電子図書館システム「デジタル岡山大百科 郷土情報ネットワーク」による地域からの情報発信
岡山県立図書館 |
ア 地域の概況(注1)
真金(まかね)吹く吉備の中山帯にせる細谷川の音のさやけさ(古今和歌集)
岡山県は古くは吉備の国と呼ばれ,産出する鉄や農産物、海産物の交易で得た富を背景に一大文化圏を築き、一時は大和政権と競うほどの勢力を誇っていたと言われる。こうした活発な交易の伝統は、県内に縦横に延びる高速道路網、中四国を結ぶ瀬戸大橋、国内外を結ぶ岡山空港、新幹線をはじめ東西南北につながる鉄道等、交通基盤の構築へとつながっている。さらに後述するように、早くから県を挙げて情報通信基盤整備に取り組んできたことで、県、市町村役場、学校、図書館等の公共施設を結ぶ地域公共ネットワーク整備率が2003年度に47都道府県で初めて100パーセントに達した。以上のように、岡山県は交通、情報通信、双方において、全国まれに見るネットワーク基盤を整備し発展を遂げてきた。
地形は、北部に山地と盆地、中部に丘陵地、南部に平野を配する。人口は、南部の岡山市と倉敷市に県下の半分以上が集中する一方、中北部のほとんどの市町村は過疎化・高齢化が進むという対照を成す。気候が温暖で、降水量1ミリ未満の年間日数が全国第1位の276日(1971~2000年平均)であることから、「晴れの国岡山」とも呼ばれる。 イ 図書館の概要 岡山県は「快適生活県おかやま」の実現を目指し、2002年度より「新世紀おかやま夢づくりプラン」を推進している。その中で重点を置く教育・人づくり分野での快適生活シーンの実現に向け、2004年9月、岡山県立図書館が岡山市中心部の岡山県庁前に新館開館した。従来の複合施設は図書館単独施設となり、敷地面積約13,300平方メートル、延べ床面積約18,000平方メートル、収蔵能力230万冊、閲覧席約400席の施設を、職員40名が中心となって運営している。新たに6部門 |
の主題部門別閲覧制を採用して専門的な調査研究ニーズに対応するとともに、新刊図書出版点数の70パーセントの購入を目標に、約2億3千万円の資料費を投入し、資料提供サービスの充実に努めている。2005年9月末時点の蔵書冊数は約74万冊である。さらに、岡山県全域へのサービス展開に向けて、岡山県立図書館を基点のハブとし全市町村を結ぶ資料搬送基盤の整備に努め、市町村立図書館等との連携により県民のみなさまに岡山県立図書館資料を提供できるようにしている。この資料搬送基盤と有機的に結ばれるのが、電子図書館システム「デジタル岡山大百科(http://www.libnet.pref.okayama.jp/mmhp/(※デジタル岡山大百科【岡山県立図書館】ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日))」の中で、総合目録ネットワーク機能を持つ「岡山県図書館横断検索システム」である。「デジタル岡山大百科」ではさらに、第2の機能として資料の本文やコンテンツの内容を視聴できる「郷土情報ネットワーク」、第3の機能としてレファレンス事例集としての「レファレンスデータベース」を備え、この3つの機能をいつでもどこでもだれにでもサービス格差なく提供できるようにしている。本稿では3つの機能のうち、電子図書館システムの機能としてもっとも象徴的な「郷土情報ネットワーク」について詳述する。
ア 背景と経緯
「デジタル岡山大百科」は、岡山県民がWebに接続したパソコンを介して、郷土岡山の姿を百科事典的に調べられることを目指して着手された。端緒は、1996年10月、岡山県高度情報化実験推進協議会が岡山情報ハイウェイ構想を推進するために設けたモデル実験へ、岡山県総合文化センター(岡山県立図書館の前身)が図書館、企業等と電子図書館ネットワーク研究会を組織し協賛参加したことに始まる。モデル実験の背景には、岡山県が全国に先駆けて整備していた情報通信基盤の岡山情報ハイウェイをいかに有効利用するかという課題があった。それに対する電子図書館ネットワーク研究会の回答が「デジタル岡山大百科」の構築であった。1998年9月、岡山県は2004年度開館予定の新県立図書館を岡山情報ハイウェイにおける中核施設として捉え、デジタルアーカイブを実現するメディアセンター構築のための岡山県立図書館基本構想を固めた。以来、岡山情報ハイウェイというハードのインフラ基盤と、「デジタル岡山大百科」というソフトのインフラ基盤は、車の両輪として発展し、県の施策あるいは情報政策のポイントとして位置付けられてきた。
このうち、「郷土情報ネットワーク」の原形は、1998年3月、電子図書館ネットワーク研究会によって公開された「画像情報提供システム」に遡る2)。当時のシステムは、HTML形式の収録情報の一覧表示画面から、文字、静止画を中心とした一次情報の提供ページにリンク展開する仕組みに過ぎなかった。すなわち、メタデータという目録、索引に相当する二次情報の検索機能を伴わずに一次情報を提供する仕組みであった。2004年9月、メタデータ検索から一次情報提供への展開を行う仕組みとともに、Web公開された関係機関データベースとの連携を行う仕組みが構築された。
イ 組織
「デジタル岡山大百科」の運営全般については、岡山県立図書館メディア・協力課メディア班の職員2名が中心となって行っている。メディア班はほかに、撮影室、編集加工室から構成されるメディア工房の運営も担当している。メディア工房は、デジタル情報の制作のための有料施設で、職員による制作支援が行われるとともに、「デジタル岡山大百科」に登録するデジタル情報の制作も行われる。メディア工房の05年度1月現在の施設稼働率は、有料、主催事業等の利用を合わせ、編集加工室が81.9パーセント、撮影室が39.1パーセントであった。なお、同期の有料施設全体の平均稼働率は67.1パーセントであった。
ア メタデータによる情報管理
「郷土情報ネットワーク」では多彩な検索が可能であるが、これはメタデータによって情報管理されているためである。このメタデータの記述規則あるいは形式は、国際標準規格のISO規格および国内標準規格のJIS規格に採用されるDublin Core Metadata Element Set(Dublin Core)形式に準拠している(注5)。今日、情報資源の分野ごとに多様なメタデータ記述規則が存在するが、分野を越えた情報資源を探し出すために開発されたメタデータ記述規則がDublin Core である。国際標準規格なので、他との連携も容易である。
「郷土情報ネットワーク」のメタデータは以下の要素から構成される。
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イ 連携と参加の促進
伝統的な図書館業務の枠組みから考えると、電子図書館で収集、作成、提供する一次情報の範囲は、著作権に抵触しない所蔵印刷物をデジタル化したものという考え方がなじみやすい。ただし、この考え方に基づくと、対象の多くは歴史的資料となる。確かに価値は高いが、愛好者以外の一般利用者にとってはあまり関心の高まらないものとなる可能性がある。情報の鮮度も低い。もし、電子図書館に不特定多数の関心を向かせようと考えるなら、情報の鮮度の高さ、実用性の高さという要件を満たすことが欠かせない。このうち、行政機関が公開する Webコンテンツは、地域の観光、産業、教育等の幅広い実用情報を含み、この要件をある程度の水準まで満たすとともに、すでにデジタル化されて公開済みという特色がある。リンクや著作権面での承諾、協力も得やすい。こうした観点から、行政機関、関係機関との連携に努めてきた。
ところで、一次情報としてのWebコンテンツは、リンク切れの可能性が伴う。これは、Webコンテンツの消去、URL変更等を原因とする。Webコンテンツの内容変更を、電子図書館システムのメタデータにも反映することが課題であり、その課題解決には、Webコンテンツの作成者自身が電子図書館システムにメタデータ登録し、更新することが望まれる。すなわち、メタデータについては、Webコンテンツの変遷の把握が不十分な電子図書館システム管理者が対応するよりも、Webコンテンツ作成者自身が対応する仕組みを構築するほうが合理的である。この取り組みを促進するため、「メタデータ入力に関するガイドライン」を提示し、共通理解を図っている(注6)。この方針に沿って、岡山県庁のWebコンテンツ作成担当者によるメタデータ登録が行われている。図書館は資料組織化のノウハウがあり、その資質を最大限に生かし、行政組織での貢献に努めている(注7)。
価値ある情報はデータベースに蓄積されていると言われるが、データベースに蓄積されているデータも連携対象、検索対象としている。具体的には、生涯学習情報、博物館情報である。このうち、博物館情報については、データベース連携の仕組みとして、OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)というメタデータ収集の規格、仕組みに準拠している(注8)。国内では、国立情報学研究所が大学図書館との学術情報のメタデータ・データベース連携において活用しているが、一般住民向け情報という点では、全国初の取り組みである。Webの特質を最大限利用し、従来の行政組織の縦割り的な情報配信構造が、横断的な情報共有構造に変わる端緒となることを目指している。さらに、県民からの郷土情報提供を積極的に受け入れる県民参加型の仕組みを構築している(注9)。すでにWebコンテンツとして公開されたもののほか、デジタル化されていない印刷物、アナログデータ等も、メディア工房で職員が支援しながらデジタル化できるようにしている(注10)。メタデータ登録についても同時に依頼している。すなわち、「デジタル岡山大百科」は岡山県立図書館をハブとして、個人、関係諸機関とのネットワークによって成り立つシステムであり、その連携、参加を促進するための仕組みには特に配慮している。つまり、図書館を核としながらも図書館だけにとどまらない仕組みの構築である。たとえば、図2において、画面下に掲載したWebコンテンツは、神奈川県に居住する岡山県出身者が、語り部の祖母が語る岡山の民話を音声データ付きで公開したものである。画面上のメタデータは、郷土情報登録申請によって交付されたID、パスワードでメタデータ入力システムにログインし、さらにメタデータ登録の結果できたものである。すなわち、Web環境さえあれば、メタデータ登録は場所と時間を問わない。
なお、2003年度から、岡山県高度情報化推進本部情報デジタル化推進ワーキンググループと筑波大学知的コミュニティ基盤研究センターの間で、地域からの情報発信と地域における情報共有の基盤構築を通じた知的コミュニティの実現に向けた共同研究を行っている。具体的な研究対象は「デジタル岡山大百科」である。 4.現状と今後の課題ア 収録状況と実績 収録情報の内訳を表1に掲載する。40,338件のうち、データ形式から見ると、文字・静止画情報が37,324件(92.5パーセント)、動画・音声情報が3,014件(7.5パーセント)である。 |
表1.「郷土情報ネットワーク」収録情報一覧
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イ 今後の課題
今後の課題としては、魅力的な情報をわかりやすく提供すること、広報による周知の2点が挙げられる。来年度、県民提供情報を対象とした「デジタル岡山グランプリ」というコンテストの開催を予定しているが、両課題の解決の一助となるのを期待している。みなさまのお役に立ち、愛されるシステムとなるよう一層の努力を重ねていきたい。
注 | ・引用文献 |
1) | 岡山県,岡山県のアウトライン,http://www.pref.okayama.jp/chiji/kocho/daisuki/outline1.htm(※岡山県ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
2) | 電子図書館ネットワーク研究会「電子図書館ネットワークシステム 平成9年度報告書」岡山 電子図書館ネットワーク研究会,1998,19p.参照はp.8. |
3) | 森山光良「電子図書館システム『デジタル岡山大百科』―1996年~2005年―」『現代の図書館』Vol.43.No2,2005年6月,p.102-111. |
4) | 森山光良「デジタル岡山大百科」の電子図書館サービス『文化環境研究所ジャーナル』,2005年6月,http://www.bunkanken.com/journal/article.php?id=259(※文化環境研究所ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
5) | http://dublincore.org/(※Dublin Core Metadata Initiativeホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
6) | http://www.libnet.pref.okayama.jp/kyouryoku/dl_manual/guideline_meta_200404.pdf(※岡山県立図書館ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
7) | 森山光良「Z39.50とDublin Core を用いた郷土関係電子図書館ネットワークの構築―『デジタル岡山大百科』における構想と課題―」『ディジタル図書館』21,2001年11月,p.3-18. http://www.DL.ulis.ac.jp/DLjournal/No_21/1-moriyama/1-moriyama.html(※図書館情報大学ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
8) | http://www.openarchives.org/OAI/openarchivesprotocol.html(※OAI-PMH(Open Archives Initiative Protocol for Metadata Harvesting)へリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
9) | http://www.libnet.pref.okayama.jp/media/c-bosyu.htm(※岡山県立図書館ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
10) | http://www.libnet.pref.okayama.jp/media/kobo-index.htm(※岡山県立図書館ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日) |
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