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第2部   科学技術発展の基盤
第7章  普及活動
1  生産活動への普及
(1)  科学技術をとり入れるときの企業の条件


科学技術の生産部門への普及において,ただちに問題となるのは,経営者の技術改善に対する積極性と企業の条件である。次の事例に,企業の科学技術に対する積極性と条件の典型がみられる。

新しい製錬法を導入したある事業所の例である。戦時中の無理な操業による諸設備の荒廃,乱掘による原鉱の品位低下が原因して操業条件が悪化し,また鉱害による地元農家へのぼう大な補償釜をかかえ,そのほか煙害によって山林が荒廃するなど内外におよぶ広範な悪条件をとりのぞき,製錬コストの低下を狙おうとして,その製錬所は改善のための研究を開始するとともに,海外の文献,資料の収集をはじめた。結果は,自己の研究よりすぐれた外国の新製課法を導入したのであるが,導入から実際の操業までに,次の問題があったといわれる。

技術上の問題として,導入先と当該精錬所における炉の容量の相違,原鉱の成分の違い,あるいは炉の材料,付帯工事や副産物製造のための設備など,みずから解決しなければならないものが多かった。その克服には,企業内における長年の研究努力が大いに役立った。さらに,新炉の建設,操業を消化するために,中堅技術者が導入先に派遣され,現場実習をうけて帰国した技術者によって,操業要員に対し一般的な教育や,個々の担当作業についてのケース教育が行われたほか,導入先から技術者を招へいして生産指導,作業指導が行われた。管理上の問題では,受入れと新しい発足のための機構として,特別のスタフと現場のラインが任命され,それによって建設が進められた。一方,余剰人員の整理と新規の技能者の採用の問題があって,このうち余剰人員の整理は,同企業の他の製造部門への転換,希望退職,老令者,不適格者の勇退という3つの方法で,解決がはかられた。また経済的な問題は,長期資金借入れの業務が計画的に進められることによって導入を可能にしている。

この例から,新しい技術に関する情報の収集・購入,企業内研究・組織の整備,導入のだめの管理組織の設置という形をもって,積極的な技術改善をみずからの営業の一部として行っているということができる。このような体制のもとで普及を早めるための道は,導入のための資金の準備と,労働者の転換と質の確保,関連企業の技術向上など,新しい技術に即応する企業内および系列工場の技術教育を促進することなどである。

図2.29 科学技術の普及を早める作用の図示

しかしわが国では,これらのすべてをみずから行いうる企業はごく限られた範囲で,新技術を実際化するために十分な条件をもたない企業の多いところに問題があり,前の図に示すような種々の普及の努力がなされる。そしてその努力のうちとくに,公共機関あるいは企業外の機関から普及のための活動がなされているのは,中小企業と農林業の場合である。


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