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第3部   部門別に見た技術の動向
第8章  化学工業
  化学工業
2  既存化学工業の動向



(1) 化学肥料

わが国で生産されている肥料のうちで,自給体制にあるのは窒素肥料だけで燐酸肥料では,その主原料の燐鉱石を輸入しており,カリ肥料は,全量輸入されている。総体的にみて,わが国の化学肥料はコストが割高であるが,これは主して原料単価の高低の差によるもので,このため戦後の技術的努力は,新しい原料源の探求と原単位の切り下げに集中されてきている。

まず,アンモニヤ系窒素肥料では,昭和29年頃から,東南アジヤの市場での外国製品との競合にうち勝つため,当時の硫安コスト65ドルを50ドルに切り下げることが目標にされるようになり,さらに現在では,これを40〜45ドルまで下げることが要請されている。この合理化のための技術的手段として考えられたのは,コークスにかわる低廉なガス源の追求と,硫酸を使用しない合理的な形態の新肥料の製造であった。この方向にそって,ガス源の転換では,低品位炭を利用するコッパース微粉炭ガス化装置,重油を原料とするファウザー式ガス化炉,電気銑工場の密閉式電気炉の炉項ガスを利用する方法等のほか,天然ガス,炭鉱の坑内ガス,石油精製廃ガスなどの分解による製造方式の企業化が進められつつある。ここでの問題は,これらの多くが先進国からの技術導入によって行われたのであるが,その導入の方法が展覧会的で,合理性を欠いており,反省の余地あるものとして指摘される。

東圧式尿素合成工場

製品形態の変化として注目すべきは尿素と塩安で,わが国化学工業の生んだ数少い国産技術のうちのいくつかが,この中に含まれていることは注目に値する。すでに知られているように,硫安中の硫酸根は肥料としては効果のないもので,アンモニヤの固体化の役目を果すだけのめものであるが,この硫酸のかわりに尿素ではこれまで廃棄したいた炭酸ガスを,塩安でもそれまで捨てていた塩素を活用するもので,いずれもコストがいちじるしく安くなる。とくに尿素は,硫安と異り中性であること,窒素含有量が硫安の倍であること,葉面に撒布しても肥効がある等の長所とあいまって,今後需要が急激に伸びるものとして期待されているが,この尿素の製造技術に関しては,世界に誇りうる完全循環式製造法を国内で完成しており,これは硫安/尿素の生産比が0.05というすぐれた国産技術である。

カーバイド,石灰窒素工業は,これまで技術的には停滞を続けてきたが,カーバイドでは,石油化学の進出にも刺げきされて近代化をはかるようになり,現在すでに2万2,000kW,2万5,000KWという大型密閉式回転炉が設置されている。石灰窒素におけるおもな技術的問題は粒状化であり,これは使用上の便宜をはかる上から是非望まれることであるが,逆に粒状化すれば使用損失が大きくなるという短所があり,この解決が難しいので完全に企業化しているとは言えない現状である。

燐酸系肥料で技術的に注目されるのは,過燐酸石灰における微粉砕した原鉱石に硫酸を連続添加する方法,溶成燐肥の企業化等があげられるがあまり大きな動きはない。

最後に,肥料3成分のうち,全量を輸入に依存しているカリ肥料の国産化の問題であるが,これについては,わが国に豊富にあるカリ石英粗面岩を原料とする拘溶性カリ肥料の研究が進んでおり,試験的には好結果を得ている。
(2) ソーダおよび無機薬品

ソーダ工業技術は諸外国に劣らないものとといえるが,わが国に原料は塩のコスト高という致命的負担があり,電解法の改良だけではこの負担をはねかえしえないので,たとえば海水直接電解法,新しい製塩技術の開発等が期待されている。

無機薬品で注目すべきは,酸化チタンとカーボンブラックである。酸化チタンは,国内資源の活用,廃酸回収等の問題を残してはいるものの,一応技術的には世界水準にあり,数少い輸出化学製品の1つである。カーボンブラックの需要は近年激増の傾向にあるが,これまでほとんど輸入に依存していたゴム用高級カーボンブラック(HAF級)が,原料面の悪条件を克服して国産化されるようになったことは注目に値する。
(3) 油脂製品および界面活性剤

油脂については,原料費がコストの70%を占めるため,総じて海外製品の2割高と推定されている。このための技術的対策としては,国産糠油,魚油等の高度利用および搾油,加工設備の合理化等があげられているが,技術的には低水準を低迷している分野である。

界面活性剤では,繊維工業における新繊維,処理加工,混紡,混織の発達につれ高性能のものが要求されるようになり,陽イオン活性剤,非イオン活性剤の面でいちじるしい進歩をみせた。今後,石油化学,石炭化学の発達により主要原料の酸化エチレンその他のコストの大巾引き下げが可能となれば,いっそうの伸びが期待される。合成洗剤の進展もまた原料如何にかかっており,石油化学によるアルキルベンゼン,低品位炭利用による高級アルコールのコスト引下げが可能となれば,石鹸用油脂の輸入防遏に寄与しうるであろう。
(4) タール製品および染料

タール製品工業では,ベンゾールの回収および蒸留技術の改良,コールタール蒸留のパイプスチル化,ナフタリン,アンスラセン製造技術の改善,硫安母液からの純ピリヂンの抽出,合成石炭酸製造法の改良,無水フタール酸,無水マレイン酸,アンスラキノンにおける空気による気相酸化等の部分的技術進歩をみせているが,いまだ戦時中の空白をとりもどしていない。

染料工業では,化学繊維の進歩にともない,アセテート用分散性染料,堅牢直接染料,ラピッド染料,螢光染料等の新製品が相次いで登場したが,わが国の染料工業は新製品開拓の意欲を欠き,輸入品が国内市場を開拓するのをまって国産品に切りかえるという消極的な方法をとっているので,先進国の技術水準には数歩遅れている。また,技術の秘密をことさら固守するため,技術交流が行わ,れず,水準向上の阻害要因をなしていることも見逃しえない。硫化染料,直接染料,ナフトール染料,インヂゴ等大量に生産されれている染料は品質,コストとも外国品に匹敵するが,そのほかの分野はかなり遅れているといえる。
(5) 一般有機合成

水性ガス系では,昭和27年の新潟における天然ガスからのメタノール製造が注目され,コスト,品質面の有利性から漸次生産量をましてきているが,天然ガスによる水性ガス製造は,現在カウパーストーブによって行われており,今後は触媒を利用した接触分解方式の採用の方向に進むであろう。ホルマリンも合理化により能率,品質ともに向上し,レッペ反応,合成樹脂塗料の原料に使用しうるようになった。

将来のアセチレン合成化学の一翼として見逃しえないのは,レッペ合成であり,高圧ニッケルカーボニル法によるアクリル酸エステルの中間試験(昭和25年)をはじめとして,ビニル,エーテル,チオヂ酪酸,テトラヒドロフラン等の合成研究が進んでいる。
(6) 合成樹脂

わが国の合成樹脂工業は歴史は新しいが,戦後の伸長ぶりは顕著なものがあり,品種も,フェノール系を主体とした時期に比し急激に変化してきている。( 図3.35 , 図3.36 )

図3.35 昭和30年台成樹脂の生産量

図3.36 昭和30年わが国における合成樹脂生産の品種別比率

わが国の合成樹脂製造技術は,ほとんど外国から導入されているが,これは必ずしもわが国の技術が,外国のそれに比して格段の差があることを示すものではない。それは,製造に関する基礎特許が先進国に抑えられていることが多

イオン,交換による蔗糖精製装置

いためで,弗素樹脂,珪素樹脂,メラミン樹脂等はこの例である。このことはわが国の化学工業技術の通弊である″新製品開発速度が小である。″ということに起因している。

しかし,珪素樹脂,メラミン樹脂,ポリエステル樹脂,ポリビニルブチラール樹脂,スチロール系イオン交換樹脂等は外国品の領域を摩すもので,とくにイオン交換樹脂は,技術も進歩し利用範囲も広まりつつある。

また,加工技術も,押出,機射出成型機,真空成型機等にみられるように外国技術に依存せずに顕著に進歩してきている。

しかし,合成樹脂工業は,全般的に発展の途上にあり,反応条件や重合法の改良,共重合物による品種改良,新しい消費分野の開拓等の面で努力が必要である。最近重合法の改良として,放射線による樹脂構造の変化,とくに架橋構造の促進が研究されており,合成樹脂の性質の画期的改善とともに,ほかの分野への適用も期待されている。
(7) 写真感光材料

写真感光材料は,生産量において世界有数で,品質もまた世界的水準にある。とくに,フィルムの不燃化とカラーフィルムの完成は,とれを裏書きするものであるが,なお,感光度その他の性能の改善,生産コスト引き下げ等に努力の余地を残している。
(8) 発酵製品

近時の発酵技術の進歩はいちじるしいものがあり,,とくに医薬品製造技術に対する寄与は大きく,また国産技術としても1段法によるグルタミン酸ソーダの製造という画期的なものを生んでいるが,本来の発酵工業はいま合理化の要求に迫られている。すなわち,エチルアルコール製造技術は,昭和初年のアミロ法の開発から戦後における液体麹第2型式の確立にいたるまで着実に進歩してきているが,なお機器の改善と工程のオートメーション化が望まれる。

現在,発酵工業が当面する最大の問題は石油化学の進出であり,イソプロパノール,アセトン,ブタノール等は,今後発酵工業が徹底的な合理化を行わざるかぎり,大巾にその需要を蚕食されるであろう。
(9) 医薬品および農薬

わが国の医薬品は,品質,純度については,世界の水準と比してそん色がないといえるが,価格の面では,おおむね割高であり,これは技術面における問題よりも,むしろ,諸外国の輸出保護政策と,国内的には,原料熱源の割高なこと,製造設備の後進性,生産量の゛過小等におもな原因がある。ペニシリン,ストレプトマイシン,サルファ剤,ビタミンB1,B2,B3等工程の複雑なものは,ある程度前記の悪条件を技術でカバーしているが,工程の短いものではカバーし切れない。

戦後の医薬品製造面における技術的進歩を概観すれば,1)ペニシリンの製造にはじまる発酵技術の進歩2)全般を通ずる工程のバッチ式より連続式への切り換え2)ケンプル自動充填機等にみられる製剤,包装設備の近代化4)注射薬の無菌処理技術の進歩5)品質管理の推進,等をあげることができるが,一般に製造技術は西独,スイス,米国等から導入されたもので,それだけに新製品創出能力を欠いており,今後基礎研究の強化と関連部門の技術向上が望まれている。

戦後の農薬の発達は顕著で,作物の豊作の1つの要因にあげられているが,技術的には,合成ピレトリン,水中2・4-Dその他若干のものを除いては海外技術一辺倒であったといいうる。この弊を脱却するためには,化学,植物生理学,植物病理学,応用昆虫学等多くの科学を結集した努力が必要である。
(10) 石油精製

.わが国の石油精製業は,戦後外国資本との提携,外国技術の導入を他産業にさきがけて行い,彼我の技術水準の差と戦中,戦後の約10年の空白をとりもどしている。

戦後の技術的問題としては,処理原油が従来の米国産から現在では中東地区産のものに変化し,この中東原油が,1)パラライン含有量が多く,凝固点が高い3)揮発油のオクタン価が低い2)硫黄の含有量が多い,等の欠点をもつことであった。このため,戦後の技術的的努力は,パラフインの除去,高級潤滑油の製造,ガソリンのオクタン価向上,脱硫等に向けられ,多くの成果をあげている。すなわち,パラフィンの除去ではM.E.K.法(メチル,エチル,ケトンとトルオールを溶剤として使用するもの。)潤滑油では,フルフラール,フェノール等の溶剤を使用する減圧蒸留法等の採用があり,オクタン価向上では,プラットフォーマ,ハイドロフォーマ等の接触改質装置,FCCフードリフロ等の接触分解装置の採用のほか,さらに国内航空機からの100〜150の高オクタン価ガソリンの要求に応ずるアルキレーション法装置が設置されつつある。脱硫は,燃料油については行われていないが,ガソリンについては,接触.水添脱硫法が行われている。現在,石油精製業は,製品の需要面で頭打ちの状態にあり,このため,石油化学への進出が期待されている。このための技術は当分外国技術に依存しなければならないにしても,それを消化するための基盤だけはすくとも固める必要があろう。


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