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第3部   部門別に見た技術の動向
第7章  電子工業
4  電子技術振興の意義

以上のように電子技術のもつ意義とその果すべき役割は,産業全般に大きな影きょうを与えるものであり,将来に期待される人類の進歩と幸福へのはかりしれない貢けんを考えたとき,わが国がひとりこの世界的なすう勢からとりのこされるべきではなく,国全体にまたがる問題として,生産工業と需要産業がお互に協力し,研究活動の活発化を中心として,わが国技術の育成強化と,その利用分野の拡大の2面から,これを振興させてゆく必要がある。しかも電子工業は国内産業の近代化技術としての性格のほかに原材料,エネルギ消費の少ない,加工度の大きい付加価値の高い,ものであって,しかもその生産工程のあるものは自動的大量生産方式にのらないせん細な加工組立調整を必要とするものが多く,日本人の特性に合致しているため,わが国が将来に期待し得る輸出産業的性格を備えている。

現在わが国の電子機器の年間輸出額は約50億円(うちラジオ受信機22億円)程度で,全生産額の5%にすぎないが,最近の輸出の伸びは無線通信機器について前年比297を記録し,今後の方策如何によっては相当の伸長が期待されるものである。しかしながら,電子機器の市場は米国をはじめ英,仏,西独,オランダなどの諸外国の競争は次第にその激しさを加え,各国とも絶えまない研究による新技術新製品の創造と,能率的な生産方式によって互に対抗している現状である。とくにオランダが高度な研究努力と多品種について高品質なものを要望に応じて生産するという方式で,その総生産量の90%近くを海外市場に輸出していることは,わが国の将来の方向にも多くの示唆を与えるものといえよう。

このような情勢からみて,わが国の場合,まず現在の輸入技術から脱却した新しい国産技術への進展がなければ,国際競争の場においても不利な立場に追いこまれることになり,この点からもわが国における電子技術の育成強化が必要とされるのである。このためその進歩の動向からみて当面とくに要望されている科学研究の成東を基礎として,目的に合致したものを創り出し,それを広い範囲で利用してゆくという合目的材料研究のような基礎的な研究を含んだ応用研究体制の強化が必要であろう。

電子技術が通信の部門であった時代においては,その専門家がこれらの研究の推進力であったが,その応用範囲が今日のように巾の広いものとなり,さらにその基盤がより深いものになっているため,1つのものをあらゆる角度から検討し,各分野へ利用するために,またある目的に対して最も進んだ方法を採用してゆくために,多数の専門家が互に協力して活動しうる体制が要望される。研究活動における多数の専門家のチームワークの必要性は一般的な傾向となっているが,電子技術では,その応用分野の開拓と基礎的研究の重要性の両面からとくに要望され,たとえば,ミリ波の領域では物理学者や機械技術者の協力が必要であり,医療電子機器の開発には医者や生物学者との協力,材料研究では物理学者や化学者との協力が必要であり,テレビジョンの研究ですら,いまや生物学者や心理学者の協力なしには進展不可能だとまでいわれている。

しかもこのような研究体制は,わが国では従来最も欠けていたところであり,研究者の多くが自己の専門的な研究のみに終始し,広く他の研究成果をとり入れ,自己の分野で伸ばしてゆくことや,他の分野に自己の研究成果を提供し助言を与えるという点で十分な連携がとられていなかった。当面とくに応用研究を重視する場合この協力組織は,新しい科学研究の成果や輸入技術のうえに,新しく国産技術を育成してゆく最も効果的な方法となりうるものと考えられる。その重点的研究方策さえ誤まらなければ,諸外国の進歩に対しある程度追随し,独自の部門では肩をならべてゆくことも可能となるであろう。

しかしながら過去において,古典量子論から量子力学にいたる理論の発展が熱電子放射体の研究に大きな進歩をあたえ,その新しい統計力学的手法が瀘波器設計理論に革命をもたらし,物質の磁性に関する研究が数々の新しい磁性材料をうんだごとく,驚くべきスピードで進展しつつある.電子技術の根底には,やはり多年にわたって蓄積された基礎研究成果があることを忘れてはならず,長期的な技術振興の立場からは,当然,基礎科学研究の体制確立に対し,相当の考慮がなされるべきであろう。

いづれにしても研究だけが,外国技術依存からわが国技術の振興へ,さらに国力充実への良循環に通ずる道であろう。


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