倉吉市立図書館におけるヤングアダルトサービス(鳥取県倉吉市立図書館)

倉吉市立図書館におけるヤングアダルトサービス
倉吉市立図書館

1.倉吉市立図書館の概要

  ア 地域の概況

 倉吉市は鳥取県の中央部に位置し、就業・就学の場をはじめとする生活圏として、中部の各町村からの流入人口が多く、鳥取県中部の政治・経済・文化の中核都市としての役割を担っている。自然林の宝庫であり市のシンボルでもある打吹山を中心に、古くから打吹城の城下町として発展してきた。近年は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された白壁土蔵群や、関金温泉、倉吉パークスクエアを中心とした観光を推進しているが、主要産業はやはり農業である。2005年3月22日、関金町との合併により総面積272.15キロ平方メートル、人口53,175人(2004年度末)と市域を広げ、さらに人・もの・情報の交流を促進し、地域の活性化を図っている。

  イ 図書館の概況

 倉吉市立図書館は、1989年に鳥取県立鳥取図書館倉吉分館が倉吉市に無償移管され開館した。2001年4月には、21世紀の倉吉市を創造する交流拠点施設『倉吉パークスクエア』の一角の生涯学習センターとの複合施設「倉吉交流プラザ」内に新築移転し、年間貸出冊数は旧館の2倍、年間33万人が訪れる図書館となった。その後、2005年3月の関金町との合併に伴い倉吉市立せきがね図書館との2館体制となった。

 施設は倉吉交流プラザの1階にあり、鉄筋コンクリート造り2階(一部3階)、延床面積4,366平方メートル、このうち図書館専有面積は1,941平方メートルである。館内には対面朗読室、研究室、授乳室、おはなしのへやがあり、打吹山が一望できる屋外読書テラスでは緑豊かな景観を楽しみながら読書ができる。また2階の生涯学習センターには150人収容の視聴覚ホール、点訳室・録音室を含むボランティア交流室などがあり、これらの設備を活用した図書館事業を展開している。   表1 倉吉市立図書館概況
  倉吉 せきがね
専有延床面積
かっこは内開架
1,941平方メートル
かっこ1,322平方メートル
199平方メートル
かっこ179平方メートル
職員体制
※全員司書資格有り
正職員3人
非常勤等11人
正職員1人
非常勤等2人
蔵書数※雑誌除く
かっこは内開架
149,519冊
かっこ93,706冊
20,855冊
かっこ20,855冊
個人貸出冊数 336,100冊 17,791冊
 職員体制・蔵書数は2005年度当初数
※ 個人貸出冊数は2004年度統計

  ウ 図書館運営の基本方針

 現行館を建設するにあたり、検討委員会は1997年3月に「倉吉市交流プラザ基本計画」を策定し、幅広い情報の提供、さまざまな市民の自主的活動、学習活動などに必要なサービスの提供を総合的に担い、市民の立ち寄り施設から滞在型施設となることを目指した。将来的には地域図書館と移動図書館による図書館網を計画していたが、現在地域館はせきがね図書館1館、移動図書館は未整備にとどまる。
 図書館では年次単位で重点施策を策定し、基本方針として市民だれもが気軽に利用でき、暮らしに役立つ図書館活動を推進すること、多様化・高度化する知的要求に的確に応えるため豊富な資料の収集に努めること、他の公共図書館・学校図書館・鳥取短期大学図書館・類縁施設とネットワークを構築し充実したサービスの提供を行うことに取り組んでいる。

2.ヤングアダルトサービスを行うにあたって

  ア 経緯

 2001年の新館建設に伴い、図書館の機能・役割を原点から見直し、“すべての市民に開かれた図書館づくり”をめざして「倉吉市中央図書館基本計画」(平成7年)を策定した。その中で、“新時代の図書館サービスと展開”の1項目に障害者サービス・児童サービスやレファレンス・サービス等と並んで青少年(ヤングアダルト)サービスを盛り込み、児童とも成人とも異なる世代への要請に応えるサービスの推進を図った。
 読書離れの進む10代の利用を促進するためというよりは、興味・要求や利用形態の異なる対象ごとに最適なサービスを提供してしかるべきという方針からであった。

  イ 準備期間

 一般・児童・郷土や視聴覚資料から独立したヤングアダルト資料収集方針を作成し、新館開館1年前から図書を購入した。選書委員とヤングアダルト選定担当(現ヤングアダルト担当)により、100万円の予算で2,200冊の資料をそろえた。選書の参考としたのは「ヤングアダルト総目録」、各ライトノベルズ目録、市内書店の販売状況などである。配架の請求記号は一般に準じた。
また、別予算で雑誌の新規購入も行った。
 コーナーの位置は、児童から青少年へという読書の発展段階を考慮して一般と児童のコーナーをつなぐところに配置し、対象世代の興味や知的欲求に応じて書架を自由に行き来できるようにした。コーナーは書架と読書席で構成され、主として中学生・高校生を対象とした資料の配架、読書、貸出しを行うとともに、青少年相互のコミュニケーションの場としての利用を図った。

  ウ 基本方針

 ヤングアダルトを、発達心理学でいう青少年中期にあたる中学生、高校生を中心とした世代と捉え、児童とも成人とも異なる要求をもった独自の存在とし、大人と同じく興味や要求に合わせて自分で自由に本を選べるようサービスを提供する。ヤングアダルトのコーナーには、興味のある情報・資料を用意して、豊かな読書の世界を紹介する。また、若い人同士のコミュニケーションの場としての働きも持たせる。収集する資料は、読みつがれた資料、大人や教師が薦めたい資料だけでなく、現在の若い人に支持されている資料にも重点を置き、図書館の独りよがりに陥らないようにする。また進学・就職に関する資料は別置し、重点的に収集する。学習参考書および問題集・有害指定図書・評価の定まっていない漫画は収集の対象としない。

 
ヤングアダルトコーナー配架図

写真1 YAコーナー読書席
写真1 YAコーナー読書席

3.事業の概要

  ア 体制

 コーナー開始当初は事務分掌内にヤングアダルト担当は設けられていなかったが、コーナー準備期の資料選定担当者(当時は資料収集、利用促進事業担当)が実質ヤングアダルト担当として図書の選定や行事を行っていた。正式に事務分掌に盛り込まれたのは2004年度からであった。図書購入費はヤングアダルトを別枠にしていないが、他の資料とのバランスを考え購入している。

  イ 実施した事業
 (1)原画展(2001年4月)

 新館開館にともない、ヤングアダルトコーナーのPRを兼ねて実施。ヤングアダルト世代に人気が高いライトノベルのCG出力画と雑誌の原画を展示し、対象世代が図書館に持っているであろう真面目で硬いイメージの改善を図った。広報方法は、市立中学校および市内書店にポスターを掲示したほか、地元新聞の若者向けページでも取り上げられた。同時に画家への手紙を募集し、応募者には販売促進グッズを配付した(出版社の協力による)。

 (2)YAノート設置(2001年度)

 ヤングアダルト世代のコミュニケーションの場として落書きノートを設置し、利用に際するマナーを明示した上で自由に書き込んでもらった。書き込みの内容は好きな本の紹介、彼氏と別れた話から図書館利用上の苦情まで幅広く、紙面上のコミュニケーションも見られたが、わいせつな落書きや中傷的な書き込みが増えたため一時停止のまま現在に至る。

 (3)講演会およびテーマ展示(2001年3月)

 長年ヤングアダルト向け小説を執筆しておられる作家を招き、第一線で活躍している人物の思いや姿に直接触れる機会を設けることで、図書館利用推進を図った。講師選出の際に、ヤングアダルト作家は一般には知名度が低いためか中々上司の理解を得られず、一般成人にも知名度がある作家を招いたところ、参加者は大人がほとんどであった。また、講演テーマにあわせ展示コーナーにて関連図書の紹介を行った。展示物は、当時書店 POPからベストセラーが生まれたことに着目し、参考にしながら制作した。

 (4)ヤングアダルト向けとしょかんNews発行および投稿箱の設置(2003年7月~)

 従来のとしょかんNewsとは別に、ヤングアダルト層に図書館をPRするとともに読書に対する興味を深めてもらい、情報交換の場を提供することを目的として発行。夏休み前、読書週間などに合わせて年4回発行し、図書館カウンター・市立中学校・市内文房具店などで無料配付している(市内高校へは2005年度配付開始)。合わせて読者投稿用の箱を図書館、市内文房具店に配置し、イラストや特集コーナーへの参加作品を募った。また、ほぼ同じ内容のホームページ版(http://www.lib.city.kurayoshi.tottori.jp/(※倉吉市立図書館へリンク)(最終閲覧日2006年1月26日))も作成している。
 編集委員は図書館職員と中高生ボランティアからなるが、特集のテーマや紹介する新着図書の選定、本文の作成など基本的な運営はボランティアの自主性に任せ、図書館職員はアドバイスや校正を行っている。

 (5)POP製作(随時)

 学校の職場体験事業で中学生や高校生が来館したときに、自分の好きな本を POP形式で紹介してもらう。ヤングアダルト層に人気のある図書を把握することができ、口コミによる影響を強く受ける世代に適したPR方法にもなっている。また期間中は、好きな本の紹介文を書いてもらったりブックトークを行うことで、ヤングアダルト層の生の声を取り入れている。

  ウ 他の団体との連携

 学校への団体貸出、朝の読書用セット貸出、授業への講師派遣(読み聞かせ指導、情報検索指導)、学校図書館内でのとしょかんNews配付協力、職場体験受入、ブックトークが主なものである。

 
写真2 高校生職場体験で制作したPOP

4.実績および問題点

  ア 利用状況

 コーナーの貸出冊数はゆるやかに増加しており、利用の増加に合わせてコーナーの図書や書架を拡充した。コーナー図書利用者を年代別に見てみると、対象である中学生・高校生の利用は約40パーセントであった。中高生向けに書かれている図書は大人にもわかりやすい内容のため、年配の人にも利用されている。また、各世代ごとに総貸出冊数に占めるYAコーナー図書貸出冊数を算出したところ、中学生が約40パーセント、高校生は約26パーセントであった。

図1 YAコーナー貸出冊数推移
※雑誌・AVは含まない
 
図2 蔵書全体に対する中高生総貸出冊数推移
※雑誌・AVは含まない
※2000年度は新館移転のため4ヶ月間休館した

 ヤングアダルト向けとしょかんNewsを発行した2003年度は、中学生の総貸出冊数が前年比120パーセントの伸びとなった。第1号の特集「図書館へ行こう!」や毎号の新着図書紹介が利用増加の一因になったようである。
 昨年度の分類別貸出冊数を見ると文学(77.4パーセント)と芸術(15.4パーセント)がほとんどを占め、ライトノベル、漫画、絵本のほか、等身大の言葉を集めた本の人気が高い。コーナーのリクエストもライトノベル系がほとんどであるが、この世代の生の声を知るものとしてできる限り応えている。
 ヤングアダルトコーナーの図書は他の書架に比べ不明本が多い。そのため、不明になりやすいシリーズは止むをえず閉架書庫に配架した。また不明本対策として2004年7月にコーナーをカウンター前に移したところ、年間不明冊数は前年に比べ3分の1になった。

  イ 今後の課題

 (1)としょかんNewsについて

 1人から始まった編集ボランティアも現在3名となり、HP編集作業や紙面上のイラスト提供など、活動の内容が充実していった。今後も編集委員を増員し、コラムなど読み応えのある記事を掲載するなどし、ますます充実させたい。
 対策としては、現在発行しているとしょかんNewsのほか、市内中学校・高等学校の協力を得ながら学校図書館などで募集ポスターを掲示し、募集をよびかける。

 (2)男子向け図書の収集

 市内中学校司書から男子向けの資料が少ないとの指摘があった。ライトノベルに関しては男子からのリクエストに多く応えているため充実してきたが、今後は文学以外の分野を充実させたい。

 (3)YA向け利用案内の作成

 ヤングアダルトコーナーの資料はどうしても冊数が限られるため、深く広く調べたい場合には対応しきれない。そこで、利用者の興味や読書意欲に応じて一般書架も自由に利用できるよう、YA向け利用案内を作成したい。その際には、中高生ボランティアの意見を大いに取り入れ、ヤングアダルトコーナーの分類と関連付けた書架案内や、本の調べ方などを紹介したい。

5.その他

  ア 編集ボランティアの声
 (1)ボランティアを始めたきっかけ

 「元々、毎週のように図書館に通っていて、その度にお母さんに送り迎えしてもらっていたら『そんな毎週行くんなら、図書館でボランティアでもしたら???』と言われたのがキッカケです(笑!!!)」

 (2)ボランティアをしてみて

 「私の知っている1番大きな図書館だったので、きっと厳しく検査とかされるんだろうとか思いきや意外に自由に作らせてもらって、そこはちょっと驚きでした。友だちも誘って3人でするようになって、とても楽しく作業させてもらっています。」

 (3)今後の抱負

 「今は少し一方的な形の情報紙みたいな感じになっているので、読者の投稿とかをもっと入れて参加型のものにしたいなって思います。」

  イ ヤングアダルト担当の声

 ヤングアダルト向けとしょかんNews第1号に取り掛かっていたとき、救いの女神のごとく現れた女子中学生に助けられ、現在にいたる。HP作成のセンスは若者ならではの自由な発想が見られ新鮮であった。現在は個人レベルで漫画の貸し借りなどを行い、ひとまわり以上離れた世代間交流に積極的に取り組んでいる。
 ヤングアダルト世代に、“あの棚に行けばなにかおもしろいものがある”と思ってもらえるコーナーを目指し、やる気とセンスと愛情を持って今後も取り組みたい。

 
写真3 としょかんNews制作風景

写真4 ヤングアダルト向けとしょかんNews表紙
Rain followed by Sunny
命名はボランティア。
A4二つ折り、8~10p。
表紙はボランティアや投稿者のイラスト。


 

-- 登録:平成21年以前 --