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第1部   総説
第2章  科学技術の一般動向とわが国の現状
3  わが国の特性


このように,科学技術は国際的に共通ないくつかの動向を示しているが,一国の科学技術は,その国の気候風土や歴史的社会的環境と無縁のものではありえない。わが国は欧米諸国から遠くはなれた東アジアに位置しているために,近代科学技術との接触がおくれ,また言語的にまったく異った体系にあることが,科学技術の交流をいちじるしく困難にしていることはいまさらいうまでもない。

明治以後,近代国家建設を目ざして,発足したわが国は,このような不利な条件下におかれながらも先進諸国の科学技術の成果を吸収し,軍事化をテコとして,産業の近代化を進めてきた。先進国から科学技術を輸入して近代化をはかることは,わが国としてやむをえない自然の方法であったし,それらを消化吸収する点ではすぐれた能力を示してきた。しかしながら,資本の蓄積が乏しく,豊富な低賃金労働に依存しつつ,急速な経済成長をとげてきたわが国は,零細な農家や中小企業はもちろん,大企業であっても十分な研究能力をもつ余裕がなく,科学技術の振興のための政策も強力に推進されてきたとはいい難い。

したがって,科学技術の進歩を手っとり早く,外国からの輸入に依存して短期的な効果だけを求めてきたため,科学と技術の分離や跛行的な発達をもたらしたとともに,基本的なあるいは長期的な問題の解決をなおざりにしてきた。

しかも,おのずから生ずるにいたった舶来尊重の気風は,もっぱら模倣に走り,独創を軽視する風潮となって,外国ではどうなっているかということが評価の基準になるという奇妙な現象さえひきおこすにいたっている。

もちろん,わが国の科学技術はすべてが外国の移植であり模倣であるわけではない。

近代数学の発展に寄与した純粋数学の領域における幾多の業績,中間子理論以来の核物理学における成果などにみられるように,理論的な研究分野では世界的に高く評価されており,さらに過去の例をみても,KS鋼やMK鋼などの磁石鋼,金属酸化物磁性材料の業績は著名なものである。また超々ジユラルミンなどの軽合金,硫安製造における東工試法,油母頁岩からのガソリンの製造,グルタミン酸ソーダや田熊式ボイラ,豊田自動織機,八木アンテナ,無装荷ケーブル搬送方式の発明などは世界的にも優れたものであったし,医療衛生の分野においても赤痢菌の発見をはじめとする細菌学への貢けん,サルバルサンの創製,ジアスターゼ,ビタミンB,人工癌の発生研究などの業績があり,最近でもビニロン,UECディーゼル機関,電子顕微鏡,パラメトロン,ザルコマイシン,ナイトロミンなどの独自の技術として完成させている例も多い。

さらに,直接自然に対して働きかけることの多い農林業や鉱業あるいは土木建設の技術では,わが国の気候風土に即した技術がうまれている。温暖多湿の気候と,限られた耕地からうまれたわが国の水田稲作技術は,土地の生産性を最大限に発揮させる国情に適した技術として高く評価される。鉱物の博物館といわれるほど種類の多い地下資源も量的には貧弱で構成も不均一であるから,採堀や製錬に,諸外国と異った複雑な問題をあたえている。

このような自然条件は,科学技術にとっては前提として動かし得ないものであるから,わが国としては単なる外国の模倣や直輸入でなく,自然条件に即した研究をすすめることによって,独自の技術をうみだしてゆくことが必要である。

もとより自然条件に即した技術だけが独自の技術ではない。繊維工業で化学繊維の比重が大きくなってきているように,工業原料も自然条件に左右される度合は次第に少くなりつつある。科学技術の発達は資源の不利が決定的であった時代を次第に過去のものとしつつある。勤勉器用という特性に加えて,知能的にも諸外国に比して決して劣らないわが国は,自給自足にゆきすぎることを避けるべきはもちろんではあるが,歴史的な,あるいは気候風土的な制約を打開して独自の技術を育ててゆかなければならない。


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