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  総論
第I部  わが国における科学技術の一般動向
第2章  総合化傾向の発展
I  防災科学技術と環境科学技術



1. 防災科学技術

わが国は,地理的条件や気象的環境の特異性のため,自然災害を蒙むることが極めて多いが,近年産業経済の異常な発展にくらべて,防災対策面が必ずしもそれに伴つていないため被害の程度はますます大きくなる傾向がみられる。最近の例をみても昭和34年の伊勢湾台風,昭和36年の第2室戸台風の際の高潮による被害,集中豪雨による昭和36年の伊那谷,昭和37年の西九州の被害など大きな問題となつている。このように国土の開発が進むにつれて防災対策はそれに比例してあるいはそれ以上に重要さをましてきている。

防災科学技術は防災対策に関連のある種々の科学技術の総合化によつて,はじめて進展が期せられるもので,その対象となる自然現象は,地震,気象現象,洪水,高潮,津波,地すべり,噴火など極めて広範囲にわたるものであり,また防災工事についても,海岸および河川堤防,洪水調節用ダム,対震構造物など建設技術全般をはじめ,砂地造林,治山技術にまで及んでいる。

元来,自然災害は,主として地球物理的な大規模な現象に基づいているので,物理や化学の原理を究明する場合とは異なつて,純粋な形で研究室において,これを再現して繰返し実験をしながら真理を究明することは不可能なものが多く,理論の解明も簡単ではない。それ故,長年月にわたる実際の発生を克明に客観的要素によつてとらえて記録し,その集積を分析するという方法によつて,地道に研究を進めるほかない。

わが国の研究は,地震,台風,火山などの分野をはじめとして,個々の分野では世界的にきわめて高水準のものが多いが,それが総合化されて防災科学技術として進展するためには,今後残された問題が多い。

幸いにして,最近の科学技術の発展に伴つて,各種の自然現象を正確に記録し,迅速に通信する方法が発達し,また各種データの分析解明や複雑な理論式による計算も,近代統計学と電子計算機の発達普及によつて容易になつた。

そして大規模な自然現象の発生の機構や因果関係,あるいは被害との複雑な相関関係などについても,蓄積された科学知識と進歩した技術的手段を総合的に使用することによつて,明らかにしうる目安がつくようになつた。

つぎに,地震予知と気象災害対策に関する現在の研究開発の状況を紹介しよう。

地震予知に関しては,昭和36年に「地震予知計画研究グループ」が誕生し,「地殼変動の調査」を主体として,地震活動,地震波速度,活断層,地磁気,地電流などの調査を大学,気象庁,国土地理院を始めとして,地震に関係のある国立研究機関がそれぞれ分担して全国的な規模の観測を行なうことが計画されており,これによつて地震予知に関する研究の総合的な推進が期待される。

気象災害対策は気象観測および予報などの気象学,防災工事などの技術,緊急時における救難対策などに分けられる。気象観測は気象現象の究明,予報,防災工事計画における雨量,高水量などを決定するために必要であり,このため従前の観測機器のほかに,気象用レーダー,ロボツト雨量計,ロボツト観測器などが観測陣に加わつて来たが,さらに最近はアメリカで打上げられた気象衛星による観測の実用化を始めとして,わが国でも高層気象観測実用化のためのロケツトの開発および観測機器の研究が進められている。また集中豪雨予報のためのトランソゾンデによる研究も行なわれている。

気象観測が広くかつ正確に行なわれるようになるとともに,電子計算機の導入により数値予報も実用化の段階になり,台風の予報などに正確さを加えて来たが,それとともにロボツト雨量計とアナログ型電子計算機によつて洪水予報と洪水調節を行ない,またロボツト検潮器と電子計算機による数値計算によつて高潮の予知を正確,迅速に行なうことができるように研究がすすめられている。

またこれらの観測資料と電子計算機の活用によつて,防災工事における河川や海岸の計画高水量の決定にあたつても従来に比してより正確さを増すことが期待されている。

上述のように防災科学技術については今後の進展に対する方途ができ,見通しもある程度つくようになつたので,各種の研究施設,設備の充実を早急にはかることが必要とされている。

具体的なものとしては,種々の観測機器,すなわち,地震計,水位計,雨量計,検潮器,レーダー網等の最新式のものを要所に設置することや,台風観測のための観測船,航空機を充足することであり,また電子計算機等をさらに充実することも配慮の要があろう。なお,観測の自動化をはじめとして,観測機器類などの研究開発についてもゆるがせにできない。

また,防災の研究は前述したように,各種自然現象の解明とその対策からなる複雑多岐にわたるものであるので,現在各省庁にわたる国立試験研究機関に分担されており,さらに基礎研究の大部分が大学と大学附置研究機関で行なわれているが,2,3の例外を除きこれらの共同研究の場が十分に与えられていない。このため研究機関の相互連絡と共同研究の推進のための適切な措置を速かに講ずる必要がある。
2. 環境科学技術

国民の健康な文化的な生活を守つていくためには,個々の疾病に対する医療技術を進歩させることとならんで,社会生活環境の悪化を防ぎ,さらにすすんでこれを改善していくことが必要である。しかし,人口の過度の都市集中や産業活動の活発化に伴つて,大気汚染,水質汚濁,騒音,振動などの公害はますます増大し,国民の生命,健康,財産などに悪影響を与えており,日々排出されるし尿やごみの急増も大きな問題を投げかけている。わが国は経済の成長が異常に高いため環境の悪化傾向は他のいずれの国よりも急激であり,総合的な都市計画もまだ実施にうつされて日が浅いなどの事情とも相まつて,この面の施策の遅れが特に目立つてきている。

したがつて,これら環境の悪化を防ぎ,さらに改善していくため,これに関連のある各種の科学と技術の総合化による新科学技術の発達とその適用実施が要請されている。科学技術庁では,これを「環境科学技術」と総称して,前述の防災科学技術とともに昭和37年度から重要施策として強く推進している。以下その主なものについて現状の問題点を述べよう。

大気汚染は,ばい煙,粉塵,有害ガス,臭気などによつてわれわれの生活環境を汚染するものである。現在では石炭消費とくに工場などのぱい煙が問題であるが,今後は化学工業,石油および石油製品による大気汚染が問題となるであろう。

大気汚染解決の問題は,科学技術の分野においても,行政の分野においてもきわめて広範な性質をもつている。したがつて,この問題の解決には医学のみならず自然科学各分野の研究者,技術者の協力を必要とする。たとえぱ,大気汚染は気象現象ときわめて深い関係がある。

大気汚染の日変化をみると,気象の変化に対応しており,また,隣接区域からのばい煙濃度は風向と風速に強く支配される。さらに不完全燃焼や石炭燃焼の変化についても間接的に気象の影響をうけている。したがつて,気象現象の解明とそれに基づく予報技術の向上が重要になる。とくに,移動性高気圧の短期予報,霧の発生に対する予報,都市の逆転層の発生予防技術の可能性についての調査研究が必要である。

さらに都市の汚染測定について一定の方式を早急に確立し,集塵技術や燃焼技術の高度化もあわせて研究することが必要である。そのため,昭和37年厚生,通産両省共管の「ばい煙の排出等の規則に関する法律」が制定された。

水質汚濁は都市汚水および工場,鉱山等の産業廃水による河川の汚染が主であり,その被害は農漁業においていちじるしい。とくにパルプ,鉄鋼,石炭,化学工業などの工場や鉱山から発生する産業廃水の問題は,現在その対策を急がれている重要な問題である。産業廃水処理には二つの目的がある。その一つは水質汚濁防止であり,もう一つは廃水中の資源および工業用水の回収である。欧米においては前者がその主たる目的とされているが,天然資源に乏しいわが国においては,後者の効用も少なくない。

たとえば,パルプ廃液中のリグニンの回収,アルコール蒸溜廃液中のビタミンB12 の回収のようなものである。

さらに,これらの処理は,その施設のために多額の経費を必要とし,また回収資源の利用法がまだ明確にされない今日では,これによつて企業が直接利益をうるという期待は少ない。したがつて,企業としては十分な廃水処理装置の設置をためらう傾向がある。先年,「公共用水域の水質保全に関する法律」と「工場排水等の規制に関する法律」が制定されたが,今後は比較的少額な経費でことたりる簡易浄化技術,たとえば低廉な凝集沈降剤の添加による化学処理など新しい技術の開発がのぞまれる。さらにこれに先立つてわが国における水質汚濁の現状を早急に把握し,適正な恕限度を決定する必要があろう。

また,わが国では放射能問題が,媒煙や汚水と同じように生活に身近かな問題としてとりあげられている。

この放射能問題に対して,現在,いくつかの方策がとられている。

第1は放射能の測定と分析である。核爆発実験による影響を正確にとらえるために,地震計,微気圧計によつて核爆発を探知し,さらにその影響によつて増大する全ベータ放射能を雨や塵について測定している。核爆発による放射性降下物の全ベータ放射能は時間の経過とともに減少するが,これは半減期の短い核種の放射能が減衰していく結果であり,一方,半減期の長いストロンチウム90やセシウム137の放射性降下物中の構成比はかえつて増大することになる。従つて雨水のほか野菜,牛乳,その他食糧品などについても核種の分析を行なう必要があり,とくにストロンチウム90は飲食物などを経て骨の中に蓄積し,セシウム137は筋肉に蓄積してそれぞれ人体に影響を及ぼすおそれがあるので,それらの月間降下量と蓄積量については十分の注意がはらわれている。( 図1ー2-1参照 )

第2は放射能の警戒水準ともいうべきものの設定である。現在の段階では微量の放射線の人体に及ぼす影響が明らかになつていないので,一定の対策を実施にうつす目安ともいうべき放射能水準の設定に努力がはらわれている。

第3は放射能関係の研究の促進である。放射能の問題はごく新しい分野であつてなお解明すべき多くの問題を残している。放射性降下物が地上へ降下する状況から各種のばい介物を経て人体に影響を及ぼす過程の研究,さらにこの過程において放射能汚染を除去する方法の研究など,単に一国の努力だけでなく,国際的な共同研究が必要とされている。

図I-2-1 ストロンチウム-90月間降下量および蓄積量


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