県図書館協会による職員研修とその認定・登録制度(長野県図書館協会)

県図書館協会による職員研修とその認定・登録制度 -長野県図書館協会の新たな試み-
長野県図書館協会 常務理事 宮下 明彦

1.長野県図書館協会の沿革とその刷新

  ア 沿革

 長野県図書館協会は、図書館法の成立を機に、長野県内の公共図書館、学校図書館、公民館図書室等が一体となり、連絡提携を図り、図書館活動の主体となることを目的として、1950年12月に設立された。当初から公共図書館と学校図書館がその母体であり、学社一体の全県的な図書館協会が誕生したのである。
 数年の内に全県下に支部組織が設立され、学校図書館法が成立すると更に内容を充実した。1955年代後半に公共図書館部会、小中学校図書館部会が設置され、PTA母親文庫活動と相まって事業・活動が本格化した。1975年代後半、会則の一部を改正し、高校、大学も参加し研究会が発足した。この間協会としては毎年県図書館大会を開催し、各部会においてもそれぞれ独自の事業、活動を行っている。しかし、設立から55年、協会は次第にその活力を失い会員から遠い存在になっていた。一方、県下の図書館振興、発展のために協会の果たすべき役割は益々強く求められている。

  イ 現状認識と刷新の方向

 いま図書館は大きな転換の渦中にある。生涯学習社会が進展し市民の学習意欲は高まっている。生涯学習の拠点施設である図書館の役割はますます大きくなっている。子どもの読書・活字離れが深刻化している。子どもの読書活動推進法が制定され、国・自治体あげて子どもの読書を活発化させようとしている。本の文化を根付かせ、ことばの文化を取り戻さなければならない。
 社会の情報化・デジタル化が急速に進みその波は図書館にも押し寄せており、図書館のハイブリッド化、職員の技能向上が焦眉の急となっている。最近は、仕事や暮らしに役立つ図書館を目指して、成人に対する図書館サービスの充実、ビジネス支援図書館という新たな潮流に取り組むことが求められている。学校への公共図書館の支援、ネットワークが次第に広がっている。学校には、司書教諭が配置されたが理想と実態は大きくかけ離れている。学校司書の配置は自治体によりまちまちで、専任化、身分保障がなく、学校図書館の活性化を阻害する大きな要因になっている。また、公共図書館においては、館長の有資格者はごく僅かで、在任期間が非常に短くなっている。更に、職員の嘱託化、臨時職員化が進行している。
 一方、市民の図書館への参画意欲は高く、NPO法、自治法の一部改正が後押しとなって市民協働、委託による図書館運営も出現している。また、図書館設置への市民要望は高く、毎年新しい図書館が建設されているが、建設における専門的な支援、アドバイスやノウハウの蓄積が強く望まれている。
 このような長野県図書館協会の沿革を振り返り、問題点と現状を踏まえ、時代の方向性を見据え、新たな長野県図書館協会を創造しなければならない。そのために、市民・個人会員をベースとした活力溢れる組織、活動に再生させ、協会を基盤とした事業を実施し、図書館づくりを更に推進しようとしている。

2.新長野県図書館協会の発足

  ア 長野県図書館協会在り方検討委員会の設置

 協会の中心的勢力である公共図書館部会及び小中学校部会の正副部会長及び協会長、理事長・常務理事を以って、在り方検討委員会を2004年8月に設置、検討を重ねてきた。

  イ 検討の経過と合意形成

 2004年8月から翌年6月にかけて在り方検討委員会を8回開催。その後、県下公共図書館長会議、小中学校支部代表者会議、大学・高校関係団体懇談会等の場で新長野県図書館協会の構想案を説明し2005年夏までに関係者の理解、合意を図ってきた。

  ウ 新長野県図書館協会の発足

 上記検討経過と合意形成を踏まえ、2005年8月1日に県立長野図書館において設立総会を開催し新長野県図書館協会が発足した。総会は、旧会則の改正の手続きに則り行われ、新会則、事業計画、役員等を決定した。

総会での質疑の主な点は次の通り

Q 個人会員制度について
A 新しい長野県図書館協会の組織上の基盤になるもので、図書館職員、学校教職員、図書館に関心を持つ市民をはじめ、広く県民に呼びかけて県民を基盤とした組織づくりをする。入会申し込みと年会費3千円を納めると会員に登録され、会員証が交付される。会員になると図書館専門研修や市民講座の受講料が割引される特典があるほか、総会に出席でき、各種協会事業への案内、情報提供が受けられる。

Q 認定・登録制度とは
A 現在、公共図書館や学校図書館、大学図書館等で働いている者、学生を含めこれから図書館で働きたいと考えている者、或いは図書館について体系的に学習したいと思っている者などを対象に図書館専門研修(経営研修・図書館職員ステップアップ研修・デジタルライブラリアン養成講座・学校司書研修・司書教諭研修・読書活動ボランティア研修)を開催している。
 これらの研修事業のコース修了者で一定の条件を満たす者に対して、認定・審査委員会の審査を経て長野県図書館協会として専門的職員として登録、認定するとともに、県下の図書館で働きたい、活動したいという希望者には情報提供、紹介等をとおして就労支援を行う。

Q 協会が図書館業務を受託することについて
A 2003年の地方自治法の一部改正により、指定管理者制度が登場した。これまでのように公務員が独占的に図書館を管理運営するのでなく、NPO法人や民間の営利事業会社も図書館の管理運営に参画できるという時代が始まっている。現在、県下でも図書館業務への指定管理者制度導入を検討している自治体は多い。

 このような状況の中、県民参加により刷新を図る協会が中心となり、臨時職員・嘱託職員等の図書館職員の待遇改善を図り、認定・登録制度により専門的職員集団を形成し、その力で既存図書館の業務の高度化を図るとともに、図書館未設置町村を支援することが重要である。そのために、図書館業務の受託を協会事業の一つに位置付けている。

3.新長野県図書館協会の概要と事業骨子

  ア 組織の概要

1 従来の公共図書館、学校図書館、大学図書館及び読書団体等の施設会員を維持しながら、新たに図書館職員、学校教職員、図書館に関心を持つ市民・団体はじめ、広く県民に呼びかけて市民、個人会員をベースとした組織に再編する。
2 会員は個人会員・施設会員・賛助会員制とし、数年のうちには個人・施設会員合わせて、1,000名規模を目指す。個人会員の年会費は3千円で、会員は各種研修や学習文化事業等に参加の際は、受講料・入場料等の割引の特典を受けることができる。
3 各部会の他に研修委員会、認定・審査委員会、広報・出版委員会、専門委員会等を設置し委員会活動を充実させる。なお、各地の支部組織は従前どおりとする。
4 事業の審議、執行体制として理事会、常務理事会、事務局を設けるとともに、県立長野図書館企画協力課と協働して業務の執行に当る。事務所を県立長野図書館内に設置する。
5 組織の在り方を任意団体からNPO団体として法人化を検討する。

  イ 事業全体の骨子

(1) 図書館専門研修
  職員専門研修を体系的、継続的に行い、職員のスキルアップ、レベルアップを図る。
1 主に図書館長や係長を対象とした図書館経営研修
2 図書館職員ステップアップ研修
3 デジタルライブラリアン養成セミナー(文部科学省委嘱事業との共催)
4 学校司書研修  5司書教諭研修  6読書活動ボランティア養成講座
(2) 認定・登録制度
(3) 図書館業務の受託
(4) 広報・出版事業
(5) 図書館市民講座並びに講演会等の開催、その他文化事業
市民、県民の生涯学習、文化事業の要求に応える。
(6) 各部門の専門家集団を形成し、図書館建設に必要な各種コンサルティング、支援事業を行う。
(7) 読書活動の推進

4.2005年度の事業の実施状況及び図書館職員ステップアップ研修計画

  ア 図書館経営研修の実施状況

 2005年7月から12月にかけて、県下の図書館等4会場において主に館長・係長等を対象に毎月シリーズで6回開催。受講料500円毎回、全2,500円。それぞれのテーマは、第1回図書館長論、第2回図書館の基礎知識、第3回図書館の基礎知識、第4回図書館サービス、第5回図書館経営、第6回情報化とネットワーク。延べ参加者数153名。館長の出席者は約3割であったが、全課程を修了した修了者15名であった。

  イ デジタルライブラリアン養成セミナーの実施状況

 上田情報ライブラリーの文部科学省委嘱事業との共催事業。2005年9月3日連続で開催。第1回情報検索・情報資源の使い方、第2回検索ナビゲータの実践・インターネットの可能性とレファレンス、第3回インターネットの可能性とレファレンス。延べ参加者数95名

  ウ 学校司書・司書教諭研修

 2006年1月、県立長野図書館において県下の学校司書、司書教諭対象の講座。受講料1,000円毎回、内容1学校図書館から教育を変える2司書教諭あなた出番です等、参加者数約100名

  エ 読書活動ボランティア養成講座計画

 2006年1月から3月にかけて、県下4会場において計画。受講料1,000円毎

 参加希望者約170名

子供たちへの本の読み聞かせ
写真1

  オ 図書館職員ステップアップ研修計画

 2006年1月から12月にかけて毎月開催し、県下各地の図書館を会場にして行う目玉の研修。受講料1,500円毎回、全12,000円。それぞれのテーマは、第1回ビジネス・生活支援と情報源の活用、第2回成人サービスと図書館の可能性、第3回関係法令・基準等、第4回図書館経営と指定管理者制度、第5回図書館資料・地域資料・行政資料、第6回相互貸借と複写依頼、著作権、第7回市民参加と図書館づくり、第8回レファレンス講習その1、第9回レファレンス講習その2、第10回児童サービスとブックスタート、第11回図書館サービス計画とその評価

  カ 図書館専門研修の特色と認定・登録制度について

 新長野県図書館協会の主要事業として始めた図書館専門研修は、上述のように5つの専門研修から構成されており、従来の単発型の研修を脱して、年間計画による体系的、継続的な研修であることを大きな特色とする。専門的な内容であると共に、スキルアップを目指し、毎回、グループ討議を含む参加型、実践的研修である。また、県下各地の図書館を会場としそこの図書館見学も兼ねている。今後、事前課題や評価制のものも検討する。
 研修修了者には修了証を交付するとともに、修了証取得が認定・登録制度の対象者の条件、前提となるものであり、この専門研修と1級ライセンスとして認定する認定・登録制度とは一体のものである。所要経費は受講料収入だけでは賄いきれず今後の経営の大きな課題である。なお、協会会員の受講料は一般の半額又は三分の一負担で済む特典が与えられている。

5.今後の展望

  ア 認定・登録制度

 新図書館協会の目玉ともいえる新制度は職員の認定・登録制度である。この趣旨は上述のとおりであるが、評価の統一基準を設け、職員の技能の向上、レベルアップを図ると共に、登録者に対して働きたいと希望する図書館等に紹介し、情報提供を行っていく。そのために認定・審査委員会を06年度中に立ち上げ、研修修了者の中から認定登録者を誕生させ、専門的職集団の形成を目指す。

  イ 図書館業務の受託

 協会が受け皿となって図書館業務の受託を打ち出しているが、これは図書館運営における指定管理者制度の登場という新たな時代に対応するものであり、図書館未設置町村に対する支援策であり、既存図書館の業務の高度化を図り長野県の図書館充実発展を目指すものである。そのために県下の自治体に対して、協会が専門的職員集団を擁し図書館業務の受託を行っていく方針を周知していくこととしている。一方、受託については色々議論もあるので、十分理解を得ていくことが必要である。

  ウ 会員の拡大・組織化と財政基盤確立

  1 先ず、個人会員の拡大を積極的に推進する。研修会等の機会を活かすとともに、広報、マスコミ等で広く県民に呼びかけていく。その際、活動に主体的に参画してもらう運営方法や会員向けメールマガジンの発行など魅力ある事業内容づくりを検討している。
2 また、関係団体・個人に働きかけて賛助会員の拡大を図る。入会すると、協会ホームページに賛助会員の広告を登載する等メリットも付与していく。
3 各種の補助金制度を積極的に導入し、円滑な財政運営を図ることも重要である。
4 抜本的な財政基盤の確立のためにも、将来的には受託業務の具体化が期待される。

  エ NPO法人化

 現行の協会は人格なき社団とされる任意団体であるが、今後の事業の遂行上法人化が必要と考えており、NPO団体として法人化を検討する。

  オ その他

(1)  広報・出版事業
 
1 広報・出版委員会を06年度に設置し、事業内容を検討し具体化させる。
2 ホームページを運用し、会員にとって魅力的な情報をメールマガジンで提供していく。そのために最新情報を定期的に収集できる体制整備を図る
3 定期的機関誌の発行。会員と広く県民を結ぶ情報誌で読み応えのあるもの
4 その他、協会発行の出版物も計画し、収益性のある事業に育てていく。
(2)  図書館市民講座、その他文化事業
   広く県民を対象として、学習要求、文化活動の要求にも応えるとともに、会員の裾野を広げていく。また、収益性のある事業に育てることが重要である。
1古文書学習講座、2郷土史・資料講座、3長野県の文学講座、4講演会、5その他
(3)  各部門の専門家集団を形成し、図書館建設に必要な各種コンサルティング、支援事業を行う。(基本計画、設計・建設の方法、資料構築の方法、開館準備から運営全般)
(4)  協会の事業活動は団塊の世代の活動の場として、生涯学習や文化事業の場として大いに可能性があるのではないかと思っている。活力ある団塊の世代が活躍できる協会の事業・事務局体制づくりを展望している。


 

-- 登録:平成21年以前 --