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第3部   部門別に見た技術の動向
第7章  電子工業
1  電子技術の意義とその役割

戦後,電子を取扱う学問分野をエレクトロニクスと呼ぶようになり,わが国ではこれに単に電子工学というよりは広い意味をもったものとして,電子技術という訳語をあてゝいる。金属のなかに電流が流れるという現象は,その金属内部の自由電子の運動によることはよく知られている。しかしこの電子作用は金属導体に限らず,ガス中でも,真空中でも,半導体申でもみられる現象であり,電子技術はこのような自由電子の性質を利用するものである。

約50年前に真空管が発明され,真空中における電子の作用を利用する技術が出現して以来,電信,電話,放送などの技術的発展に寄与し,電子技術はその当初電気通信技術の一分野として進歩してきた。さらにガス中や物質中の電子に関する研究の結果,放電管や光電管,ブラウン管など各種の電子管があらわれテレビや写真電送や簡単な自動装置や計測器に利用され,次第にその応用範囲を拡げていった。戦後,半導体(ゲルマニウム,シリコン等)の研究から,物質内の電子の作用とその運動を制御する理論的な研究など,この分野の画期的な進展と応用面のいちじるしい拡張にともなって,通信技術の枠をはなれ,電子の性質を調べ,これを利用するための科学技術を総称してエレクトロニクスなる新語で呼ぶようになった。

電子技術の特徴は原子力利用における場合と同様に,あらゆる技術の有機的な結合によって進歩することである。技術が総合化され,1つの技術を進歩させるためには関連する技術分野がますます拡がってゆくというのは,最近の一般的な傾向であるが,とくに電子技術は物理学,化学,通信理論や自動制御理論などの工学上の諸理論,基礎となる材料技術をはじめ,ほとんどすべての工業技術を基盤として進歩する新しい技術と考えられる。

第2に,後ほどしめすようにこの技術は,その本質的な性格から,その利用分野が科学研究から産業全般に,さらに医療から軍事技術におよぶ共通技術としての重要性をもっていることである。たとえば,エレクトロニクスの粋を集めた電子計算機についてみても,真空管やトランジスタなどの基本素子に関する技術の周囲に,電気,通信,機械,金属などの諸々の技術と物理,化学などの科学がからみ合って発展し,科学技術研究から,工業生産や事務のオートメーション,さらに,自動追跡照準方式などの軍事面におよぶあらゆる分野に利用されている。

周知のように,今日の電子技術の進歩は第2次大戦中の軍事的要請によって得られたものであり,現在,なお諸外国ではそれが発展の原動力となっていることも事実ではあるが,その結果得られたものは,すでに軍事的な立場をはなれてわれわの生活に入りこみ,人類の進歩と幸福に貢けんしつつあり,将来に無限の希望を与えうる可能性をもっている。

しかも,今日電子技術の重要性が強調される理由は,単にその利用分野が広いということにあるのではなくて,この技術がもっている本質的な役割の重要性に基因している。

すなわち,原子力利用が新しいエネルギの解放という意義から,また高分子化学が,新しい物質の創造という意義から重要視されるならば,電子技術は新しい人間能力を創造することによって,われわれがさらに前進するために欠くべからざる手段を提供する。人間の視覚,聴覚などの,感覚力や判断力には生理的な限界がある。電子装置は目的に応じてこれらの機能を代用させ,その限界を超えて人間能力のおよび得ない領域にまでその機能を拡大することができる。たとえば,放射能の検出装置は新しい知覚能力をわれわれに与え,電子計算機は人力のおよび得ない高速度の計算機能をもち,人工頭脳として各種の複雑な情報を処理し,判断をくだす能力をもっている。

電子技術は現在すでに計測技術,自動制御技術,計算判断技術として数々の応用分野を開拓し,多くの驚異的な成果をうみだしつゝあるが,これは電子装置のもつこのような微少現象の検出,増巾拡大作用や,高速度で与えられた情報を伝達し,変換し,処理する機能を利用することにより可能となったものであり,電子装置のもつこの機能は科学技術の全般的な進歩につれて当然要請され,本質的に広範囲に普及され,利用される性格を備えている。将来,物質内の電子を制御する技術が進歩すれば,さらに多数の新しい機能が付与される可能性をもっている。


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