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第3部   部門別に見た技術の動向
第9章  繊維工業
3  繊維工業技術の動向

戦前,質,量ともに優位を誇ったわが国繊維工業も,企業整備,設備のスクラップ化,さらには戦災と悪条件が重って終戦時には惨胆たるものとなった。

戦後数年間の再建は,回復を急ぐあまり単なる過去への復元にとどまったが,統制の撤廃,企業の自由化により激化する輸出競争に参加し,欧米繊維先進国の技術に直面するにおよんで,立ち遅れを痛感するにいたり,以来,戦中,戦後の技術的空白の回復,世界的技術水準への復帰の努力が各部門においてなされ,着々その成果をあげてきた。

すなわち,綿紡では,製品の高級化とコストの切り下げを目ざし,工程の簡素化,連続化,自動化,高速度化,ラージパッケージ化の方向にしたがって,全面的な米国式設備の導入を行い,合理化につとやた結果,綿糸,布において,昭和25年以降世界第1位の輸出量を記録している。レーヨン工業もまた自動化,高速度化,連続化の線にそって,連続アルカリセルローズ製造装置,連続紡糸機などの機械装置を輸入し,品質の向上,均一化,コスト低下につとめてきた結果,昭和26年以降レーヨン織物,スフ糸,昭和28年以降スフ織物と相次いで世界第1位の輸出量を誇るにいたった。

アセテート工業が,欧米においていちじるしい発展をとげ,繊維もすぐれた特性をもつにもかかわらず現在までのところ伸び悩んでいるのは(最低経済規模に未達――製品の割高――需要の不振――最低経済規模に未達)の悪循環が,大きな原因であり,急速な拡充が必要であるが,同時にカーバイト,アセトン等原料化学工業の合理化が急務である。

捺染工程

染色加工部門に"おいても,繊維製品の高度化への途において,その技術的重要性が再認識され,エバーグレーズ,サンフォライズ等の新技術,連続精練漂白機,連続樹脂加工機,連続建染染色機等の合理化設備が導入され,いちじるしい技術の向上をみるにいたったが,一方,この部門の大半を占める中小企業でかかる新設備を採用し,技術を進歩させることはきわめて困難で,品質の向上を求めて技術研究の余地を与えるためには,加工採算の面でも余裕を与えなければならない。

合成繊維工業は,戦後の新しい問題であり,繊維技術の焦点となっている。

合成繊維のうちで最初に脚光を浴びたのは,ナイロンであり,主として絹の領域において独自の需要分野を開拓している。

ついで,絹につぎ高価な羊毛の代替をねらった合成繊維としてポリエステル系繊維がその地歩を確立するにいたり,さらに価格と染め易さの点でポリアクリル系繊維がこれに迫っている。

ポリアクリる系繊維は,当初その新奇性のためにいちじるしい伸びを示したものの,適確な用途においてではなかったため,全面的な停滞をきたしたが,,その後バルキ(高性)加工の採用により,新分野を開拓し伸びたものである。

このように合成繊維はまず絹,羊毛の領域において登場し,残されたのは綿レーヨンの領域であるが反面,これらの安価な大量消費繊維と価格でも対抗でき,その消費分野に進出するのでなければ,合成繊維の真の発展は期待できない。安価な合成繊維の研究は,合成繊維技術の大きな流れの1つであり,この線にそって,ポリ塩化ビニル繊維,ポリプロピレン繊維の研究,,試作が試みられている。どんな繊維が将来もっとも低コストで牢産できるようになるであろうかという問題の回答は,今後の研究成果にまらわけであるが,その参考資料として主として米国における価格を 表3.21 に示す。

表3.21. 各種合成繊維とその原料モノマーの価格

他の1つの方向は,染めやすい合成繊維の研究である。合成繊維の特長は,要するにその疎水性にもとずくものであるが,このことは,同時に染めにくいことを意味し,綿,毛,レーヨンと同程度の染色性が要求されるので,既存合成繊維について共重合等による染色性の改良が研究され,また,染めやすい新繊維の研究も行われている。

わが国だけで工業化されているビニロンは,ある程度の親水性をもつ,いわばもっとも合成繊維らしくない平凡な合成繊維という点で,また当初より綿分野を指向したことにおいて特色的なものであるが,その安価,平凡性は,将来の発展を約束するものといえよう。

ポリ塩化ビニリデン繊維は,ナイロンについで早期に発達したが,そのおもな用途は生産資材に限られており,研究の余地を残している。

研究の内容についみると,紡糸技術はある程度確立され,重点は重合技術におかれているが,この分野では最近放射線の高エネルギを利用して重合条件を変え,あるいは,繊維の改質を試みる研究が活発化する傾向をみせている。

ひるがえって,わが国における動向を展望すると,いずれにもまして第2次大戦による研究中断が痛手となっている。すなわち,昭和13年「クモの糸より細く,鋼鉄より強い。」となり物入りでナイロンが発表された翌年,東洋レーヨンはナイロンの本体を確認し,その合成と紡糸に成功した。

また,同じく14年に,「合成1号」という名称のもとにビニルエステルを重合し,酸化してポバ-ルとし,湿式紡糸後に熱処理,アセタール化を施して耐水性とした繊維が発表された。これがビニロンである。

15年には,ポリウレタン系繊維「ポルラン」が,また,同年デュポン社のオーロンの表表より1年早くポリアクリルニトリル系繊維「シンセン」が発表され,16年1月には,(財)日本合成繊維研究協会が,多額の資金と各界の頭脳を動員して設立された。これは戦争の激化にともなって解体のうき目をみたが,もし創立当初の構想が今日まで引きつがれていたならば,合成繊維工業の発達に大いに寄与したものと思われる。

しかし,これらはいずれも研究中止のうき目にあい,これが再開されたのは戦後米国においてナイロンの発達をみてからであり,世界的技術水準への接近というかたちで,合成繊維工業は再出発したねけである。

ビニロン:

ビニロンは,わが国の独創的発明であり,その工業化もわが国のみで行われた完全な国産技術でり,また繊維はの自給度向上の面からも,綿分野を指向するものとして,急速な成長が期待されたが,その伸長は必ずしも順調ではなかった。これは1つには,合成繊維工業のように高度な技術においては,関連工業をも含めた総合的な研究が必要であるのに,現在までのわが国では,かかる研究体制は困難であったためで,国産技術のみによる研究の産みの悩みともいえよう。

いま1つには,ビニロンの多種多様性があげられよう。すなわち,ビニロンはポリビノールよりつくられる合成繊維の総称であり,紡糸直後においては水溶性である。そして,水酸基の置換,主鎖結合の変化,架橋結合その他によりビニロンの構造は変化し,多種多様のビニロンとなる。

したがって,多くの組み合せを考えることによって,用途に適合したビニロンをつくりうるわけで,これらの追究の成果をたえず工場生産に導入してきている。

ナイロン:

東洋レーヨンの研究陣は昭和17年にナイロン―6,ナイロン―6.6の試験設備を建設したが,―6の方が―6.6に比して,設備費が少なくてすむこと,主原料の原単位が小さいこと,染色性がよいことなどの理由から-6の研究に重点をおいた。したがって,その企業化にあたってもデュポン特許には抵触しなかったが,フイラメント糸製造工程,編織,染色,加工に関するデュポン特許を利用する方が有利であるとの見地から技術導入を行った。この効果は顕著なものであったが,このことは関連工業の協力がいかに必要であるかを物語るものであって東洋レーヨンは,技術導入によって,高度の技術をもつ米国関連工業の協力を求めたものといえよう。

ナイロン紡糸工程

1956年(昭和31年)における世界各国の合成繊維推定生産量を示すと 表3.22 のとおりであり,多くのものは外国に先鞭はつけられたものの,一部の特許問題が解決されれば,独自に生産開始できただけの技術的基盤を持っており,あるいは,国産技術の開発による新繊維の展開等,生産量において米国についで,世界第2位を占め輸出においてもいちじるしい躍進を見せている。

また,放射線高分子化学の研究においても,化学メーカ,繊維メーカが共同出資し,研究を設立するなど画期的な動きを示している。

以上要するに,一部輸入機械を使用し,また一部輸入染料,助剤等を用うれば,質的にも,コスト的にも十分国際競争力をもつ製品をつくり得るだけの力を,わが国の繊維技術がもっているといえよう。

表3.22 1956年国別合成繊維推定生産量


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