第5章 1本研究会の目的の達成状況と今後の課題

1. 本研究会の目的の達成状況と今後の課題
 本報告書は、地域において取り組むことが望ましい課題の解決を支援するという観点から、公共図書館を取り巻く現状を踏まえつつ、第4章にて詳述した「情報連携システム」をモデル的に実行することによって、地域において取り組むことが望ましい課題の解決を支援するという観点から、新たな図書館像の具体化を目指したものである。これにより、公共図書館が地域に求められる良質な公共サービスを提供するためのハブとなり地域コミュニティ全体を活性化していくことを期待するものである。
 これからも、技術の進歩や構造改革の動向、個人の価値観の変化等に対応しながら、より一層、「いい図書館づくり」に励むことが必要であるが、今回の提言も踏まえ、今後、公共図書館の在り方に大きな影響を及ぼしそうな動きを以下に掲げてみることとした。

1 公立図書館の設置者である地方公共団体を巡る動き
地方分権、市町村合併、地方財政の悪化、電子自治体の推進といった地方公共団体を取り巻く最近の動きは、今回の調査研究の背景にあるものであるが、今後もこの方向での進展は地方公共団体を取り巻く環境に一層の変化をもたらすことが予測される。
このような状況の変化を受けて、公立図書館の在り方は、大きな見直しの対象となっている。これまで、公立図書館の整備は、それぞれの地方公共団体においてその住民のための、独立の施策として進められてきた。しかしながら、現実の問題として、市町村合併により一つの市町村に複数の公立図書館が並存する事態が起こり調整の必要性が生じていることや、地方行政の情報基盤の整備を受けて公立図書館についても広域的なサービスの提供の可能性が広がっていること、また、広域的なネットワークの中でそれぞれの公立図書館が機能を分担することによって限られた財源のなかでサービスをより効率的かつ効果的に提供できることが、今後の公立図書館の在り方に大きな影響を及ぼすと考えられる。
実際にも、広域の公立図書館において横断検索を可能とすること等ネットワークを利用した電子的な取組は始められており、また、物理的な流通網を整備することによって広域的な貸出サービスを提供することも珍しくはなくなってきている。更には、レファレンス・サービスや貸出サービスにおける公立図書館間における機能分化を進め、その機能を前提としたそれぞれの公立図書館におけるサービス提供の在り方の見直しを進めている東京都の取組例もある。
このように、公立図書館の設置者である地方公共団体の側において、その在り方の見直しを進める必要性が高まっていることは、技術的要因の進歩と相まって、今後とも、公立図書館の在り方を見直す大きな推進力となると考えられる。
また、電子自治体の提供基盤となる地域公共ネットワークの整備は現在進行中であり、すでに整備の終わった地方公共団体においてもレガシーシステムの切り替えが中心であるので、新たな公共アプリケーションの開発はあまり進んでいない状況にある。しかし、今後は、多大なネットワーク投資に見合う充分な効果が求められることとなり、ネットワークを利用した教育、医療等さまざまな分野において地域公共ネットワークの活用が進められることになると考えられ、その一環として公立図書館のサービスの向上も重要な課題の一つになると考えられる。

2 ユビキタス・ネットワーク社会への対応
総務省「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」における最終報告書「u-Japan政策-2010年ユビキタスネット社会の実現に向けて-」では、u-Japan政策の「基本思想」の一つとして「情報化促進から課題解決へ」との項目が盛り込まれ、取組課題は情報化におけるインフラ整備から、課題解決のためのツールとしてのインフラの利活用へと歩が進められた。その具体的な将来課題として、「個性ある活力が湧き上がる」に資するものとして「生涯学習の普及」が取り上げられており、地方情報化の取組と歩調を合わせた生涯学習の振興が重視されている。これは本研究会の目指したところとも軌を一にするものである。
情報ネットワークの一層の高速化が進展し、ネットワークへの多様なアクセスや大容量アプリケーションの利用が可能となる「ユビキタス・ネットワーク社会」においては、公共図書館サービスの利用方法は多様化し、蔵書を始めとする情報資産は地域のものを始めとして様々な情報源からネットワークを通じて集められ、集められた情報資産は電子化または電子的に管理され、そうした情報資産を活用したレファレンス・サービスはより高度化することが求められる。
こうした公共図書館サービス自体の高度化に加え、ネットワークの利用が日常生活に自然な形で溶け込むこととなるユビキタス社会においては、例えば、デジタルテレビの画面上に表示されている地域の新聞記事に含まれるキーワードを検索すると、それが公共図書館のデータベースにつながり、内容に関する詳しい情報や関連情報が提示される等、公共図書館を利用していることを意識しないような公共図書館の利用方法も実現されるかもしれない。また、例えば、公共図書館のサービスと病院のサービスが融合し、ある病気と診断された人には、公共図書館の情報資産から医学書や医療データベースの該当部分が自動的に参照され、薬とともに渡されるといったような、公共図書館サービスと他の公共サービスが連携・融合したようなサービスの提供も可能となるかもしれない。
このように、ユビキタス環境において可能となる新しい公共サービスの在り方が、公共図書館のサービスの在り方にも大きな影響を及ぼすと考えられる。

3 デジタル化への対応
今後想定される公共図書館のアナログからデジタル化への進展は、公共図書館の情報資産の在り方や、その管理方法に多大な影響を及ぼすと想定される。すなわち、電子図書館サービスと従来の人や紙を介した物理的図書館サービスが両立するハイブリッド図書館が構築された場合、分散した情報環境の中においても、様々な情報資産を迅速・的確に提供する公共図書館の在り方が必要となる。なお、国家レベルの電子図書館構想は、国立国会図書館においても取組が進められており注釈49、大学図書館においては、所蔵する資料等の特色を生かした電子図書館サービスが進められている。
例えば、今後、出版される図書や定期刊行物は当初から電子資料の形態で流布していくものも想定される。現在、公共図書館は、それぞれ、一定の予算枠の中で図書の選定と購入という選書業務を行っているが、出版資料の電子化によって、利用頻度に応じた複本購入の必要性は薄くなるものと考えられる。また、著作権の問題は残るが、複数の公共図書館による電子書籍(eBook、電子本)・電子ジャーナルの共同購入の形式が進められる可能性もある注釈50
今後、公共図書館の公共性に照らして、適正な価格で適正に電子書籍の購入・利用ができるように、公共図書館全体の取組として、標準的な電子書籍・電子ジャーナルの購入形態や契約モデルを検討する必要性があると言える。
地域においても、現在、施設としての公共図書館が全国各地に隈なく立地しているわけではなく、公共図書館がまだ設置されていない自治体があったり、設置自治体であってもすべての地域住民が公共図書館のサービスを手軽に利用できていなかったりするわけであるから、電子図書館サービスによって既存の公共図書館のサービスを拡充する需要は大きいと言える。
今後、電子図書館が既存の伝統的な図書館に取って代わることは想定し難いが、各地域の実情に応じ、既存の公共図書館を核としながら公共図書館の電子化を進めることによって、より公共図書館の機能を充実させることが期待されている。その前提として、電子的な図書館におけるサービス体系やシステム化の手続等を検討する必要が生じている。

4 知的財産権の問題
公共図書館のデジタル化や、本研究会においても検討した地域における経済的、文化的活動のアーカイブ化等による情報資産化は、ICTにより可能となるそれらのさまざまな利用方法と相まって、公共図書館における新たな著作権の問題を提起することが考えられる。
こうした問題を含め、新たな時代に対応した知的財産の利用について指導的な役割を果たしていく公共図書館の在り方について検討する必要がある。
また、ICTの活用能力や知的財産権に関わる知識等、新たに司書に求められるスキルや知識の在り方について検討が必要である。

注釈49 国立国会図書館電子図書館中期計画2004においては、これまでの同図書館所蔵資料を中心としたデジタルアーカイブ化とウェブアーカイビングの推進に加えて、「日本のデジタル・アーカイブ・ポータル」(仮称)と呼ぶウェブ上の資料・情報検索のためのゲートウェイ構築を指摘している。
注釈50 電子書籍の導入事例として、国内では北海道岩見沢市立図書館・石川県いしかわシティカレッジデジタルライブラリー、海外では英国におけるリットモンド公共図書館・エセックス公共図書館等がある。(出典:カレントアウェアネスMo.280平成16年6月20日/国立国会図書館)

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