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第1部   総説
第3章  わが国科学技術の諸問題
2  源泉としての研究
(1)  概況


基礎研究

基礎研究では,大学がもっとも大きいウエイトを占め,大学以外すなわち,国立,公益法人などの研究機関で行われている基礎研究は,大学と比較すると部分的である。大学における研究は,このように基礎研究を主体とするものであるが,さらに応用研究の分野でもかなりの役割を果している。これは大学自体の研究費不足や,戦後民間研究機関の能力が一時低下して,大学が民間からの委託研究に力を入れるようになったことなどが影きょうしているものと見られる。

ひとくちに大学といっても,大学はほんらい教育機関であり,また研究機関としてみた場合にも,学部と付置研究所にわかれ,その活動は広範囲にわたっている。大学における研究を学問別にみると,工学のごとく民間研究機関の比較的充実している分野では,ウエイトはそれほど高くないが,医学,理学等基礎部門の比率の高い分野では大学の果している役割は大きい。

一般に設備の老朽化と研究費の不足になやんでいるのが大学の研究の実状であるが,しかし全国で数百を数える大学の教授陣をすべて研究者とみなしてこれに十分な研究費をあたえ,高価な研究施設によって,すべての大学を同列に充実することは実際には困難なので,研究という見地からの集約化や特色づけが要請されてくる。また原子炉などの例をひくまでもなく,国立大学における多額の経費を要する研究施設の整備にあたっては,財政的見地からも国全体としての投資の重点を考慮することが必要になってくるであろう。

さらに,わが国における科学と技術の遊離の結果,この関連における科学の重要性が認められていないことが,大学における研究費不足の一因と考えられる。この結びつきを緊密化することは,あらゆる分野の人々の協力が必要であるが,科学の側に対してもいっそうの努力が要求されるであろう。

標準電波用原子時計の研究

応用研究以降の段階

応用研究以降の段階では,産業により分担が異っている。

工業では技術の進歩が急で,企業経営でも研究に期待する面が大きいので,民間企業が応用研究と開発研究で主導的地位を占めて゜いる。国立研究機関は,国として必要な標準等の研究に加えて,産業育成の観点から産業における共通技術問題や,民間では行いえない問題についての応用研究,開発研究を担当しているほか,一部基礎研究をも実施している。

農業では,生産者が零細な企業者ともいうべき個々の農民であり,みずかい研究を行う能力がほとんどないので,応用,開発研究の大部分を全国各地に配置された国立,公立の研究機関で行い,これを基礎とした普及・指導によって生産者の技術向上をはかっている。工業部門でもみずから研究を行いえない中小企業については,農業と似た状況にあるとみられ,公立機関が技術情報を提供し,指導を行い,またこれに必要な研究を行う立場にある。

医学は,国民の保健,福祉に直接つながる分野であり,医療部門の研究は,事実上大学ならびに国立その他の総合病院が担当しているが,公衆衛生部門については,国立,公立の研究機関がこれにあたるという体制にある。

研究費と研究従事者

図1.6. 組織別研究費

図1.7. 学問別,組織別研究費

図1.8. 組織別研究従事者数

図1.9. 研究費の国際比較

研究費の総額475億円は,米,英,ソ連のそれに比しいちじるしく少く,研究従事者数も産業界におけるものを比較すると,前にも述べたように米国の50万人,英国の13万人に比し,約3万5,000人で,わが国の研究活動は非常に小規模であり,解決すべき科学技術上の問題が山積している現状である。

このため,全般的に規模の拡大をはかることが必要であるが,とくに大学,国立,公立など公共的機関で,すぐれた人材を遊休状態におくことなく,組織と頭脳を十分活用しうるよう,研究費,設備面で考慮することはきわめて重要なことである。

さらに産業界の研究については,その工業部門に占める重要性にかかわらず,独自の新技術開発のための研究がほとんどみられないところに問題がある。

産業界における他の1つの問題は,わが国で多数を占める中小企業において必要な研究成果が提供されていないことである。一般に,中小企業はみずからは研究能力をもたず,しかも中小企業ではそれなりに解決すべき技術課題を数多くもっている。現在,これをみたすべき公共機関が貧弱であるので,この充実をはかるとともに,研究組合制度等 (*) による共同研究の推進をはかることが必要と思われる.

要と思われる。

このほか応用研究以後の段階で共通的な問題として見逃せないのは,経営者の研究に対する認識と研究者の心構えの問題である。経営者については,往々はして研究により新しい技術を開発してゆこうとする意欲に欠けるところが見られ,研究は経営の場で重視されない傾向にあった。

研究者についていえば,基礎研究以外の分野でも社会から遊離して個人的興味にもとずく研究,あるいは研究のための研究に走り勝ちであり,また往々にして,経済的価値にかかわらない研究のみを尊いものと考える気風があることが指摘されている。さらに経営者といわず一般に研究というものが実験室段階すなわち応用研究が終ったことをもって研究の完了と考える風潮があり,その後の経済的裏づけのある技術にまで仕上るために不可欠な開発研究の重要性を見落し勝ちな認識の不足と,そこまでを行う熱意に乏しいことも見受けられる6これらの条件を反映してわが国の研究者は,゛一般に老朽化した設備のもとで待遇の不良,経費不足の状態におかれ,また,しばしば外国のやきなおし的な研究を強いられるほか,研究に必要なサーヴィスも不十分な,恵まれない状況下におかれ,能力の発揮をさまたげられていたのである。

しかし研究の果すべき役割がますます大きい現在,今後独自の技術をのばすためには,研究者の陣容も免さらに拡大するほか,内容的にはいかにしてわが国で有効に研究成果をうみだすということのために,すべての立場の人が今後努力を集中してゆくことが必要であろう。


* 同種の企業が協力して共通的問題について研究する制度で,西欧とくに英国において発達している (P.73参照) 。日本でも一部実施されている (P.64参照)


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