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  総論
第I部  わが国における科学技術の一般動向
第3章  国際協力の拡大
I  世界の動向

科学技術の進展とともに地球はますます狭くなり,人類が共同して行なう地球観測,国連を中心とした世界各国の科学技術協力,あるいは各地域ブロツクの共同研究開発体制などが,それぞれ最近ますます活発化しつつある。
1. 国際共同観測

国際的関連が密接化し,宇宙時代の扉が開かれてくると,人類の共同の住家であり,かつ,その活動の舞台であるこの惑星地球の全体についての関心が通信交通はもちろん政治,経済,文化などあらゆる方面から高まつてきた。そして従来の地球などに関する知識は,断片的知識の寄せあつめに過ぎなかつたということが痛感されるようになつた。このため国際的な協力により,組織的にくわしく地球の全体を解明する必要が認められて来たのである。

主な国際協同観測は 表I-3-1 のようなものがある。

表I-3-1 国際共同観測事業



(1) 国際地球観測年

これまでは50年に一度づつ,国際極年として大規模な地球観測が行なわれてきたが,1957年(昭和32年)からこれを25年目ごとに実施するように操り上げ,その範囲も極から地球全体に拡大して国際地球観測年(IGY)が行なわれた。この観測は,各分野の国際的学会の総連合体である国際学術連合(ICSU)の国際地球観測年特別委員会(CSAGI)が中心となり,67ヵ国が参加して,特に南北アメリカ(西経70°〜80°),欧州-南アフリカ(東経10°)アジア(東経110°),日本-濠州(東経140°)の経度に沿つた縦の四本と,両極および赤道の緯度に沿つた横の3本とによる全地球をとりまく観測網が整備された。そして太陽活動が最も盛んとなる1957年(昭和32年)7月から地球が太陽を一周する間,同じ規格の装置と方法によつて,気象,地磁気,極光,夜光,電離層,太陽,宇宙線,緯度,経度海洋,人工衛星,地震,重力,放射能等の総合観測が行なわれた。またワシントンとモスクワには全データを集めるほか各項目についてはそれぞれいくつかのセンターにデータを集め,特に決められた世界日および太陽爆発のあつた時には,ワシントン,パリ,東京から警報を発して,全世界で24時間すなわち地球が一回自転する間,連続共同観測が遂行された。わが国が南極観測隊を派遣したのも,ソ連やアメリカの人工衛星がはじめて打ち上げられたのもこの観測のためであつて,バンアレン帯(大気圏外で地球を取りまく放射能帯)の確認をはじめ,はじめて太陽活動と地球現象の全ぼうを明らかにすることができた。これは人類がはじめて全地域にまたがる科学の共同戦線をはつたもので,その後の国際共同研究の基礎となる全世界的連合組織が確立された意義は大きい。
(2) 最近の国際共同観測の動向
(a) 国際地球協力年

国際地球観測年の成果は非常に大きなものであつたので,それをさらに拡大するために国際地球協力年(IGC)として観測を一年延長することになつた。そして協力の連絡組織も恒久的なものにするために,国際学術連合の中に国際地球観測委員会(CIG)はじめいくつかの専門委員会が常置された。

IGYの学術上の成果については,昭和36年に京都で開かれた国際宇宙線,地球嵐会議で,その後の人工衛星などによるデータと合わせて総合的に討論され,太陽爆発にともなう地球現象の全ぼうが総括され,今後の確究の基礎が確立された。
(b) 太陽極小期国際観測年

IGYが太陽活動の極大期であつたのに対して,その極小期にあたる1964年から1965年(昭和39年から昭和40年)にわたる期間に,再びCIGに劣らぬ規模で観測することは,IGYの研究を発展させ,地球嵐の定量的関連の解明に進むためにもぜひ必要であることが認められるにいたつた。そこでCIGは1964年4月から1965年12月までを太陽極小期国際観測年(IQSY)とすることに決定してIGY参加国に協力を呼びかけている。現在すでにアメリカ,ソ連をはじめいくつかの国がその準備を開始している。
(c) 国際地球内部開発計画

IGYやIQSYが地球に及ぼす太陽などの外から来る作用を解明するのを主眼としているのに対して,地球の内部を解明するために世界的に協力しようとするものが国際地球内部開発計画(Upper Mantle Project)である。この計画は1960年(昭和35年)8月国際測地学および地球物理学連合の総会で採択された勧告にもとづいて作られ,国際地球観測委員会(CIG)でも検討された。その目的は地球(半径約6,300km)の表面から1,000kmの内部までを解明することで,地殼(約10kmまで)とその下部のマントル(約2.900kmまで)の上層の化学的性質,深さや場所による変化,その過去と現在の運動とエネルギー源などを地磁気,地電流,地球振動,深層地震,海底地震,地層試錐,熱流測定,古地磁気測定など新しい観測法を開発適用して,1962年(昭和37年)から1965年(昭和40年)まで3年間に全世界で組織的に行なおうとするものである。

わが国も,これに参加する計画を日本学術会議で進めている。
(d) 国際インド洋調査

現在では,広大な海洋もまた人類が共同で開発すべき分野である。

国際学術連合会議(ICSU)の海洋研究特別委員会(SCOR)を中心に10数ヵ国の参加するインド洋国際共同調査が計画され,一部はすでに1960年(昭和35年)から実施されている。これについてはユネスコも,1953年(昭和28年)わが国の提案にもとづき海洋資源開発を重要項目に採択し,以来強くその推進をはかり,1960年(昭和35年)からは海洋学政府間会議(IOC)を開いて,学術団体であるSCORと密接に連けいをとりながら政府間の話し合いで調整促進をはかつてきたが,1962年(昭和37年)4月のIOCの会議により以後はIOCの業務としてこの調査を推進することになつた。
(e) 南極地域観測

海洋と同じように人類の共同開発が期待されるものとして残された大陸である南極地域がある。IGY以来南極大陸における科学活動や開発は急速にすすみ,現在も活発に行なわれている。それらの活動も科学活動の面ではICSUの南極特別委員会(SCAR)が中心となり,また政府間の協定としては南極大陸を平和目的のみに利用し,かつ汚染しないというきわめて高い理想をかかげ,南極地域で科学活動を実施している12カ国の間に南極条約が調印された。そしてこの条約にもとづく第1回南極協議会が開かれ,科学活動と開発の促進および,生物保護や通信郵便に関するとり決めなどが進んでいる。
(f) 宇宙空間平和利用

地上の人類全体の共同の課題という意味で国際的共同による開発が最も望まれるのは宇宙空間である。これについては学術団体としては,1960年(昭和35年)ICSUの宇宙空間研究委員会(COSPAR)が発足し,国連の宇宙空間平和利用委員会(24ヵ国)と連絡をとつて活動を開始している。

以上のように海洋,南極,地球の内部や宇宙空間など従来の国家の主権の及ばない広大な領域へ国際的協力態勢のもとで強力な科学的研究開発が現実に開始されたことは,ここ数年間の世界のいちじるしい動向である。
2. 国際機関と科学技術協力

人の住まない海洋や南極についてばかりでなく,科学技術の国際協力はようやく活発になつてきている。そして先進国の間だけでなく,アジア,アフリカなどの低開発国を含めた全世界的な規模で,国際連合と,その専門機関が活発な活動を行なつている。
(1) 国連の活動

国際連合は発足以来その憲章前文の「一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上を促進することおよびすべての人民の経済的および社会的発達を促進するために国際機構を用いること」という趣旨にもとづいて国際的な技術援助を重要な仕事として行なつて来た。
(a) 国連の技術援助

国際連合は 表I-3-2 のような技術援助を行なつている。通常技術援助計画は国際連合の予算から加盟国だけに対して行なわれ,また,拡大技術援助計画は毎年各国政府が割当てに応じて拠出した資金によつて加盟国だけに限らず,それ以外の国にも援助するものである。

これらはそれぞれ1953年(昭和28年)および1954年(昭和29年)から主として低開発国に対し留学生の受入れ,技術者の養成訓練,技術者の派遣など比較的簡単な「人による技術援助」を行なつてきたのであるが,最近では大学や研究所の建設などのようなより実質的な「物による技術援助」の要望がたかまり,1959年(昭和34年)から国連特別基金が設けられた。これは天然資源(労働を含む),工業,農業,運輸,通信,建設,住宅,教育,保健,統計,公共行政の分野に対し,被援助国と国際連合が経費を分担して行なうもので,長期の比較的大規模な事業に対し国際連合がさらに一歩積極的な技術援助に踏み切つたことを示している。
(b) 国連原子力平和利用会議

原子力の開発は戦後になつてはじめて人類が手にしたまつたく新しい分野であるので,特に国際協力が望まれていたのであるが,軍事秘密など国際政治の問題を含んでいるので,国際協力を行なう上での困難も大きかつた。そこで1955年(昭和30年)に国際連合がみずから主催して80余ヵ国の科学者が集まる第1回原子力平和利用国際会議を行なつた。この会議ではじめて原子炉のデータの秘密が解かれ,その後の原子力の平和利用を急速にひろめる役割を果した。さらに1958年(昭和33年)には第2回の会議が開かれ,核融合装置や原子炉の運転経験がはじめて公開された。そして,原子力の分野にも一般科学と同様に科学者の自由な討論や発表の道が開かれた。これによつて原子力開発の国際協力の基礎がつくられた意義は大きく,わが国の原子力研究に大きな刺激となつた。
(c) 放射線の影響に関する国連科学委員会

国際連合は1955年(昭和30年),第10回総会の決議にもとづき,核爆発実験による放射性降下物を含めて,人体とその環境とに対する電離放射線の影響に関する研究調査を行なうため,15ヵ国の代表からなる「原子放射線の影響に関する科学委員会」を設けた。

表I-3-2 国際連合の技術援助


この委員会は,各国で研究されている資料を集め,科学的に評価し,さらに今後研究すべき計画を附して1958年(昭和33年)に報告を行なつた。なおわが国もその一員として活躍し,大きな貢献をした。しかしこの報告にはなお不明の点があることから,1959年(昭和34年)の総会において審議の延長が決議された。現在委員会は,1962年(昭和37年)秋の総会に提出する最終報告書の検討を行なつている。
(2) 国連専門機関等の活動

国際連合の各専門機関( 表I-3-2参照 )は,国際連合の技術援助を分担して実施する以外に独自の立場から国際協力を推進し,その中には科学技術に密接な関連をもつものが含まれている。中でもユネスコと国際原子力機関(専門機関でなく,より独立した性格をもつ)は直接科学技術に関する協力を目的として活動している。
(a) ユネスコ(UNESCO)

ユネスコはカイロ,モンテヴイデオ,ニユーデリー,ジヤカルタに科学協力局を持ち,また1961年(昭和36年)からはアフリカ科学協力官をおいて,科学調査の援助,シンポジウムやセミナーの組織,フエローシツプ供与など人的援助を行なつている。

その対象は1955年(昭和30年)の総会で3大重要事項の一つとされた南アジアから北アフリカに至る乾燥地帯の生活向上に資する科学研究をはじめ,湿潤熱帯,地震,海洋の研究,高等教育における基礎科学教育の改善などがある。それらは直接の産業開発の促進よりも,ユネスコ憲章の理想実現のための,人間の生活向上に主力をおいている点に特色がある。もちろんユネスコは前述の拡大援助計画や国連特別基金の援助を分担する割合も大きい。
(b) 国際原子力機関(IAEA)

IAEAは原子力平和利用促進のために他の専門機関と同様に情報や専門家の交換,研究者技術者の訓練を援助するほか,特に核物質の国際管理を促進する目的で核物質をプールして需給のあつせんを行ない,原子力に関する国際基準を定め,軍事利用への転用を防ぐために査察その他の保障措置をとるなどの活動を行なつている。ウランの供給は1957年(昭和32年)IAEA発足当時にくらべてはるかに自由になつたので,当初考えられていたほどには,ウラン供給機関としての機能を果していないが,1959年(昭和34年)日本が天然ウラン3トンを購入したのを皮切りにノルウエー,フインランド等も濃縮ウランの購入を進めており,他の機関にみられない具体的協力を実施している。
3. 地域共同体制

欧州共同市場(EEC),ラテンアメリカ自由貿易連合(LAFTA),国連アジア極東経済委員会(ECAFE)等の経済活動を中心とした地域共同体の発展に併行して,科学技術に関する共同研究体制や共同研究機関が結成され,かなりの成果をあげている。この科学技術の研究を目的とした共同体制は,注目すべき最近の大きな動向であつて,戦前などでは到底実現が考えられなかつたものである。これは科学技術が進歩するに従い,特定の分野では,極めて大規模な研究開発を必要とするため,経済的,時間的,研究人員的に一国の範囲を越えた共同研究体制がむしろ不可欠のものとなつたためであり,今後の科学技術の発展のための研究体制としての意義は大きい。この点わが国としては極東において国際的孤立化する恐れもあり,十分注目しなければならなない。
(1) 欧州原子力機関(ENEA)

欧州18カ国からなる欧州経済協力機構(OEEC)は原子力平和利用の共同開発を推進するため専門機関として1957年(昭和32年)欧州原子力機関(ENEA)を設立した。

これは第3者賠償責任に関する条約や,核物質の軍事転用を防止するための保障条約などに必要な法的整備を行なうと同時に,いくつかの共同事業を運営している。

欧州照射ずみ燃料化学処理会社(ユーロケミツク)はその一つであつて1959年(昭和34年)に発足し,まず小規模な350kg/日の再処理工場をベルギーのモルに建設中である。ハルデン計画はノルウエー・オランダ合同研究所で建設した,沸騰重水炉ハルデンをENEAの共同事業に変更したもので1959年(昭和34年)から運転を開始している。

ENEAはさらに5ヵ年間に1,500万ポンド(約150億円)の費用で高温ガス冷却の実験炉を開発するドラゴン計画を共同事業として着手している。
(2) 欧州原子力共同体(ユーラトム)

これは欧州6ヵ国が一体となつて原子力の開発を行なう組織で1957年(昭和32年)欧州共同市場と同時に設立され,その結合はENEAよりはるかに強い。

ユーラトムは,前記のハルデン,ドラゴン計画に参加しているほかイスプラ(イタリア),ペタン(オランダ),カールス・ルーエ(西ドイツ),モル(ベルギー),にも共同研究所をもち新型原子炉,材料試験炉,高速中性子原子炉,プルトニウムの開発および原子核測定を重点的に分担し,またアメリカ,イギリス,カナダ等との間に共同開発の協定を結び,さらに欧州大学の設立などを計画している。
(3) 原子核,宇宙および金属加工研究における共同

原子核の研究に関しては欧州10ヵ国が共同で設置した欧州原子核共同研究所(CERN)が,アメリカおよびソ連の粒子加速器とならぶ世界最高水準の250億電子ボルトの粒子加速器を完成した。またソ連のドブナにも東欧中国をふくむ共産圏諸国の共同研究所が設置されている。宇宙空間研究に関しては欧州11ヵ国が10ヵ年間に1,300億円で各種ロケットや人工衛星により行なう欧州宇宙共同研究機関(ESRO)およびイギリスのブルーストリーク・ロケットを第1段に,フランスのブエロニツク・ロケツトを第2段に,3段目のロケットと計器を他の国が受けもつて文字通り力を合わせて打ち上げる通信および気象用の実用衛星計画のため12ヵ国が5ヵ年間に700億円の予算で行なう欧州宇宙開発機関(ELDO)がある。

また欧州9ヵ国とアメリカの各試験所を加えた金属加工の国際共同研究が国際生産技術協会(CIRP)のもとで発足することになり,各国政府から計13万3,500ポンド(約1億3千万円)の補助を受け,切削加工,金属塑性加工,表面仕上げなどの掘り下げた研究を,テストピース,工具などを共通に交換して仔なうものである。このような産業と密接な問題についても国際協同が大規模に行なわれはじめたことは注目せねばならない。


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