スポーツ振興基本計画 2スポーツ振興施策の展開方策 1スポーツの振興を通じた子どもの体力の向上方策 A

2 スポーツ振興施策の展開方策

1.スポーツの振興を通じた子どもの体力の向上方策

政策目標: 人間が発達・成長し、創造的な活動を行っていくために必要不可欠なものであり、「人間力」の重要な要素である子どもの体力について、スポーツの振興を通じ、その低下傾向に歯止めをかけ、上昇傾向に転ずることを目指す。

A.政策目標達成のため必要不可欠である施策

 文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」によると、我が国の子どもの体力は、昭和60年頃から長期的に低下傾向にあるとともに、体力が高い子どもと低い子どもの格差が広がっている。
 子どもの体力の低下は、将来的に国民全体の体力の低下につながり、生活習慣病の増加やストレスに対する抵抗力の低下など健康に不安を抱える人々が増え、ひいては社会全体の活力が失われる事態が危惧される。
 子どもの体力の低下の原因は、外遊びやスポーツの重要性の軽視など国民の意識の問題、都市化・生活の利便化等の生活環境の変化、睡眠や食生活等の子どもの生活習慣の乱れといった様々な要因が絡み合い、結果として子どもが体を動かす機会が減少しているという点が指摘されている。
 このような状況を改善するため、家庭、学校、地域が連携して、子どもが積極的に外遊びやスポーツに親しむ習慣や意欲を培うことにより、子どもの体力の低下傾向に歯止めをかけ、上昇傾向に転ずることを目指す。

(1) 子どもの体力向上国民運動の展開 -家庭へのアプローチ-
 
1 到達目標
   保護者をはじめとした国民全体が、子どもの体力の重要性について正しい認識を持つよう、国民運動を展開し、国民意識の喚起を行う。

2 現状と課題
   子どもの体力の低下の原因は、体を動かす量が減少したことによるものと考えられるが、その背景には、国民の子どもの体力に対する意識の問題があると指摘されている。
 保護者をはじめとした国民意識の中で、体や精神を鍛え、思いやりの心や規範意識を育てる効果のある外遊びやスポーツの重要性を、学力に比べ軽視する傾向が進んだという指摘もある。また、子どもの体力の低下とその及ぼす影響に対する認識が十分ではない。このようなことから、子どもに積極的に外遊びやスポーツをさせなくなり、体を動かすことが減少したと考えられる。
 このため、保護者をはじめとした国民全体が、子どもの体力の重要性について正しい認識を持つよう、国民の意識の一層の喚起を行うことが求められている。あわせて、子どもの体力の向上を科学的見地から効果的・合理的に行うためのプログラムづくりや、子ども自らが積極的に体を動かそうとする意欲を起こすことができるような取組も必要となっている。

3 今後の具体的施策展開
   保護者をはじめとした国民全体が、子どもの体力の重要性について正しい認識を持つよう、以下のような施策をはじめとした国民運動を展開する。
 国民に、子どもの体力低下の問題や体力の重要性、外遊びやスポーツの重要性について理解を促し、家庭、学校、地域において、子どもの体力の向上を目指した取組がなされるよう、学識経験者、民間団体、マスコミなど関係団体等とともに全国民にアピールする取組を実施する。その際、国と地方公共団体等の一層の連携を図るため、推進体制の強化を図る。
 また、新体力テストを活用し、子どもが進んで体を動かすことの励みとなる取組を促進する。
 さらに、大学や研究機関等における研究成果や「体力・運動能力調査」の結果の普及啓発を図るとともに、運動科学や発育発達学等の知見も取り入れつつ、子どもの発達段階に応じた合理的・効率的な体力向上プログラムの開発を行う。
 加えて、全国学力・学習状況調査の中で、都道府県別の子どもの体力の状況等も公表することにより、各学校における指導の改善を図るとともに、各地域における子どものスポーツ活動の充実に向けた取組を促す。

(2) 子どもを惹きつけるスポーツ環境の充実 -学校と地域の連携-
 
1 到達目標
   学校と地域が連携して、子どもの学校内外のスポーツ環境を充実する。

2 現状と課題
  (学校や地域における実践的取組の必要性)
 子ども自身が体を動かすことの楽しさを発見し、進んで体を動かすようになるためには、学校内外のスポーツ活動を充実していくことが重要である。
 学校は、子どもに体を動かす楽しさを感じさせ、運動を好きにさせたり、運動の機会を定期的に提供するなど、子どもの体力の向上のために重要な役割を担っており、体育の授業だけでなく、特別活動、総合的な学習の時間、運動部活動等、学校教育活動全体を通じて、その向上を図ることが課題となっている。
 しかし、運動部活動においては、少子化等による参加者数の減少により、団体競技を中心として継続が困難となる場合が増加している。一方で、子どもを取り巻く地域のスポーツ環境は、生涯スポーツ振興の主柱となる総合型地域スポーツクラブが全国で育成されることにより、今後、格段に充実していくと考えられる。また、スポーツによる青少年の健全育成を目的として、スポーツ少年団が全国的に組織化されており、地域において活動している。このような中、学校は、完全週5日制の趣旨も踏まえ、家庭や地域の人々とともに子どもを育てていくという視点に立ち、学校と総合型地域スポーツクラブ等の一層の連携や学校体育施設の地域との共同利用の一層の推進等を通じ、子どもにスポーツ活動の機会を積極的に提供することが求められている。
 これまでも、学校を含む地域社会全体で、子どものスポーツ環境の充実に取り組むとともに、運動習慣や正しい生活習慣を身に付けさせ、あわせて子どもの体力に対する大人の意識改善に取り組む実践的研究が実施されており、多くの成果が得られている。今後は、これらの先進的な取組を全国に向けて効果的に普及展開していくことが課題となっている。

(学校と地域で活躍できる指導者の必要性)
 子どもが体を動かすことを好きになるためには、発達段階や性別の違い等に応じて指導し、スポーツの楽しさを感じさせることができる指導者の存在が不可欠である。
 しかしながら、指導の過程で、発育発達に対する配慮を欠いたり、あまりに早期に特定の種目へ専門化してしまうなどの問題も指摘されている。財団法人日本体育協会(以下「日体協」という。)を中心としたスポーツ団体等においては、子どものスポーツ活動についての指導者養成事業が行われるなど、関係者の熱心な取組が進められているが、一人一人の能力・適性を伸ばしていく視点に立って指導を行うことができる指導者はまだ少ない状況にある。
 このような中、子どもが発達段階に応じて多様な指導を受けることができるよう、学校の体育の授業や運動部活動等に地域のスポーツ指導者を活用することが課題となっているが、地域のスポーツ指導者を学校において活用することについて関係者に不安があったり、理解が不十分であったりすること、地域によってはスポーツ指導者を派遣するシステムが整備されていないこと、スポーツ指導者が安心して協力できる条件が整備されていないこと等から、地域のスポーツ指導者の協力を十分に得ているとは言えないのが現状である。

3 今後の具体的施策展開
 
1) 現場における実践的取組の強化
   児童生徒の体を動かす場や機会をできる限り多く確保する観点から、体育の授業だけでなく、特別活動、総合的な学習の時間、運動部活動など学校教育活動全体を通じて、豊かなスポーツライフの基礎を培うとともに体力の向上を図ることについて、各学校の取組を促し、あわせて児童生徒が興味・関心に応じて、多様なスポーツに取り組めるよう、小学校をはじめとした総合運動部活動の実施等の環境づくりの推進を図る。その際、児童生徒が体を動かすことを楽しみ、スポーツや体力向上に自ら積極的に取り組むようになることに留意しつつ、始業前や休み時間を活用するなどの工夫が期待される。
 また、運動部活動を総合型地域スポーツクラブ等の地域のスポーツ活動と連携して実施できるよう、教職員と地域住民との協議の場を設けるなどの連携体制の工夫に努めたり、運動部活動と地域スポーツクラブに児童生徒が同時に所属することを柔軟に認めたりするとともに、学校体育施設の地域との共同利用や運動部活動等における地域のスポーツ施設の活用に一層取り組むことを促進する。なお、学校体育団体においては、学校内外を通じたスポーツ活動の充実の観点から、総合型地域スポーツクラブへの協力が期待される。
 さらに、これまでの実践研究等で得られた成果を活用し、各実践研究地域を拠点として、先進的な取組等について普及啓発するとともに、幼児を対象とした体力向上に資する取組を普及するための実践的な調査研究を行う。

2) 学校と地域で活躍できる指導者の養成・確保
   子どもが、発達段階に応じて多様な指導を受けることができるよう、次の事項に配慮しながら、総合型地域スポーツクラブ等との連携を図ることについて、各学校の取組を促す。

 地域のスポーツ環境の状況や学校の実態に応じて、体育の授業において総合型地域スポーツクラブ等に所属する指導者、教員養成系及び体育系大学の学生等の地域のスポーツ指導者を教員の補助者や特別非常勤講師として活用すること。
 地域のスポーツ指導者を活用する際に、地方公共団体が設置しているスポーツリーダーバンク等の一層の活用に努めること。その際、地方公共団体・スポーツ団体・学校等の関係者による話し合いの場を確保し、地域のスポーツ指導者の活用を促進することが期待される。
 地域社会の一員としての教職員のボランティア活動の意義について教職員間で共通理解を図り、総合型地域スポーツクラブ等における地域のスポーツ活動に協力するよう努めること。

 また、地方公共団体や日体協、財団法人日本レクリエーション協会(以下「日レク協」という。)等においては、各主体が実施する講習会やスポーツ指導者養成事業について、受講者が参加しやすいよう配慮しつつ、子どもの発達段階に応じて多様な指導を行うことができるスポーツ指導者の養成、資質の向上に取り組むことが期待される。その際、女子のスポーツ参加を促進するために、その指導の在り方について十分理解がなされるよう工夫が求められるとともに、女性のスポーツ指導者の養成、資質の向上にも一層取り組むことが求められる。なお、特に地方公共団体においては、学校における地域のスポーツ指導者の活用を一層推進するため、スポーツ指導者に対する学校での指導における配慮事項やスポーツ傷害の予防等に関する研修の機会の提供や学校関係者に対する啓発を行うとともに、スポーツ指導者が安心して協力できるよう、事故発生時の補償の充実等の環境整備が期待される。
 さらに、体育指導委員においては、地域における子どものスポーツ環境を充実する観点から、学校と総合型地域スポーツクラブ等との連携について協力することが求められる。

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スポーツ・青少年局企画・体育課

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