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第II部  科学技術発展の基盤
第1章  研究活動
I  研究活動重視の傾向



1. 研究投資と国民所得

第I部の「科学と技術の結び付きの強化」の章で述べたように,科学と技術を意識的に結び付けて,基礎研究,応用研究,開発の段階を組織的に大規模に行なうことによつて大きな効果が期待できるということは,大戦中のレーダー,原子力の開発などの経験を通じて,人類の確信とまでなつている。戦後においても欧米諸国やソ連においては,東西両陣営の対立という国際情勢の緊張もあつて,核実験競争や人間衛星船打上げ競争にみられるように,大規模かつ組織的な研究開発に膨大な国費を投入しており,その額は最近年とともに急増している。このような傾向は国家の事業のみにとどまらず,一般産業界においても,他社にさきがけて新技術を開発し,これを工業化するために組織的かつ大規模な研究体制をとることが一般化し,研究開発に投資するということは経済的に十分引合うものであるという考え方が普遍化してきた。戦後急速に発展を遂げ,技術革新の先駆をなした欧米やソ連の科学技術は,このような旺盛な研究活動がその発展の基盤となつているのである。

一方,わが国では,戦後先進諸国との技術格差を早急に縮めるため,外国技術の導入に大きく依存してきたが,最近ようやく自力による科学技術の研究開発のためにも相当の努力を払うようになつてきた。とくに民間企業においては,生産の拡大に伴つて企業の基盤が強化されて資金負担能力が増加し,貿易自由化に伴う技術導入条件の悪化に対処するため新しい自らの科学技術を持つことが極めて重要になつた。そのため最近研究活動を重視する傾向が強まつて,研究開発に資金を投入することは,将来の企業発展のため極めて必要なしかも健全な「投資」であるとの考え方が浸透し始め,研究開発への資金の供給は,「経費」から「投資」的な性格へと転換しつつある。このため,最近は,「研究投資」という言葉が次第に使われるようになつてきた。

このように企業においていまや一応確立された「研究投資」といつた考え方を,さらに国全体の場合にも拡張して適用しようという考え方が生じつつある。

わが国の場合,防衛関係の研究費の比重が先進諸外国にくらべ極めて小さいという特殊事情は別としても,最近科学技術発展のために,国の役割に期待する分野は極めて大きくなつてきている。これについては,第I部の「総合化傾向の発展」の章で述べたように防災科学技術や環境科学技術の重要性が増加したこともその一因であるが,なお,基礎科学の分野をはじめとして,農学,医学関係の分野,原子力利用,宇宙開発等の大規模,長期を要する研究分野など,国が主体となつて推進すべき分野が増大しているのもその大きな要因となつている。もちろん,上述のような国が直接受けもつ研究分野では,基礎研究や応用研究が多くの部分を占めており,特に純粋科学研究は真理の探究それ自体に大きな価値があるので,その研究に対する資金の供給までも「投資]と呼ぶことは適当ではないとする批判もあろう。しかし,このような純粋科学の研究から革新的な技術の発展の芽が得られることは,第I部の「科学と技術の結び付きの強化」の章にみられるとおりであるし,たとえ直接的な技術への寄与が見られないとしても,科学技術全般の発展上重要な基盤的役割を果していることは無視できない。また防災科学技術や環境科学技術などにしても,直接的な経済効果を期待できない性質のものが多いことは事実であるが,国内資本形成における公共投資のような性格のものと考えることはできよう。このようにみるときは,民間企業の研究経費だけでなくして,国の直接受けもつ分野をも含めた国全体の研究費についても,「研究投資」と呼ぶことはあながち不適切ではない。すなわち,一国における経済の安定成長と社会的発展とを長期的にみる場合,その国の基礎研究から応用研究,開発にいたる研究活動が最も重要な原動力の一つとなつていると考えられるからである。

研究投資は,もちろん,企業においてはその資金負担能力や利益追求という本質的な目標の認識をはなれて行ない得ないし,一国の場合にもその国の経済または財政規模の枠に見合うものでなくてはならないので,国全体の研究投資額は普通国民所得に対比して論ぜられている。

わが国の場合は,軍備を保有しない建前上,国の研究投資は諸外国にくらべて,軍事研究費相当分だけは少なくてもよいとする考え方がある。しかし,外国における軍事研究費の大部分は大学や民間企業に流されており,また相当な部分が軍事と直接には関係のないと思われる基礎研究に費やされている。この軍事研究費によつて民需産業にも広く発展する可能性のある革新的な新材料やエレクトロニクスなどが開発され,また研究者の養成訓練,研究施設設備の拡充整備などを通じて一般科学技術研究基盤の培養に大きく寄与している事実を無視することはできない。わが国が科学技術の分野において先進諸外国に伍していくためには,諸外国において軍事研究費が果している科学技術振興に関する一般的成果に見合う部分に相当するものを,何らかの形で国費として支出することを考慮する必要がある。そうしなければ,一般的な科学技術研究基盤の整備の面でも,革新的な新技術の開発の面でも遅れをとらざるを得ないであろう。

わが国全体の研究投資の目標をいかに定めるべきかについて,昭和35年科学技術会議は,国民所得に対する比率を近い将来において2.0%程度とすることが妥当であろうとの見解を述べている。 図II-1-1 は最近数年間におけるこの比率の推移を示したものであるが,昭和32年度から増加をつづけ,次第に上記の目標に近づき,昭和35年度には1.6%となつている。これは研究費で1,844億円にあたる( 図II-1-2 )。
2. 組織別にみた研究費,研究者数の動向

わが国における科学技術関係の研究費,研究者数の動向を総理府統計局の「科学技術研究調査」(注参照)によつて組織別,学問別に概観してみよう。

科学技術研究調査は,わが国の研究活動を行なつている組織を次の3つに区分している。

(i)大学の学部,大学院および大学附置研究所(以下「大学」という)
(ii)国・公立の試験研究機関,特殊法人,公益法人および任意団体の試験研究機関(以下「研究機関」という)
(iii)民間企業

大学は,教育に直結して,研究者個人を中心とする基礎的な研究に重点があり,これに対して,民間企業の研究は,新製品の創出,製造方法の改善,製品の品質向上,用途の拡大等応用ないし実用化の研究に中心がある。研究機関は,国・公・私立によつてさまざまであるが,どちらかといえば,応用ないし実用化の研究に重点があるといえよう。


(注)昭和28年から指定統計として行なわれていた「研究機関基本統計調査」に代り,昭和35年から新たに始められたもの。旧統計との主要な差異は,従来調査の対象とならなかつた比較的規模の小さい民間企業の研究活動を含み,調査の範囲が広範になつたことである。したがつて昭和35年(研究費は昭和34年度分)以前と以降の統計を厳密な意味で比較することはできないが,大局的な傾向は知ることができる。なお,「科学技術研究調査」は自然科学のみならず,人文科学関係の研究活動についても調査されているが,本項で用いる統計数字は自然科学について集計したものであつて,人文科学は含んでいない。

図II-1-1 国民所得に対する研究費の比率の推移

図II-1-2 組織別にみた研究費と研究者数の推移

これら,組織別の研究費,研究者数の分布を,昭和35年度についてみると, 図II-1-3 のように,民間企業が研究費ではその総額の67%,研究者数では49%を占めて最も多く,ついで大学が研究費総額の17%,研究者総数の34%,研究機関が研究費総額の16%,研究者総数の17%を占めている。

図II-1-3 組織別にみた研究費と研究者数

研究活動の最近の拡大傾向を組織別にみるときは,民間企業において特にいちじるしい。前掲 図II-1-2 にみるように,たとえば研究費でいえば,昭和29年度を100とした場合,昭和35年度は大学247,研究機関329に対し,民間企業では870と飛躍的に増大している。
3. 学問別にみた研究費,研究者数の動向

研究活動を行なつている組織を学問分野別に分けるときは,理学,工学,農学,医学に大別される。このうち,理学と工学は本統計では理工学として集計され,民間企業の研究のほとんどはこれに含まれている。

昭和35年度における研究費,研究者数の比率は, 図II-1-4 のように理工学系がそれぞれ86%,71%と大部分を占め,農学系が7%,12%,医学系7%,17%となつている。

つぎに,学問分野別に最近の研究規模の動向をみると, 図II-1-4 のように,農学,医学とも着実に伸びているが,理工学の分野では,特にいちじるしく増大しており,今日の科学技術の飛躍的進歩が理工学の分野を中心に行なわれていることの一端を示している。

図II-1-4 学問別にみた研究費と研究者数の推移


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