本章では、他の社会的課題において気運醸成のために行われているプロモーション活動を紹介し、ボランティアの気運醸成において参考となる点を抽出した。
対象とした活動内容と、選定のポイントは以下の通りである。
活動の内容 | 実施主体 | 選定のポイント | |
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1 | 「環のくらし」におけるCO2排出量削減活動の普及・啓発活動 | 環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 国民生活対策室 |
マスコミを通じた普及・啓発活動 |
2 | 「21世紀における国民健康づくり運動」におけるヘルスプロモーション | 財団法人 健康・体力づくり 事業財団 |
イベントの実施を通じた普及・啓発活動 |
3 | 「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づいた普及・啓発活動 | 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 |
普及啓発活動の中間主体(企業)を対象とした施策 |
京都議定書において日本は6パーセントのシー オー ツー等温室効果ガス削減を求められることとなり、そのうち2パーセントは民生部門で担うことが求められている。国民生活対策室での活動はその部分に寄与することを目指したものであり、一般国民を対象とした取り組みを行っている。
温暖化は、公害病などと異なり加害者、被害者の別はない。また国民全員が施策の対象となりえるため、ターゲットは空間的にも属性的にも非常に広く分布しており、特定の人間や分野に対して集中的に対策を施せば結果が得られるものではないという特徴がある。
従来の環境省におけるプロモーション活動は、パンフレットを4~5万部刷り、都道府県を通じて市町村に展開、配付、といったものであった。この手法では、興味のない人にはまったく情報を伝えることができず、広く国民に伝える効果はあまり得られなかった。
そこで国民生活対策室ではCO2の削減を目指すにあたり、一般国民に対してはどのように訴えるべきかを検討するため、様々な機関、企業等(興味深い取り組みを行っている自治体、NGO、企業、広告代理店、雑誌編集関係、新聞社 等)から情報収集を行った。その結果、世代・属性によって情報を得る手段が大きく異なるため、単一の施策では国民全体にまんべんなく効果を及ぼすことは無理であるということがわかり、効果的なプロモーションを行うために、対象となる世代・属性を決め、それぞれに適したタイミングと内容でプロモーション活動を行うこととした。
上記のような課題・方針を踏まえ、国民生活対策室で行った施策は以下のようなものである。問題点・方針・具体的施策の対応関係を下表に示す。また、施策と予算、波及効果との関連等を図表 4_2に示す。
出所:国民生活対策室に対するヒアリング結果から三井情報開発作成
出所:国民生活対策室に対するヒアリング結果から三井情報開発作成
最初に、様々な属性の方々から話を聞く、また情報発信をしていく場として「環の国くらし会議」を立ち上げた。国が立ち上げる会議、フォーラム等では、有識者がメンバーのほとんどを占めることが多く、会議がマスコミに露出しても一般国民の目を引く記事になりにくい。そこで、会議がスポーツ新聞にも掲載されるくらいの親近感を持たせるべく、スポーツ選手や芸能人からもメンバーを選出した。メンバーは様々な属性から選出したが、共通している条件は自分の言葉で情報発信をする能力がある、発信するルート・機会を有しているということである。
大場 啓二(世田谷区長) | 大平 光代(弁護士) |
小澤 普照(森林塾主宰) | 潮谷 義子(熊本県知事) |
伊達 公子(テニスプレーヤー) | 立松 和平(作家) |
辻 信一(明治学院大学教授、NGO「ナマケモノ倶楽部」世話人) | 寺田 千代乃(アートコーポレーション株式会社代表取締役社長) |
長島 亜希子(主婦) | 西田 ひかる(俳優・歌手) |
平野 次郎(学習院女子大学特別専任教授) | 広瀬 久美子(アナウンサー/エッセイスト) |
宗国 旨英(本田技研工業株式会社代表取締役会長) | 森下 洋一(松下電器産業株式会社代表取締役会長) |
山本 良一(東京大学教授) | 養老 孟司(北里大学教授) |
出所:環境省Webサイト(http://www.wanokurashi.ne.jp/work/kaigi/hon/member.html)
「環の国くらし会議」には4つの分科会も設け、具体的な対策についての検討を行う場とした。分科会のメンバーは各分野の専門家を中心としている。
平成15年10月、石油特別会計から補助金を受け、全国数十箇所の地方自治体に上限2,000万の定額補助を行った。行う事業については細かくは限定しなかったが、従来のパンフレット型の施策はやめ、新聞、テレビ、ラジオなどマスメディアを通した施策をできるだけ行うようにお願いした。例えば中四国の8県市では共同で地方局向けのテレビコマーシャルを作成した。このコマーシャルが朝日新聞全国版のコラムに取り上げられ、話題となった。
東京タワーや大阪の通天閣など、夜間にライトアップを行っている観光スポットに省エネを訴えるために夏至の日の夜2時間だけライトを消灯してもらうようにお願いした。あちこちの施設で同時に2時間ライトが消されるというイベントが話題となり、全国の新聞、テレビ、ラジオで掲載・放送された。
このように多くの予算をかけなくともマスコミに取り上げられれば、「気づき」を伝える大きな効果が得られると考えている。
若い主婦を主なターゲットに想定した「環のくらし応援Book」を作成し、人気雑誌のはさみ込み付録として配付した。内容は省エネ型製品のカタログであり、商品名や他製品との電気代の違いなど、具体性に富む内容とした。
分科会のメンバーであった音楽業界の関係者を通じて10代に人気のアーティストを巻き込みイベントをライブハウスで行った。また、円谷プロダクションに「温暖化怪獣」が登場する「ウルトラマン」の台本の作成をお願いし、地方講演を行うなどした。
ライブハウスのイベントには中高生を中心とした10代の若者、ウルトラマンのイベントには小さい子供連れの若い親が多く訪れ、いずれも満員であった。これらは事前の告知では「環境」という言葉は前面に出さず、従来の無関心層をひきつけることに成功した。
イベントを実施するにあたっては、開催地域についてメーカーで言うところの市場調査に該当する調査を行い、どのような年齢層、家族構成の住人が多いかなどを調査する。その結果を踏まえて広報活動を行うようにしている。
「シンポジウム」などと銘打つと、国民には堅苦しいイメージをもたれてしまい、もともと興味のない人をひきつけるのは難しい。時と場合に併せてくだけた形でのイベントも行うようにしている。
イベントの開催地となった自治体には、イベントの前後で住民にアンケートをとり、どの程度意識や行動が改善されたかについて調査を行うようにお願いをしているが、効果については定量的に把握できていない部分が多い。
図表 4_4は「環のくらし」におけるプロモーション手法をAIDMAと対応させて整理したものである。各段階に対応する様々な施策が講じられているが、特にマスメディアへの露出を狙った各施策はこれまでの官公庁にはあまり見られなかったものであり、特徴的であるといえる。
AIDMA | 狙い | 参考となるプロモーション手法例 | 備考 |
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認知 | 認知の拡大 |
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“スポーツ新聞にも取り上げられるくらい”身近なメンバーを選出 |
ブランド化と浸透 |
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各界の著名人から応援団を選出 (例:モーニング娘。) |
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興味・関心 | マスメディアへの露出 |
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・数億円分の広告効果あり |
住民の日常生活の場への情報発信 |
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ニーズ情報の提供 |
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活動内容の具体化 | 具体的な検討をサポートする情報提供 |
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体験機会の拡充 |
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出所:国民生活対策室へのヒアリング結果から三井情報開発作成
生涯学習政策局社会教育課
-- 登録:平成21年以前 --