第5章 ボランティア活動における社会的気運醸成に向けたプロモーション手法

  ボランティア活動を促進するという問題意識の下、本調査では社会的気運醸成に向けたプロモーション手法の析出に着目している。しかしながら、プロモーション戦略によって高まったボランティアへの社会的気運を実際のボランティア活動へと顕在化・定着させるには、プロモーション活動と、これを受け止める地域での体制とを両輪として整備していく必要がある。
本章では、子育ての分野を地域でのボランティア活動促進のパイロットケースと位置付けることとし、体験活動ボランティア活動支援センターを中心とした主に子育ての分野でのボランティア活動を促進する体制について検討し、次にこの体制の下で展開すべきプロモーション戦略について整理する。なお、子育ての分野をパイロットケースとして位置付けた理由は、地域住民の大半が現在あるいは将来、親という立場で直面する人生設計上の課題でもあることから、所属集団や地域への居住年数などによらず住民の間に課題認識が共有されていると考えられ、従って高い参加意識が期待でき、意見の対立が比較的少ないと考えられるためである。

5‐1 体験活動ボランティア活動支援センターを中心とする地域支援体制の構築

(1)気軽にボランティア活動に参加できるための情報提供の充実

  アンケート調査の結果では、ボランティア活動への円滑な参加を促すために、一般の地域住民は「自分に適したボランティア活動に関する情報が手軽に収集できる」、「研修や試行体験の場を気軽に提供してくれる」といったサービスの充実を求めていた。情報提供方法・内容の改善は、現状の体験活動ボランティア活動支援センターにおいて比較的取り組みやすい課題である。住民がボランティア活動に気軽に参加できるための情報提供のあり方として、以下のような取り組みが考えられる。

1.「自分に適したボランティア活動に関する情報が手軽に収集できる」ことに対応した情報提供のあり方

1.きめ細かな情報提供

  この課題への対応として、調査結果を踏まえると、媒体としては、前者の「手軽な情報収集」では、ホームページ上での様々なボランティア活動情報の提供や大型店舗等での紙媒体での設置等、新しいメディアと古いメディア双方からの取り組みが求められる。また、その提供方法についても、ホームページや各種施設への掲示など、“見にきてもらう”形式の情報提供だけではなく、電子メールの利用や、広報誌、ボランティアに関するPR・説明会の開催など、センターの側から住民に積極的に届けられるメディアでの情報提供が必要である。

2.ミスマッチを防ぐ情報内容の検討

  特に自分が参加するボランティア活動の内容について比較検討する段階では、ボランティアの分野だけでなく、参加者に求める経験や技量、参加形態(短期でもOKか否か等)など詳細な情報が必要になる。この条件が合致しなければ、意欲はあっても参加にはつながらないことや一度参加しても続かないことが予想される。従って、ボランティアに参加する側とボランティアを受け入れる側でのミスマッチを防ぐため、条件などは詳細に情報提供する必要がある。また、既にボランティアに参加した方の活動内容や感想などを情報提供することも有効である。

2.「研修や試行体験の場を気軽に提供してくれる」ことに対応した情報提供のあり方

1.新しいプロモートの仕組みの構築

  ボランティアのスキルアップのためのフローチャートづくりや研修の場の提供など、新しいガイダンスの仕組みづくりが求められている。ボランティア活動の内容によっては一般住民の方も対象にした研修を試行体験の場として活用していくことも有効である。
  また、モデル会社や学校、モデル団体等、ボランティア活動の楽しさや充実度合いを情報発信していくことも重要である。

(2)学校を「協働の広場」と位置付けた地域ボランティアの促進

  先に述べた通り、「子育て」は個人、保護者、地域団体、NPOなど様々な地域の存在にとって共感・協力を得やすいテーマであり、また学校教育の諸活動はボランティア活動の場を生産しやすいこと、体験活動ボランティア活動支援センターにおいて連携の実績があること、などの点を踏まえ、学校をボランティアのフィールドと位置付け、様々な地域の存在を巻き込んだ地域ボランティアの体制を構築することが有効だと考えられる。
  学校を今まで以上に巻き込んで、地域と学校ともにメリットが生じるようにしていくためには、特に以下の点が重要と考えられる。

1 学校側の負担の軽減

  現状において、学校をフィールドとするボランティアを促進する上では学校、教師の負担の大きいことが課題となっている。学校ボランティアへの先進的な取り組み事例(参考欄参照)においても、行政がボランティア登録を受け付けて学校にリストを配付するという事例(木更津市)のように教師の負担軽減を図る事例が見られている。そして、これら成功事例の背景には学校とNPOなど地域とが信頼関係を構築できたことが条件といえる。
  これらの教訓を参考に、体験活動ボランティア活動支援センターを、ボランティアと学校を結ぶコーディネーターとしての役割を果たす存在と位置付け、学校での総合学習、課外活動、放課後などの機会に対して、体験活動ボランティア活動支援センターが、どのようなボランティアの参加が行ないうるかを咀嚼し、各種団体や個人に情報発信、協力の呼びかけを行なうことが想定される。さらにこれらの活動に関心があり、学校と信頼関係が構築できるNPO等の情報を体験活動ボランティア活動支援センターが整理し、学校に利用しやすい形式で提供していくことが必要である。

2 学校との連携

  学校が総合学習などの機会に地域の資源や人材を活用したり、逆に地域が学校を支援する上で、相互理解が不可欠である。しかしながら、現状では公立学校の教員は転勤があることもあり地域の実情を必ずしも把握していないことも考えられ、一方で地域も学校の活動については必ずしも把握していない。
  このため、コーディネーター機能を果たす体験活動ボランティア活動支援センターにおいては、学校と連携を十分にとって各学校で発生するボランティアニーズを前もって把握できることが望ましい。
  またこれに関連して、体験活動ボランティア活動支援センターを学校の余裕教室などに設置することで、地理的にも学校との近接性を高め、学校と地域の連携を促進していくことも有効だと考えられる。

図表 5_1 学校を中心とした地域ボランティア促進イメージ

図表 5_1 学校を中心とした地域ボランティア促進イメージ

参考: 学校ボランティアへの先進的な取り組み事例

【事例1】杉並区による「学校教育コーディネーター制度」

制度の概要   地域との連携による開かれた学校を目指し、地域と学校の掛け橋の役割を担う「学校教育コーディネーター」を学校に配置する制度。平成14年度より始まった。
活動内容   学校と地域とを結びつけるコーディネート活動を通して、地域から学校教育活動を支援していく。コーディネーターは、総合的な学習の時間や土曜学校の授業内容について教師と相談し、企画提案や講師探し、連絡調整、実施サポートなどを行う。また、企業や地域の教育ボランティアに関する情報を学校へ提供したり、各種講座の実施、コーディネーター人材育成等の諸活動を行う。
体制面の特徴   同制度は杉並区教育改革アクションプラン※により採択され、現在、区内4つの中学校区に6名程のコーディネーターが配置されている。NPO法人「スクール・アドバイス・ネットワーク」が区から委託を受けコーディネーター活動を行っている。学校内にコーディネータールームを設置し、事務局とする。多忙な教師をサポートするとともに学校と社会の接点をつくるという視点から地域や企業との橋渡しを担う。

※青少年の教育推進や区民の生涯学習・スポーツ活動の振興等を目的とし区教育委員会が平成14年に策定した教育改革案。

図表 5_2 杉並区「学校教育コーディネーター制度」の流れのイメージ

図表 5_2 杉並区「学校教育コーディネーター制度」の流れのイメージ

【事例2】三鷹市立第四小学校による「教育ボランティア制度」

制度の概要   学校を家庭や地域と連携した「参画型コミュニティー・スクール」にすることを目指し、教育ボランティアに学校教育に参画してもらう制度。平成11年度に同校校長のリーダーシップの下に始まった。
活動内容   「コミュニティー・ティーチャー」(CT―総合的な学習の時間への支援)、「学習アドバイザー」(SA―学校の授業のアシスタント)、「きらめきボランティア」(自主クラブ活動の運営者)の三分野に分けて専門家や保護者、地域の人々による教育ボランティアを募集し、活用する。
体制面の特徴   年度初めに学校は教育ボランティアを募集する。SAに関しては、担任がそれぞれの授業設計に合わせ個別に募集やスケジュールの調整を行う。学校内にはボランティアスタッフのためのパソコンや作業台を備えたスタッフルームが設置されている。平成15年、制度を永続化するために「夢育支援ネットワーク」としてNPO法人化し、教育ボランティアの横のつながりを組織化した。子どもを中心に地域、保護者、学校が一体となり協働で子育てをすることに主眼を置く。
図表 5_3 三鷹市立第四小学校「教育ボランティア制度」の流れのイメージ

図表 5_3 三鷹市立第四小学校「教育ボランティア制度」の流れのイメージ

【事例3】木更津市による「学校支援ボランティア活動推進事業」

事業の概要   保護者及び地域の人材を学校支援ボランティアとして募集登録、学校を支援する活動を推進する事業。学校教育に地域の教育力を生かし学校の活性化をはかることをねらいとする。平成10年より開始された。
活動内容   「環境整備支援」(草取り、窓ガラス拭き、教具作り、図書整理など)、「教育活動支援」(授業で教師のサポート、交通安全指導、クラブ活動指導など)の二分野に分けてボランティアを募集。地域の人が誰でも気軽に参加できることを強調するため、環境整備支援にやや重点を置く。
体制面の特徴   市教育委員会が中心となり、ボランティアのとりまとめを行う。具体的には、ボランティアの募集、ボランティア活動保険加入手続き、ボランティアへの謝礼配付(市共通商品券)等。学校は市から渡された登録スタッフリストに基づき各ボランティアに活動内容を割り当て、依頼する。ボランティアは学校からの依頼内容により活動にあたる。木更津市ではこの事業を公助(教育委員会の分掌)、自助(学校の分掌)、互助(ボランティアの人の分掌)に峻別した上で、あくまで学校が主体であり、ボランティアはサポート役に徹するという位置付けを明確にしている。市教委管下の全小中学校を対象に取り組んでいる。
図表 5_4 木更津市「学校支援ボランティア活動推進事業」の流れのイメージ

図表 5_4 木更津市「学校支援ボランティア活動推進事業」の流れのイメージ

(3)企業との関係形成

  企業のボランティア活動を促進することにより、従業員を通じて地域社会におけるボランティア活動の活発化につながる可能性がある。また取り組みに熱心な企業でも、自らのボランティア活動を広く地域展開する上で、NPOやコーディネート機関とのつながりを求めている傾向がある。
  これを踏まえ、上記の体制を企業に対する関係を強化し、例えば体験活動ボランティア活動支援センターで行なっているボランティアコーディネーター養成事業を企業に向けても公開することが考えられる。これにより、各職場に実践者、とりわけリーダーとなりうる人材を生み出してそこから周囲の従業員に波及させていくことが期待される。
  同時に、上に挙げた学校を中心とするボランティアへの参加を促すためにも、各種地域ボランティア活動の情報提供を企業に行なうと共に、企業の貢献を住民に対して情報発信を行なう。これらを通じて「地域に貢献する企業」を地域の側から支援することにより、企業が地域に定着することの一助になると期待される。

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課

-- 登録:平成21年以前 --