ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第3部   部門別に見た技術の動向
第12章  医療衛生部門
5  今後の課題

近代医学は,病気だけではなく「健康」というさらに広いものを目指している。すなわち,健康とは世界保健機構(WHO)の憲章に示す「単に疾病や虚弱でないというだけではなく,肉体的,精神的ならびに社会的に完全な状態。」を指すものである。

健康保持の手段は,

◇ 健康の回復(診断治療)――臨床医学
◇ 健康の維持増進(予防,衛生知識の普及)――予防医学

であって,この両者の基盤となる学問が基礎医学である。現代医学の今後の発展は,この3者のより緊密な共同体制によってのみうみだされるといえよう。

1)臨床部門において最も重視すべきは,成人病(高血圧,癌,心臓病),ならびに放射性同位元素の利用および障害に関する診療技術の進歩であるが,このために現在年々投入されている研究費等所要経費はきわめて少額である。もともと医術の研究は,大学および国,公立病院等において診療業務に平行して行われているが,これら病院の研究施設,研究費等は,一般に他部門に比して貧弱である。ことに,国,公立病院においてこの感が深い。 医術進歩の協力者は医療機械である。医療機械の製造は70年の歴史をもっとはいえ,今もって2〜3の大メーカを除くほとんどが典型的中小企業である。 医療機械の特性としての品目過多は一応やむをえないとしても,その過当競争が目立ち,技術の進歩がそこなわれ,ほとんどの最新機器は輸入にまつ現状である。新しい医療機械の考案は医科機械学会を中心として行われ,近代科学とくに電気,機械工学等の新技術との結合が強く要望されてはいるが,その製造業態にはいぜんとして封建色が濃く,現代産業の発展速度からいちじるしく取り残されようとしている。したがって,医術将来のために,その製造業態および流通機構にらいて早急な改革が望まれている。
2)公衆衛生の基本は予防医学であり,これを分けて予防衛生,環境衛生および労働衛生とすることができる。 予防衛生の面では,ほとんどの急性伝染病が激減しているに反し,結核罹病者はいぜんとして多い。さらに成人病患者および精神衛生障害者が年を追って増加の傾向にあることは注目に値する。なお,放射線障害予防の研究は,すでに一刻の遅滞も許せない段階に当面しているといえよう。 環境衛生の面で重視されるものは公害(汚物処理,空気汚染,水質汚濁等)防止の技術的研究の推進であるが,優秀な衛生工学研究者を擁しながらも施設,研究費等の貧弱なのにわざあいされて,その進捗状況は低調である。 労働衛生にあっても,今後の産業規模の拡大,新技術の開発にともなう職業病の増加が当然予想されるので,これに対処するため,早期診断,保護具の性能の向上,さらには作業環境の改善のための研究,施策がますます重要性を加えてくるであろう。現代の労働衛生は,単に事業場における衛生のみでなく,労働者の生活全般にわたる問題であることの認識がさらに深められなければならない。
3)基礎医学の進歩こそ臨床,予防両分野の今日および将来の運命を決するものであって,医学・歯学・薬学・生物学等各分野における一大躍進が望まれる。この点とくに,大学の研究に期待するところが大きい。そのためにも研究陣の充実,施設の整備,研究費の増額等の特段の国家的配慮が要請される。
4)最後に,本章における共通問題としてとくに力説したいことは,医師,歯科医師,薬剤師等の資質の向上のほか,その他の一般医療衛生技術者の養成訓練にいっそうの充実が望まれることである。さらには,これらの人々の活躍の場である医療施設や,試験研究機関の整備拡充が,国民生活の向上,福祉の増進のために,大いに急がれなければならないということである。

前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ