市町村合併と図書館(山梨県南アルプス市立図書館)

「市町村合併と図書館」 -南アルプス市立図書館経営の現状-
南アルプス市立図書館

1.南アルプス市立図書館の概要

  ア 地域の概況

 南アルプス市は、甲府盆地の西部に位置し、富士川右岸に広がる御勅使川扇状地と、その上流部の南アルプス山系からなる地域である。
 2003年4月1日に、4町2村(八田村、白根町、芦安村、若草町、櫛形町、甲西町)が合併し、総面積は264.06キロ平方メートルで、山梨県土の約5.9パーセントを占めている。人口は72,072人(2005年10月1日現在)で、人口構成は0歳から14歳の層が占める割合は、山梨県全体のよりも2.2ポイント高く、若年者の占める比率が高くなっている。しかし、1985年に8,267人であった高齢者人口が2000年には12,530人となっており、確実に高齢化が進んでいる。
 市街地は主として国道52号線沿いに広がり、山間部は、市の西部を占める芦安地区及び白根・櫛形地区の一部からなっている。特に芦安地区の大部分は南アルプス国立公園に属しており、日本第2位の高峰である北岳(3,193メートル)を筆頭に3,000メートル級の山々がそびえている。御勅使川扇状地やそれに続く低地では、サクランボ、桃、スモモ、ブドウなどの果樹栽培が盛んである。第1次産業が13.4パーセント、第2次産業38.9パーセント、第3次産業が47.6パーセントの産業人口である。

  イ 図書館の概要

 市内には現在、合併前の自治体6地区に図書館施設がある。

2005年7月1日現在(蔵書数4月1日現在、貸出数2004年度)
館名 八田 白根桃源 わかくさ 櫛形 甲西 芦安分館 合計
延床面積 510平方メートル 276平方メートル 220平方メートル 1,411平方メートル 366平方メートル 27平方メートル 2,810平方メートル
施設 併設 独立 併設 併設 併設 併設  
図書 AV 費 2,710千円 3,833千円 3,800千円 14,250千円 3,000千円   27,593千円
逐次刊行物 389千円 768千円 609千円 2,190千円 140千円 87千円 4,183千円
蔵書数 41,412冊 44,488冊 31,796冊 99,751冊 12,218冊   229,665冊
年間貸出数 34,348冊 56,119冊 55,387冊 230,092冊 16,493冊 2,983冊 395,422冊
職員数 正1臨2
パート2
正1臨3
パート2
正1臨2
パート1
正4臨3
パート1
正1臨2
パート2
パート1 正8臨12
パート9

 各館の位置付けは地域館として運営しているが、櫛形図書館が中央館機能を持ち、館長(全館兼任)と事務職員をおき、市全体の意思決定および事務処理を行っている。

  ウ 図書館経営の基本方針及び目標

 市民の暮らしに役立つサービスを基本に、1図書館サービスの拡大、2図書資料の充実、3本と人、人と人とのふれあう場の提供を目標に、各館はそれぞれの地域の生涯学習活動を支えるサービス提供を行っている。

2.図書館合併の経緯

 2000年4月に住民発議により合併協議会が設置され、合併目標を2003年4月1日とし、合併に関する協議を始めた。2001年5月から事務レベルの検討をはじめ、社会教育分科会に司書2名が参加した。この意義は大きく、図書館の意見を直接反映することができた。2002年2月から担当者(各館1名の司書、公民館図書室司書、未設置地区の社会教育担当職員)による図書館合併についての話し合いを開始した。担当者による協議内容、決定事項は記録用紙で提出し社会教育分科会、教育専門部会へと報告・協議を行い小委員会にあげた。合併前に図書館は、八田農業関連図書館(2001年開館)、白根桃源図書館(1990年開館)、櫛形町立図書館(1984年開館、1999年現施設開館)の3館で、若草、甲西は公民館図書室が設置されていた。公民館図書室であった若草は、合併時に図書館として開館するために、新館建設がすすめられていた。

3.事業の概要

  ア 合併後における図書館運営の目指すもの

 現状の図書館運営で利用者が不便さを感じているか、管理システムをどうしていくかなど問題点をあげ、全域サービスと合併前のサービス水準の維持を基礎に、何が住民にとってのサービス拡大になるかを第一に検討した。

 (1)図書館システムの統一

 合併前の地域間の格差をなくすための一歩として図書館システムの統一を考えた。
 3図書館と1図書室は、それぞれの図書館管理システムを運用していたが、システム統一を行うことにより、1枚のカードで市内のどこの図書館でも貸出、返却ができるようになった。2003年7月図書館3館、図書室1館、分館1館が統一、2004年6月に図書館1館が加わり全館が統一された。図書資料の搬送は、1日1回市内全地域を運行している行政便(メール便)を利用した。当初は大きい館に集中していた利用も、住民に認知されてきたため効率的に運用されるようになった。

 (2)未設置地区へのサービス

 山間地で今まで図書館がなかった芦安地区へ、櫛形図書館の分館として、地区の健康管理センター内に2003年7月、分館をオープンさせた。運営は火曜日と金曜日の午後1時から5時までの開館とした。地区のCATV局の協力を得て、図書館の時間を設けた。繰り返し放映される時間を有効に活用した内容により、一時期どこの家にもアンパンマンの折り紙が飾られていたりして、地区の高齢者にも浸透していった。今後の運営について課題はあるが、図書館としてスタートすることを第一義としたい。

 (3)図書館サービスの見直し

 開館時間や予約リクエスト、催し物、児童サービス、障害者サービス等、サービス内容の見直しを行い、開館時間の延長、定例のおはなし会、0、1、2歳の親子対象のおはなし会の開催など、各館のサービスの充実を図った。

4.合併後の経営状況

  ア 合併後の取り組み

 (1)ブックスタート事業の実施

 1地域で行っていたブックスタート事業を、2003年6月補正で予算を確保し、11月から実施した。年間対象者は約700人である。

 (2)組織機構の見直し

 合併時は生涯学習課の中の各地区教育事務所に属していて、櫛形図書館が中央館機能を持つといっても、各館が並列の組織だったため、市立図書館全体の経営を把握することが難しかった。合併3年目の2005年4月に機構改革が行われ、櫛形図書館に全体の館長を配置、市立図書館として一本化された。

 (3)施設設備の充実

 甲西地区住民の合併前からの念願であった図書室の施設充実を行い、2005年7月に甲西図書館として新たにオープンした。これにより他の地域館と同様のサービス提供ができ、貸出数も図書室だった時の1.5倍の一日平均111冊に増え、利用者の増大につながっている。資料費については、合併前の予算を引き継いだ形だったので、各館の格差が問題であったが、甲西図書館は開館にむけ増額された。またもう1館も極端に資料費が少なかったので同時に増額された。

 (4)職員体制

 人事異動により各館に正規職員を配置、施設の充実・時間延長に対応するための職員、臨時職員増を行った。また、来年度採用の司書1名を募集した。

 (5)担当者会・職員研修会・選書会議の開催

 月1回の担当者会を開催し、業務の確認や調整、新規事業の検討等を行っている。また、昨年度から月末休館日を利用して、質の高いサービス提供が出来るよう、全職員を対象とした研修会を実施している。これまでに、簡易製本、レファレンス・サービス、紙芝居の演じ方について行った。選書会議を毎週1回開催している。

 (6)市総合計画の作成

 2005年3月に発行された『ALPS PLAN 2005 第一次南アルプス市総合計画』に、市立図書館としての基本計画を作成。実施計画として、1施設整備、2地域とのネットワーク化、3子どもの読書活動推進計画の策定、4資料の充実、5地域資料のデジタル化をあげ、すすめている。計画書の作成には、『新しい図書館の目指すべき基本的方向について』(2003年11月)と題し冊子にまとめた図書館協議会の意見を反映させた。
 計画の実施状況として、1については前項にあげた甲西図書館の開館が実施された。2地域のネットワーク化については、2006年12月実施に向け見当を進めている。3子どもの読書活動推進計画は、「子どもの読書推進事業」や「学校読書調査」を得て06年度末の策定にむけ現在進めている。

 (7)学校図書館との連絡会議

 市内の小中学校には学校司書が配置されている。学校図書館と連携し、2003年12月に学校読書調査(櫛形地区のみ)、2004年には市内の小中学校全校の読書調査を実施した。この調査結果は学校や市立図書館での読書活動推進に活かしている。また、「子どもの読書活動推進計画策定」に向けて活用させていく。

  イ 実績統計

 システム統一を行い、一枚の利用カードで市内の図書館が利用出来るようになったことで、各館の資料が有効に利用されている。このことは各館の資料発送貸出、発送借受統計や予約数にも現れている。また、近くの図書館で市内全館の資料を利用できることは交通手段をもたない利用者に喜ばれて、年間貸出冊数や年代の高い利用者の増加につながっている。

図1.年間貸出冊数

図2.相互協力数(2004年度)

図3.他館への返却率(2005年度は4月から12月)

  ウ 今後の課題

 合併から3年が経過し、これまで旧自治体での図書館活動に対する格差の解消を行うことに務めてきた。その結果、各地区に図書館施設が設置され、地域住民が身近なところで図書館サービスを受けられるようになった。そしてこのことが少しずつであるが利用者増に現れてきている。現在、システム更新に向け、先送りになっていたインターネットを活用したサービス(予約、レファレンス、メールマガジン、外部データベースの情報提供等)について提供できるよう検討している。また、障害者・高齢者へのサービスの充実、ビジネス支援としての講座開設、学校図書館と連携しての読書推進等を挙げている。2005年度から市立図書館として一本化した経営がされるようになった。これから南アルプス市立図書館全体としてのサービス向上を進めるために、各地域館を活かす経営内容を検討し実践していきたいと考える。
 財政危機や構造改革の影響で、図書館経営は様々な問題が発生し厳しい状況になってきている。山梨県でも県立図書館がPFI を取り入れる施設として計画が進んでおり、このことが県内の市町村図書館にどのような影響を与えるか懸念するところであるが、図書館として信念を持ち、市民に認識され活用されていくことで、図書館の存在意義を示していきたいと考える。

5.おわりに

 合併してから3ヶ月ほどたってから、60 歳前後の男性の利用者が本を返却したあと、カウンターの前を通りながら、「町村合併してよかったことは、どこの図書館でも使えるようになったことだけだな」とつぶやいた。とてもうれしい一言であった。そして、合併以前に専門職として一人でがんばってきた若い職員は、「図書館経営について相談するところや、悩みを聞いてくれる仲間ができてよかった」と、市立図書館のホームページを担当し、利用者拡大のため積極的に取り組んでいる。
 合併作業中はみんなで、「50年に一度というような町村合併の経験ができるのだから、楽しんでやろうよ」と言ってきた。これからの南アルプス市立図書館経営も、この気持ちをもって進んでいきたいと思っている。



 

-- 登録:平成21年以前 --