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第3部   部門別に見た技術の動向
第6章  機械工業
4  わが国機械工業技術の現状と問題点
(2)  問題点

わが国の機械工業技術に関する問題点としては,

◆中小企業の技術的劣勢,すなわち完成機械工業に対し,部品やプラント構成機器,材料などを供給する関連,部品工業が技術的に劣勢であること。
◆いわゆるメーカーとユーザーの技術的な協力関係が密接でなく,また資本財工業としての機械工業と需要産業間において,技術の相互依存関係が疎遠あること。
◆機械工業の生産設備を供給する金属加工機械工業,工作機械工業の技術および技術開発力が十分でないこと。
◆機械工業全般を通じて外国技術依存度が今なお高く,独自の研究,開発力が小さいこと。
◆わが国輸出機械も機種別構成が高度化していこと,

などをあげることができる

部品・材料の問題

機械製品やプラントのより高速,高能率,自動化が進むにつれ,わが国では完成機械に要求される機能と,関連工業や,下請企業の供給する構成部品,計送品の品質,性能との間に技術的格差が次第に大きくなってきた。わが国が世界に誇る造船工業においてさえも,ガスタービン利用の過給機のほか,コスト構成中40%を占める冷凍機,ポンプ,蒸溜機,各種自動調整装置,通信機,信号機などの補機,艤送品の多くのものが技術的に劣り,あついは外国船主の信頼が得られていない状態である。このほか機械工業全分野にわたって,質的に重要な部品で外国に依存しているものも多く,また部品,材料関係の低い性能,品質,高コストが完成機械,設備にマイナスの影響を与えていることも多い。すなわち次第に国産化されつつある新鋭火力設備でも相当多くの部品材料を輸入に仰いでおり,ディーゼル機関におけるガスタービン利用の過給機;工作機械用の超精密軸受,油圧機器などの自動制御装置関係の部品;通信,電子機器用の一部電子管,部品など,いまなお海外に依存しているものも多い。このほかわが国では強りん鋳鉄生産が全銑鉄鋳物の5%にすぎない点も,鋳鉄が機械構成用材料としてもっとも大きなウエイトを占める材料分野だけに,欧米に対するこの分野の後進性は大きな影きょうがある。また軸受,計測器,精密機械用の材料とその加工熱処理技術が低く,産業機械用の耐衝撃,耐食,耐磨粍性の諸材料,電装品,油圧機器,バルブ;あるいは化学設備のための各種材料などについても改良の余地が大きい。自動車工業関連の部品工業の技術的劣勢は,各種部品の規格統一の問題とともに,自動車工業が今後飛躍的に発展することを期待されている分野だけに,改善すべき大きな課題であろう。また計測器,自動制御装置についそも,化学工業,石油精製工業,新鋭火力設備あるいは繊維機械その他の機械,設備において,高度の信頼性,耐久性を要求せられるものは,依然多くを外国製品に頼らざるを得ない状態である。

このほか機械工業全般を通じて,測定器,検査機器に関しても,たとえば,電子工業,時計その他の精密機械工業,航空機工業など,寸法,精度に対する要求のきわめて高度な分野に用いられるものについては,よいものができないことや,一般企業の使用する測定器と,標準計器との照合,補正が簡単に行えないため生産活動における寸法,精度維持に不備な点があること,などにおいておくれがめだっているこのように部品,付属機器,計測器,材料などに関する技術の低いことや標準度量衡の普及が十分行われ難いことなどが,わが国機械工業発展の大きなブレーキとなっている。

また,機械部品や材料にしても,わが国では必要にして十分なものができない反面,往々にして,不必要なところに余分な精度,感度,強度,品質を求めたり作ったりするといったととが,正しい理論上の根拠もなく行われ,製品の耐久性,コストなどにむしろ悪影きょうを与えていることも多い。このほかわが国においては基礎的部品,材料などの購買,流通機構の不適正なことが全般的な技術向上の障害となっていることも多い。

金属加工機械,工作機械技術の劣勢

わが国の金属加工機械および工作機械工業はここ数年間に多くのすぐれた機械を開発してきたが,外国一流メーカーのように,長い技術的基盤のうえに多くの研究費を投じて独自のものを開発してきたのではないため,細部に対する研究も不足であり,また自動旋盤・横中ぐり盤,治具中ぐり盤,歯切盤などの高級品はいまなお技術的に十分でなく,多く輸入に依存せざるを得ない状態である。需要産業も一般に重要工程を輸入品で賄い,それ以外を国産品でという傾向がつよい。工作機械メーカーはとくに専用機の製作をとおして,機械工業の生産技術のコンサルタントの役目を果し,つねによりすぐれた機械を開発して需要者の設備更新を刺げきし,誘導するはずのものであり,かつ工作機械工業の発展いかんは,その国の機械工業における生産基盤,輸出基盤を規定するものである。わが国機械工業の設備は機令10〜20年の機械が過半を占めているほど老朽化し,しかも一般に設備更新に対して鈍重であることには,多くの原因が考えられるが,その一半は,量的にも質的にも,すぐれた信頼性ある機械を開発することによって,需要産業の設備更新を刺げきするだけの技術を,工作機械工業が保持し得なかったととにもあるといえよう。機械工業にとって,もっとも基本的な技術基盤である金属加工機械工業,工作機械工業が,常に高度の技術を培養しつつ成長し得なかったところに,発展過程におけるわが国機械工業の大きな技術的跛行性をみることができる。

わが国で開発した倣い旋盤

表3.18 世界主要国における工作機械工業の現状


* 精密機械を除く。

表3.18 は世界主要国における工作機械工業の状況であるが,米国,英国,西独などすぐれた機械工業国が,優秀な工作機械の生産国であるとともに輸出国であることからも,この間の消息は明らかであろう。

また,機械工業の加工技術における世界的な傾向である切削加工から非切削加工へ,切削加工の中でも旋削が減って研磨加工が増すといったことに対して,わが国機械工業がかなりたちおくれており,工場における機械設備の機種別構成に後進性がみられるのも,金属加工機械および工作機械工業の技術的劣勢によるところが少くないといえよう。

技術導入と研究

戦後さかんに行われた外国技術導入は,わが国機械工業の技術が世界の水準に近づくことに大きな貢けんを示したが,一面,技術導入の恩恵を受けられなかった分野とか,多くの部品,材料工業との間に技術的格差をつくり,機械工業の生産構造全体に歪みを与えた。そしてこのほとんど無条件,無制限になされた外国技術導入が,各部門において,研究によって独自の技術や製品を開発してゆく意欲を失わせたことも否むことができない。この傾向が続くことは将来の大きな問題である。

わが国機械工業がこんごも,コスト的には低賃金,技術的には外国技術にもっぱら依存して伸びてゆくことはきわめてむずかしい。

いわゆる後進国の工業化や開発が進むにつれ,低賃金ということの優位性は明らかに後進国に譲らざるを得なくなるであろうし,先進国とわが国との技術的格差は技術導入ということでひらいたまま,わが国と後進国との格差は縮まってくることで明らかである。また低賃金は国内市場を狭め,結果において技術の進歩を阻むことになる,すなはち生産性の向上によって国内の所得水準があがることは,とくに耐久消費財を中心とした機械製品,および間接的には資本財工業の技術向上,国際競争力の背景となるものである。わが国でみると,家庭用ミシン,カメラ,ラジオなどの性能,コスト面の輸出競争力は,大きな国内市場を充足する過程で養われてきたし,米国,英国,西独などにおいて自動車輸出がさかんなのも,自動車の大きな市場を国内において形成するだけの高い生活水準が有力な背景となっている。この点からも低賃金にのみ依存した輸出競争力は永続性のあるものでなく,高賃金をカバーするだけの高い技術に依存するようにならなければならない。そしてその技術もみずからの研究によって向上し,みずから開発したものによって製品や機種をつねにより付加価値の高いものへと高度化してゆくのでなければならない。独自に研究をつみあげて技術を開発していった場合には,関連工業や下請企業に,経済的にも技術的にも少なからぬ好影きょうを与え,しかもそれは次の発展の基盤となる。しかし,とくにわが国のように完成技術としての技術導入に多く依存した場合には,単にその部門のみの,その場かぎりの進歩にとどまることになるであろう。技術導入がつねに世界の最高水準のものを得られるとはかぎらず,こんにちのように技術進歩の早い時代では,導入技術の効験がきわめて短期間に失われてしまうことが多い。この点は,ここ数年間に新鋭火力と称する技術が6.6万KWから26.5万KWまで数段階にわたってたちまち飛躍したため,そのたびに導入した外国技術を,ほとんどわが国に定着させ得なかったことでもよく示されている。

このほか,機械工業が他の産業に資本財を供給する立場上,需要産業の完成技術的導入によっても機械工業自身の技術進歩を阻まれることが多い,需要産業にとっても,その生産手段を国内機械工業によって与えられることの有利性は,わが国繊維産業の隆盛と国際競争力が,繊維機械工業の健在に負うところが大きかったことによっても知れるところである。こんごは全般的に技術導入に対する長期的な視野からの再検討が必要であろう。

輸出機械の機種別構成の後進性

米国,英国,西独はじめ,世界主要機械工業国の輸出機種は,自動車,産業機械,原動機,金属加工機械,工作機械,精密機械など技術的要求度,付加価値率の高いものが中心になっている。これに対し,わが国の場合は機械の輸出額,率ともにきわめて低いだけでなく,機,種別にみても,1956年の資料によれば,船舶の50%は別としても,繊維機械,ミシンで15%を占め,このほかはカメラ,鉄道車輛,自転車部品などがつづいている。このようなわが国機械工業の輸出構成機種は,後進国の工業化によって容易に追随される可能性のあるものが多く,こんご機械輸出に大きく依存しなければならないわが国にとって重要な問題である。機械輸出全体を増大させる努力のうちに,前述した自主的研究を推進して,機種的にも一般産業機械,精密機械,自動車など加工度,付加価値の高いものの国際競争力を培養する必要がある。


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