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第3部   部門別に見た技術の動向
第5章  金属工業
4  新金属

戦後の科学技術の急速なしかも大規模な発展にともなって,より性能の高いよりすぐれた性質をもった材料が要求されるようになった。このため金属材料では,従来科学的好奇心の対象にすぎなかった種々の希有金属が,新しい技術の発展のために重要な意義をもつようになり,工業的に生産されるようになった。

原子力開発においては,核燃料としてのウラン,トリウム,構造材料としてのベリリウム,ジルコニウム,熱伝導媒体としてのガリウム,インジウムがあげられ,急速に発展しつつある電子技術においては,トランジスタその他の半導体材料として,ゲルマニウム,珪素,送信管,コンデンサの材料にタンタルが重要な役割を果しつつある。さらに,ますますはげしい条件に耐える材料を要求している航空機,ロケットには,チタンが使用されるようになった。

今日,これらの新らたに工業用金属材料の列に加わった希有金属は一般に新金属といわれている。この新金属の工業的生産は戦後の世界の金属工業技術の進歩の重要な1つと数えられている。

これらの新金属は,元素としての地殻中の賦存量が少いか,あるいは多くても,広く分布していて,金属を小量抽出するのにばく大な量の鉱石を処理せねばならないこと,また金属に還元するのに非常に困難な物理的化学的性質をもっていること,製品としてきわめて高純度であることが必要であることなど,技術の開発において非常に多くの困難な問題を解決せねばならなかった。このため,塩素の大量使用;真空中でのマグネシウム,カルシウムによる還元;ハロゲン化物の熱分解;有機溶剤による抽出;イオン交換樹脂の利用;不活性ガス中でのアーク溶解;など従来の治金技術には見られなかった多くの新しい技術が開発され,駆使されている。

わが国においては,米国に次いで,いち早くクロール法を基本とするチタン生産の工業化が行われ,今日では,年間生産能力約3800トンに達している。このようなチタン工業の発展は米国の軍需という安定した市場の存在とともに,わが国独自の技術開発努力がもたらしたものである。とくに従来未利用資源であった砂鉄中のチタン分を原料とした生産技術は,高く評価さるべきであろう。しかしながら,最近になって,米国でスポンヂチタンの輸入削減が行われたので,この輸出市場にほとんど全面的に依存していたわが国のチタン工業は苦境に追いこまれた。そこで国内市場の開拓と製品輸出が緊急の問題となっており,このため加工技術の確立が重要な課題となってきている。

今年になってチタンの生産技術が基礎となり,類似の性質をもつ,ジルコニウムの生産が開始され,原子炉用構造材料として米国に輸出されている。これには,ハフニウムの分離という困難な技術的問題があるが,溶剤抽出法によって,満足すべき成果がえられた。

次にゲルマニウムであるが,電子工業の急速な発展にともなって,需要は急速に増大しているが,国内生産はきわめて立ちおくれており,多くが輸入製品によってまかなわれているのが現状である。現在国内では亜鉛製錬残渣を原料として生産が行われているが,これについては技術的な問題は解決されており,また超高純度をうるための精製法およびその製品の加工においても,一応の水準に達している。今後輸入を減少させるためには,石炭タールをはじめとする低品位なものを原料として新しい生産技術を開発することが重要な課題となっている。さらに半導体材料として,ゲルマニウムの有力な競争者と目され,全世界的に研究対象となっている超高純度珪素は,資源的な制約がない点からみて,この生産はわが国にとってはきわめて有望であるので,いっそうの研究開発努力がのぞまれる。

国内の原子力開発の進展にともなって,脚光をあびてきたウランの生産は現在なお研究開発の段階であるが,世界的には,その原料が多様であることも原因となって,きわめて多様な冶金方式が行われており,まだ技術の揺らんの時期であるといえる。

したがって,わが国においては,国内の資源探査の進行と歩調をあわせて,国内原料にもっとも適した独自の方式を確立するため,多面的な研究が必要であろう。

ウランとならんで有力な核燃料であるトリウムについては,ウランの場合と異り,従来,セリウムをはじめとする希土類金属またはその化合物とともに,少量ながら生産されており,また原料であるモナザイトは,国内には乏しいが良質のものがかなり容易に輸入できるので,生産技術としては一応の水準にあり,今後は核燃料として不可欠な純度の向上のみが技術的課題となっている。

以上のように,わが国の新金属の生産技術は一応先進国と肩を並べて進んでいるが技術の発展段階としては初期にあり,さらに新しい技術が次々と開発されつつあるので,現在の生産方式が急速に陳腐化する可能性がきわめて多い。

先進工業国の新金属工業は主として国防的要請から,市場的にも,企業的にも,政府によって強力に援助されているが,技術の研究開発面でも,エレクトロニクス,原子力,誘導弾などの重要研究開発計画の一部として組込まれて国家研究として強力に進められている。

これに対応して,わが国でも,新産業の育成という観点から,研究開発の飛躍的強化がのぞまれる,とくに,新しい生産方式の開発に重点がおかれるべきであろう。

また一方では国内需要拡大をめざす新しい合金,メッキなどの加工技術の研究も重要になっている。この場合,生産者と需要者の協力連けいによる協同研究が大切であり,また原子力,航空機,エレクトロニクスなどの綜合研究計画の一環として,研究が組織化されることがのぞまれる。


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