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第3部   部門別に見た技術の動向
第1章  農林水産業
1.  生産基盤
(3)  水利用


わが国経済の発達は,今後,ますます2次,3次産業への就業人口の増加が期待され,工場の拡張,新設は,いよいよ進められるであろう。それにともなって,エネルギ資源造成のための電源開発,工場新設による工業用水,上水道の需要の増大産業道路網の整備拡充が予想される。工業用水の需要増は,農業の利水,水利権との矛盾をはらみ,工業の発展は,ますます工場の汚水による農業生産,水産資源への影きょうを大きくする。

たとえば,某川下流工業地帯の汚水,とくに製紙,パルプ工場の廃液が,工場側の浄化施設の整備にもかかわらず,農作物,魚類におよぼす被害を広範囲にしている。

某県山岳地帯の硫黄鉱山の強酸性水が河川に流入し,川魚の棲息がみられず流域耕地に被害を与えている。ある地区では,硫黄の試掘による被害が大きいため,鉱区禁止地域に指定されるにいたっている。

また,水力発電用ダムの新設で河床が低下して,農業用水の取水が困難になっている事例も少くない。

主として,花崗岩よりなる瀬戸内地方には,荒廃林地が広く分布し ている。そのため,降雨による洪水,土砂の流出がはなはだしく,年 々耕地や家屋,道路など下流地域の被害は大きい。 写真上は,岡山県玉野市附近のはげ山の状況を示し,写真下は,こ れに対し治山事業も施行した直後の状況を示す。


現に建設進行中の某水系のダムは,下流平野の農業用水として利用が可能であるのに考慮されずにいる。

某川上流のダムは総合開発のために着工されたが,着工後,下流の農業水利調整のため,新たにダム建設を必要とする事態を生じている。

また,あるダムは,特定地域総合開発計画の主要な部分をなしており,農業水利に対する流域変更問題,下流農業水利の開発計画等と密接な関連を有するにもかかわらず,具体的な相互調整をはかる総合計画が未確立のまま着工,完成にいたっている。

これらの多くの事例にみられる不合理は,農業者,関係農業行政部門に,総合計画樹立のための基礎となるべき,土地と水の精細な調査資料を欠くため,計画の樹立がおくれ,工業,建設関係部門の発展テンポにあわないことにもよるものであろうし,また,2次産業側の農業軽視,工業優先という考え方にも問題があろう。さらにまた,森林資源の不足は,水源かん養林たる奥地林への開発を進めつつあるが,水資源自体の保全,培養が必ずしも十分なされているとは保証しがたい。

しかしこの不合理も,水に関する一貫した降雨,流量,流出土砂等の連続的な調査を綿密に行い,各利水間の取水量の調整,河床低下をともなう砂利採集,水系を通じての治山,治水,水資源の開発と保全等についての数量的決定をなしうるよう,調整を進める必要があろう。

災害による潰廃面積が,災害復旧面積をはるかに上まわっていることは,南東モンスーン地帯に属し,台風が頻襲するという気候条件と,河川の勾配が急で,流速が早いという条件とに,十分対応しうるだけの対策がなされていないことに起因している。災害に対応するための,防災総合対策が考えられなければならないにもかかわらず,現状は,必ずしもその計画,対策に満足すべきものがみられない。

わが国においては,国土保全,観光資源の確保等のための保安林および制限林が,約413万町歩あるが,これが整備は62%程度行われているにすぎない。

保安林に対しては現在のところ補償が十分でないし,保安林機能充足のための管理監督が制度的に不十分であるため,伐採は放任された形となりがちでこのため,山地の荒廃,河川への影きょうは大きく,ダムが流出土砂で埋没したりダム上流沿岸耕地が浸水,破壊の被害を受けたりすることが多い。

また,某川ではダム建設によって,ダム上流は浸水被害を受け,湛水によって林地は崩壊し,下流では,河床が低下し,さらにその下流では,河床が上昇し,ダム建設による治水の目的が,必ずしも達せられていない。これは,計画が2県にわたるため,上,中,下流の各地の雨量観測が十分でなかったためといわれる。

ある川の分水工事では,河状整理工事が並行して行われなかったので,下流一帯がますます排水困難となり,災害発生の要因を形成している。

治山のための保安林の維持,溪流のえん堤築造,あるいはダムの建設は,林地の保全と,農地の災害防止とに相互に関連するところが多いことを考慮して,総合計画が,水系ごとに樹立さるべきである。しかし,現状では,単一目的の調査を基礎に,ダム建設,河川改修事業が先行,優先して施工されているようである。したがって,土地および水の利用は,各種事業,各種産業との関連を十分考慮して総合的な調査を基礎にして企画,実施すべきである。同時に,水源培養のための基礎研究として,土壤と水との相関,水の循環についての研究を進めるべきであろう。とくに水については,治水,利水とくに農業用水,発電,上水道のための調査が不統一に,しかも区々に,上,中,下流に不平均に実施され,相互利用が不可能でいろいろな障害が起っている。水の調査は,水資源の合理的な利用,配分を行うために,気象,降雨量,流量,水位,利水の現況,流砂の状況,水利権の量的質的把握を,水系ごとに行うべきであろう。


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