北九州市における指定管理者による図書館運営(福岡県北九州市立図書館)

北九州市における指定管理者による図書館運営
北九州市立図書館

1.北九州市立図書館の概要

 北九州市は、面積486.81キロ平方メートル、人口約100万人、本州と九州の接点に位置するという恵まれた地理的条件を有している。また、他の大都市に例を見ない長い海岸線や緑あふれる山々など、豊かな自然に恵まれている。加えて、産業、文化、技術などの優れた蓄積や諸外国との交流の歴史がある。これらの貴重な資源を生かしながら、市民の英知と熱意をまちづくりに結集することによって、厳しい状況を克服し、快適で活気あふれる大都市への飛躍を目指してきた。近年では、響灘大水深港湾、新北九州空港など交通・物流拠点都市としての整備が、さらには、北九州学術・研究都市の充実、「いのちのたび博物館」で知られる自然史・歴史博物館の開館など教育・文化充実都市としての整備が進められてきた。
 北九州市の図書館の先駆けとなったのは、1888年福岡県教育会企救郡支部会による小倉高等小学校内への書籍蒐集所の開設である。その後、各地に開設された簡易図書館の時代を経て、1921年、若松市が若松尋常小学校内に図書館開設(1929年若松市立図書館として新築竣工)以降、1922年小倉市立記念図書館、1929年門司市立図書館、八幡市立図書館、37年戸畑市立図書館と、次々に公立の図書館が開設された。その後、空襲による焼失等の苦難を乗り越え、各市立図書館は、分館を開設したり自動車文庫を開設したりするなど、それぞれの館が充実を図ってきた。1963年、五市合併により、それまでの各市立図書館は北九州市立の図書館となったが、1975年北九州市立小倉図書館の廃館・北九州市立中央図書館開館により、それまでの各区の図書館は地区館としての位置付けとなり、現在の姿の大枠が整った。この少し前の1973年、子どもと母親が楽しみながら学習できる施設「大里こどもと母のとしょかん」が門司図書館の分館として開館しており、以後、計画的に地域に配置され、現在、10分館を数えるに至っている。さらには、1995年には、門司港レトロ事業で建設された歴史的建造物を図書館として活用した国際友好記念図書館が開館している。また、近年は、北九州市のみならず、近隣の20市町立図書館との広域利用事業に取り組み、2004年度相互登録者数6,650名、相互貸出数584,280冊、相互貸出利用者数119,924名となっている。
 現在、北九州市の図書館は、指定管理者により管理されている図書館を除き、職員42名、嘱託職員等を含めると合計112名で組織されている。市立図書館全体の資料数147万冊、貸出数257万冊、登録者18万人である。年間予算の内、人件費を除いた管理費はここ数年約4億円で推移している。目指す図書館像としては、1市内の全図書館の一体化はもとより、大学図書館等との有機的な連携によるサービスを展開できるネットワーク化された図書館、2市民に対する情報提供機能の充実強化を図り、市民の生涯学習を支える図書館、3子どもたちが調べる楽しさや知る喜びを体験し、情報活用能力を身に付けられる場、学校教育を支援する場としての図書館、4だれもがだれにも気兼ねなく、自由に利用できる図書館、5市民との協働の視点に立った図書館、この5点を掲げ、中央図書館を中心として互いに連携し、具現化に努めている。

2.指定管理者制度導入の背景・経緯

  ア 指定管理者制度導入の背景

 近年少子高齢化や情報化社会の進展、産業構造の変化など社会状況の変化に伴い、生涯学習施設としての図書館に対する住民ニーズも多様化しており、新たな図書館機能の整備や図書館サービスの向上を図らなければならない。一方厳しい財政状況の中、新たな図書館サービスの提供は経費負担を伴い、限られた財源の中で、より効果的・効率的な図書館運営が求められている。

  イ 指定管理者制度導入の経緯

 こうした状況を背景に、2002年に北九州市立図書館協議会から「生涯学習拠点としての図書館のあり方」について答申を受け、「図書館サービスの向上と業務の効率的・効果的な運営を図ることを目的とした図書館業務の一部委託化」について方向性が示された。
 その後、2004年4月に北九州市新行財政改革大綱が発表され、「民間でできることは民間に委ねる」ことが徹底され、図書館の管理運営業務の民間委託等について検討することとなった。2004年6月に「北九州市教育施設の設置及び管理に関する条例」が一部改正され、社会教育施設への指定管理者制度導入が可能となった。2004年7月に、文部科学省は構造改革特区の第5次提案(図書館運営特区申請)に対する回答の中で、「指定管理者に館長業務を含めた図書館の運営を全面的に行わせることができる」旨の公式見解を発表した。本市はこの見解に基づき、「市民要望の質的な変化に、最少の経費で最大の効果を上げながらサービス向上を目指す」ことを目的として図書館への指定管理者制度導入について検討・準備を始めた。2004年10月1日から30日まで指定管理者を募集し、11月に選定委員会で指定管理者候補を選定した。12月議会で議決後、2005年1月から指定管理者への業務引継ぎを開始し、4月から指定管理者による図書館運営がスタートした。

3.指定管理者制度導入の方法及び概要

  ア 担当部署

 図書館指定管理者制度導入に当たっては、教育委員会生涯学習課と中央図書館が共同で担当し、相互に密接に連携しながら指定管理者制度導入の基本方針策定や関係機関との調整、指定管理者募集・候補選定、広報などを行った。

  イ 指定管理者制度導入の基本的考え方

 今回の指定管理者制度導入はサービス向上と経費節減を目的として、市内16図書館のうち比較的規模が小さく管理がしやすい5図書館(門司図書館、国際友好記念図書館、戸畑図書館、大里分館、戸畑分館)とした。
 また、選書業務(資料の購入・廃棄・寄贈)及び施設設備の維持補修業務については、中央図書館に権限を集約することとした。
図書館サービスについては、これまでのサービスを低下させないことを原則とし、

1 平日の開館時間を1時間延長し午後7時までとする。
2 指定管理者制度を導入する図書館は、司書率を75パーセント以上に引き上げる。(直営時の全図書館の平均司書率は58パーセント)
3 直営で行われている図書館サービスは、指定管理者が全て引き継ぎ、これまでどおり実施する。
4 図書館関係団体との協力関係は、これまでどおり継続する。
5 円滑な運営のため、直営時の人員体制を基本に人員を配置する。

こととした。
さらには、指定管理者と直営図書館が連携して図書館運営を行うため、

1 図書館の運営方針に関わる事項を協議する館長会議(月1回)
2 選書方針を協議する選択会議(月1回)
3 選書を決定する選書協議(週1回)
4 中央図書館主催の研修会(随時)

等の出席を義務付け、情報の共有化及び図書館サービスの維持向上を図ることとした。
なお、市内5図書館の指定管理者制度導入に伴う経費節減効果として、

1 職員数36人の減員(正規職員11人、嘱託員25人)
2 経費節減効果5,900万円

が見込まれた。

  ウ 指定管理者募集及び選定

 指定管理者募集は、企画提案方式により、1公立図書館の運営に関する基本的考え方、2専門性の確保、3個人情報保護、4運営体制、5施設管理、6業務運営、7関係機関・団体との連携策、8民間の利点を生かしたサービスの8項目及び必要経費を提案してもらった。学識経験者などで構成する選定委員会(委員6名)でそれらを総合的に評価し候補選定を行った。その結果、指定管理者候補として民間事業者2者が選定され、2004年12月議会で承認された。

  エ 指定管理者の業務

 指定管理者には現状の図書館サービスを低下せず、かつ新たなサービスを付加することを求めた。そのため、指定管理者が行う業務は、選書業務及び施設設備の維持補修業務を除き、従来の管理運営業務(館長業務、窓口業務、蔵書管理、施設管理、文庫管理、分館管理)及び読書奨励事業等(読み聞かせ会、ブックスタートなど子育て支援事業、展示、ブックリサイクル、ひまわり文庫等)を全て引き継ぐこととし、さらに指定管理者のもつノウハウを活かした新たなサービスとして、

1 民間の人材ネットワークを活用したビジネス支援講座や教養講座の開催
2 総合的な学習・職場体験学習の場の提供、図書館だよりの学級配付、家庭教育学級講演
3 外国人スタッフ雇用による絵本を活用した国際交流事業の実施
4 新刊図書の迅速な情報収集、選書候補選択への活用
5 図書館事業の広報拡大
企業ネットワークを活用した民放ラジオによる図書館広報番組の開設
JR駅構内を活用した常設ブックリサイクル事業の実施

等が加わった。

  オ 関係機関、団体との連絡・調整、広報

 図書館への指定管理者制度導入にあたっては、図書館関係機関や関係団体、市民に説明し理解を得ることが重要である。そのため、

1 北九州市立図書館協議会の開催(3回)
2 関係団体(郷土史会、読書会、読み聞かせボランティア等)への出前トーク(10団体)
3 市民説明会の開催(3回)

等を行った。その他、市民向けチラシ配付(12,000部)、市政だより、図書館だより、ホームページ、新聞への掲載など広報活動を積極的に行い、図書館への指定管理者制度導入について広く市民に周知した。

4.現在の状況・成果

  ア 現在の状況

 2005年4月1日から指定管理者による図書館運営がスタートした。日常的な業務については、スタート後3ヶ月の状況をみれば、その後の状況も概ね予測できると判断し、指定管理者が管理する図書館の運営状況を把握するため、6月から7月にかけて、1図書館利用実績、2利用者アンケート(回答数 一般利用者:1,520件、利用団体:12団体)、3評価員(学識経験者等5名)による現地調査の3つの方法により、評価・検証を行った。その結果、1貸出者数・貸出冊数、新規登録者数及びリクエスト数は、ほぼ前年度並であり、また、直営時から定例的に実施してきた事業は円滑に実施されていること、2一般利用者の94.2パーセント、利用団体の80パーセントが指定管理者による図書館サービスに満足していること、3協定書及び事業計画書に基づく図書館業務は概ね適正かつ円滑に実施されていることが認められ、指定管理者により安定した図書館運営と良好なサービスが提供できていることが確認された。
 この結果は8月に開催した北九州市立図書館協議会に報告し、各委員からも指定管理者制度導入について好意的な意見をいただいている。
 なお、指定管理者による図書館運営は全国的にも先駆的であるため、新聞・テレビ・雑誌等マスコミにも取り上げられ、また、全国各地の図書館関係者、議会・行政関係者等数多くの視察があった。

  イ 実績統計・事業の効果として考えられること

 利用統計をみると、現在のところは指定管理者制度導入により利用者が大きく増えることはなかったが、特徴的なものとして市内図書館間の相互貸借の件数が増加したことがあげられる。これは指定管理者のビジネス支援講座の開催等による図書館利用者層及び利用者ニーズの多様化の現われと考えられる。この傾向が続くことにより市民の図書館利用の裾野が広がっていき、今後、利用者が増えていくのではないかと期待される。
 また、ビジネス支援講座等の開催や職場体験学習等の場の提供、家庭教育学級講演等により、図書館による起業支援、学校支援、地域支援が徐々に拡大しつつある。
 今まで図書館を利用したことのない市民が図書館を利用するようになり、図書館が市民の日常生活における疑問や不安の解消を図るために役立つことにつなげていきたい。

  ウ 利用者の反応・声

 利用者の反応・声として、前記アンケートの自由意見欄(回答数519件)をみると、「職員が親切・丁寧・的確」等、職員対応に関する評価が高い。一方、要望としては、「駐車場が狭い」、「エレベータを設置してほしい」等、施設整備関係のものが多く、これは指定管理者ではなく行政として解決していくべき課題である。図書館の管理を民間に任せることは反対という意見も数件あったが、それ以外は殆んどが好意的な反応であり、指定管理者による図書館運営は市民に受け入れられていると認識している。

  エ 数値に現れた事業の成果

 指定管理者制度導入により具体的な数字として現れた成果として、図書購入費の予算増があげられる。厳しい財政状況の中、図書購入費の増額は困難であり、ここ数年の図書購入費は市立16図書館全体で年間1億3千万円であったが、2005年度は1千万円増額され1億4千万円となった。これは、指定管理者制度導入による経費削減効果額(5千9百万円)の一部が活用されたものと考えている。この増額分の使途については、各図書館において検討し、ビジネス支援コーナーの設置等、地域の課題解決型図書館づくりのための経費として有効活用している。

  オ 職員の研修

 図書館の専門性向上のため、指定管理者には各館ごとの従事者の75パーセント以上を司書有資格者にすることを条件付けており、実際には80パーセント以上が有資格者である。職員のスキルアップを図るため指定管理者は職員研修の充実に努めており、個人情報保護研修、人権研修、接遇研修、図書館専門研修(蔵書管理、レファレンス、図書装備、ビジネス支援、児童サービス、著作権等)、防災研修等、社内外の研修を積極的に受講させている。
 特に個人情報保護については、法令遵守は勿論、様々なケースに対応した個人情報漏洩防止策を徹底するため十分な研修を行っている。

5.今後の課題

 2005年度から指定管理者制度を導入した門司図書館等5館が順調に運営されていることを受け、2006年度からは八幡図書館等7館に指定管理者制度を導入することにし、2005年12月議会で議決された。これにより市立16図書館中、12館を指定管理者が運営することになる。指定管理者制度の導入に伴い、中央図書館は市の生涯学習活動の拠点施設として、より一層高度で専門的な役割が求められている。具体的には、全市的な図書館運営の基本理念や長期ビジョンの策定、事業の計画的な推進、図書館サービスの「指標」及び「数値目標」の設定、国・県・市町村図書館や関係機関・団体との連携推進、指定管理者の「評価・検証」及び「指導・監督」などである。
 これらを実現するため、今後、中央図書館の機能強化や組織体制整備、専門的職員の充実、図書館職員の資質向上に重点的に取り組まなければならない。
 多様化する住民ニーズに、より効果的・効率的に対応するため、「公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに経費の削減等を図る」という指定管理者制度の趣旨に沿った図書館運営が行えるよう、市と指定管理者が緊密に連携・協力し図書館運営を行っていくこととしている。



 

-- 登録:平成21年以前 --