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第3部   部門別に見た技術の動向
第1章  農林水産業
1.  生産基盤
(2)  生産用地の推移


わが国農業の零細性に基因する低い生産性を向上するには,耕地の拡張をはかることが重要である。農林省の調査では,開拓適地は180万町歩とされているこれは,耕種農業を中心とする開拓を想定したものであるが,将来の蛋白資源の不足を補う意味で,主畜経営,混牧林経営等を考慮に入れて,さらに精細に調査することが当面の問題であろう。

また,未利用原野の土地利用を耕地どするか,林地とするか,あるいは放牧採草地とするかについて,関係機関相互の調整をはかりつつ,土地利用区分設定の基準作成を急がねばならない。

しかしながら,いたずらに耕地を拡張することは,農業生産にマイナスの作用を与えることがある。これは,明治以来の開墾,開拓が,既耕地への有機質給源を減少せしめ,後述するような地力の低下を招来したことを想起すればたりよう。今後の開拓は,有機質給源のそう失という事態も考慮して進められる必要がある。

明治以来,耕地の拡張は大正期をピークにして,以後,停滞ないしは下降の傾向にあることは,前述したとおりである。耕地の潰廃,造成の状況をみると昭和元年以降,昭和20年までに災害および工場,道路,鉄道敷設等への地目変換による耕地の減少は73万4,000700町歩である。一方,開拓による造成および災害復旧面積は71万町歩であるから,結局2万4,700町歩の耕地が減少したことになっており,これは主として,災害耕地の復旧が進まないことにある。戦後の状況をみると,昭和元年から26年までに11万9,000町歩の減少をみ,林地においても,災害による崩壊地は32万町歩に上り,戦後における災害の頻発と,工場敷地等による潰廃面積の増大のはなはだしさを物語っている。

図3.4 耕地の造成と潰廃

干拓,開拓による耕地の造成が,工場敷地等の潰廃面積をカバーしてはいるが,工場敷地等による潰廃地は肥沃な既耕地であり,干拓,開拓による造成地は土壤条件の劣悪な生産力の低い新墾地で,耕地は量的にはカバーしたとしても,その質的な差があるため,全体としての生産力はおちざるをえない。

工業の発達は続々工場を新設し,人口を集中し,住宅地を延長して既耕地を潰廃するだけでなく,農業のなかから労力を吸引してゆく。

図3.5 農家戸数の専兼業比の推移

図3.6 農業就業人口の男女比の推移

兼業農家は最近増加し,農業従事者の構成も変化している。農業就業者中の婦人のしめる比率,老令者の就業者中にしめる比率は,いずれも高くなってきている。もちろん,農家の他産業への就業機会のふえることは,その農家の農業外収入による経済安定をかちえるという有利さをもっている。反面,兼業農家では,兼業依存による農業への投下労働量の減少をもたらし,老人と婦人にウエイトのかかった労力構成は,その質的な低下をまぬがれない。農林省の調査によれば,東北地方の5反以下の経営階層では,専業農家の反当農家所得と土地利用率はそれぞれ1万9,000円139%であるのに,兼業農家ではそれぞれ1万7,000円,123%となっている。同じ傾向は,5反以上層にも,他の地域にもみられる。したがって,たとえ,干拓,開拓地の生産力が工場等によって潰廃された既耕地の生産力をカバーすることができたとしても,工場新設によって増加してゆく兼業農家群の土地生産力,土地利用率は減少をみるのであるから,依然として,生産は減少していっているのである。農業生産の減少に対応するためには,工業の発展にともなって新設される工場が,農耕不適地に立地されることが望ましい。一方,工業自身でも,工業立地の4大工業地帯への集中によって,農業用水および上水道と工業用水との競合をうみ,工業立地の再検討と,その地方分散が期待されている。

しかし,農耕不適地と,工場建設適地とは,必ずしも一致しないから,既耕肥沃地への工場建設はさけられないであろう。したがって,農業生産減少への対策は別に考えられねばならない。このことは,兼業農家に労働力を求めている2次,3次産業の構造にも問題があるが,一万,兼業農家への技術対策も必要である。同時に,理想ではあるが,兼業農家と専業農家との生産協同組織によって,兼業農家の耕地を協同体が経営すれば,生産力をあげることも可能であろうから,農協は生産協同組織形成も考慮すべきであろう。また,工場についても,農業生産との相関を考慮して建設されることが望ましい。

耕地の造成,災害の防止,災害復1印こよる耕地の拡張とともに,個々の経営内における生産性増大のための土地条件の整備も考えられねばならない。

わが国の耕地面積に対する作付面積は144%におよび,西欧諸国に比しはるかに高い。しかし,この比率も地域によって異り,北海道,東北,北陸地方では1毛作が多い。零細な経営を基礎とする農業構造であり,恵まれた気候条件にあるわが国では,一般に土地利用集約化の傾向になるのは当然である。事実一般に畑地の2毛作率は高い。水田の2毛作も,明治以来大正の中頃まで,わずかながら進みつつあった。昭和13〜15年頃には,2毛作田率が40%を上まわったことがあるが,最近ではおおむね,30%前後になっている。

裏作が行われるためには,気候条件のほかに経済条件も要素となるが,水田裏作を阻害しているのは排水不良によるものが多い。

排水が良好で裏作可能と考えられるのは,内地では水田面積の41%にすぎない。湛水ないしは排水不良の水田は33%に達し,しかも,これらの水田は,わが国の穀倉といわれる北上川,最上川,信濃川,利根川,木曽川,筑後川等の大河川の下流地帯に広汎に存在している。排水不良田に対する改良も進み,耕地整理事業によるかん排水施設,暗きょ排水等が施設され,かなりの受益面積をみて,排水不良田は解消しつつある。一方,後述する諸例にみられるように河川改修,ダム建設工事に総合性を欠くために,排水不良田を逆に増加せしめている。排水不良田のなかには用水不足による常時湛水田もあり,水源開発による農業用水量の増加をはかることも考えられてよいし,畑地として転換することも考えられてよい。

図3.7 内地における乾湿田面積の比率

耕地の高度利用とともに,林地,原野の高度利用についても考えねばならない。森林で放牧に利用されているのは,わずかに13万町歩,原野のそれは,採草もあわせて54万9,000町歩にすぎない。森林,原野を草地として積極的に造成するための,技術と投資が望まれる。また,わが国の長い海岸線にそって存在する,数万町歩の長大な砂地についても,各産業間の調整をはかって,これが利用を考えるべきである。

さらに,600万町歩におよぶ生産性の低い里山,中部山岳地帯における多くの崩壊地,荒廃地,近畿中国地方のはげ山などの有効利用をはかるとともに,成長量の少い天然生林が過半をしめ,人工植栽林が26%にすぎない現況から脱して,林地の高度利用をはかるべきであろう。

表3.1 耕地の分散状況

零細なわが国の農業は,耕地が狭小で,機械化の進捗がはばまれている。その狭小な経営耕地が分散しているため,ますます機械化の進捗を困難にし,生産性を低くしている。農林省でも,昭和25年以来,耕地の交換分合を進めつつあるが,農家の土地への愛着が強いうえに,農村の社会構造の非近代性もあって事業の進捗をおくらせており,各農家の1枚1枚の耕地についての調査が不十分で,交換分合を農家になっとくさせる客観的資料を欠くため,いよいよ困難になっている。農家をなっとくさせ,交換分合を合理的に進めるためにも,土地調査が必要であろう。

農業のみではない。林業においても,林地の所有規模は零細である。零細な林地の所有者は,一般に農家としては富裕層に属する。そして,これら農家の所有する林地は,主として薪炭用林であり,農業経営のための採草地であり,また,備荒貯蓄のための用をもなす。したがって,森林資源増産の立場からすれば,必ずしもその利用は効率的ではなく,しかも,これら広大な零細所有農家の林地は,森林施業計画推進の障害となっている。一方,林地をもたない貧困な多くの農家は,経営合理化のための林地の草資源利用をはばまれている。

東北,北海道地方に多い国有林やそれ以西に多い巨大な地主による私有林の農業的利用方法,零細所有者の林地の農業的,林業的利用方法について,技術的にも,法制的にも,再検討が加えらるべきであろう。

以上述べたことから明らかなように,わが国の農林業の発達を期するためには,その基盤たる土地についての基本的な調査を統一的に行うことが,今後の課題の1つである。

土地についての調査はないわけではない。しかし一般に精度が低く,単一目的のために調査した資料の寄せ集めであるため,各調査相互の関連がなく,総合的に判断し,計画を立案するのに不十分である。土地の開発保全,利用の高度化をはかるための,適切な総合計画樹立に必要な土地分類,土地利用区分の基準を設定して,調査を実施すべきであろう。


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