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第3部   部門別に見た技術の動向
第1章  農林水産業
1.  生産基盤
(1)  概況


わが国は,夏季には南東モンスーンが湿潤と暑熱をもたらし,冬季には北西モンスーンが裏日本には多雪を,表日本には寒冷乾燥をもたらす特異なモンスーン的気候帯にある。このことは生物資源を複雑,豊富にし,植生を旺盛ならしめる。たとえば,林業の対象となる森林では300種以上の樹種が生育しており,農業では熱帯原産16種,亜熱帯原産6種,温帯原産28種,寒帯原産2種の52種におよぶ多くの作物栽培と,四季を通じての土地利用を可能ならしめており,欧米に比較すれば,農業的な気候条件は恵まれているといえよう。この恵まれた気候条件は,マイナスにも働く。夏季北太平洋の寒冷な偏東風による冷害,風雪害,雨量の変動による水害や,早ばつも多い。気候条件のおよぼすこの明暗2相が,わが国の農林業,とくに,土地利用に与える影きょうは少くない。

土地条件についてみれば,地形的に山岳が多く,傾斜が急で,土地利用はいちじるしく制限され,耕地として利用されているのは,総面積の13.8%(農用地としての利用率は17.5%)にすぎず,大部分を林地とせざるをえない。西独,インド,米国等に比し,耕地利用率ははなはだしく過少である。通常,傾斜15度以上の土地では,耕地としての利用は困難とされているが,わが国総面積の75%が傾斜15度以上の土地であるため,耕地の拡張を困難にしており,大部分の耕地は山麓の扇状地帯,河川沿岸の平野部,三角州地帯に集中している。地形が急しゅんなわが国の河川は,勾配が急で,流速が早く,河川沿いに発達している耕地は,水害の恐威にさらされていることになる。

図3.1 わが国の土地利用

土地利用を制約するのは,単に,以上のような土地条件の不利ばかりではない。土壤条件もまた関係が深い。すなわち,洪積および沖積両地帯は,わが国でもっとも農業に適した土壤で16%をしめるが,沖積地帯には都市が集中しているので,耕地の拡張は制約されざるをえない。わが国の資本主義経済の発展は,農業の資本主義的発達を阻止しつつ,そのうえになしとげられてきたので,耕地の拡大については国家要請も強く,技術の発達をみているにかかわらず,大正期をピークにしてそれ以後拡大がみられず,停滞ないし下降をみ,水田で2割,畑で3割の拡張がみられたにすぎない。耕地の拡張はこのように,自然条件からも社会経済的条件からも制約をうけている。また,土層の浅い無機質の岩屑の不完全な風化物からなり,耕地として完全に利用できず,樹木以外の植物栽培に不利なリソゾル土壤 * は,わが国では67%をしめる。このことは農耕地としての利用面積を圧縮し,林地として利用すべき面積を大きくする。すなわち,林地は22,551千ヘクタールで,わが国総面積の61.2%におよぶ。しかし,林地のうち,約4割は未開発森林である。これらの森林も,地形が一般に急しゅんで,雨量の多いわが国の自然条件下にあっては,水源のかん養,土砂の流出防止,崩壊防止等国土保全的制約を受け,経営管理上,林地の保全と開発とのバランスを考えざるをえない。敗戦による植民地のそう失で森林資源は減少したのに,林産物需要はいちじるしく増大し,年間成長量をはるかに上まわり,森林資源の維持培養が緊急の課題となっている。この過伐の実情は,森林の国土保全機能を減退せしめて,災害の頻発の素因となっているだけでなく,水資源培養の機能をも減少せしめ,利水面から,国民生活や産業活動に障害となっている。


*褐色森林土

資源調査会の調査によれば,わが国の食糧構成は穀類,蛋白資源ともに不足であるが,とくに,蛋白の供給不足はいちじるしい。蛋白給源には,家畜とともに魚貝類が考えられるが,戦後,技術の発達によって豊凶の差は縮少されたとはいえ,最近では漁業生産も停滞気味である。しかも,李ライン,南米諸国の領海200カイリ宣言,大陸棚宣言等によって漁獲領域は狭隘になりつつある。

一方,農業有業人口の総有業人口に対する比率は,明治当初の83%から43%に半減したとはいえ,インドにつぐ高さであり,戦後,絶対数では,農業人口も農家戸数も増加している。農家1戸当り耕地面積は1ヘクタールで,イタリー,デンマーク,濠州に,遠くおよばない。狭い耕地にぼう大な農業生産者を抱えているため,その生産性も低く,農業生産の成長率は最近5ヵ年平均で2,3%にすぎず,工業の成長率10%に比し,格段の差をみせている。時間当りの所得も,昭和28〜30年の平均で,農業はわずかに約46円,工業は約82円である。農業の生産性を国際的に比較しても,ビルマ,インドネシア,インドよりは高位にあっても,イタリーの約1/3西独の1/8にすぎない。

図3.2 主要国の農家(場)当り耕地面積

図3.3 農業生産性(労働生産性)の国際比較

農業人口の増加にもかかわらず,耕地の拡張が制約されている日本農業は,その零細性と低所得をまぬがれることができない。零細性と低所得から脱却して,農業生産の拡大をはかるためには,社会経済的条件の修正が基本となるであろうが,2次産業を発展せしめて,農業人口における雇用問題の解決をはかるとともに,前述したような自然条件,社会経済条件のなかで,いかにして土地のもつ機能を十分に発揮させるかが問題となろう。


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