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第II部  科学技術発展の基盤
第1章  研究活動
V  研究活動における国の役割



1. 研究活動に占める国の役割の増大

科学技術が飛躍的に発展し,その社会,経済,政治への影響が深まるにつれて,研究活動における国の役割はますます高くなつてきている。

そのため欧米諸国でも国の科学技術振興体制を整備し,多額の科学技術関係予算を計上していることはすでに述べたとおりである。

わが国においても,研究活動に占める国の役割として,国立大学等を中心とする人材養成ならびに基礎的科学の推進のほかに,たとえば原子力利用,宇宙開発等の大規模で,長期間の実施を要するような新しい研究分野や,公衆衛生,災害防止等の国民生活に広く関連をもつ分野や,農林水産業,中小工業等の生産構造の高度化や生産性向上に資する研究分野,国際共同研究の分野,あるいは国土,海洋,気象等の地球物理的調査研究分野等が最近とくに重要性を増し,しかも民間企業にその推進を期待するわけにいかないので,これらの研究分野は国が主体となつて重点的に推進を図らなければならないものと考えられる。

国が研究活動を推進するにあたつては,国が自ら研究費を支出して国立大学,国立研究機関において研究を行なうとともに,国が大部分を出資する特殊法人(理化学研究所,日本原子力研究所等)を設置し,さらに地方公共団体や民間等に委託または補助をして研究を行なわせる等種々の形態がとられている。上記のような国の役割の増大にともない,これらの各種の形態が効果的に活用される必要があることはいうまでもない。
2. 科学技術振興関係予算の推移および外国との比較

国が科学技術振興に支出する経費は,研究活動の推進に対する国の役割を示す一つの指標となろう。わが国における科学技術振興に関する予算としては,普通狭義のものと広義のものに分けられる。狭義のものは,国の一般会計歳出予算の重要経費別予算の上で「科学技術振興費」として区分されているものである。この内訳は国立試験研究機関の費用,科学技術研究助成費等,原子力関係費の3つで昭和36年度では合計280億円に達している。その推移をみると 図II-1-22 に示すとおり,昭和27年度から36年度までの10年間に約5倍に増加しており,ことに昭和32年度以降原子力関係費が顕著に増加した。しかし最近数年間の仲び率は鈍化し, 図II-1-23 にみるように,国の一般会計予算と対比してみるときは,相対的比率はむしろ低下しており,科学技術振興の重要性から考えるとき,このような傾向は是正する必要があるのではなかろうか。

図II-1-22 科学技術振興費の推移

科学技術振興に関する予算を広義に解すると,前記の狭義のもののほかに,大学における研究費およびその他の経費が入る。大学は教育と研究を合わせ行なつており,このうちから自然科学部門だけの研究関係の経費を区分することは困難であるが,一応の試算では昭和36年度299億円である。その他の経費とは,国の試験研究機関であつて,科学技術振興費には計上されていないもの,たとえば,防衛庁技術研究本部,警察庁科学警察研究所等の経費(36年度31億円)がある。これらの合計額(狭義のものを含む)は36年度610億円となり,政府支出予算(一般会計)の3.1%にあたる。以下一般会計関係のこれら合計を「科学技術振興関係費」と呼ぶこととする。なお別に特別会計に属するものとして,大蔵省造幣局研究所,厚生省国立がんセンター等の経費(36年度10億円)などがある。

いま,主要国間について政府予算における科学技術研究予算の比率を比較すると, 図II-1-24 のようになる。ここでは,わが国の場合は,前述の「科学技術振興関係費」を使用した。同図の附表からわかるように,科学技術研究予算の絶対額についてみれば,わが国は西ドイツの約3分の2,アメリカの50分の1という程度で,これらの先進国に対しては,まだ,かなり見劣りがする。一方,これを政府予算の中に占める割合でみるときは,アメリカの3分の1,イギリスの2分の1で,フランス,ソ連に近く,西ドイツを上廻つている。ただし西ドイツの場合は 表II-1-7 にもみられるように州政府の支出する研究費の割合が極めて高いことに留意しなければならない。また,各国の予算額は,その国の社会,政治,経済等の体制の相違や研究体制の特徴によつて差異があり,また外国の場合,相当量の軍事研究が含まれている。ただ,軍事研究費の相当部分が基礎研究に使われ,また一般科学技術の研究基盤の培養に寄与している点を無視して,わが国との比較にあたり,単純に軍事研究費全額を引去つた残額でみることは,本章のはじめにふれたように適切とはいえない。ここに図示した国々のうち,西ドイツを除く4ヵ国では国全体の研究費の半ば以上を国家が負担している。すなわち,アメリカでは1959〜60年で65%が政府資金であり,イギリス67%(1958〜59年),フランス68%(1960年)であるのに対して,日本では35%(1961〜62年)程度を占めるにすぎない。なお西ドイツの場合も,州政府負担分を含めれば,1960年で55%となる。

図II-1-23 科学技術振興費と国の予算との伸びの比較


3. 国が研究活動を推進するに当つての問題点
(1) 研究者の確保

国が研究活動を推進する上において優秀な研究者を多数確保することが必要であるが,科学技術者は全般的に不足しており,優秀な研究者を確保することは国・民間を問わず困難である。ことに国立研究機関は民間の大企業や大学等に比べて処遇や研究環境の点で魅力に乏しく,研究者の流出が目立つている。

しかし,民間の研究機関でも人材の確保に悩んでおり,民間のなかには大きな研究施設はできたが,その施設を使う人がいないという状況もしばしばみられる。この傾向は,専門分野別では,電気,機械,物理,化学等の分野で顕著であり,また年令別では中堅研究者層においていちじるしい。

したがつて,国が国立研究機関を刷新充実するためには,研究者の処遇の改善は特に重要である。これとともに絶対的に不足する人材を有効に活用するために,国立研究機関,大学,民間を含めて,研究者の交流の強化や共同研究の推進等に対して効果的な方策が必要であると考えられる。
(2) 研究機関の集団移転の問題

国立研究機関や大学は,大都市の中心部にあるものが多く,騒音,振動,大気汚染等研究環境の面で立地条件が悪化しており,また,建物,構築物等の施設も全面的に近代化する必要に迫られている。一方,近時,東京をはじめ,大都市において人口の分散計画が実施されようとする気運にあるが,この機会に,国立研究機関や国立大学は集団的に移転して,立地,施設の整備を行なう必要があると考えられ,すでに,通産省関係研究機関,農林省関係研究機関等はその準備段階に入つている。
(3) 民間研究活動に対する助成

図II-1-24 主要国の政府予算における科学技術研究予算の比率

民間の研究活動を国が助成する制度としては各種補助金の交付,共同研究推進を目的とした鉱工業技術研究組合の制度などのほかに,税制上の優遇措置,委託研究制度,新技術開発事業団の制度などがある。ここでは,補助金と鉱工業技術研究組合の問題について述べ,その他は「行政制度および行政体制」の章にゆずる。補助金の交付は,主として企業合理化促進法にもとづくものであり,これは補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律と相まつて運用され,応用研究または工業化試験の段階のものに対して行なわれている。この種補助金制度としては,通商産業省の鉱工業技術試験研究補助金(昭和36年度5億9,000万円),運輸省の科学技術試験研究補助金(昭和36年度5,500万円)などがあり,その交付は最近の技術革新に対応してとくに緊急に開発する必要のある課題について重点的に行なわれている。

さらに民間企業間の共同研究を推進する施策として昭和36年5月,鉱工業技術研究組合法が制定された。共同研究はそれまで産業界の一部において行なわれていたが,全般的には不振であつた。しかし,この法律制定により,鉱工業技術研究組合に法的根拠を与え,その組織管理等を明確にし,その結成を促進することになるであろう。

この制度の特徴は,特定の研究目的を中心とした共同目的遂行の同志的結合を強化する点にあるが,昭和37年8月末現在,この法律により認可された研究組合は高分子原料,高級アルコール工業化,クリープ試験ほか2の計5組合にのぼり,さらに今後増加する傾向にある。

今後とも研究組合は税制上の優遇措置,補助金制度の活用等により民間共同研究を育成する制度として強化拡充していくことが望まれるが,テーマ主義等運用上問題となる点も種々あるので,これらの点についても検討を要する。また,とくに大企業と技術格差の目だつ中小企業における共同研究の促進に十分活用されるよう運営することも考慮すべきであろう。


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