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  総論
第I部  わが国における科学技術の一般動向
第2章  総合化傾向の発展
II  総合化の具体例-国鉄新幹線の例-

原子力の平和利用,宇宙開発というような新しい分野はもちろん,一般の製造工業において新しいものを設計製作するにあたつて,科学技術の総合化が必要であることは前に述べたとおりであるが,わが国における最近の事例として超高速鉄道技術について述べよう。

元来,鉄道は蒸気機関の発明以来,これを中心として発達し,その後内燃機関,電気工学の進展とともに,それらの技術を応用して最近は近代的陸上交通機関として変ぼうをとげつつある。近代的交通機関として具備すべき条件としては,迅速性,快適性,機動性等があげられ,さらにこれらの諸条件の上に安全性が最大の要件として加わつてくる。鉄道工学の分野においては,すでにこれらの条件を満足すべく,物理,化学,地質学等の基礎的自然科学をはじめ,土木,機械,電気,材料等の自然科学に基づく技術,あるいは心理学,労働科学等の人間科学を含む研究を進め,常に改善を加えながら,今日に及んでおり,車両をはじめ,各種施設はすべて科学技術の総合化の具体例ということができる。

しかし,わが国の工業総生産額の7割,人口の4割を沿線にかかえ,飽和状態に達した東海道線の輸送力を一躍3倍にしようとする新幹線の場合は,蓄積された鉄道工学の成果をさらに進展させ,最新の科学技術を総合化し,具体化する絶好の機会であつた。すなわち,最高時速200km,平均時速170km,東京・大阪間3時間という,鉄道としては世界最高の超高速鉄道となる新幹線は,次にみるような新分野の研究開発と総合化の輝かしい成果とみることができる。
1. 軌道構造

軌道は列車速度と通過トン数によつて破壊力をうけるため,現在の東海道線に比べて数倍の耐久力を必要とすることになる。そのため,新幹線の軌道構造は,コンクリート枕木を使用して現在よりも密に並べ,レールとの締結方式には,ゴムとバネクリツプによる弾性締結を採用し,レールは新型の重量レールを熔接して継目なしの長尺レールとするなどの新技術を採用することになり,車両の衝撃からもたらされる破壊を防止し,合わせて線路から車両に与える振動も予防している。

分岐器は従来のものでは衝撃も大きく,安全のためには速度をおとさなけれぱならないので,直線側を200km/hで通過できる新型分岐器(ノーズ可動分岐器)を開発し,使用することになつている。
2. 空気の影響

列車速度が非常に高くなるにつれ,空気抵抗,あるいは列車によつて生じる列車風など空気によつてもたらされる障害が大きな問題となつてクローズアツプされ,流体力学的研究が必要となつてくる。
(1) 空気抵抗

空気抵抗は,ほぼ速度の2乗に比例して増加するので,高速列車の運転にはこの空気抵抗を減少させることが,重要な課題となつてくる。風洞実験の結果,先頭を流線形にすると,現在の湘南電車の1/3以下の抵抗に減少することが判明した。また表面の凹凸を小さくしてなめらかにすれば空気抵抗が減少することは,流体力学の理論により明らかなことで,結局高速列車の車体設計には航空機の設計と同様な設計技術が必要とされている。
(2) 列車風

高速列車の走行に伴う風圧-いわゆる列車風-はいろいろの問題を提起する。すなわち列車がすれ違うときの風圧の場合は,その衝撃で窓ガラスが破損しないように軌道中心間の距離を決める因子となり,軌道保守要員に対する風圧は,線路施工巾の決定に影響を及ぼし,トンネル進入時の風圧は,トンネルの断面や入口の形状等に関係し,さらに通過駅ではプラットホームの乗客の安全に関係するなど,いろいろの問題がある。これらの問題についても模型実験あるいは実測等により研究を進め,その結果は建設設備面等に反映させる。
3. パンタグラフと架空電車線

列車が高速になると,パンタグラフが電車線から離れ,スパークのためパンタグラフ,あるいは電動機を損焼する危険性が生ずる。たとえばフランス国鉄における331km/hのスピード試験では,パンタグラフのすり板がスパークのため熔断してしまつた例がある。この離線の危険性を防止するため,架線とパンタグラフの構造の研究を進め,新しい架線構造としてコンパウンド合成式を案出し,採用することになつている。
4. 運転保安設備

列車を170〜200km/hの高速で運転すると,ブレーキ距離が3kmにも及び,これまでのように乗務員が信号を見ながら運転制御をすることは不可能となる。そこで,信号は全部車内信号とし,しかもこれまでの青,橙,赤の3現示のような簡単なものではなく,時速200kmから停止までを7段階に分けて現示する速度信号とし,これに自動列車制御装置を組合わせて,列車の自動運転を試みようとするもので,そのための電子技術の応用研究が推進され,実用化されることになつた。また列車の運転曲線を予め作成しておき,電子頭脳がその曲線をトレースして,自動的に列車を加減速する方法も研究されている。

さらに,電子技術の研究の成果は,全列車の位置を運転指令室の表示盤に一目でわかるようにあらわし,そこで各駅のポイントを集中的に操作して列車の流れを円滑に,しかも能率的に取扱えるような,列車集中制御装置を夾現させ,装備することになつている。

このように,電子技術の列車運転への応用は,新幹線の最大の特徴であつて,これが完成された暁には,世界における最も近代的な鉄道となることが期待され,各国の注目をあびるに至つている。


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