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平成18年9月26日大臣会見概要(伊吹大臣初会見)

平成18年9月26日
23時3分〜23時57分
文部科学省記者会見室

大臣)
 文部科学大臣を拝命しました伊吹です。色々これから皆さんにご厄介になると思いますが、どうぞ宜しくお願いします。我々も色々と情報を発信して国民の皆さんの理解を得ていかないと物事が進みませんので、可能な限り事務局で調整してもらって皆さんとお話をし、意見交換をしていきたいと思いますので、よろしくご協力下さい。
 まず今日は初閣議がありまして、内閣総理大臣の談話が決定されました。本日内閣総理大臣に任命され云々というもので、安倍総理が会見をされた趣旨に沿ったことが書いてあります。文部科学省に関係のある部分としては、「家族、地域、国を大事にする、豊かな人間性と創造性を備えた規律ある人間の育成に向け、教育再生に直ちに取り組むこととし、まず教育基本法案の早期成立を期します。」ということが書いてあります。
 最後に外交のことや色々なことが書いてあり、「我々日本人には、21世紀の日本を、日本人の持つ美徳を保ちながら、魅力あふれる、活力に満ちた国にする力があると、私は信じています。国民の皆様とともに、世界の人々が憧れと尊敬を抱き、子どもたちの世代が自信と誇りを持てる『美しい国、日本』とするため、先頭に立って、全身全霊を傾けて挑戦していく覚悟であります。」と書かれています。
 安倍総理が会見でも言っていたと思いますが、「美しい国」を作るためには、美しい心根を持った日本人を創らなければいけないというのが、彼の基本的な考えだと思います。
 以上のように内閣総理大臣談話の決定がありまして、我々の服務に関するご注意などがありました。その他、「第163回国会及び第164回国会に提出し継続審査中の議案の審査取り進め方申出について」が決定され、この中に教育基本法案があります。臨時国会で引き続き審議をするということになります。閣議の内容で文部科学省に関係がある案件は以上です。
 安倍総理が総裁選の時からずっと教育改革を第一の重要課題に取り上げているのは、これは当然のことですが私たちの社会は基本は人間によって成り立っているわけですから、その人間に自己抑制があり、かつ、この日本が大切にしてきた美徳を持っていれば、その社会の秩序は守られ、その社会は安全であるという考えからだと思います。しかし今、残念ながらそういうものが非常に壊されているために、嫌な事件が次々に起こっている。
 一方で、霞を食って生きているわけではありませんから、経済は順調に発展していかなければならない。少子化社会においても経済が順調に発展していくには、皆さんご承知のように生産関数というものがあって、技術と労働力によって一国のGNP、GDPが作られていくわけで、科学技術その他の発展のためにイノベーションの種を作っていかなければならないし、そのためには良質な研究開発そしてそれを支えていく人材が必要だということです。
 そしてそれを応用して生産力に転換していく段階では、権利と義務が伴う。守るべき自由のためには規律が必要であるという気持ちをもっている日本人が多くなれば、日本の将来は「美しい国」になるというのが安倍総理の基本的な考え方ではないでしょうか。
 私はこれはかなり時間がかかると思います。もちろん私の在任中、私の生きている間に成果が出てくるということは少ないと思います。日本人が持っていた社会規範や伝統的な道徳のようなものは、残念ながら60年かけて、豊穣の中の精神の貧困という状態に今なっている。これは色々な原因があると思います。日本が豊かになったことそのものにも原因があるだろうし、あるいは日本の文化が敗戦ということで断絶して、新しい憲法の下ではどちらかというと公に対する貢献よりも権利の主張が強く謳われている。それに応じて色々な社会の制度が作られ、日本人の考え方が教育をされてきたということもあるでしょう。それをもう一度、良いところは残して、まずいところは少し時代に合うように直していこうという時に来ていると思います。
 ただ、人間のやることだから、数学の世界のように1プラス1イコール2という絶対的な真理はありません。だから、謙虚によく説明をし、意見が違う場合は説得をし、国民的な合意を得ながら進めていく、そういう前提で教育行政に携わっていきたいなと思っています。
 とりあえず第一段階としては、教育基本法案を今国会中に成立させること。しかしこれは成立させても仏が出来るということで、その後魂を入れなければいけないわけです。これは個別の教育改革によって、魂が入っていくということだと思います。
 それから、官邸でも教育を考える直属の諮問機関のようなものを作りたいというようなことを、今日閣僚応接室で雑談をしていたときに、総理が言っていました。こちらにはもちろん中央教育審議会があるわけだから、ちょうど経済財政諮問会議のように、官邸直属の機関において、政治的に大きな視野に立った考え方をまとめてもらうのは非常に結構なことではないかと思います。しかしそれを受けて教育改革の実務を担っていく役割はやっぱり中央教育審議会にお願いしていくということです。そういうことを、一度山谷首相補佐官とよく話してみようと言っていたところです。
 私の当面考えていることは抽象的なお話で恐縮ですが、だいたい以上のようなことです。皆さんの方から具体的なご質問がありましたらお答えします。私も昔文教委員長をやったことはありますが、文部科学省の各局長が知っているような細かなことは分かりません。しかし逆に細かなことを知り過ぎていると大きな森が見えないということもあるから、政治家はしっかり森を見て、木がどうなっているかを教えてもらいながら緑を増やしていくということだと思います。どうぞ皆さんも協力してください。以上です。

記者)
 ありがとうございます。それではまず、先ほど初めての閣議があったということですが、安倍新総理の方から教育行政に対する期待や具体的な指示のようなものはありましたでしょうか。

大臣)
 なかなか用意周到で、きちっとした紙を作ってお願いしますといって渡されました。家族、地域、国を大事にする、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成に向け、教育再生のための改革を最優先課題として取り組んで欲しい。そのためにはまず、継続審議となっている教育基本法案を成立させてくださいと書かれていました。それから公教育の再生をやって欲しい、国立大学を含む高等教育機関の活性化をさらに進めて欲しい、また再チャレンジをするための学び直しを推進して欲しいとありました。学び直しというのは生涯教育のようなこと、或いは職業訓練的なものも含めて推進して欲しいということです。それからイノベーション創出のために科学技術において従来の枠組みにとらわれずに、集中の徹底と産学官の連携を進めて欲しい、そして東京都をはじめ関係機関と協力してオリンピックが東京で開催できるように努力をしてください、ということが書いてありました。

記者)
 安倍総理のお書きになっている本の中でも、バウチャー制度の導入であるとか教員免許を更新制にするということをおっしゃっていますが、このようなお考えについて、大臣はどのようにお考えでしょうか。

大臣)
 私立学校にももちろん私学助成が入っているわけですから、日本の教育は国民の血税によって賄われていることは確かです。これが最大限の効果を挙げなければ納税者に対して申し訳ないということは言を俟つまでもないでしょう。従って立派な人材を作るために、教師としての指導力、適格性、知識が時代とともに変わってくることについて、その能力の革新が出来ているかどうかというチェックは、やはり私はやらなければいけないのではないかと思います。
 それからバウチャー制度については、これは小泉改革にずっと付きまとっている批判ですが、アダム・スミスが、自由競争原理は見えざる手に導かれて一番良い状態になるということを言っており、同時に倫理観なき人に動かされる競争社会ほど醜悪なものはないという趣旨のことも言っているわけです。競争原理というのはこれしかない制度なんだけれども、欠点がある。
 ですから、バウチャー制度のようなものを導入する場合には、皆が平等に教育を受けられるという憲法に書いてある権利がどこまで守れるかということとのバランスで考えなければいけません。公平だけを旨とするととかく非効率になって結果的に不公平になるということもある。だから、バウチャー制度というのは考え方としては私はだめだという筋合いのものではないと思いますけれど、やはり少し慎重に教育機会の平等なども含めて考えていったらどうでしょうか。

記者)
 靖国神社の参拝に関して、大臣自身のお考えをお伺いします。

大臣)
 先の戦争については皆さんご承知のとおり、サンフランシスコ平和条約、あるいは中国との間では日中共同声明とそれを受けての日中平和友好条約、韓国との間では日韓基本条約で、法律的な戦争状態は終結しているわけです。日本国民も300万の人が死んでいるし、原爆も落ちた。しかし日本が各国の主権のある領土に足を踏み入れて、大変な迷惑をかけたというその結果責任については、やはり日本人は日本人として自覚をしておかなければならない。その戦争の結果責任は誰が負うのかというと、現実的にはA級戦犯の人に負ってもらい、そのジャッジメントをサンフランシスコ平和条約の中で受け入れることによって、日本は国際社会に復帰したわけです。
 国の命令で命を落とした人に鎮魂の誠をささげているのか、A級戦犯をお参りしたのか、それはじつは参る人の心の中にある問題なんです。国家の責任のある立場にある場合には、単なる心の問題以外に、広く外交やトータルの国益を考えて行動をしなければならないということだと思います。ですから、私がお参りするかどうかは私が判断しなければならないことですが、その時々のトータルな国益を考えて判断するということです。
 たぶん今、外務省を中心にして、いろいろな水面下の調整が行われているのではないかと思いますが、中国、韓国と首脳会談ができないということは、近隣諸国として非常に異常だというのはそのとおりだと思います。だからといって私が、あるいは総理が、靖国神社に行かないと今の時点で言ってしまうと、他国が要求したら主権の範囲内の日本のことを、他国の意向で決めたということになるわけです。これは分かりやすく言えば、「ブッシュ大統領と会いたければBSEの牛肉を輸入しろ」と言われたら、「分かりました」と言うのと、よく似たことになるのです。ですから、主権国家として日本が日本の判断をする状況を中韓両国が作れるように、話し合いを日中、日韓の間でしっかりと進めて、土俵作りが出来上がった上で、判断していくということだと思いますね。

記者)
 国立の追悼施設の建設ということも言われています。宗教行政の責任者でもあるわけですが、そのお立場からのお考えをお願いします。

大臣)
 宗教行政というか、宗教法人をお預かりしているということについては、文部科学省として確かなことですが、同時に憲法上の規定がありますから、信仰の内容あるいは宗教に対して、特別の恩典や制限を加えるということはできないですね。ですから、政府はもちろんのこと、議院内閣制において政府を構成している与党も、靖国神社をどうこうするということについての発言には、極めて慎重でなければならないと思います。
 今おっしゃった追悼施設は非宗教のものですから、これについては政府が関与できるということで、それを作って、隣国との間に摩擦が生じないような形で色々な人たちが参拝でき、特に外国の要人が来たときにも参拝できる施設にしようという意図が、議論の根底にはあるでしょう。これはひとつの考え方だと思いますが、その施設ができたときに、まさに心の問題ですが、その施設について、日本の多くの方が今追悼の中心である靖国神社に持っているような気持ちを持たれるかどうかということが、最大の問題でしょう。ですから国民の気持ち、国民の意見など、多様なものにもう少し慎重に当たりながら、議論をしていくことです。早急に結論は出せないから、政府もこの議論を毎年毎年重ねているということだと思います。

記者)
 教育基本法の改正案について、成立時期などを含めてどのような考えをお持ちでしょうか。

大臣)
 教育基本法自体は立派な法律だと思います。しかしこれはアメリカに持っていっても立派だし、ヨーロッパに持っていっても立派な法律なのです。やはり日本という国には日本の文化があり、伝統があり、総理の言葉の中にもあったように、祖先が試行錯誤の中で積み上げてきた社会の規範があります。例えば、人様の世話になることは恥ずかしいことだ、しかし困った人はみんなで助けていく。儲けなければならないけれども、仕入先をいじめて儲けるということはしてはいけない。お得意様に不義理をして儲けるようなことをしてはいけない。古い商家には皆、家訓、家憲というものがあります。これをマスターしていれば、ヒルズ族がああいう事件は起こすということはなかったと思うのです。
 日本は宗教的には非常にゆるやかな国ですから、教会で結婚式をして、子どもが生まれたら神社に七五三のお参りに行き、死ぬときはお寺でお葬式をするという国です。これは日本の、ある意味では宗教的対立が比較的少なかったという歴史の積み重ねのようなものだと思いますが、それであるのになぜ日本人がこれほど勤勉で礼儀正しく、思いやりがある国民なのか、これが外国人にはなかなか分からないのです。
 お札に出てくる新渡戸稲造さんという人が結婚したのはご承知のようにアメリカ人です。その奥さんの、宗教が薄い日本でなぜ日本人はこんなに規律正しくきちっとした日々が送れるのか、という疑問に答えようと思って、新渡戸稲造が英語で書いてあげたのが「武士道」という本です。武士は武士道、商人は商人道、これを日本人が持っていたから、例えば信長の時代に来たスペインの宣教師が母国へ送った手紙によると、自分が会ったどの民族よりも、日本は優しく友好的な民族で、町はどの国の町よりもきれいだ、と書いているのです。
 こういうものがやはり現行の教育基本法の中には薄いのではないでしょうか。そういうものを加えて改正法案を出しています。安倍総理の言っている「美しい国」は、美しい人間がなければできないわけですから、できるだけ早く教育基本法案を成立させる、ということです。前の通常国会で50時間審議しています。普通この程度のボリュームの法案であれば、だいたい70時間から80時間も審議すれば十分です。ですから早く国会の審議をお願いして、改正法案を通す、ということだと思います。
 しかしこれは、法案を通しても仏様を作っただけで、魂が入っていないわけだから、この法律を実効あるものにしていくために、教育の現場を含めた制度改革に手を付けていく、ということじゃないでしょうか。

記者)
 国旗・国歌に関してお伺いします。先般、東京地裁が東京都に対して違憲判決をくだしたということもありましたが、大臣は国旗・国歌の学校での在り方についてどのようにお考えでしょうか。

大臣)
 国旗・国歌法という法律はご承知のように既に国会を通っているわけです。それに従って教育委員会が現場に出している通達について、法律に反するという判決だったと思いますが、そうじゃない判決というのもある。
 裁判というのは日本の国家統治の仕組みとして、最終的に裁判で決めたことを正しいとすると決めて、憲法上国の秩序は成り立っているわけです。しかし実は裁判は最大の裁量行為をしているわけで、一方に現実があり、一方に法律があり、裁判官の人生観・価値観によって現実と法律との間の結びつきをどう解釈するかということを行っているわけです。だから裁判官によって一審有罪、二審無罪、最高裁でまた有罪ということがけっこう起こるわけです。
 私自身の判断としては、教育委員会のそのような指導は法律に反するものではないという判決もあるわけですから、東京都が控訴するのは当然だと思います。

記者)
 学力低下が指摘されていますが、学力の向上に向けて具体的にどのような取組をお考えになっていますでしょうか。

大臣)
 バウチャー制度であるとか、あるいは教員免許の更新制だとか、そういうことが言われているわけですが同時に、ゆとり教育というものが現場でどのように運用されているのかが重要です。ゆとり教育というのはあまり評判が良くないと言われていますが、本来の趣旨は、必要なことはきちっと教えて、そしてその中で、教わったことを現実に適用していくために、少し皆でゆとりを持って考えていこうという発想から出ていたのではないかと思います。ところが基本的なことを教えずに、何か考えてみろとかいうことになってくると、やっぱり基礎学力が落ちてくる。
 もちろん法律の整備も大切なんだけれども、最後はやはり人間なんです。安倍総理が言っているのはまさにそういうことです。だから教師の在り方や、色々な局面で一度社会に出てももう一度教育が受けられるような仕組みなど、色々なものを総合的に考えていく、ということでしょう。

記者)
 大学・短大への全入時代が近くやってくるといわれていますが、今後の高等教育についてどのようにお考えでしょうか。

大臣)
 少子化時代になって、大学も経営の問題もありますから人をできるだけ入れたいということもあるでしょう。しかし、国公私立を含めて大学の評価もきっちりやるということです。入るのはいいけれども、きっちりした学力がないと出られないということは、はっきりしておかないといけない。安易に学士号を商売の種にするような学校が出てこないようにしておかないといけない。

記者)
 安倍首相が、首相直属の教育再生会議というものを作って、教育改革を強力かつスピーディーに進めるとおっしゃっています。今後、中央教育審議会で決めることと教育再生会議で決めることが対立・衝突する場面が出てくるのではないかと思われますが、こういったとき大臣はどのような姿勢で対応されるのでしょうか。

大臣)
 衝突をするようなことが出てこないようにする姿勢で臨むということでしょうね。先ほど安倍総理と少し立ち話で話しましたが、今ご質問があったような内閣直属の機関を作りたいということです。教育を扱っている省庁は文部科学省以外にもあるわけです。職業訓練だとか色々なものがありますからね。そういうものを含め、経済財政諮問会議が大きな枠組みを創り、それに従って財務省や経産省がその他の行政をやってきたようなやり方でやろうじゃないかということを、安倍総理とは話してきました。
 そして中央教育審議会は小学校から大学まで、スポーツも含めてやっている。だから政治的に何をすべきという大きな枠組みを作っていただいて、それを中央教育審議会でこなしていくということでしょうか。山谷えり子さんが担当の首相補佐官になりましたから、一度こちらに来てもらって事務局ともよく意見交換したら良いのではないですか。

記者)
 官邸での会見を見させていただきましたが、あまり科学技術の話がなかったようです。科学技術にはご興味が無いんでしょうか。

大臣)
 いや、ご質問がなかったからお答えしなかったのですけど。

記者)
 では、改めて科学技術の政策についてお話を聞かせてください。

大臣)
 1番最初の私の抱負の中で申し上げたとおり、成長の源というのはやはりイノベーションです。新たな技術ですね。科学技術について、やはり研究を潤沢に、そして多様に進めていくことが必要です。文部科学省は大学を所管していて基礎的な研究は行われており、産官学の連携で最終的には経済産業省に渡していく、その中間的なところを担っているのではないかと思います。基礎研究、それから中間的な研究開発機関、こういうものをどうすれば効率的に最小限の国民の税金でやっていけるかということを考えていくことが一番の大切な視点だと思います。

記者)
 先ほどからお話を伺っていて、文教委員会委員長をやられたことはあるけれども文教行政全般に対しては、それほど詳しいということではないと思います。総理から文部科学大臣をやって欲しいと言われ、率直にどのように思われましたでしょうか。

大臣)
 これは大臣として話すことではないのですが、志帥会伊吹派の政策提言があるんです。その政策提言を安倍総理は自分の考えとほぼ同じだと認めたわけです。ですから、我々のグループは総裁選で安倍さんを応援しようと決めた。その政策提言の中で書いてあることは、小泉改革は客観的に言うと何だろうということで、それは、国があらゆることに口を出しながら動かしてきた国家管理の自由競争をする社会を、民間主導の自由競争をする社会に切り替えるという作業だったのだと思います。
 やはりあれだけの経済停滞と不良債権の中では、そこから抜け出すためには止むを得ざる、言うなれば抗ガン剤のようなものが必要だったのですよね。事実、日本経済はよみがえって不良債権はずっと少なくなってきた。ただし、抗ガン剤というものには副作用がある。その副作用、毛が抜けるとか吐き気がするというのは何だろうというと、勝った者、負けた者が出てきて格差が起こるとか、そういったことがよく言われるわけです。
 その副作用を抑えていく処方としては政治のイズムからいうと2つのイズムがあって、ひとつは、資本主義競争社会というのは間違えるものだから、政府が色々と介入してそれを直してあげるよということ。これはどちらかというと日本がずっとやってきて、行き詰ってきたことです。嫌な言葉で言うと政官財の癒着という現象が現れてきて、資源が非常に非効率に使われていた。
 一方、社会の持っている伝統的な社会規範や人間力、例えばお金を儲けなくちゃいけないけれども恥ずかしいことをして儲けてはいけないとか、儲けたお金は贅沢のために使わずに公のために使うとか、そういうものが日本社会では非常に希薄になってきている。
 こうしたことに手をつけていかないと、小泉改革というのは副作用が多すぎて大変苦しくなってくるという趣旨のことを、政策提言に書いているわけです。これは、安倍総理の言っている教育改革の原点とよく似たものだと思います。だから、それで私に文部科学大臣を頼んできたのかなと思いました。

記者)
 先程の格差の関連ですが、やはり地方分権の流れの中で国が義務教育費国庫負担金を2分の1から3分の1にしました。それに伴って、まだ現象としては出ていませんが、やはり地域、つまり都市部と地方との格差が教育の現場でも出てくると予想されます。これについて大臣はどのように考えているのでしょうか。

大臣)
 義務教育費国庫負担金、これは補助金ではないんですね。国庫負担金です。だから憲法の規定を考えたときに、ああいう削減の仕方をしたことが良かったかどうかは、私は個人的には色々意見があります。しかし現実にそういうことになってきているわけです。
 結局地方自治体がまず地域住民の気持ちを忖度して、何を優先的にやるかということを決める、やはりこれがまさに地方自治の原点です。そして、大切なことをやれる首長を選び、その自治体の議員を選ぶという意識が、まず地域住民になければいけないですね。地方自治体の財政の現状から見て、それはもう必要最小限のことをやっても税源が足りない、交付税措置をしても追いつかないという状態になったときには、放置できないでしょう。でもそういうことではなくて、他のことには潤沢にお金を使ったり、公務員の人件費をどんどん上げたりしておいて、教育のためのお金が足りないと言われるのも困ります。だからやはりこれも、個々の自治体、最後はその有権者の人間力にかかっていることだと思います。

記者)
 総理が提唱されている教育改革のひとつに、大学の9月入学がありますが、これも色々と聞いてみますとちょっと難しいのではないかとの意見が多い気がします。大臣は9月入学は実現すると考えられますか。

大臣)
 これは日本の色々な大学以外の制度、仕組みとの整合性で、9月から入学をするということは良いのかどうか、やはりよく考えてみないといけないと思います。例えば4月入学、2、3月に入試をして4月から大学が始まるとします。4、5、6、7月でもう夏休みになってしまうわけですね。だから4月に入学するけれども、この3ヵ月半の間は何かボランティア活動だとか色々なことをして、実際の授業は9月から始めるとか、色々なフォーメーションがあると思います。9月からぽんと新学期を始めるというやり方もあるし、それは難しいから従来どおり4月に入学という考え方もある。先ほど言ったような考え方もある。これはいくら良いことを言ったとしても、実社会、他の色々な仕組みと合わなければしかたないですから、その辺りは少し勉強させてもらいたいと思います。

記者)
 総理から具体的な指示の紙をもらったとのことですが、項目としては何項目あったのでしょうか。9月入学などについても書かれているのですか。

大臣)
 個別の細かなことは書いてありません。私が先ほど読み上げたとおり、家族、地域、国を大事にする、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成に向け、教育再生のための改革を最優先課題として取り組んで下さいということです。具体的にはまず教育基本法改正案の成立に全力で取り組んでほしい、ということです。仏を作ってくださいということですね。その後魂を入れる教育改革をやって下さいということ。それから高等教育機関を活性化してほしい、学び直しができるようにしてほしい、イノベーション創出のために科学技術において従来の枠組みにとらわれずにやってみて欲しい、ということ。そしてオリンピックの招致と、そのようなことです。

記者)
 中央教育審議会で学習指導要領の改訂作業をしていると思いますが、小学校の英語を必修化するという方針が出ていたり、国語教育を充実するとか授業時間を増やすという話も出ています。学習指導要領改訂にあたって大臣が取り組みたいことはどういうことですか。

大臣)
 まずは教育基本法案を通す。通せばその教育基本法に従った学習指導要領を作らなければなりません。これはまさに魂を入れるということだと思います。英語を教えることもこれは国際社会で必要なことかもしれないけれど、まず日本人としてしっかりした日本語を話せなければいけない。大切なことは何か、メリハリをつけていくということではないでしょうか。
 またお話しする機会はたくさんあると思いますから、どうぞよろしくお願いします。

(了)

(大臣官房総務課広報室)

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