地域の情報拠点となるために(千葉県光町立図書館)

地域の情報拠点となるために -光町立図書館のホームページによる情報発信-
光町立図書館

1.光町立図書館の概要

 光町は、千葉県の東部、千葉県立九十九里自然公園の中央に位置し、千葉市まで約40キロメートル、成田国際空港まで約20キロメートルの距離にある、人口およそ12,000人、面積33.31キロ平方メートルの町である。町の主要産業は農業で、稲作が中心の農村地帯である。近年では稲作のほかネギやとうもろこしの栽培も盛んである。
 光町立図書館は最大蔵書数20万冊という規模の、全国でも最大級の町立図書館として1994年11月3日に開館した。図書館には10万冊の資料が閲覧できる開架スペースのほか、200インチのスクリーンを有するハイビジョンホール、2005年度にオープンしたギャラリーなどの設備もあり、町文化の中心施設としての役割を担っている。
 図書館の概要については次のとおりである。

施設 鉄筋コンクリート造2階建(一部2階建) 延床面積3,029.71平方メートル(うち開架スペース955.6平方メートル)
蔵書 251,057冊(2004年3月末現在)
うち一般資料199,936冊、児童資料58,401冊、参考図書等9,717冊
CD2,006点、ビデオ5,865点
職員 7名(館長、司書4、ほか職員2)
運営 貸出603,461冊
予約36,932件
レファレンス11,584件
資料複製4,808枚
※2004年度実績による
予算 図書館費116,362千円(2005年度)
 うち資料費23,049千円

2.ホームページによる情報発信までの経緯

 光町立図書館が、インターネットによるサービス提供を開始したのは2000年12月であった。当時の図書館の状況を振り返ると、ちょうど周囲の図書館でコンピュータ機器の入れ替えと同時に資料検索ができるシステムの導入が始まったばかりの時期であり、機器のリース期間半ばの当館としては、導入する必要性は認識しながらもすぐにはシステムを導入できる状況には無かった。
 それでも、ISP(注1)の無料サービスを利用してホームページの開設をしたが、当然の事ながら検索システムは導入できず、使用できる容量も少なかったため、開設したホームページの内容は、図書館の施設、利用などのサービス案内と、メールフォームを利用した予約、レファレンスの受付窓口を作った程度の簡易なものであった。

 その後、本格的な情報発信を実施する契機となったのは、2001年度に開始した「学校図書館資源共有型モデル事業」であり、当該事業の指定により学校図書室資料の電算化が実現した。それと平行して図書館と学校の資料の総合目録データベースを構築し、インターネット上での資料検索が可能となり現在に至っている。
 こうして始まった図書館ホームページのコンセプトであるが、基本的に図書館運営の物理的限界をカバーできる窓口の機能を有する事を基本に構築している。即ち、図書館の開館時間の延長や休館日を減らすなど、スタッフを増やしたり自動化機器を導入しなければできなかったサービスをカバーできる事を目標としたホームページである。そして、このようなコンセプトの下に構築したホームページにより、検索、予約受付、貸出期間延長といった機能を24時間提供できるようになったのである。
 このように、24時間稼動する第2の窓口をつくるという単純な発想から始まったホームページによるサービスであるが、これこそ光町立図書館の情報発信の原点であると言っても過言では無いだろう。

 
写真1 開設当初のホームページ

3.情報発信コンテンツの構築

 このホームページ(注2)での情報発信に係るコンテンツの構築に関しては、主に「図書館による町村ルネサンス L プラン21」(注3)及び「2005年の図書館像-地域電子図書館の実現に向けて-」(注4)を基本に図書館の利用者はどのようなサービスを要求しているのかという事を他の図書館のアンケート結果などを参考にしながら作成した。ここでの条件となったのは、如何に費用を掛けずに情報発信コンテンツを実現できるかという事であった。
 そこでまず、情報発信用のサーバを図書館内に配し、更新についての容量と安定性を確保した上で、情報発信の根幹部分となるホームページとメールマガジンを中心に構築し、さらにブログ(注5)を活用する事で情報更新の頻度と幅を広げる形を作った訳である。
 ここで気になるのはサービス提供の人的体制である。小人数なのでやむを得ないが、これらのサービスは職員1名で担当している。当に「自転車操業」の状況である。費用に関してはサーバのリース費用等(1年毎4,549千円(注6))、通信回線使用料(1年毎220千円)の他、職員の人件費となっている。
 このような条件下のサービス運営であるので、コンテンツの作成に関しては担当者が交代しても修正作業や更新が容易である事について特に配慮している。また、常時手作業で更新すべきコンテンツを極力減らし、その上で可能な限り頻繁に更新する事で、コンテンツの鮮度を保つような工夫もしている。

 
写真2 05年現在のホームページ

4.光町立図書館における情報発信の現在

 現在の当館における情報発信については、誰もが知りたいと思うような身近な情報を中心に、新刊図書、新着資料情報の提供などを行っている。前項でも触れたように、当館でのコンテンツ作成については情報の鮮度を保つ事を第一義としているので、概ね次の項目を更新の対象として考えている。

  ア メールマガジンの配信

写真3 メールマガジン
   メールマガジン(写真3)については、2000年6月に配信を開始し、それから2005年12月末日までの間473通を発行している。配信頻度は週1回で、内容は新刊書の刊行予定と新着資料案内が中心である。ほかにも、行事案内や図書館からのお知らせ、資料情報へのリンクなども掲載している。
 この配信を実施した事による効果の測定については、実績を窓口等での貸出や予約と分けることができないので困難であるが、配信前と配信後の年間予約数を比較するとほぼ2倍となっている事から、サービス全体に対しても相当の効果を及ぼしているのではないかと推測している。

  イ テーマによる所蔵リストの提供

 季節の出来事やニュース記事、図書館の行事などと関連した所蔵資料の情報提供、開始当初は利用に対して資料費が必ずしも潤沢では無いという現状を鑑み、できるだけ購入した資料を有効に活用するための手段として考えたのだが、現在ではこれが光町立図書館の情報発信の中心となっている。(写真4)
 しくみは簡単で、予めキーワードを設定した検索用スクリプトを含んだ HTML を作成し、ホームページ(写真例ではトップページ)からリンクを張ることで表示するものであり、例えばホームページ上の「盲導犬クイ-ル」というキーワードをクリックすると関連する所蔵資料の情報が表示されるようになっている。最近では多くの図書館ホームページ上で目にすることができるコンテンツである。
 
写真4 テーマによる所蔵リスト表示

  ウ 最新の話題へのリンク

 「地域の情報拠点」という機能を実現するための最大の課題は、最新の話題についての情報要求に対応し得るコンテンツの作成であると考えている。そのような情報要求に応えるために作成しているのが最新の話題にリンクした情報を提供するための「生活に役立つ情報」(注7)というページであり、その中でも身近な話題への「パスファインダー」として作成したのが「生活に必要な本と情報源リンク」(注8)のページ(写真5)である。

写真5 生活に必要な本と情報源リンク
   本来の目的からすれば、これらのコンテンツ作成はニュース速報のような機動的対応が要求されるのであるが、実際のところはホームページの更新はそのセキュリティ対応から館内での作業が基本となるため、例えば深夜に配信されたニュースに対応する事はほぼ不可能である。その辺りを補うため、後述する「ブログ」の活用も現在取り入れながらサービスを展開している。

 この他にも、ホームページ上での情報発信と、それに対して予約やレファレンスという形で図書館側にアクセスする手段としての窓口も設置している。

写真6 予約フォーム
 

 これまでのサービスでは、情報を一方的に提供するばかりという感が多分にあったのだが、できるだけ現物資料にアクセスし易い環境を整えたいと考え、利用したい資料があった時に個人を識別できる最低限の情報を入力すれば予約の申し込みが可能なフォーム(写真6)などを用意することで、利用者に対し手間をかけさせないような運営を基本にホームページ上のコンテンツを含めたサービス全体を構築している。このような形で選択肢を多数準備した事による利用者の反応は、メールマガジンの返信率(配信数の約20パーセント)、フォームを利用した予約件数(月当たり平均120件)、検索システムからの予約(月当たり平均500件)などの数値の中にはっきりと現れている。

 しかし、情報発信をする上での課題も多い。例えば情報源を探すための作業についてはすべて手作業となるため、作業にかかる職員の時間的余裕が無いという事、また職員の研修やコンテンツ作成、利用者への対応のマニュアル化など、仕事の組織化も十分ではない。このように問題点の方が多いという現状ではあるが、これまで町村立の予算規模ではレファレンス業務に重点を置こうとしても、レファレンスツールとなる図書の充実や新聞記事などの重用されている有料データベースの導入は困難で、どちらかと言うと貸出中心の運営と見られている状況にあった。そのような条件下ではあったが、当館は予算が少なくともこれだけのサービスが提供できるという可能性を示すものとしてのサービスを構築してきたのである。現在は、小規模図書館でも可能であるサービス形態の「情報発信」が少しずつ成果を示しつつある時期であると言えよう。

5.これからの方向性と目標

 より身近な存在の情報発信基地となるための取り組みとして、以前はホームページ上に掲示板のプログラムを利用した、レファレンスの受付窓口や利用者との双方向コミュニケーションを目指したコンテンツを用意していた。しかし、当初意図しなかった書き込みが多かったため止む無く閉鎖したという経緯があった。
 そこで、いま当館で活用を進めているのが「ブログ」のシステムである。現在は試行的時期でもあるので、無料のブログサービスの中で広告の自動挿入がないものを選択して利用しているが、図書館内だけでなく必要な時に何時でも何所でも情報を発信できる手段としての利用価値はかなり大きいと考えている。
 
写真7 マロニエの花咲く光町立図書館blog

 図書館のブログ(注9)については2004年10月に開設し、主に行事案内と本の紹介などに利用している。また、気象に関する情報源へのリンクやインフルエンザの流行についての情報源へのリンクを張った記事など、特に誰もが気にするような情報源を紹介する形での運用をするといった試行錯誤を繰り返しながら、このシステムの利用範囲の広さを検証している。またデザインの変更なども従来のHTMLによるホームページよりも容易である事や、コメント、トラックバック(注10)の機能を利用すれば、双方向のコミュニケーションも可能である事から、将来はブログのソフトウェアを導入した図書館ホームページ運営も視野に入れて検討している。
 また可能性の話ではあるが、ブログと資料検索とが連動した形で、資料に対する書評を利用者が自由に書き込み、掲載する事ができれば、図書館の情報発信に加えデータベースの価値をも向上させる事につながるのではないかと考えている。
 このような、数々のサービス向上目的の取り組みの先鋒としてのホームページによる情報発信であるが、図書館費が削減され、また資料費も削減されるという情勢では、多くの図書館はサービスを拡大するという事にどうしても積極的になれないような空気があると感じる。しかし、こういう情勢だからこそ、逆に積極的な情報発信をすることで、図書館自体が地域にとって必要不可欠な施設として認識されるのではないか、むしろ情報発信をする事で貸出を超えた新しい図書館へと進化しなければならないという思いを以って、これからもホームページを軸とした「地域の情報拠点」としての図書館運営をしていきたいと考えている。

(注1) Internet service providerga
(注2) 光町立図書館ホームページ
<http://www.library.hikari.chiba.jp/>(※光町立図書館ホームページへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日)
(注3) 図書館による町村ルネサンス L プラン2121世紀の町村図書館振興をめざす政策提言(日本図書館協会町村図書館活動推進委員会編)2001年7月
(注4) 2005年の図書館像 地域電子図書館の実現に向けて地域電子図書館の実現に向けて
(地域電子図書館構想検討協力者会議編)2000年12月
(注5) 個人や数人のグループで運営され、日々更新される日記的なWebサイトの総称
(注6) コンピュータシステム全体の費用
(注7) 生活に役立つ情報ページ
<http://www.library.hikari.chiba.jp/sqr/seikatu_top.html>(※生活に役立つ情報ページへリンク)
(最終閲覧日2006年1月2日(注5)
(注8)  生活に必要な本と情報源リンク
<http://www.library.hikari.chiba.jp/sqr/seikatubook.html>(※生活に必要な本と情報源リンクへリンク)
(最終閲覧日2006年1月25日)
(注9)  マロニエの花咲く光町立図書館blog
<http://blog.goo.ne.jp/hikari_library>(※マロニエの花咲く光町立図書館blogへリンク)(最終閲覧日2006年1月25日)
(注10) 別のウェブログへリンクを張った際に、リンク先の相手に対してリンクを張ったことを通知する仕組み。


 

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