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第1部   総説
第3章  わが国科学技術の諸問題
4  科学技術の担い手としての人
(1)  科学技術者の需要と育成


内外のすう勢

今日ほど,科学技術者の教育が国民的規模において関心のもたれたことは,かつてなかったことである。とくに,電気・機械・化学など重工業,化学工業部門の技術者不足が,産業界から強く叫ばれている。現在,理工科のすぐれた大学卒業者を確保するためには,各企業とも並々ならぬ努力を必要とする状態で,一流の大企業に比して給与や身分についての条件が劣るところでは,すぐれた科学技術者の採用が悩みとさえなっている。

世界的にみても,科学技術者の需要は増加する一方である。原子力産業の開発,オートメーション化の普及などにともなって,高度の技術者の需要が増えるばかりでなく,新技術をうみだす研究活動の要員や,基礎的な科学者の需要にもおよび,さらに事務部門,販売部門へ科学者が進出する傾向も強くなっている。これらの事情を反映し,英国ではすでに1956年(昭和31年)に技術専門学校(Technical College)教育の充実を中心にした5ヵ年計画に着手しており,米国も科学技術者の養成拡充のための措置を講じ,年々多数の科学技術者の養成を行っているソ連との差をなくそうと努めたことは,耳新しいことである。そして,これらの科学者,技術者の養成に市民への科学技術教育をも含めて,科学技術教育全般を計画的に強化しようとするのが,最近の世界のすう勢である。わが国では,文部省が理,工科系大学学生8,000人の増加を,3ヵ年計画で進めようとしている。また短期大学の内容を充実改善するため,高等学校と結びつけた5年制の新しい専科大学の実施を計画し,実業高校を中学校と直結させた制度も検討している。

このような内外の情勢に対し,わが国では次の点がとくに問題となっている。

長期的需要の見通し

科学技術者の養成は,わが国の経済振興の根本的な問題であるが,また困難な問題でもある。

現代の特徴として,経済発展の根源が科学技術の進歩におかれているためにすぐれた科学技術者が数多く産業に進出することは,それだけ経済をのばす条件となる。しかし,経済の発展のテンポと教育効果のあらわれるテンポの違いが,その困難を形作る1つのものとなっている。教育はいうまでもなく短期に成果があがるものでなく,少くとも10年を単位として考えられるべきものである。

困難を形作る第2のものは,どの生産分野,どの段階の科学技術者が必要かという問題である。包括的に科学技術者と称しても,具体的には,専門分野も異り,研究者,教育者,技術者とでは,その実社会における活動の役割と範囲が同一ではない。この問題は一方において実社会における適応のための再教育の課題を含みながらも,養成のうえでは,わが国経済の発展についての構造的な長期予想と,科学技術振興の重点をどこにおくかが明確にされて,はじめて実効がおさめられることを意味している。

以上の教育外からの条件に対し,教育費,教育設備などの現状に関して第3の困難がある。現在,大学における理科系,文科系の卒業生比が,24:76になっていることが強く指摘され,理科系の数を増加させる根拠とされているが,そのような比率がうまれたのには,それなりの原因があった。理科系学生を養成するのには,学生1人あたり年間10数万円を要し,さらに教育の質の充実を考慮すれば20万円を越すものが必要とされる。文科系は教員と教室とによって一応の教育ができるのに対し,理科系ではそれに教育設備が加えられ,その充実の困難さが上記のような比率をうみ,特色のない大学を多くうんだ原因の一端ともなっている。

これらの困難は,教育当事者ばかりではなく,長期的視野のもとに行われる徹底的な基礎調査のうえに,産業界,政府,その他関係者を総合した力によって克服しなければならないことである。

大学院の問題

前に述べた第2の困難である需要の構造に関連し,とくに指摘されるのは,研究能力をもつ専門性の高い科学技術者を養成するはずの大学院の問題である。研究活動のはたす役割の比重がますます高まりつつあるとき大学において高度の科学技術者の養成が貧弱であることは,将来への禍根を残すことになろう。

大学院の問題は大学院の学生数の少ないことにあらわれている。昭和32年度の大学院修士課程の学生数は,文科系,理科系あわせて,定員7,243人に対し47%の3,387人がみたされているにすぎない。その原因は大学院に専念できる教授が少なく,また大学院学生の教育が十分な検討のもとに行われていなかったこと,そしてとくに,大学を卒業してすぐに就職した方が有利であり,大学院を終えてからでは,就職が不利なことにあるといわれている。より高度の科学技術者が社会から正当に評価されず,その反映として,大学院に対する一般の認識が不十分であったため,真空地帯として残されたままになっていたのであろう。

生産の現場において,当面する技術問題を処理するため,企業内の技術者に対し再教育を行う場合がある。近時技術革新にともなって,技術者の再教育を組織的に行う要望が高まってきた。大学院ば,その設置の主旨から,一たん生産の現場にでた技術者が現場の技術問題を研究し,基礎的な指導をうける再教育の場として,もっとも適したところである。この意味からも,大学院の強化が望まれるのである。

職業指導の組織化

産業界における技能者教育は,従来産業界にまかされたままになっており,労働者が必要な教育をうける機会に恵まれないところに問題があった。

とくに,科学技術の進歩は労働の質的内容を変化し,それに応じて技能者に新しい能力が必要となり,技能者の再教育が問題となる。

これらの技能者養成強化が最近強く叫ばれるようになり,政府の指導援助の強化や検定制度の樹立を含む振興策が計画されている。

展覧会による溶接技術の普及


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