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第3部   部門別に見た技術の動向
第1章  農林水産業
2.  生産技術
  林業



現状

戦後わが国の木材需要は,復興建築用材あるいはパルプなどの原料用材として急速に伸びており,昭和31年度の国内消費量は1億5,600万石(素材)と戦前(昭和9〜11年平均)の約2倍にも達し,将来ますます増大の傾向がうかがわれる。これに対し,国内の森林資源の現況は総蓄積66億石,年々の成長量は1億8,000万石(立木)と推定されているが,このうち既開発林はその蓄積約26億石,年成長量約1億400万石(立木)にすぎない。しかも木材の生産は,主としてこの既開発林を対象として行われているため,伐採率は261%という極端な過伐に陥っており,その結果は国土の荒廃をもたらし,森林の風水害に対する抵抗力を,いちじるしく低下させている。一方,外材輸入の動向は,かつての米材,カナダ材あるいはソ連材などに,大きくは期待できない現状にある。昭和31年度の木材輸入量は930万石で,ほとんどフイリッピンを中心とした南洋材でしめられているが,これとても,生産地の奥地への移行,輸出に対する相手方政府の制限などにより,その前途は決して楽観を許せない状況にある。このような内外事情より,必然的にわが国の林業に課せられてくる課題は,国内の森林生産力を飛躍的に増大するとともに,木材の利用および消費を合理化し,木材資源の需給の均衡を確保することであり,さらには,国土の保全,災害の防止を強化するということである。

図3.15 わが国森林の現況

図3.16 木材の主要用途別消費量

なおまた,別の観点からすれば,わが国の私有林所有者の約94%は,5町歩未満の零細所有者であり,その大半は農家であって,十分な経営が行われているとはいえない。そのため,このような林野については,農業との有機的な関連のもとに,農山村経済の振興と土地利用の高度化をはかる必要があり,この面での林業の果す役割もきわめて大きい。
(2) 技術の動向

林業本来の生産活動は,育成と採取の両過程に分けられるが,この2つの生産技術は,一般には,それぞれ担い手となる資本の質の相違,生産要素のなかにしめる労働の比重などによって,おのおのその進むべき方向が異っている。

すなわち基本的には,前者は主として土地生産性向上のための,また後者は労働生産性向上のための技術として,発展する可能性をもっている。

以下,これら両部門を中心として,林業生産に関連する技術発展の動向を,概観してみることにしよう。

林業生産活動の中核となる育成技術には,明治以来,ドイツ林学をうけついで組みたてられた大規模な育成技術と,古くから,農山村内部で自主的に発展してきた経験的技術の2つの類型があるが,いずれも異った理由で,技術としての実行には限界があった。さらに当時は,技術の推進力となるはずの応用科学が未熟であったこと,木材の経済的地位が低く,技術改善への刺げきを欠いていたことなどの理由もあっそ,この分野の技術的発展は長らく停滞していたその後,関連する科学の分化発達とともに,戦後木材の経済的価値が急速度に高まったため,ようやく技術進歩のきざしがみえてきた。すなわち,物理,化学の進歩は,林木の生理的機能を逐次解析し,また遣伝学は,林木の品種改良を展開し,あるいは,土壤学と生態学を基礎とした樹種と更新方法の類型化,さらに推計学による複雑な自然条件の解析も可能となってきたため,最近ではこのような科学的基盤にたつ育成技術を確立しようとしている。

採取部門における,技術発展の系列は,つねに人力―自然力の利用―機械力へと,労働の高度利用をはかる技術として,急速に発展してきている。

わが国の林業で,作業機械の採用が,真剣に考慮されはじめたのは,昭和に入ってからであって,とくに戦後は,林業機械化の発達をみているが,その技術的および経済的内容については,今後なお多くの課題を残している。

つぎに,林業生産に附帯する分野として,森林の経営,調査,防災,および木材の利用,加工などに関する最近の技術発展の動向にふれてみることにする。

戦後における林業経営の技術は,国有林においては経営の合理化に努力してきたが,なおドイツを中心とした技術の直訳的実施に偏したきらいがあり,また民有林においては,自由主義経済の範ちゅうにおいて,それぞれ自主的な技術によって進められてきたが,全般的な技術水準の向上には欠けるところがあった。そのため,最近国有林では,わが国の実情に即した林業経営技術の確立に努力しつつあり,民有林においても,森林計画を緯とし,技術普及を経として,総合的に技術水準の向上をはかろうとしている。

林業経営の基礎となる森林調査については,従来森林は広い上地のうえに複雑な姿で存在しているため,その数量を適確に把握することはきわめて困難なことであった。ところが最近,空中写真や標本抽出法などの近代的統計手法が,欧米においていちじるしく発達し,わが国でもその理論技術をとり入れた新しい森林調査法が,漸次実用化される段階にまできている。

森林防災に関する研究は,戦前は主として森林気象を含む森林治水の調査と観測に重点がおかれ,国土の保全,森林の災害防止に関する科学的研究,経済的分析などはほとんど行われていなかった。また,実施技術においては,土木的工法に主体がおかれ,治山植栽の方面の技術はいちじるしく遅れており,最近では,治山植栽から経済林へ誘導するための林業的技術が,重要な課題となっている。なお,公益上存置される保安林の適正配置に関する科学技術的検討と,流域管理に関する森林機能については,まだ幾多の問題が残されている。

木材の利用,加工の分野における製材と乾燥については,ほぼ技術の確立がみられており,また合板については,接着理論の解明による接着剤の改良が,戦後におけるわが国の合板工業に長足の進歩をもたらした。その他集成材,繊維板などの貴化木材に関する技術,繊維素,リグニンなどの木材成分を利用する化学技術など,いずれもわが国情に適合するような,原料と製品の両面からする生産力式の確立へと進んできている。
(3) 今後の問題点

ここでは,現在わが国の林業に要請されている命題を果すため,とくに重要な科学技術面の問題点は何かを,関連する科学技術の現況に照らしつつ指摘しておくことにする。わが国林業技術発展における1つの問題点は,技術進歩を促進する研究が,他産業とくに隣接産業である農業にくらべて遅れているということである。それは,対象となる森林の資源が低位経済性に停滞していたことと,自然環境のなかにおかれる森林の科学的研究が,本質的に複雑で困難なものであるため,十分な研究成果をあげえないでいることである。このような研究上の悪条件に対して,研究の総合的成果をあげるためには,広い実験地網と強力な組織をもって,徹底した基礎調査が必要であるが,従来この点についての配慮が十分でなかったこと,また林業研究は,その成果をあげるのに,広範な科学領域にわたる知識を必要とするが,これに関し,専門的に有能な人と組織的な総合性に欠けていたこと,木材の採取,利用,加工,および防災などの分野での研究は,むしろ工業研究に準ずる取扱いと理解が必要であるにもかかわらず,この点の適正な研究体制ができていなかったこと,さらに,戦前は木材の需給も比較的安定しており,また廉価な外材が,国内市場価格を支配したこともあって,国内林業の利益が一般に薄く,森林生産力向上のための経済投資と技術改善への刺げきを欠いていたことなどが,林業研究の阻害因子として働き,そこで行われた試験研究はもっぱら国有林にとどまり,林業全般に関する技術進歩の速度を遅らせていたことは否めない。今後,わが国における林業技術の発展をはかるためには,根本的に研究体制に関する問題を確立していく必要がある。

つぎに,現在わが国の林業が当面する,具体的な技術上の問題点にふれてみよう。

わが国の奥地未開発林には,成長量,蓄積の少ない天然生林が多い。これらの地域を開発し,賦存している森林資源の活用をはかるとともに,その跡地を成長量の大きい人工林として育成することが,現在強く要請されてきている。 写真左は,東北地方のブナの天然生林と,写真右は,典型的なスギ人 工林の林相を示す。

まず,長期的観点からして,木材資源を確保するためには,森林のもつ土地生産力を飛躍的に向上させることであるが,その基盤である森林土壤に関する問題と,森林植生とくに林木に関する問題を系統的に研究する必要がある。とくに前者については,人工造林と地力減退の重要課題があり,後者については,養苗,更新,保育にわたる一連の育成技術を科学的基盤にたって,経営経済的に,早急に実現することである。この場合重要なことは,生産の場の自然および経済を十分考慮して,そこで適合する育成技術を確立することである。

具体的には,奥地林の開発にともなう特殊環境と農家の副業的林業とに,それぞれ適用される育成技術が,最も強く解決を要請される問題である。木材需給の均衡を維持し,木材資源を確保するための応急的な措置としては,広大な奥地未開発林の開発を促進することであって,計画的な林道網の整備,拡充をはかって,掠奪的採取に陥ることを防ぐのはもちろんであるが,技術的には,木材の生産費中にしめる運搬費の比重が大きく,林地を破壊する粗放作業になりやすい高しゅん山岳地帯の作業でもあるので経済的合理的な集運材方式を,早急に解決することである。

一方,木材の利用および消費の合理化について,当面考えられる方策としては,未利用または低位利用の不良広葉樹,あるいは林地や,工場の廃材のパルプ化,工業用原料炭としての生産方式,繊維板化などの技術をさらに発展させることであり,他方消費の合理化については,総合的に建築,枕木,坑木,包装,薪炭用材などの代替資材への転換をはかることにもあるが,建築用材の規格不統一や火災消失によるロスも大きく,薪炭燃焼方法の非科学性による消失も大きい。また包装材,紙などの再生化について,ほとんど放任されていることも看過することはできない。これらについて関連分野との共同研究と技術的な協力体制の強化がきわめて重要である。

なお,林業が産業としていかに発展していったとしても,森林のもつコンサーベーションとしての機能の重要性にはかわりはない。木材資源の育成と供給をはかりつゝ,あわせて国土の保全,災害の防止,社会環境維持の面を強化することが必要である。わが国の経済的,文化的発展が進めば進むほど,森林の環境維持機能は,公益的効用としていよいよ高まることであろう。


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