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第3部   部門別に見た技術の動向
第8章  化学工業
  化学工業
3  新しい化学工業の芽生え

以下に述べられるいくつかの新産業,新技術は,わが国では比較的最近に企業化ないし芽生えたもので,わが国の化学工業の構造を根本的に変革しつつあるが,これらのうち,多くのものは諸先進国ではすでに企業化されているもので,日本の化学工業技術の後進性を如実に示すものである。
(1) 石油,天然ガス,石炭を原料とする新系統一石油化学,ガス化学,石炭化学

最近の合成化学の顕著な進歩の基盤をなしているのは,原料源の転換でありことに従来石炭タール,カーバイド等に依存していた有機合成化学の分野において,石油,天然ガスを原料とする石油化学および新しい意味での石炭化学が大巾に進出する勢いを示している。

そこで,これらについて体系的に述べる前提として,まず現在わが国で企画されている計画を個別に説明することとする。
(a) 石油化学

石油精製の際の副生ガス,石油の直接分野ガスまたは天然ガスを原料とする石油化学工業は,第2次大戦中に米国で発達し,戦後急速に伸びた部門で,最近わが国でも,つぎつぎに新しい事業化が計画され (図3.37参照) 逐次実施されているが,わが国で石油化学が必要とされるゆえんは,合成樹脂,合成繊維原料の確保,エチレン系製品等の輸入防遏,主要化学工業原料の価格引き下げに大きな効果があると判断されたからである。

メチル・エチル・ケトン製造装置

石油化学は,現在米国の全化学製品の25%,全有機化学製品の80%が石油化学製品で占められ,近い将来全化学製品の50%を占めるにいたるであろうと予想されていることからしても,将来急速に伸びるものと予想されている。

昭和32年11月現在で石油化学の企業化状況をみると第2級ブタノール,メチルエチルケトン,イソプロパノール,アセトン,ガス化学におけるメタノール,ホルマリン,硫安,尿素等がおもなものであり,このほか十数社が32年末から34年にかけて続々計画を企業化することになっている。

図3.37 現在わが国で企業化計画のある石油化学系統図


(b) 合成ゴム

合成ゴム工業は石油化学工業の一環であるが,この国産化は特筆すべき動きといえる。

海外では,合成ゴムに関する研究は古くから行われていたが,研究が本格化したのは第1次大戦中であり,生産が軌道にのり出したのは第2次大戦中で,米国,カナダ等ではすでに量産化されている。

米国で合成ゴムが発達したのは,第2次大戦中に天然ゴムの入手に困難を感じたためであるが,これとは逆に,わが国では,研究そのものは第2次大戦中より行われていたが,天然ゴムの入手には,米国ほどには困難を感じなかったため,多額の費用を必要とする工業生産には入りえなかった。

しかるに,戦後天然ゴムの需給が逼迫し,しかも,合成ゴムの原料であるブタン,ブチレンガスを石油精製廃ガスより,スチレンモノマーを石油化学企業から入手しうる見通しがついたので,急に工業化の機運がおこり,昭和28年頃より研究が活発化した。この結果,32年5月に,「合成ゴム製造事業特別措置法」が成立し,これによって共同合成ゴム会社が設立され,GRS(ブダジェンとスチレンの共重合物)を製造することになっており,ほかに民間の1会社が特殊合成ゴム工場の建設計画をもっている。

合成ゴムを代表するGRSについてみると,これは耐摩耗性,耐油性が強く,老化しがたいという長所をもっているが,一方低温で硬化しやすい,弾性が小さい,亀裂成長が早い,屈伸時の発熱性が大きい等の欠点をもち,米国でも,自動車タイヤ部門では,乗用車では使用されているがトラック,バス等のヘビータイヤではいまだその使用量は少い。そこで,今後の技術的課題は,これらの欠点の除去につとめることと,コスト低下のための原料面,化学工学面の研究にあるといえるであろう。
(c) 石炭化学

石炭の化学的利用法は,乾留,ガス化,水素添加,酸化および溶剤抽出等に大別される。しかし,最近新しい石炭化学としてとりあげられているのは,石炭の完全ガス化および水素添加により,各種化学薬品を供給しようとするものである。

フィッシャー合成法は,当初は石油の製造を目的としたものであるが,その後多くの改良が加えられ,また最近では,オレフィンから高級アルコール等を製造するオキソ合成法が加えられて,現在では,燃料油,各種のパラフインおよび高級アルコール等の製造を主体としたものに変りつゝある。これらの製品は従来輸入原料に依存しているので,その代替効果は大きく,また低品位炭でも使用できる利点をもっている。

石炭の直接水素添加法は,ベルギウス法ともいわれ,タールを加えてペースト状にした石炭に直接水素を添加して,重油,ガソリンを得るもので,さらに最近では,比較的容易に得られるナフタリン,アンスラセンの製造を合わせた生産方式が検討されている。
(d) 競合の問題

石油化学製品,石炭化学製品は,一部新製品を除いては,おおむね既存化学工業で生産できるものであり,当然競合の問題が発生する。

まず,現在企業化の進んでいる石油化学と既存部門との競合は,

1) カーバイド,アセチレン工業…アセチレン,塩化ビニール,醋酸ビニール,醋酸,無水醋酸,高級アルコール,アクリルニトリル,
2) 発酵工業,油脂工業…アルコール,ブタノール,アセトン,高級アルコール,
3) アンモニヤ,メタノール工業,

について考えられるが,原料供給面で,または価格的に大量生産に適している石油化学が有利な立場にあることは否定できないであろう。たゞ,このうち,カーバイド,アセチレン工業との競合は,当分は起らないであろうが,将来は激烈なものとなることが予想される。

石炭化学と石油化学の競合については,両者は原料を異にする以外は,前者が脂肪族に重点が片よっているだけで,技術面には大きな問題はなく,むしろ互に長所を生かして協調しうる可能性をもっている。ただ,化学工業原料としてみた場合,一般に石炭の方が高くつくので,石炭鉱業の合理化,低品位炭の活用いかんが石炭化学の将来を左右するであろうし,そこにまた技術の果す役割が存在している。
(2) そのほかの芽生え―木材化学と海水利用

前記の石油化学は,すでに企業化がかなり進歩しているが,次に述べる木材化学,海水利用は,企業化されるまでには,解決すべき数多くの問題があり,本格的成長期を迎えるまでにはかなりの期間を必要とするであろう。
(a) 木材化学

木材化学は,木材の主成分であるセルローズ,ヘミセルローズおよびリグリンの高度利用をはかろうとするものであるが,系統的には,パルプ工業系統と木材糖化系統に2大別される。このうち,パルプ系統は,サルファイトパルプ廃液からのアルコール,,酵母の生産,クラフトパルプ廃液からのトール油とロジンの回収等軌道に乗っているが,木材糖化は今後に残された未開拓の分野である。

木材糖化は,木材を酸(塩酸または硫酸)で高温加水分解して,フルフラール,醋酸,結晶葡萄糖,アルコール,酵母,イタコン酸を得ようとするものである。この工業は決して新しいものでなく,数10年前から外国で企業化されているものであるが,これが現在問題にされるのは,酸処理に経済的な塩酸を用いうるようになったことと,イオン交換樹脂の発展によって葡萄糖などの精製コストが大巾に低下したためである。わが国では,現在,北海道庁をはじめ,数ヵ所で工業化が検討されている。
(b) 海水利用

海水より有効成分を工業的に採取する研究は最近比較的活発化しており,資源的にめぐまれないわが国に適した工業に発展する可能性をもっている。これより得られる製品としては,工業用純塩,金属マグネシウム(またはマグネシヤクリンカ),液体塩素,塩酸,芒硝,塩化カリ,臭素,炭酸カルシウム等であるが,狙いは現在,輸入に依存している塩とマグネシウムの自給である。現在わが国では,小規模な試験に成功をおさめている程度であるが,かなり将来に希望をつなげる分野であるといえよう。


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