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  総論
第I部  わが国における科学技術の一般動向
第2章  総合化傾向の発展
IV  科学的管理

企業の巨大化に伴つて,その運営を能率的総合的に行なうための管理技術の発展が要請され,総合的な科学的管理手法が導入,普及されはじめたことは,最近の顕著な動向である。

科学的管理は,プロセス工業におけるオートメーション(プロセス・オートメーション),部品の加工や組立作業におけるトランスフアマシンおよびコンベヤライン(メカニカル・オートメーション)並びに事務の機械化(ビジネス・オートメーション)等の技術の進歩とともに,インダストリヤル・エンジニヤリング(I.E),オペレーシヨンズ・リサーチ(O.R),システム・エンジニヤリング(S.E)等の管理手法の発達および電子計算機の発達によつていちじるしく進歩してきている。科学的管理の進歩は生産部門の集中管理ばかりでなく,事務部門と技術部門を総合して管理することを可能にした。

これは事務と技術に二分されていた従来の組織に対して新しい組織の出現を意味するものである。

すなわち,科学的管理は単に個々の生産分野の合理的な運営に止まらず,営業,経理等の事務部門にも適用され,さらに全体を一つの体系として合理的に運営する目的にまで活用され始めたのである。

また,これらの手法は,都市,港湾道路計画などの国土計画の面にも次第に応用されるようになり,総合的な見地から公共事業の投資効果の算定,道路網の整備,港湾の配置などが従来の勘によるものから次第に定量的に理論的な根拠にもとづいて把握できるようになつてきた。
1. 科学的管理の現状

科学的管理は統計学などの数学およびその他の科学的法則を管理面に応用したI.E,O.R,S.Eなどの科学的管理手法の急速な発展と企業がいち早くそれを導入普及したことによつて,その発展過程を見ることができる。これらの管理手法は電子計算機の発達とそれの導入によつて,その機能を一段と発揮してきている。

さらに電子計算機の企業への導入は管理面における人の考え方に大きな影響を及ぼすとともに組織にも変化を与えている。
(1) 電子計算機の企業への導入

管理面の近代化の促進は電子計算機の導入によつて行なわれつつある。各企業はまずデータ処理を機械化するために電子計算機を導入したと考えられる。その理由として,販売,生産の拡張に伴うデータ処理量の増大と質の複雑化があり,また,それに対する経営管理面からのデータ処理迅速化の要求および事務分野の合理化改善の動きがあげられる。

企業はデータ処理の機械化に取組み,それが軌道に乗つてから資料の統計的処理やリニヤ・プログラミング(L.P)等の手法を用いて一部管理的側面にも使用するようになつているのが現状である。

企業における電子計算機の導入状況は 図I-2-2 のようになつており,その導入は加速度的な伸長を見せている。また,かなり広い業種にわたつて普及している。さらにそれは量的な面のみならず,質的な面においても大きな進歩を見せ,性能の高い中型ないし大型の電子計算機の増加により,データ処理量の増加は台数の増加以上である。

また,適用業務の推移については 表I-2-1 に示され,その傾向として,総務,経理関係の事務分野から技術研究のほかに,生産管理部門および企画調査等の経営・管理部門への比重が高まつている。

さらに将来は総合的な科学的管理にまで発展させようとする意図が見られる。

図I-2-2 電子計算機設備状況および導入計画

表I-2-1 電子計算機適用業務の推移


(2) 科学的管理手法
(a) インダストリヤル・エンジニヤリング(I.E)

生産性運動の開始とともに,一般のI.Eに対する関心は急速に高まり,多数の渡米視察団員がアメリカにおける高生産性の要因としてI.Eの貢献を報告するに及んで昭和32年頃から急速に普及し始めた。

このような環境の下で,従来から実施していた企業も最近導入し始めた企業もあり,その程度はまちまちで,企業間でのI.Eに対する隔差はかなり大きい。しかしI.Eを実施し始めた各企業は,I.Eの導入が多額の投資なしで原価をかなり引下げうるという成果を認めている。

この事実から各企業へ今後急速に浸透するであろうことが推測される。現状においては標準作業時間の設定を中心として進展しており,これが企業全体に浸透するのが今後の方向であるといえる。
(b) オペレーションズ・リサーチ(O.R)

O.Rは,第2次大戦における作戦計画の研究にその端を発している。戦後その手法が企業経営に適用されて一般産業面でのO.Rの普及は驚くべきものがある。わが国においても,ここ数年の間にO.R学会ができて以来,各所にO.Rグループが設置されて研究が活発に行なわれ,その成果は企業に少しずつ取り入れられている。しかし現状においては,O.Rの事例研究に終ることが多く,なかなか現実の政策の設定や計画の改善にまでは反映されない。それはO.Rの研究成果を実施に移すためには,その先決問題として企業内における組織の問題,人間関係その他多くの経営管理上の困難な問題があるからである。
(c) システム・エンジニヤリング(S.E)

S.EはO.Rよりさらに進んだ総合的な管理工学であり,その内容はより大きくなり,かつ,複雑になりつつあるシステムを解析し,総合的に最適と思われる計画,設計をし,また実際にその運営をすることを研究する工学である。

S.Eの対象となるシステムは絶えず流れて止るところを知らない巨大なフローを主体としている。そのフローの例を 表I-2-2 に示す。一般の工業では,この表の中に示されたフローが2つ以上包含されており,さらに人間自身を含めたもつと複雑なシステムが最近では取り上げられている。これらのフロー解析にはO.R手法と同様にL.P,待合せ理論,ゲーム理論,シミレーション等のほかにグループ力学,くものす理論等の手法がある。

現在応用されている例としては,いずれも電子計算機を使用するプロセス制御,電力負荷経済配分,列車自動制御,操車場における自動制御等があげられる。

表I-2-2 フローの例

以上各機能について簡単に述べたが,これらは相互に密接な関係を有しており,各分野の機能が総合的に企業に導入されることによつて科学的管理手法はより大きな効果を発揮するであろう。
2. 科学的管理の実施例
(1) T社の多車種一貫生産における生産管理は

T社における生産管理の特徴は,一般的に多車種を一つの生産ラインで生産して1車種多量生産工場におけるときと同様な生産性を求めるために電子計算機を使用して生産能率の低下を防止し,合理的な運営を行なう点にある。車種別に単一工場を建設する場合に,その車種の生産量が少ないと施設費が多額にのぼるが,多車種を合わせる場合には単一工場に比し,はるかに大きな生産単位として工場の設備効率をあげることができ,とくに塗装組立工程の原価は欧州の自動車工場に匹敵するまでになつている。この生産方式は車種の需要変動に対して弾力性をもたせる利点があり,多車種少数生産の実情に適合した生産方式ということができる。

生産工程における部品の流れは 図I-2-3 に示されている。組立工程は,数十本のコンベヤが組合わされて,延長14krnになつている。このコンベヤ・システムの中でキヤビンボツクス,フレーム,小物等によつて塗装ラインが異なり,またサブアセンブリ・コンベヤ,塗装コンベヤ,最終組立ライン等は数ラインを構成して複雑であるが,このコンベヤ・システムは,一つの中央指令室からの統一せられた指示によつて運行されるように完全に同調されている。この作業指示のためには,コンベヤ毎の速度,最終コンベヤを降りる車の予定時刻から各作業職場での作業順序,作業時刻が計算にもとづいて指示されている。この指示は指示表の形で示されている。また電子計算機で計算された順序がそのまま紙テープに穿孔せられ紙テープ読取装置を経由して,各作業職場に反転表示盤の形で作業命令として与えられる。この反転表示盤はコンベヤの進行とともに次々に作業内容を指示するので,作業者はこれによつて作業を継続すればよい。もちろん,中央指令室では完成車のコンベヤ・オフする時刻に対応するその車の各作業職場の作業時刻と順序がわかるようになつている。

図I-2-3 部品の流れ図 (Tier。資料による)

このようにして電子計算機を使用して作業順序の計算,指示が行なわれるので,この工場では任意の車種を任意の割合で生産することが可能である。

加工および資材購入部品の供給は組立工場の運営を円滑に実施できるように決定され,さらに資材の搬入は加工工程に合わせて行なわれている。

加工の工程管理は,製品1台あたりの負荷工数を予め 図I-2-4 のフローチヤートにより計算し,カードに製品の完成日からの工程の先行日数を記入しておき,生産計画に対応した工場別の日々の負荷工数を把握して,各工程作業が平滑に行なわれるように実施されている。それと同時に原材料使用見込量を把握して資材管理を効果的に行なつている。

図I-2-4 人間と機械の負荷計算のフローチヤート

こうした生産体系では,材料が入口から投入されると計画どおりに加工が行なわれ,出口から製品となつて出て行くので資材管理と購入部品管理が重要な要素となつている。すべての部品は進度計画に応じて 図I-2-5 のフローチヤートを用いて材料の不良率を見込み,電子計算機により搬入日程が決まる。原材料の手配は,部品完成計画に応じて 図I-2-5 の材料見込量から,輸送の問題等の解決を考慮した手操作の修正を加えてさらに電子計算機を用いて決定される。

T社においては以上の管理方式を採用するにあたつて,I.B.MのPCS(穿穴カード会計機械)セット(昭和29年設置),I.B.M650型(35年5月)を使用し,そのほかにNEAC2303型を採用している。

図I-2-5 進度計画から材料手配までのフローチヤート


(2) 計画策定における実施例

河川,道路,港湾などの整備をはじめとして,最近脚光を浴びてきた臨海工業地域の開発などの国土開発事業は,その計画を策定するに当つて,定量的な判断の基礎の上にたつて投資効果の算定,および最適計画を樹立するための不断の努力が続けられており,ここで簡単にその実施例について述べる。
(a) 地域開発における経済効果の算定

戦後の開発計画の立案に際し,国土開発審議会において,計画選択基準としての経済尺度の必要性が論議され,既存の経済理論を駆使して,公共事業の投資回転率,費用便益比率,投資所得比率を求め,その率の高いものから計画を選択,実施しようとする方法が採用された。この方法は土木工事の経済効果を巨視的に取扱つた最初の事例であり,これを契機として,道路,河川,港湾などの土木分野の経済研究が発展してきた。

その後,これらの経済効果を直接効果はもちろん,そのほかに関連産業への波及効果をも含めた全効果という考え方に発展させたのが,インプツト・アウトプツト(I.O)分析,乗数分析である。これらの手法も現段階ではまだ問題点を有しており,今後の研究によつてさらに進歩するであろう。I.O分析を使用した例としては,大分鶴崎臨海工業地帯および岡山臨海工業地帯による効果の概算を行ない,これらの工業地帯開発計画の遂行に一つの経済的な裏づけを与えた。その他日本全国,地方および各県においてもI.O表が逐次完成されて,その地方の開発計画策定に大きな貢献をしている。
(b) 道路,港湾等の計画策定のための方法

道路計画,港湾計画においても経済効果測定のために上述のI.O分析が用いられるが,計画自体についてもより合理的な計画策定のための手法が用いられている。以下これらについて簡単に述べて見よう。

国鉄においては,設備の近代化とともに,経営管理面においてもO.Rの手法を用いて,ラツシユ・アワーの解析,変電所の配置計画,国鉄とバスの競合問題等の分析が行なわれているが,その中でL.Pの手法を用いて,貨物輸送の解析を行なつた例について述べると,国鉄の昭和30年の貨物を24品目について県別に仕向,仕出別にトン数を調査し,それをL.Pによる最適輸送計画と比較した結果,交錯輸送が20.5%に達していることが判明し,この結果を今後の輸送改善,運賃体系の再吟味などの基礎資料としている。

道路計画においては,新道路建設についての交通量の推定の中で転換交通量の推定に情報理論を使用した例,その他有料道路の料金のきめ方,道路建設に伴つて企業の正常手持在庫がどのような影響を受けるかという問題などに定量的な測定が行なわれている。

港湾計画においては,港湾配置計画の基礎資料としてL.Pによつて将来の地域内の業種別の設備投資の傾向をとらえ,それをもとにして工業立地および工業港の開発を行なう方法,その他港湾自体についても,待合せ理論を用いた岸壁割当の問題,上壁の規模を決定する問題,施設および機械の更新計画などに科学的な手法が用いられている。


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