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第3部   部門別に見た技術の動向
第3章  建設
  土木
1  土木部門の戦後の動向


わが国の土木技術の進歩は,戦時中ほとんど停滞状態を呈していたのであるが,戦後荒廃した国土の復興建設に見られるごとく,土木技術の果してきた役割は非常に大きく,その蓄積された技術を高く評価することができるであろう。

さらにまた,戦後諸外国との接触,各種外国文献・資料の入手によって,わが国の土木技術はいちじるしい進歩を見たのである。

最近においては,フィリッピンのマリキナダム(高さ165m),ビルマのバルニチャン発電所等の建設をはじめとして,わが国の土木技術は海外へ進出する機会を数多くもち,各国に伍してゆくだけの水準にいたっていることを示している。

このような状況下において,施工技術はブルドーザをはじめ,各種の建設機械の導入によってはなはだしく様相が変り,をさらに機械化をともなう施工技術が,土木部門全般にわたって滲透してきているのである。外国といちじるしく相異した地質,気象などの条件を克服し,建設機械はようやく国産品として品質,性能が向上してきており,また工費の節約,工期の短縮,工事の質の向上,人力でなしえなかった工事の遂行などと,建設機械化施工の有効性が認識され,建設機械と施工技術との進歩が促進されてきたのである。

建設機械と同様に,測量技術も航空写真測量の発達と普及とにより従来の測量方法は一変し,またもっとも精度の高い唯一の測量方法であった三角測量が光レーダを利用したヂエオデメーター電波を利用したショーランなどにより,高精度の三辺測量へと移り変るなど,測量技術の進歩にもいちじるしいものがある。

さらに,戦後幾多の新しい材料が発達してきたこともまた,設計,施工の技術を変えることとなり,工事の質の向上にも役立つものとなった。そのなかで,コンクリートの発達はきわめて顕著なものである。戦時中および終戦直後のセメントの品質の悪かったことは,土木工事の質に悪影きょうをおよぼした。しかし,その後の品質向上と,外国技術によるプレストレストコンクリート *(1) ,プレパクトコンクリート *(2) ,AEコンクリート *(3) ,レミコン *(4) 等の導入,導入後の熱心な研寒とによって,コンクリートの性質は改善され,また強度と同様に耐久性が重視されるようになってきたのである。

このほか,わが国の世界有数の地震国という悪条件,さらに人口過剰,天然資源の不足などに起因する悪条件はかえって応用力学,土質工学等の研究に対して強力な刺げきとなり,この分野の研究が促進されて構造物の経済的設計をいっそう高めるなど,調査,設計,施工の各技術の発展に貢けんしているのである。つぎに分野別に動向を述べる。


*(1)略してpsコンクリートという。ブレストレスとして圧縮応力を導入して,コンクリートの引張強度を見かけ上増加させたコンクリート


*(2)砂利,玉石等の骨材をはじめに配置し,あとからセメントミルクを注入させたコンクリート。


*(3)コンクリートを造る時にポゾリスなどのAE材を入れて練り交ぜ,空気泡を均等に分布させたコンクリート


*(4)レデイミキストコリートの略。工場等で所要の配合で練り交ぜ,現場に運搬してただちに打設できるようなコンクリート。


(1) 道路

最近とくに道路が悪いといわれている原因の多くは,戦後の自動車交通における車輛の大型化,重量・速度の増大,交通量の急増などの経済発展にともなって要求される条件に,道路が応じえなくなったことに主な原因があり,構造的にも建設当初の状勢における道路構造物の安全率から考えて,破壊することは当然であろう。しかし,技術そのものについても幾多の問題点がある。

戸塚道路のトールゲート

まず,道路輸送に対する長期的見通しの技術的策定がきわめて低位であったことが,もっとも根本町な問題であろう。

このほか道路の基礎,路磐に関する問題として,たとえばコンクリート道路の破壊原因が,温度変化あるいは水分の変化による版のそりであるとかいわれてきたが,最近においては,路盤の排水不完全が主な原因であるとの結論が出された。しかし,この排水の実用的,経済的な一般的方法についてはまだ解明し尽されていないのである。

舗装においても,安全率の問題から舗装厚をどの程度に決めるか,アスファルト舗装における国産アスファルトの利用をどのようにはかるか,また土砂道の安定をどのようにするかの問題がある。

一方,地工面においては,ロードスタピライザー *(1) ,コンクリートスプレッダー *(2) ,ロードフィニシャー *(3) 等新しい建設機械が,わが国独自の条件に適合すべく研究され,使用されてきた。また,真空コンクリート工法 *(1) が補修用として成果をあげてきている。


*(1)路盤をつくる時に,砂,砂利を適切な粒度分布に交ぜ合せる機械。


*(2)ダンプトラックで卸したコンクリートを敷き均らす機械。


*(3)敷き均らされたコンクリートを仕上げる機械。


*(1)コンクリート打設直後に表面を真空マットでおおい,大気を利用して内部の水と空気を吸収する工法。


(2) 鉄道

道路における路盤の問題と同じく鉄道の道床,路盤の研究は鉄道建設にあたって,もっとも力を入れているものの1つであり,排水,モルタル注入,薬液注入,サンドパイル打ち *(2) などの新しい方法によって路盤改良を行ってきているが,全般的な経済的処理対策をどのようにはかるかが大きな課題となっている。

また,新線建設には,たとえば地下鉄のように地理的,地形的困難性をともなっているところでは,レミコン,コンクリートポンプ等による新工法の採用西銀座―東京間の地下鉄と東海道線との立体交叉地点における特殊な工法の考案など,優れた技術によって建設が行われた一方,飯田線付替工事など施工面は大型機械化のすう勢に牛る。


*(2)サンドドレイン工法ともいう。土質の悪い個所を砂に置き換えて地盤の支持力を増加させる工法。


(3) トンネル

道路,鉄道等の建設事業の増加にともなって,トンネル建設はその機会が多くなり,堅岩トンネル,軟弱トンネル,水底トンネルと順調な発達をとげ,関門トンネルの開通を近くみたのである。バンカット爆破法 *(3) ,落盤防止のためのルーフボルト法 *(4) などの新しい施工法がとり入れられて,掘進速度は非常に大きくなってきた。また軟弱地帯に対しては湧水防止,地盤の締固めの目的で,化学的処理法の研究も行われ,実施に移されている。さらに両総用水,日谷比公園内の地下鉄建設にウェルポイント工法 *(5) が応用されるなど,戦後トンネル技術,(よいちじるしい進歩をとげている。しかし,換気という設計上の残された問題がある。

施工機械にはコンベヤ,重ドリフタ,削岩ジャンボ等の国産品の優秀なものが製作され,施工の質と速度の向上に進んでいるが,掘削作業中の安全性向上に対する科学的研究も大切な事項であろう。


*(3)導坑軸に平行に3〜5本の穿孔を行い,その内何本かに装填した爆薬を斎発させる方法。星越トンネルに使用。


*(4)肌落ちの恐れのある所に穿孔して,ボルトをある間隔に入れ,背後の堅固な岩盤に締めつける工法。


*(5)地下水を低下させて掘削足場を強固にし,掘削を容易にする工法。


(4) 橋梁

橋梁建設は大正12年の大震災までの間が,盛況を呈した時代であった。戦後復旧に力が注がれ,新規の設計を実施する余裕がなかったが,その後,漸次新しい型式の橋梁も計画され施工されつつある現況である。そのうちで特筆され予のは,北九州の無鮫トラスアーチ型西海橋(橋長316.26mで世界第1位)である。この橋は架設時の応力の変換分布と,プレストレスの添加による調整とを行った橋梁史上はじめてのものである。また宇高連絡可動橋も設計上すぐれている。さらに溶接橋,ローゼ型鋼橋,合成桁橋,PSコンクリート橋,函形鈑桁橋等軽量でかつ重荷重に耐えられる新しい型式の橋梁が,数多く建設されてきている。

長崎県にかかる西海橋(昭和30年12月1日開通)毎日新聞社資料

これらは,抵抗線式ひずみ計などの測定機器の発達普及による実際の橋粟の応力分布測定,また実物大試験などによって,橋梁技術の発展に対する基礎づけが着々と行われているからでもある。

今後においては,プレキャストコンクリート橋の発達に期待がもてるので,PSコンクートの果す役割を重視し,それを各種の型式へ応用する研究ならびに材料の研究を必要とするであろう。
(5) 港湾

最近において港湾は経済活動の一環として果す役割が大きく,輸送上の1地点であるというよりも,生産の場として理解される面が強くなってきている。

近時,船舶の大型化,施設の専用化の傾向がいちじるしく,とくに石油輸送には6万トン級以上のマンモスタンカーが使用されるようになってきている。このために,航路,泊地の増深,繋留施設の増強をはかる必要を生じた。水深は12〜14Mと,今までよりも2〜3M深く浚渫できる浚渫船の増強が問題であろう。一方,施設建設の面では,軟弱地盤に対して新しくサンドドレイン工法をとり入れ,またセルラーバルクヘッド工法 *(1) ,プレパクト工法,テトラポッド *(2) 等の新工法をも各所に応用し成果をあげてきている。さらに,戦時中米国で発達した海岸波予報のSMB方式を採用して海中構造物の設計の重要な要素とし,また海岸および河口漂砂の調査に対しての,苫小牧における放射性同位元素を利用した漂砂追跡法など,調査,設計,計画面にもいちじるしい進歩が見られる。


*(1)矢板を円弧状に打ち,その中を砂で填充し,構造物の基礎となる工法。塩釜港に使用。


*(2)砕波用で捨石のような役割をもった4本脚のコンクリートブロック。新潟海岸に使用。


(6) 河川

わが国の河川は急峻で,台風経路にあり,豪雨にたびたび見舞われて大被害をもたらしているのであるが,諸外国に比し増水,減水の期間が非常に短く,尖った洪水曲線を示し,山地から急に平地に出るような特徴をもっている。

これらのことは,河川の洪水処理からいって非常に取扱いにくく,洪水時の流砂も加わって技術的解決を困難ならしめている。

治水は治国であるとして,古くからわが国においては河川工事が行われ,一部技術的にも高度な考え方に立脚していたものであったことは,今なお残存している構造物によってうかがうことができる。なおかつ,農業立国としての大きな施策にしたがい,現在まで営々として洪水防禦に傾注しその目的を果してきた。しかし,近時水の総合利用という点から新しい問題が提起されてきている。すなわち,ダム群の建設によって流れの大きさの瀕度分布が変化し,河床状熊が変り,農業用水の取水の困難をともなってきている。また工業用水も加わって水の配分計画が問題となり,河川の安定処理とともに大いに研究しなければならない課題である。

河川における土砂の移動は,以前にはほとんど考慮の対象外であった。しかし,上流で土砂をとめる砂防,下流で川を掘る浚渫,河口における導流堤などとの間に,一貫性をもたせることが痛感されて調査研究を進めていることは,計画に総合性を考えた1つのあらわれであろう。

従来,河川事業には投資に対する経済効果という概念が比較的薄弱であったが,最近は重要な要素として河川計画に折込んでいる。しかし,調査方法,算定法についてはまだ多くの残された問題がある。

河川構造物に見られる戦後の発達のいちじるしいものに,わが国独自のコンクリート製十字ブロックなどの特殊護岸工法と,築堤工事の機械化施工とをあげることができよう。機械化施工については,発展の余地が非常に多く,従来の経験を生かした国産品による施工体系の確立が望まれている。

また,本文資料の整備は非常に遅れている現状であり,一部木曽川における電気洪水追跡計算機の完成もあるが,調査,計画,研究,予報等の面での資料処理用のオートメーション化を速かにはかる必要があろう。
(7) ダム

水資源開発は戦後総合開発の見地から取り組まれ,従来の治水のための堤防方式にかわって,ダムによる貯水池方法(多目的ダム)が経済的になりたつ条件となった。

多目的ダムは,洪水,発電,潅漑,工業用水,上水等の調節,補給に目的をもち,これと貯水のサイクルとほぼ合致して,この経済的な貯水池運転は,諸外国に比して良好な環境にある。また共同費用配分理論は,公共事業における経済的考察を躍進させた。

戦後,機械化施工の導入によって,もつとも画期的な進展を見たのはダム建設である。ダムの構造面では,戦前コンクリート重力式ダムが支配的な型式であり,その間にバットレスダムが数ヵ所建設されたにすぎなかった。戦後に,ロックフィルダム *(1) ,アーチダム,ホローグラビテイダム *(2) 等と各種の型式によるダムが建設されるにいたった。ダムの規模は世界的に大きくなってきているすう勢にあり,わが国でも佐久間(高さ150m),小河内(高さ149m),五十里(高さ109m)の大ダムが完成し,奥只見(高さ157m),田子倉(高さ145m)ダムなどが工事中である。

築造中の井川ホローグラビティダム

施工技術の進歩はきわめて顕著なものがあるが,それに比して設計上の進歩はいたって遅々としている。しかし,最近建設された幾多のダムは,堤体内に抵抗温度計,応力計,ひずみ計等を埋設し,また耐震性をはじめ幾多の模型実験が行われるなど,今後の設計上に多大の進歩をもたらすものと期待できるであろう。


*(1)岩石を積み上げてつくり,上流面をコンクリートの水密な遮水壁を設けたダム。


*(2)施工時のコンクリートブロックの中を空にして積み上げた重力式ダム。


(8) 上下水道

戦後,連合国軍の駐留による近代衛生工学的見地の刺げきは,上下水道に新しいゆき方をもたらしたのである。しかし,この普及実施には多額の財源をともなう関係から,諸外国に比し非常に遅れているのが現状である。技術的には衛生工学的な問題が多く,後記の医療衛生部門の章に譲ることとする。

一方構造的には,新材料,機械化施工によって戦後いちじるしい発展を見ることができる。しかし地震に対し,消防用水を含めての配水管の合理的設計施工の面に残されている問題があろう。


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