料によると,前述した2万600人増員計画についても,その実施のために必要とされる教員数(除一般教育担当)は約3,400人,(除助手)であり,その主要な供給源として考えられるものは大学院をおいて他にない。しかしながら,現在の理工系大学院の在籍学生数は産業界の好況等の影響を受けて,定員をいちじるしく下廻つている実情であり( 表II-2-4参照 ),したがつて前述した最小限の増員といわれる文部省計画の達成さえも容易でない事態であつて,教員の確保が学生増員計画に先立つ最重要事であることがわかる。

このためには,大学院学生博士課程における給費あるいは奨学制度の確立をするなどして,大学院への進学希望者の増加をはかるとともに,大学院修了者をできるだけ多数,教官として確保するために,大学教官の処遇を改善する特別な方策を講じなければならない。そのほか産業界科学技術者の活用やいわゆる大量教育方法の採用なども考慮する必要があろう。

表II-2-4 理工学系大学院の定員に対する入学者の充足状況


5. 農学系ならびに医学系科学技術者

以上,とくに理工系科学技術者の需給問題についてのべてきたが,農学系ならびに医学系の科学技術者の養成についてもまた問題がある。まず,農学系科学技術者については,前述した文部省の調査にもとづく需給関係資料によると,昭和35〜45年に累計約2万7,840人の供給過剰をきたすものと推算されている。一方,日本学術会議は昭和36年12月,今後不足するという推算を出しているが,いずれにせよ将来の農産物の需要構造の変化が予想される今日,これに対応する生産構造の改変や機械化,畜産,園芸等の技術の確立および普及が必要である。この事態に対処して,文部省技術教育協議会では昭和37年6月28日「大学における農学教育の改善について」に関し大学学術局長あてに答申を行ない,「従来の農学系学部のあり方を再検討し,その体質改善が図られなければならない。」と強調している。

医学系科学技術者のうち,臨床医師の充足については,今日でも先進諸国におけるそれにくらべてもそん色がなく,厚生省の医療機関整備5ヵ年計画によつても昭和40年に至るまで,その需給は一応均衡を保つている。ただ,その地域的分布の不均衡については,今後の医療体系の整備などによつて措置されなければならない課題であろうし,さらに大学における基礎医学研究部門ならびに国立研究所その他の公衆衛生部門における医学系科学技術者の不足もまた看過し得ない重大問題である。
6. 中級技術者の養成

研究や生産の場において,研究者や高級技術者の専門的補助者となる中級技術者については,戦前は主として旧制の専門学校をその供給源としていた。しかしながら,戦後の教育制度の改革に伴う高専廃止によつて,このような中級技術者を社たに獲得することは不可能となつた。このため産業界からは中級技術者養成のために新たな教育制度を設けるべきであるとする要望が強かつた。これに対して,専門学校制度の復活は現行の単線型教育制度をみだすものとして反対する声もあつたが,文部省は中央教育審議会および科学技術会議の第1号答申の趣旨にそつて5年制の工業高等専門学校を新たに発足させることとし,昭和37年度から19校(国立12,公立2,私立5)を開校した。このような新しい中級技術者を養成することは,企業における生産や研究業務が組織的に行なわれるための適正な人的構成をかたちづくることに役立つものであるが,現在の高専における施設設備,教員組織の充実については,まだ十分なものとはいい難い。また,今後の学生増募において4年制大学と高専の比率をどのようにするかということについての見通しが早急にたてられなければならない。
7. 最近における諸外国の科学技術者養成計画

先進諸国においては戦後いちはやく大規模な,かつ広い基盤の上にたつ科学技術人材の計画的養成が展開され,その成果は着々と実を結びつつある。もちろんこれら欧米諸国,ソ連等における養成計画は,それらの国々の社会経済体制によつて,そのもつ意義もちがうし,とくに経済発展の段階によつてその構想も自ら異なつてくることはいうまでもない。しかし,わが国における今後の長期養成計画が検討される場合,これら先進諸国における施策についてその概要を知ることも意義あることと思われるので,以下にそのいくつかについてふれることとする。
(1) イギリス

イギリスは,戦後の国際環境の中にあつて,その輸出貿易の拡大を緊急最大の国家的課題としており,そのための産業技術の急速な発展に対応する科学技術人材の確保に最も力を注いでいる。

1959年度における全産業部門の科学技術者数は14万3,300人で,これは1956年度のそれに比して約2万人(19.7%)の増加をしめしている。このような現状にたつて科学担当相のもとにある科学技術者委員会(Committeeon Scientific manpower)は,将来における科学技術者の需要の推定を行なつたが,それによると,1962年度における科学技術者の需要は26万4,800人で1959年のそれに比し,5万3,100人の増加となる。

すなわち,1959年から1961年に至る3ヵ年間に,年平均1万8,000人弱の科学技術者を新たに供給する必要がある。さらに1956年の調査を基礎とした長期需要推定によれば,1954年度における年間1万300人の科学技術者の養成実績を1970年度には,年間1万9,900人に引き上げる必要があるとしている。

一方科学技術者の供給は,1959年の調査をもとにした1959〜61年度の供給推定数は,5万1,650人で,このうち,外国人学生等を除き,英国企業が雇用しうる科学技術者数は約4万7,500人であり,前述した必要数5万3,100人に5,600人不足することとなる。しかし,1959〜61年の供給割合で,科学技術者が増加するならば,1960年代の中頃には,年間養成される科学技術者数は2万人に達し,長期需要の予測を上廻わることとなる。

イギリスにおける科学技術者養成増強のための方策については,1938年以降各種の委員から勧告もしくは報告が発表され,これにもとづいて種々の施策がとられている。

たとえば,1956年〜63年に各大学の科学技術部門の拡大強化のために542億円を支出するほかテクニカル・カレツジの拡張計画(1956〜64年間に1,690億円),テクニカル・カレツジ教師の増員(1957〜61年に約4,500人)などの諸措置がとられた。
(2) 西ドイツ

西ドイツにおける科学技術者の不足は約4万人といわれ,政府においてもその養成の緊急性を強く認識している。現在,科学技術者の需給計画というものはないが大学入学希望者の受入れ計画は存在し,これに関し科学会議(Wissenschahftsrat)は,1960年末,大学増設に関する次のような勧告を発している。

すなわち,従来の統計によれば,高等学校の卒業試験合格者の77〜78%が大学に進学している。1960年の大学在籍学生の総数は約20万人であるが,出生率,進学率の傾向からして1964年における在学々生数は約24万人と推定され,これに外国人学生数を加えれば26万人が見込まれる。さらに1970年には24〜26万人と推定される。これに対し,既存の大学の収容能力は20万人が限度であるから,最少限4万人の学生収容能力の増大を早急にはからなくてはならない。このため,収容能力約8,000人の4大学(総合大学3,工科大学1)および収容能力800〜1,000人の7つの医科大学の新設を行なう必要があるとしている。さらに同勧告は総合大学については,いままでの伝統をやぶつて工学部を設置すること,また,とくに拡充すべき学部として,工学部,理学部系の多くの専門分野,医学部,経済学部,および文学部の高等学校教員の養成課程をあげている。

以上のほか,同会議は,医師の将来需要についての推定を行なつた。これによると,長期にわたつて年間3,300〜3,500人の医師を必要とし,そのためには,年間4,000〜4,200人の医学生を必要とする。これによつて医学生の在籍総数は年間25万人になるであろうとしている。
(3) フランス

フランスにおいても,科学技術人材不足に対する措置が緊急に要請されている。「質の高さのみでは量の不足を補いつくすことはできない」というのがフランスにおける科学技術者不足対策における合言葉であるといわれている。1954年以来,科学技術関係高等教育機関の新設,拡充や理科系教師の増員に努力が払われた結果,1955〜56年度においては理工系学部が学部別学生数の第2位(1947〜48 年度で第4位)となつた。
(4) アメリカ

朝鮮動乱を契機とするアメリカの科学技術者養成についての意欲は現在もさかんである。1959年5月連邦科学技術会議(Federalcouncil for Science and Tecno1ogy)の常任委員会は,アメリカの知的優越性の確保,いいかえれば,優秀な人材の養成が根本的に必要であり,そのためには,多数の教師の質的改善が先決問題であるとしてその諸方策をのべている。

一方,1959年5月以降,全米科学財団は,「Scientific Manpower」というテーマのもとに種々の調査を行なつているが,需給計画を樹立するまでに至つていない。

1961年4月連邦議会における公聴会資料として1970年までの技術者(Engineers)と科学者(Scientists)の需要供給の見通しが補遺された。これによると,技術者については増員および交替のために,10年間に必要な数は約80万,このうち,50万人は新規工学系大学卒業生によつて補給できる。したがつて約30万人は学士号のない者によつて補わねばならない。科学者については,10年間に19万人の物理および化学者の需要があるのに対し,その供給数は17万人(39万人の学生ができるが,そのうち22万人は中,高校の教師およびその他の分野で活動する者と考えられる。),医学系(生命に関する科学といつている)の需要は10年間に11万人,その供給は12万2千人であるとしている。なお,1959年,民間に雇用されている科学技術者の総数は全米科学財団が,4万7,500の会社について調査したところによると,約80万人であると推定されている。
(5) ソ連

1928年以降,数次にわたる5ヵ年計画において科学技術者の養成に力をそそいできたソ連は,その第6次5ヵ年計画(1956年〜60年)では,高等および中等教育機関卒業の専門家400万人の養成を計画し,うち65万人以上の工業,運輸,建設の技師と農業専門家の養成(5次計画の2倍)などをうたつているが,さらにこの計画は1959年からの野心的な7ヵ年計画に切りかえられている。これによると,工学系大学卒業者は2倍,農学系大学卒業者は1.5倍に増加する予定である。


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