ここからサイトの主なメニューです
前(節)へ  次(節)へ
第1部   総説
第3章  わが国科学技術の諸問題
3  技術の適用と普及
(2)  技術の適用と普及の促進


一般に大企業では,技術の源泉の問題を除けば,人的にも資金的にも新しい技術をとり入れ,あるいはみずから改良して生産に適用するうえに大きな障害はない。しかしわが国産業の大きな部分を構成している中小企業は,とくに大企業の関連産業としてわが国の技術水準に大きな影きょうを与えるものであるが,一般に人の面でも資金の面でも,技術を自力で改良してゆく力に乏しく,また国内の一部に高い技術や研究成果があっても,それを生産に適用することがきわめて緩まんであったりするので,技術の高度化や吸収のため企業外からの援助が必要である。

したがって,中小企業に対する技術の普及には,国立,公立の試験研究機関や地方公共団体の指導員による指導,あるいは親企業からの援助や指導の果すべき役割がきわめて大きい。また中小企業では新しい技術を消化するのに必要な,能力ある人をもち得ないのみならず,新技術普及のため,たとえば設備更新などのための資金的援助の必要性が高い。

農業における技術普及の対象は,もっとも零細な企業者ともいう大き農民なので,外部から普及を援助するため全国的な技術普及の組織が,国および都道府県を通じて設けられており,普及員によって技術指導が行われている。しかし農業における技術の普及の問題は,普及担当者の能力の向上が当面の課題であり,これとともに農民の科学的素養を高めることが必要とされている。

公衆衛生の分野では国民に衛生思想を普及するための,保健所と開業医の緊密な協力が必要とされている。

新しい建設技術による土木工事

林業,水産業,土木,建築などの分野では,生産が工場作業の形をとらず,また作業が自動化,機械化され難いので,たとえばコンクリートに関する高い技術が研究室では確立しているのに,現場の作業はその技術を使っていないといったことも多く,技術指導や管理が,新しい技術の適用や普及にあたって重要な役割を果すことになる。これらのことは現場技術と研究の遊離が技術の普及をさまたげることとなり,現場で役立つ技術にまで研究を仕上げることの必要性を示すものである。普及,指導を行うべき技術は,研究室的段階にとどまった原理的なものだけであってはならず,開発研究を行って現場の条件に応じ,実際に適用し得るものでなければ効果を収め得ない。こういった面で,工業,農業,公衆衛生関係の国立,公立試験研究機関における技術の指導,普及のための組織の強化,能力の向上に期待さもるところが大きい。

このほか技術の適用と普及に貢けんする制度的,組織的なものとして,標準化,特許,技術士制度あるいは学,協会活動,情報活動などがある。

標準化

製品,品質,製法,検査方法などの基準条件を定めて普及を図る標準化は,製品,部品の単純化,生産の合理化,技術経験の蓄積と研究の集約などを容易にし,技術の向上,普及にとって良好な条件をつくりだすものである。

特許制度

特許制度はがんらい発明を権利として保護することを目的としているため,技術の独占が行われ,技術の普及ということと背馳する面ももっているが,一面技術の公開により,その内容を基礎にしてさらに高度の発明の出現を可能にし,あるいは技術の企業化を促進するなどの効用をもっている。また近年においては,特許制度が技術の商品化という世界的な傾向をもたらし,技術交流をさかんにし,技術の普及に役立っている。

技術士

主として鉱工業関係において,技術の普及に貢けんする,人に関する制度として,技術士(コンサルタント)制度がある。企業や個人などの依頼に応じて,技術業務,技術指導を行う専門家を国が審査し公認するものであり,このため技術士法が制定されている。めざましい進歩のつづけられている技術の適用と普及に,今後大いに貢けんすることが期待されている。

学,協会活動および情報活動

学者,研究者,および技術者などの加わった学,協会において発表される研究成果や技術情報が,科学技術の進歩,普及にとってきわめて有意義であることはいうまでもない。この学,協会活動の重要性にかんがみその国家的助成が行われている。また最近のめざましい技術進歩の動向にともない,国内はもとより海外における研究成果や技術情報,特許情報などを入手,"分類,整理,蓄積するとともに,需要に応じてすみやかに提供する能力と体制をもった情報サービス活動が技術の普及に重要な存在となり,特殊法人の日本科学技術情報センターが設立され,これにあたることになっている。

経済的,社会的条件

これまでは,技術の適用と普及を促進する体制や条件について,おもに技術的な側面からみてきたのであるが,技術の普及を左右するうえに大きな力をもつものは,経済的,社会的条件である。戦後の農業技術の全般的なめざましい向上は,農地解放によってうまれた多くの自作農が,技術改良の意欲をもったことが大きな動因となっている。また,たとえば新しい栽培技術の導入によって栽培時期をくりあげようとすれば,水利権の問題にからむといったように,新しい技術の普及が従来の社会的慣行と抵しょくする場合もでてくる,鉱工業にあっても,正常な経済成長,適度の競争が技術向上にとって必要である。生産体制を整え,設備更新をうながし,新しい技術の導入を容易ならしめるような金融,税制面における適当な助成政策によって,技術の適用と普及は,広汎,円滑,均衡的に行われるであろう。


前(節)へ  次(節)へ

ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ