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第3部   部門別に見た技術の動向
第7章  電子工業
3  わが国の現状と問題点


新しい型の真空管 左=クライストロン  右=板極管  下=パッケージタイプTW管

表3.19 に最近のわが国における電子技術の利用状況を示すものとして,利用分野別に主要電子機器の生産(または出荷)高の増加傾向を示した。機器の生産総額は約1,000億円(通信機器のすべてを含む。)に達しているが,そのうち80%が通信と放送関係に向けられ,その他の電子機器はその傾向からみて,今後次第に各分野に普及利用されてゆくものと思われるが,今のところ20%前後にすぎない。

表3.19 主要電子機器生産の現状

これら機器の生産からみたわが国の技術の現状は,戦前から基盤をもっていたもの以外の新製品,新技術については,戦後大量に導入された外国技術の消化の域をでていない。したがって,諸外国で相当に進歩した部門でも外国技術との接触のないものでは,ほとんどみるべきものはない。

すなわち,戦後主として米国から技術導入された魚群探知機,船舶用方向探知機,レーダ,ローラン,ビーコン装置などの新しい電子機器や超音波加工装置,高周波加熱装置などの工業用電子機器の国産化は相当の成果をあげており,各方面に利用されつゝある。真空管やその他各種部品の製造技術をはじめ通信機器の製造技術の進歩は,テレビ受像機やテレビカメラ,テレビ放送装置の国産化とともに,戦後の放送,通信の飛躍的な発展の基礎となり,ゲルマニウムトランジスタやダイオードの国産体制の確立につれ,小型ラヂオ受信機の輸出は伸張し,さらに電子機器全般の小型化機運をまねき,生産コストの低下と高性能化が進めば,将来応用分野の拡大が期待されるにいたっている。

国産アナログ型電子計算機

その他の電子応用装置では,欧米に比肩しうるものとして電子顕微鏡やX線装置が独自の地歩を固めつゝあり,新しいこころみとしてテープ式による工作機械の自動化も進められつつあるが,その他の科学機械,医療電子機器,工業用計測器,自動調節装置などでは利用の拡大はみられても,高級なものでは未開拓なものもあり,輸入に依存しているものも多い。

さらに欧米では,電子工業自体に相当な地歩をしめるにいたった電子計算機の分野では,数値を物理量に変えて計算する小型低廉なアナログ型(相似型)計算機の方は,すでに各種のものが生産され,利用されつゝあるものの,科学研究用や事務オートメーション化のために早急に開発がのぞまれている数値を数値のまま取扱う精度の高いデジタル型(計数型)大型計算機の本格的な生産態勢にはいたらず,写真工業用のFUJICが完成されてはいるが,目下研究試作の段階にあるものが多い。電気通信研究所や日本電子測器のパラメトロンを用いた実験機が注目されるほか,電気試験所のトランジスタを用いた数種の実験機,東京大学のTAC,大阪大学のものなどがある。電子計算機は,欧米がわが国を有力な市場と考えているものの1つで,すでに米国のUNIVACやIBM-650などの中型機の輸入機運にあり,可及的すみやかに国産体制の確立が必要とされている。しかしながら,この種の電子機器の機能は,基本回路において通信における電子交換機に通じ,その国産化は単に電子計算機需要の面以上の意味をもつが,わが国の技術の現状はこれを構成する多数の電子管や部品の性能の均一性安定性に難点があり,蓄積回路関係にも問題があり,関連する生産技術全般の進歩が必要である。

さらに放送用以外にきわめて広い利用範囲をもつ工業用テレビ(ITV)の遠隔監視方式,記録類図面の伝達,交通管制,外科手術などへの利用,カラーテレビなど今後の課題も多く,エレクトロニクスの独壇場である電子翻訳機もわが国の語学的ハンデキャップの克服手段として出現が期待される。航空電子技術では,米国技術の国産化に努力してはいるが,欧米にくらべ相当の遅れがみられ,急速に接近することの不可能な分野となっている。

すなわち,電子顕微鏡やx線装置,その他一部の電子管や装置では,欧米に比肩しうるものもあるが,すべて点在的であり,全般的には相当に遅れがみられ,一見華やかにみえるわが国の電子技術も,その基盤はごく浅いものといわざるをえない。

わが国の電子工業は,戦前,電気通信工業として発展してきた時代から,主要メーカーのほとんどが外国会社との技術提携により,企業的にも,技術にも外国依存度が高く,国内研究業蹟に優れたものがあったにもかゝわらず,これをわが国の技術として開発した例はきわめて少なかった。戦後も戦争中の空白がとくに大きかったわが国の電子工業が,欧米で非常な進展ぶりをみせた多数の新技術を大量に導入して,急速に回復する策をとらざるを得なかったことはやむを得ないものがあり,外国技術の国産化という点では,その果した役割は大きかった。同時にこれを消化することのみに追われた結果,次の時代に対するみずからの研究努力に欠け,巨額の研究投資を行って日進月歩の勢にある欧米の電子工業がうみだす新しい技術や,新しい製品に関しては,今後も引続き外国依存を脱しきれない現状にある。さらに国内研究の成果に対する価値判断能力の欠除から,国内の基礎研究との結びつきも満足ではなく,かえって外国技術尊重の習慣から独創的な研究努力をすらちっ息させる傾向がみられる。

しかしながら一方,国内の基礎研究が外国文献の追試から独創的な研究と進展することも必要であり,八木アンテナに次ぐ世界的な発明だといわれるパラメトロンが,発明の直後すぐに各種の応用研究が開始されている例は,わが国にもすぐれた研究成果は各方面から注目され応用される基礎があることを示している。

外国技術の導入がわが国の技術の発展に与える影きょうについては (第2部第2章)にくわしいが,電子技術の導入には,特徴的な2.3の傾向がみられる。

1) その会社の全製品にもわたる包括的な,かつ長期的な技術提携によって同種の技術が各国から導入され,その製品が多品種,多規格にわたり,統一性に欠け,輸出市場でも不利をまねくこと,さらに国内の技術交流をさまたげる要素となっていること。
2) 電子技術では,その性質上,外国特許が非常に多く,電子機器の製品の全部または一部がなんらかの外国特許によって拘束され,それだけ製品コストの割高をまねいていること,および国内にある程度の研究成果がありながら,特許権が外国の少数会社に握られており,やむを得ず導入せざるを得ない場合も多いこと。
3) 最近の傾向として,戦後における研究の遅れから,新しく開発された技術を導入せざるを得なくなり,再びその件数が増加の傾向をしめしていること。

第1の問題は,技術導入全般にわたる導入方針の問題であるが,第2,第3に対し,特許権の重圧をのがれ,彼我の技術的落差をちぢめるには欧米の研究陣に匹敵する巨額の研究投資が必要であり,それも長期にわたる努力が必要であろう。


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