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第3部   部門別に見た技術の動向
第6章  機械工業
4  わが国機械工業技術の現状と問題点
(1)  現状

技術的にも輸出競争力の上からも一応国際水準に達しているといい得る機械工業製品には,船舶,各種ディーゼル機関,ディーゼル自動車,水力発電機器,繊維機械の一部,家庭用ミシン,カメラを主とする光学機械などをあげることができる。

船舶

造船技術には,戦後,世界的にいくつかの大きな変革がもたらされた。それは全面的溶接構造の採用と,これにともなう大型ブロック建造方式の採用という加工技術上の進歩;排気ガスタービン過給 * によってディーゼル機関の出力を飛躍的に増大させ得た,主として設計技術上の進歩;主に材料の向上によってもたらされた蒸気タービンの高温,高圧化の成功などである。わが国造船工業もいち早くこれらの新技術を吸収して,現在量的にも質的にも世界に誇り得る技術を育てあげた。とく.にディーゼル機関には独創的な1.2万馬力のUEC機関が完成して以来,次第に高出力のものが製作され,現在2万馬力級ディーゼル機関の完成をめざして開発が続けられるなど,力強い技術向上への歩みがみられる。


* ディーゼル機関の効率や出力を増大するため,排気ガスでターボブローワーを駆動して空気を圧縮し,高圧空気をシリンダー内に強制圧入すること。

ディーゼル機関

ディーゼル機関は戦後世界的に2サイクル,高速,軽量化をめざして進歩をつづけ,溶接構造の採用,過給による出力増大など今日なお進歩の過程にある。このため設計技術の優劣がその性能を左右する大きな要素となっている。

わが国では戦前から軍事技術の一環として研究が進められ,設計についてもすぐれた技術をもっていた。この技術的基盤のうえに戦後における研究成果が加えられ,舶用機関では前記UEC機関をはじめ,中型のものでは最近軽量,高性能の6,000馬力および2,000馬力の艦艇用ディーゼル機関が完成したが,これらも世界の水準をゆくものであった。-とのほか,バス,トラック,農業用の機関としてすぐれた性能のものが製作され,また自家発電,鉄道車輛用,大型建設機械用としてもディーゼル機関はその応用領域をますます大きくしている。

振動や材質などに解明しなければならない技術上の問題は多いが,全般的にみて,ディーゼル機関はわが国機械工業のなかにおいて,世界に誇り得る技術の1部門ということができる。

ディーゼル自動車

最近のバス,トラックの大型化の傾向と,ディーゼル機関のもつ大出力,燃料費低廉という特徴がわが国ディーゼル機関技術の優秀性という好条件のもとに結びついたため,わが国ディーゼル自動車は,性能においても生産数量においても国際的に首位を競うまでに発展し,輸出商品としても,東南アジア,南米の市場で,西独,フランス,英国製品とのはげしい競争に打ち勝って進出しつつある。

9.6万kwフランシス水車発電機

水力発電機器

わが国では早くから水力開発が進んだため,戦前すでに水力発電機器の製作については一流の技術を有していた。戦後もこの基礎のうえに多くの研究成果が蓄積されて,現在世界に誇り得る技術を確立している。とくに水車においては,流体力学の発達によるキャビテーション * 防止などの研究成果が,落差,水量の変化に対して,効率のよい水車の設計,製作技術をいちじるしく向上させ,発電設備における主機台数の減少,発電機の小型化等に貢けんした。大容量のフランシス水車では佐久間の9,6万KW以後,田子倉向10万KW,奥只見向12.5万KW;また高落差のカプラン水車では,殿山向の有効落差69.5m,1.7万KWと,相ついで記録的な成果をうみだしている。このほか,水車発電機,電力用蓄電器などにおいてもすぐれた技術を保持している。


*水車の翼に発生する壊食現象

繊維機械

従来から綿,スフ,人絹関係の紡織機械では,わが国は卓越した技術をもっていた。現在も輸出産業として有力なものの1つである。東南アジア,中近東,中南米諸国で技術提携を希望するものがあることも,これら繊維機械の優秀性を示す証左であろう。繊維機械がこのような技術的にすぐれた水準を保ち得たのは繊維機械工業に対して大きな市場と,たえず技術に対する厳正な評価を与えてきた,わが国主要輸出産業の1つである繊維産業の健在に負うところが大きかった。

家庭用ミシン

家庭用ミシンは昭和31年度機械輸出中,船舶についで繊維機械とともに3大輸出商品の1つであり,性能,コスト的にもすぐれた競争力をもっている。これはいちはやく部品の標準化が進められ,専門生産体制がとられるなど,わが国機械工業製品中もっともよい生産体制が確立せられたことによるものである。加工設備面でも,部品,完成品を通じて専用工作機械の研究も活発に行われ,最近ではトランスファーマシンの導入がなされるなど,部品・企業,完成品企業の技術向上がめざましい。

光学機械

わが国光学機械はレンズ技術を中心に,軍事技術としで育成された技術を基盤にして戦後めざましい進歩をとげた。このため原価構成上レンズの占める比重が高い双眼鏡,カメラにおいてすぐれている。とくにカメラは中級カメラ,高級カメラを問わず性能,コストともに世界的に高い技術水準と国際競争力を有している。カメラ工業では,レンズのヤケ * の問題を解明するために協同研究を実施して成果をあげ,電子計算機を導入して設計の能率化をはかるなどのほか,新しいレンズ加工機や専用工作機械の研究,カメラ・ボディーのダイキャストの精度向上のための研究などが行われており,最近発表された高級カメラは,従来とかく伝えられていた外国製品の模倣という域をようやく脱したかの感がある。

このほか個々の機械製品では,たとえば電子顕微鏡とか独自の歯切理論にもとずくまがりば傘歯車歯切盤など世界に誇り得る技術的成果も少なくない。

1906馬力のディーゼル電気機関車


* レンズに発生するカビのようなもの

鉄道車輛

わが国は狭軌では世界的にすぐれた技術水準を保ち,蒸気機関車の国際競争力が強い。直流電気機関車は国鉄の主要幹線電化という市場を得て技術的にもすぐれ,交流電化の進展にともない交流電気機関車にも新しい技術がうまれている。また輸出市場である東南アジア,南米の鉄道は電化よりもディーゼルの傾向にある点から考えて,現在国鉄で行いつつある国内ローカル線の全面的ディーゼル化によって,わが国ディーゼル機関車製作の技術が育成されることが期待されている。

小型四輪自動車

これは典型的な量産機種で,生産規模によって生産技術の内容が支配され,コスト,品質が大きく影きょうされる。わが国小型四輪自動亨は設計経験の不足を理論的研究で補い,ここ数年来それまでにくらべ飛躍的な技術進歩を示した。しかし生産規模の小さいことが,材料,加工技術の向上に制約を加えており,コスト,性能面に改善の余地が残されている。

航空機

わが国航空機は戦後7年間にわたり生産を禁止され立遅れていたが,米国製の高度の工作設備および試験設備を整備し,米国式の品質管理方式を採用し,技術導入によってレシプロ機およびジェット機の生産を行っている。ジェットエンジンについてはその大部分をいまなお,輸入にまっているが,機体および主要機器の製造に関する技術については,一応欧米諸国にそん色のない状態になった。しかしながら材料および部品の関連工業の技術は,航空機の要求する品質,性能が極めて高いために,遂次改善はされているもののいまなお追随しえないでいる状況である。設計技術については,わが国独自の設計にかかるジェット中間練習機および中型輸送機の試作が現在行われているが,今後とも国産機の試作による設計技術の伸長が望まれている。

重電機器

重電機器関係のわが国技術は戦前相当高い水準に達しており,戦後に導入された外国技術も短期間に吸収して,一応国際水準級の技術を育てる基盤になった。しかし現在,材料および加工設備に,若干の後進性があり,同一出力当りの重量,コストは欧米製品にくらべて必ずしも優れているとはいい難い。火力機器では火力設備の大容量化にともない,外国技術導入によってその製作技術はここ数年間に6.6万KWから17.5万KWのものまで数段階にわたって急速度に進み,さらに22万KW,26.5万KWのものが主要機器輸入で建設されつつある。これらはすべて1機1缶のユニットシステムを採用し,効率も12.5万KW級で35,5%程度といわれている。

産業機械

産業機械のなかでも化学機械は需要産業の技術が戦後飛躍的に向上して,工程の条件も高度の耐熱,耐食性や連続化が要求され,オートメーション化も進んだため,計測,自動制御などの技術を含めたプラント全体としての設計,製作および材料面できわめて高度の技術を必要とするようになった。そのうえ需要産業の外国技術導入などにともない,工程全般に機密が多いなどのため,わが国メーカーの技術向上の機会が少なく,とくに研究と経験を必要とするプラント装置の建設について劣っている。しかし個々の設備機械ではいくつかの国際水準に近いものを製作し得るようになっている。建設機械ではとくに大型パワーショベル,ブルドーザなどを除けば技術的に大きなおくれはない。鉱山,運搬機械では設計,製作経験の不足と構造材料の材質になお向上の余地がある。また一般に国産品に対する信頼性の欠如も,技術に対する評価を苛酷なものにしている。

1.2m3パワーショベル

計測器

戦後,各産業が生産能率,品質向上のため計測を重視するようになり,計測器は量的にも,質的にもめざましい発展をとげた。単独計器では測長関係で,電気式インジケータ,エヤーマイクロが普及して,多元同時測定や自動定寸への発展を示した。温度計器では広範囲の測定用に熱電対・抵抗式が全工業に,光式,輻射式が鉄鋼業に利用され,遠隔指示,記録,自動制御にまで発展している。装置工業では計測器とエレクトロニクスが結びついた自動制御計器による工程のオートメーション化が進んだため,技術的にも大きな進歩をみせた,しかし国産品は設計,材質面で劣り,耐久性,信頼性が少ないというので,需要企業としても重要工程の計装は依然輸入品に仰いでいる面が大きい。

工作機械

この部門には外国技術導入がほとんど見られず,技術的にも若干の後進性がみたれるは,昭和28年以来の助成策によって後章で述べるように多くのすぐれた機種の試作,工業に成功し,また需用産業との協力の下に,専用機や,汎用モーター,エンジンブロック加工用のトランスファーマシンの製作などに新機軸をうみだすなど技術向上もめだっている。国産では普通旋盤,ボール盤,フライス盤,ホブ盤などの生産比率が高く,自動旋盤,治具中ぐり盤,研削盤,種の輸入依存度が大きい。

以上は主要部門別の簡単な技術の現状であるが,程度の差こそあれ,どの部門にもわが国機械工業の脆弱さを示す問題点が多い。


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