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第3部   部門別に見た技術の動向
第12章  医療衛生部門
3  医療技術(医術)
(4)  分野別医療技術の展望

今日の医術の焦点は,癌など悪性新生物,高血圧および心臓病(いわゆる成人病)の診断治療法の進歩にありといえよう。

癌等悪性新生物

癌等悪性新生物(以下,癌と略称する)の診断に使用されるX線の役割はいまさら多言を要しないが,現在放射性同位元素(とくに沃度,燐等)による診断法が研究され,今後の発展が大いに期待されている。

治療については手術療法,化学療法および放射線療法ならびにこれらの組合せ療法があるが,いずれも相当な進歩を示している。

CO60回転治療装置:CO60による悪性新生物(癌等)の治療装置(2-6kc)。本器は,医療用としてはわが国最大のもの

なかでも化学療法は,ナイトロミン,カルチノフイリン,ザルコマイシン,アザン,6-MP,サイオテパあるいはアクチノマイシンJ等の新治療剤の登場によって,いよいよ活況を呈し,目下これらの適応,投与量および投与期間等について鋭意研究がつづけられている。この成果は,治療上の問題点である手術不能癌の処置および手術後再発防止の解決に光明を与えるものであろう。

放射性同位元素療法では,CO60の利用研究に重点がおかれ,さらにCSl37の果す役割についても研究がなされている。

癌は全人類の脅威であり,わが国においても死亡率第2位を占める疾病である。癌絶滅のためには世界の多くの研究者が努力しているが,わが国に吉田肉腫というすぐれた病理学的業績があることは国民の誇りである。

なお,わが国における癌の研究は,財団法人癌研究会癌研究所,同附属病院をはじめとして各大学,国公立病院等において,乏しい研究費,要員,施設という不利な条件とたたかいつつ進められている。

高血圧(卒中)

循環器系疾患の診断法は,近年非常な変化を示してきた。その最大原因は心電図法の発達にある。ついでは心臓の透視より脳血管の撮影にいたるまでの心臓血管系に対するX線診断法,あるいは心臓カテーテル法,腎臓血液量測定法心肺機能測定法等の進歩にあるといえよう。なお,卒申予防,卒中後遺症防止に必要な神経病理学的診断法の前進も忘れてはならない。高血圧の治療薬は数多くあるが,高血圧症そのものの発因が種々であることから,まず適確な診断が与えられることが先決となるであろう。各種の高血圧症のうち,腎性高血圧にあっては,まず放射性同位元素(J131)によって腎機能を調べたうえで,手術を適用する治療法が行われていることは注目すべきであろう。

心臓病

心臓病による死亡の従来の型には,「呼吸困難うつ血―心臓まひ―死亡」の線をたどるいわば古典的心不全が多かったが,最近は呼吸困難やうっ血がなくて急死する第2の型が増え,しかも40〜50台の働き盛りに多いことが指摘されている。この心臓病の様相の変化と多発にともなって,診断法もさらに適確精密性が要求され,無線送信心電図測定,血中コレステローゼ測定,血中塩類分析測定あるいは心音心房細動の検査などに必要な技術が発達しつつある。

ここに特筆すべきば,心臓外科の非常な進歩であろう。わが国にあっても,すでに昭和10年前後より榊原,木本によって実際的な研究が進められてきたが戦後欧米において高度に発達をとげていた近代麻酔および輸血技術を導入することならびに抗生物質の利用によって,心臓外科は最近において画期的な飛躍を示しつつある。さらに人工心肺装置のより精密簡易軽量なものへの改良研究と低温麻酔方法の考究があるが,この完成はやがて直視下で行う心臓手術を容易なものとするであろう。なお,この分野に関連するものとして,合成代用血管材料の進歩と血管吻合器の出現によって,あらたに血管外科の領域が開かれつつあることをあげることができる。

その他

化学療法は癌のみならず広い範囲にわたって非常な効果を収めているが,なおその恩恵に浴さない疾病も多いので,さらに新しい化学療法剤の発見製造が待望されている。ところがその反面,すでに不適正な使用による耐性菌の出現や真菌類による疾病も登場してきているので,その対策研究も熱心に行われている。

伝染病の領域におけるものとしては,赤痢菌およびサルモネラ菌の検索に用いられるSS寒天培地の創製はこの分野の研究と対策に大きな貢けんをなし螢光顕微鏡の利用と小川培地の考案は結核菌の検索をより能率的にした。またカルジオライピン抗原(緒方)の出現は梅毒血清反応に高い鋭敏度と特異性とを与えた。゛赤痢菌,サルモネラ菌以外の下痢原因菌としで注目されるパラ大腸菌,大腸菌(ことにO-26,O-55,O-111等)に関する研究,あるいは小児まひ,インフルエンザウイルス等の研究も進められている。なお,フライングスポツト顕微鏡の実用化はこの領域の発展に非常な貢けんをもたらすであろう。

内科領域にあっては,栄養,新陳代謝および消化器疾患の研究に成果があがり,今や蛋白代謝の問題が時代の脚光を浴びている。さらに血液学の分野にあっては,広島,長崎の被爆,ビキニ被災という悲惨な現実に直面して多くの研究がなされ,とくに再生不良性貧血あるいは白血病の治療研究に重点がおかれている。

脳波計(12要素):大脳からの電位を記録することにより,脳の疾病を知る装置で,てんかん,脳腫瘍等の診断には不可欠なものとなっている。脳波計ばわが国では戦後とくに独自の立場から検討が加えられた結果,現在では欧米のものよりも優秀なものが量産されるようになった。


*細菌類の活動や連動状態を,をの自然のままの生活状況において観察できる顕微鏡

放射性同位元素による診断検査法の研究も,この分野における重要なものである。また,異型輸血や外傷後に生ずる腎臓機能障害の救急処置に,人工腎臓が活用されていることは特記に値するものであろう。

最近急激に増えつつある精神衛生障害者の診断に脳波測定等の新技術が効果を収め,なおこの分野の開拓のために放射性同位元素の利用が考えられている。

外科領域については,さきに特筆した心臓外科の発達のほか肺臓,食道,癌の外科技術もめざましい進歩を示しているが,さらに現代医術の努力目標の1つであった脳外科については,パーキンソン氏病,脳性小児まひ等に適用されて効果を示した楢原の業績が高く評価されている。また,脊髄性小児まひの早期治療については整形外科の成果があり,なおその他の肢体不自由児のための研究が推進されている。さらに,カラーテレビの実用化はこの外科領域のいっそうの発展をうながすものとなろう。

自動血圧記録装置:血圧を自動的に連続して記録する装置である。(従来は正確な記録が困難であったが,本器は電子工業の進歩により考案されたもので,正確な記録がとれるようになった。手術や高血圧の診断に重要な役割を果すものである。

放射線領域では,X線による断層撮影,廻転横断撮影等の手技が肺結核の診断に貢けんしたことがあげられる。目下の課題は,放射性同位元素を適正安全に各分野の診療に利用することと,その障害防止の研究であろう。

歯科の分野においても全般的な技術の進歩がみられ,なかでも歯槽膿漏治療のための電気イオンの利用研究,超音波利用の治療方法,あるいはポリエステル樹脂による充填材の改良研究などが注目される。


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