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第II部  科学技術発展の基盤
第1章  研究活動
II  大学および研究機関における研究活動

わが国の研究活動は,すでに述べたように,組織別には大学,研究機関,民間企業の3つに分かれるが,まず,大学,研究機関について,理工学,農学,医学の学問別にその動向を述べよう。
1. 理工学部門

理工学部門において,大学,研究機関の占める比率は, 図II-1-5 のとおりで,それぞれ研究費で10%,11%,研究者数で20%,11%となつており,民間企業の占める比率に比べてその割合は小さい。

図II-1-5 理工学部門における組織別の研究費と研究者数


(1) 大学

大学の理工学部門における研究活動は,大学の理学部,工学部等や,工業大学,工業短期大学,大学附置研究所などで行なわれている。その研究費は 図II-1-6 にみるように160億円で,大学の研究費総額の52%にあたり,研究者数は1万3千人で研究者総数の42%にあたつている。

つぎに研究費および研究者数について組織別および経営別にみると 図II-1-7 のように組織別では大学の学部が,経営別では国立大学が,他のものに比べて圧倒的に多い。

大学の理工学部門の研究費および研究者数の推移をみると, 図II-1-8 のように年々拡大してきているが,民間企業はもちろん,研究機関に比べてもその拡大傾向はなお小さい。

図II-1-6 大学の学問別にみた研究費と研究者数

図II-1-7 大学の理工学部門における研究費と研究者数

日本学術会議では,近年基礎科学の研究体制の充実刷新について種々検討を加え,昭和33年10月基礎科学の推進に関する声明,昭和34年4月基礎科学白書(第1集),昭和36年4月基礎科学振興五原則の声明等を発表した。

とくに基礎科学白書では,研究体制全般の具体的問題がとりあげられ,大学における研究費の増額,研究者の待遇改善,研究要員の充実,研究施設設備の近代化,予算,会計制度の改善,研究組織の改善,流動研究員制度の拡大,共同利用研究所の合理化等について述べている。このうち,流動研究員制度は,研究者自身の長期の移動を必要とする共同研究を推進するためのもので,日本学術会議の要望に基づき昭和34年度から実施されたが,まだ適用範囲が狭く,その拡大が望まれている。

図II-1-8 大学の理工学部門における研究費と研究者数の推移

最近問題になつているのは,従来の共同利用研究所と異なつた新しい形態の研究所に関する構想である。共同利用研究所は多くの大学や研究機関などの研究者が,研究施設の共同利用や共同研究を行なう目的で,昭和28年基礎物理学研究所(京都大学)および宇宙線観測所(東京大学)の発足以来,原子核研究所(東京大学),物性研究所(東京大学),たんぱく質研究所(大阪大学),プラズマ研究所(名古屋大学)が逐次設置された。これらは,共同利用研究所として一応役割を果しているといえるが,しかし一方,自然科学の諸分野で検討されている大規模な将来計画,たとえば原子核物理研究などの実行のためには施設の共同利用および共同研究の体制をさらに進めた新しい形態の研究所の設置が要望されており,これに関して日本学術会議から昭和37年5月参考意見が出されている。
(2) 研究機関

国・公立,公益法人等の研究機関の理工学部門は 図II-1-9 にみるように,研究費は180億円,研究者数は7千人で,研究機関全体に対する比率は研究費で61%,研究者数で45%を占めている。研究費,研究者数を組織別にみると 図II-1-10 のように,いずれも国立研究機関が他のものにくらべて多く,研究費で全体の47%,研究者数で50%を占めている。

研究機関の理工学部門における研究費と研究者数をみると, 図II-1-11 のように年々増加してきているが,民間企業に比べればその増加の傾向は小さく格差は開く傾向にある。

図II-1-9 国公立公益法人等研究機関の研究費と研究者数

つぎに一般的動向および問題点について国立,公立,特殊法人,公益法人等に分けて述べよう。

最近設置された理工学関係国立機関としては,昭和30年以降,航空技術研究所(科学技術庁),金属材料技術研究所(科学技術庁),北海道工業開発試験所(通商産業省)などがあり,昭和37年度には港湾技術研究所(運輸省)が新設された。

図II-1-10 国公立公益法人等研究機関の理工学部門における研究費と研究者数

図II-1-11 国公立公益法人等研究機関の理工学部門における研究費と研究者数の推移

国立研究機関の理工学部門の研究体制上の問題は,民間企業の経済力の伸長,とくに大企業の研究能力の増大にともない,従来の製造工業においては,有効に先導しうる分野が少なくなつてきていることである。もちろん,この先導性については種々論議のあるところであるが,要するに個々の国立研究機関が設置された当時課せられた使命は最近大きく変つてきており,その研究体制について再検討を要する状況にある。とくに,宇宙,国土調査,防災等の国家的総合課題および新しい科学技術の基盤になる基礎的研究などを積極的にとりあげることが要請されており,そのための研究体制の確立が問題となつている。

つぎに公立研究機関については,東京,神奈川,名古屋,大阪などの大都市に存在する比較的大規模な研究機関とその他各地に散在している小規模な研究機関とではその実態に大きな相異がある。これらの機関は,地方産業の技術指導のためのものであつて,その行なつている研究活動も技術指導に必要な研究が中心である。全般的にみて,これらの研究機関は従来地方財政逼迫の影響によつて施設設備の陳腐化,研究者,技術者の不足等の理由でその活動は決して活発とはいえない。国も連絡会議の開催による技術情報の交換,設備近代化のための補助金の交付,あるいは研究者,技術者の技術研修および人事交流の斡旋等の援助をしているが,現在の体制では,これらの研究機関約200に対する援助にはおのずから限度がある。一方,地方公共団体としても,最近,福岡,兵庫,愛知などのように県内に散在する公立研究機関の集約化ないし総合化を検討しているものもあるが,いずれにしろ,地方産業の振興,中小工業の技術改善のために果すべき公立研究機関の役割の重要性を考えるとき,現在の状況は必ずしも十分とはいえないので,さらに強力かつ重点的な施策が望まれる。

特殊法人研究機関としては,日本原子力研究所(昭和31年),理化学研究所(昭和33年)等があり,昭和37年度には日本原子力研究所に放射線化学中央研究所が設置されることになつている。特殊法人研究機関は民間の資本参加をはかるとともに,その管理運営に弾力性を与え,研究活動に機動性をもたせることに狙いがあるが,今後もその趣旨が十分生かされ,研究者が十分に研究に専念しうるようにする必要があろう。

さらに理工学関係の公益法人研究機関は,電力中央技術研究所のほか2,3の研究機関を除いては小規模なものであるが,わが国の学術および産業の振興上重要な使命をもつているものが少なくないので,この種の機関に対する助成方策についてとくに配慮が必要であるといわれている。
2. 農医学部門
(1) 農学

農業,林業,水産業のいわゆる農学関係の研究は 図II-1-4 にみたように,研究費は136億円で,研究費総額の7%にあたり,また研究者数は1万1千人で,研究者総数の12%にあたつている。農学関係の研究体制は,国立および公立機関の占める比重が高く,一部の例外を除き民間企業の研究機関がほとんどないという特色がある。すなわち, 図II-1-12 にみるように農学関係の研究費は国立研究機関27%,公立研究機関38%,大学33%であり,また研究者数は,国立研究機関23%,公立研究機関38%,大学37%となつている。

つぎに最近における研究費,研究者数の推移は, 図II-1-13 のように研究費においては130%近く増加し,研究者数においては,昭和29年度の7,700人から,昭和35年度までに50%増加しているが,その増加率は,理工学ほどいちじるしくない。

これをさらに組織別にみると,国立研究機関では研究者数においては横這いであるが,研究費は2倍近くに増加している。公立研究機関は,国立研究機関,大学に比較して研究規模の拡大傾向は顕著であり,30〜36年に研究費において2.8倍,研究者数において2倍となつており,都道府県が農学関係の試験研究を強化拡充してきている様子をみることができる。

図II-1-12 農学における研究費と研究者数

農学の研究の特徴として,長期の観察,調査が必要であり,たとえば林木の育種などの極端な例では数十年しないと結果が出ないものもある。また,気候,風土の影響を受けやすいので地域が異なる毎に多くの研究機関を必要とし,また中央と地方の一貫した研究が必要である。たとえば,戦前の試験研究で大きな成果をおさめた米,麦等の育種試験や,施肥法の試験は国と県の研究協力によつて,はじめて可能となつたものであつた。一方,遺伝学とか,生理学,病理学等の基礎的研究において大学の果している役割は大きく,大学と国公立研究機関とが相たずさえて農学の研究を発展させてきた。

わが国における農学の研究は最近大きく転換しようとしている。その理由として,第1に農林水産業と他産業の所得格差の是正や,農林水産物の需要構造の変化にともなう生産の高度化,第1次産業就業人口の減少にともなう生産構造の変革等,農業技術に対する国家的要請が変化していること,第2に農機具,農薬等の発達により農業技術の近代化がはじまつていること,また,第3に分子生物学,生物物理学等,新しい科学の分野が開けてきていること,第4に技術研究の手法に,統計的手法の採用や,種々の環境を人工的に造り出す等,近代化が必要とされていることがあげられる。

図II-1-13 農学における研究費と研究者数の推移

このような状況から農林省においては,昭和36年11月,農事,畜産,園芸,茶業,農業土木の各試験場を分化させ,これら部門を強化する措置をとつた。これにともない農業技術研究所は基礎的研究を,農事以下の各部門試験場は全国的立場から農業の各部門の試験研究を,また地域農業試験場は地域における問題をとりあげて試験研究を行なうとともに各部門試験場の成果を現地に適応させる試験研究をそれぞれ分担して行なうことになつた。さらに水産業の研究については,その利用加工部門の集中,増養殖技術研究の充実等に関連した整備が昭和37年度に行なわれる。

また,昭和36年12月,分化した試験研究を適確に管理,調整するために,農業関係各行政部局に分掌されていた研究行政を農林水産技術会議に一元化した。

なお,農業の機械化は今後ますます重要な課題の一つとなるものであるが,民間との強力な共同研究体制が必要であり,昭和37年度に国と民間の共同出資による特殊法人農業機械化研究所が設立されることになつている。

公立の研究機関においても近年整備が進んでいる。公立機関は,従来,国立研究機関と共同で,たとえば品種改良における地域適応性の試験とか,施肥改善における三要素適応試験等の国の研究の地域への適用のための試験的業務を行なうとともに県内の農業の問題を解決するために独自の試験研究を行なつてきた。しかしながら,今後の研究は近代的手法を用いる必要があること,畜産における多頭羽飼育,農業一般の機械化等を考えるとき,研究には高度な施設や多くの経費を要するようになる。しかも他方,農業技術の普及活動はよりいつそう強化されなくてはならないので,公立研究機関はむしろ普及のセンターとしての役割を強める方向に進むべきだとされている。これに関連して,最近,国立機関が畜産,園芸,農業土木等部門別試験場を分化させたことにともない,都道府県でも,畜産,園芸等の試験場を新設する機運が一部にあるが,他方県によつては公立研究機関は普及のセンターとしての性格を強めることが必要であるという考え方から総合農業試験場とする動きもある。

大学の研究は基礎研究に重点があるが,先に述べたように生物学の分野にも新しい分野が開け,また環境調節実験室(バイオトロン,ヅートロン,アクワトロン等),ガンマ線照射施設等の大規模な実験施設を要するようになり,そのような施設の共同利用問題や,実験動物供給センターの設置,農場の共同利用化等が要望されている。また,地方大学については,たとえば果樹地帯なら園芸,畜産地帯なら畜産というように,地方の特色を生かした方向に分化,専門化すべきだという意見も出ており講座の再編が検討されている。

いずれにしても大学における研究体制も農業の転換期にあたり,改善すべき点が多いとされている。
(2) 医学部門

医学,薬学の研究(ただし製薬会社における研究は理工学に含む)は 図II-1-4 にみたように,研究費125億円,研究者数1万5千人で,わが国研究活動に占める比率は,研究費7%,研究者数16%である。これを組織別にみるときは, 図II-1-14 のように,大学が研究費で81%,研究者数で90%を占め,圧倒的に多く,国立研究機関は研究費9%,研究者数4%,公立研究機関は同4%,4%をそれぞれ占め,国立,公立研究機関の比率は低い。

図II-1-14 医学における研究費と研究者数

図II-1-15 医学における研究費と研究者数の推移

つぎに最近の推移についてみると 図II-1-15 のように,研究費においては65億円から125億円,研究者数においては7千人から1万5千人へと,最近の7年間に2倍程度に増加してきている。この増加傾向は,大学,国立,公立,民間ともにあるが,国立研究機関においては,ことに顕著で7年間に研究者数において2倍強,研究費においては実に5倍余にふえている。

研究体制も時代とともに大きく変化してきている。その理由としては第1に,疾病の種類の変化があげられる。戦後しばらくの間は,結核が死因の首位を占めていたのが,近年,がん,高血圧症,心臓病等が死因中の高位を占めるようになり,また,脳,精神神経系疾患,ウイルス性疾患等も重要な課題になつてきた。これらのうち,とくにがんについては,昭和36年より国立がんセンター(厚生省)が設置され研究が進められつつあるほか,京都大学にウイルス研究所が付置される等,各研究機関もこの方向での充実がはかられてきている。また,大学においてはがん,脳等の関連講座,研究施設等の整備拡充が要望されている。

第2に,医療技術も,最近の理工学分野との連係の強化によつて機械,材料が発達し,診断,治療に大きな変化をきたしてきた。ことに近年医療に対する電子技術の利用とか,人工臓器等が脚光を浴びてきており,大学においても医用電子技術関係の整備拡充が要望されている。

第3に,環境衛生の新しい分野が最近問題になつてきている。すなわち,産業の発展,人口の都市集中等による大気汚染,水質汚濁,騒音等の人体に対する影響および公害防止の問題および都市生活,労働環境等,環境衛生の問題が,医学研究への新たに広大な分野を与えている。また,昭和32年に設置された放射線医学総合研究所(科学技術庁)は,原子力平和利用の一翼として,また最近における核爆発の人体に及ぼす影響に関する研究機関として期待されている。

すでに述べたように,医学関係の試験研究は大学が主体を占めているが,今後は,公衆衛生,環境衛生,医療技術等,新しい国家的な課題の増大にともない,国・公立研究機関の重要性は高まるものと考えられる。したがつてこの際,国立,公立の分担,協力関係を明確にして,研究体制を強化していく必要がある。また,これらの研究機関の試験研究の総合調整ないし管理の機構の強化が必要であるとされている。なお,国立研究機関における検査検定等の技術業務は保健,衛生の見地から重要な業務であるが,研究業務との関連について検討すべき点がある。また公立研究機関においては従来県や市の保健所と密接に結びついて,現場に近い公衆衛生関係の試験,検査,調査を主に行なつているが,今後は,国立研究機関との連けいを強化していく必要があるとされている。

さらに人材の確保については,大学における基礎的研究の研究者や,国・公立機関が主体となつて行なうべき公衆衛生関係の研究者の確保がきわめて困難なこと,医療技術,都市衛生,環境衛生等の新しい課題がふえるにつれて,理工系の科学技術者の確保の要請も高まつていること等の問題も緊急に解決を要請されている。

また,最近における医学研究の分化と専門化にともない,たとえば基礎的分析的研究と応用研究の間の調整,臨床医学と公衆衛生学との間の調整等,全般的な調整も重要な問題とされている。


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