教育未来創造会議「第一次提言」を受けたこれからの大学について
(進学者のニーズや人材需要に対応するための学部再編と理系女子学生の活躍促進について)

令和4年5月24日(火曜日)
教育

 去る5月10日(火)、内閣総理大臣を議長とし、私が議長代理を務める教育未来創造会議において、「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について(第一次提言)」が取りまとめられました。この提言は、我が国が置かれている現状や人材育成を取り巻く課題を踏まえ、基本理念、在りたい社会像、目指したい人材育成の在り方を整理した上で、
 ① 未来を支える人材を育む大学等の機能強化
 ② 新たな時代に対応する学びの支援の充実
 ③ 学び直し(リカレント教育)を促進するための環境整備
に特に焦点を当てて、今後取り組むべき具体的方策を取りまとめたものです。

 この提言を実現するため、これからの大学は大きく構造転換することとなります。そして、未来の社会を担う方々が、それぞれの資質や能力を開花させ、社会で活躍できるようになるための学びの場を、産官学が一体となり作り上げていきます。

 我が国の初等中等教育は世界トップレベルです。特に理数系の学力に関しては、国際的な学力調査において、義務教育終了段階の子供たちの数学的リテラシーや科学的リテラシーが世界トップレベルであることが示されています。具体的には、高等学校1年次の時点で、約4割の子供が比較的高い数学的リテラシー及び科学的リテラシーを有しているとされています。これは、子供たちの教育に携わるあらゆる方々のたゆまぬ努力の賜物であり、その御努力に心から敬意を表する次第です。
 しかし、このように多くの子供たちが高い理数系の学力を有していながら、高等学校における文系・理系の選択で理系を選択する子供は約2割に落ち込みます。とりわけ女子生徒に関しては、理数リテラシーについては男子生徒と大きな差が見られない一方で、理系を選択する割合は男子27%に対して女子 16%となっています。
 さらに、大学進学の時点では、理工系学部への進学割合はOECD平均の27%に対して我が国は17%にとどまっています。男女の格差も顕著で、理工系を専攻する大学学部段階の学生は、男性が28%に対して女性はわずか7%にすぎません。

 このように、初等中等教育段階で高い資質・能力が育成されながらも、大学でその資質・能力を更に伸長させるための環境が十分に整えられていないと考えられます。これは、高等学校段階での理系離れや、社会全体に通底する男女の違いに基づく先入観、目まぐるしい社会の変容に必ずしも追走しきれていない大学の構造など、様々な要因が複雑に絡み合っていることに起因するのではないでしょうか。
 いずれもが非常に困難で、かつ長年にわたる課題です。このため、一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、子供たちの未来、我が国の未来を切り拓くためには、大学を起点にして大胆に構造転換を図ることが必要です。

 このような課題に対応するため、教育未来創造会議「第一次提言」では、実に多岐にわたる改革事項があげられています。私といたしましては、それらの中でも特に、
 ・ 現状では大きく不足している、理系の学修を行うための大学の受け皿を抜本的に拡充すること
 ・ とりわけ女性の皆さんが理系の分野で大きく活躍していただける社会を構築すること
について、大学の関係者の皆様のみならず、今後大学での学びを志す子供たちや、子供たちを支えていただく保護者の皆様、子供たちの進路の選択で多大な御助力をいただく学校の教職員の皆様、そして大学で真剣に学び資質・能力を伸ばした方々が活躍する場となる企業の皆様に、広く御理解を賜りたいと思っております。

これから大学を志す皆さん

 5年後、10年後に向けて大学が大きく変わっていきます。
 現在35%にとどまっている自然科学分野を専攻する学生の割合を5割程度まで引き上げることを目指します。入試も変わり、文系・理系の区別なく広く深い学びが評価されるようになります。また、学生の皆さんが安心して学びに注力できるよう、経済的な支援を含めてきめ細かな支援を行います。
 特に女子生徒の皆さん。これからの時代、女性が能力を発揮して活躍できる分野は限りなく広がっています。理系は「男性の職場」といった固定観念はなくなっていきます。ぜひ、大学でも自分自身が興味を持てる分野、得意な分野を徹底的に追求し、自らの可能性を広げていってください。

保護者の皆様

 学びは子供の可能性を広げる鍵です。
 「理学部や工学部の女子は就職できない」このようにお思いではないでしょうか。そのようなことはありません。特にIT系の人材は2030年に最大79万人も不足するという予測もあるなど、理工系学部を卒業した学生は、男性、女性を問わず産業界でも強く求められています。
 近年は、国立の女子大学でも工学部を新設するなど、大学も女性が理工学系の分野で活躍することを期待しています。「女子は文系」といった固定観念から離れ、子供たちの幅広い進路選択をお支えください。

小中高等学校の教職員の皆様

 初等中等教育の目指すところは、全ての子供たちの可能性を最大限引き出すことです。
 大学には、文理横断的な入学者選抜に転換するよう強く促していきます。高等学校においても早期から文系・理系に分ける「文理分断」教育から脱却し、文系・理系の枠を超えた学びにより、生徒の可能性の芽を大きく育むことをお願いいたします。
 また、学校における男女の違いに基づく先入観を徹底的に排除しましょう。もちろん、小中高等学校だけで解決できる問題ではありません。社会全体で力を揃えて固定観念の排除を進めてまいりますので、学校における先生方のお力をお貸しください。

企業等の皆様

 大学での学び、成長を評価してください。
 学生が在学中から社会を知り、今、自分たちがどのような力を身に付けなければならないのか、何を学ばなければならないのかを理解するためにも、インターンシップをはじめとして学生が様々な経験・体験をできる場を御用意ください。
 また、男女の違いに基づく先入観の排除のため、女性が活躍できる場をしっかりとご用意いただき、特に理系出身の女性が社会で活躍している姿が見えるよう、子供たちがロールモデルに出会う機会をつくるための御協力をお願いします。
 そして、志高く羽ばたこうとする学生が勉学に専念できるよう、産官学が手を取り合い、そのような学生を支援するためにお力添えをお願いします。

結びに

 私は、教育にかかわるあらゆる方々の英知を集結し、未来を支える人材を育むための大学等の機能強化に全力で取り組んでまいります。
 特に、意欲ある理系学生、女子学生などが広く社会で活躍できるようにするため、産官学が総出でそのような学生を応援するという機運を醸成するためにイニシアティブを発揮してまいります。
 また、現下の課題を踏まえた改革の方向性を理解し、前に進もうとする大学、変わろうとする大学に対して、集中的に支援をし、徹底的な構造改革を試みる大学を後押しします。
 さらに、特に中学生・高校生の皆さんには、文系か理系かの二者択一に陥らないよう、様々な学習をすることができる機会を御用意します。そのため、大学や産業界も含めて広く社会の御助力をいただき、社会総がかりで子供たちの学びや経験の場を創出します。

 未来の個人の幸せ、未来の社会の豊かさは、教育によって創造されるものです。子供たちや社会の未来が更に輝かしいものとなるよう、今後とも、皆様のより一層の御理解・御協力を心からお願い申し上げます。

令和4年5月24日
文部科学大臣 末松信介