第1章 調査の概要

1‐1 調査の目的

  現在、世界中で多くの人々がボランティア活動を活発に行っている。ボランティア活動の範囲は自国内、国外を問わず、分野も福祉、教育、環境、開発及び人権擁護等多岐に渡っており、今やボランティア活動は社会を支える不可欠の存在として認められてきている。
  我が国においても、1995年の阪神・淡路大震災の時に全国から集まった多くのボランティアが活躍し、それを契機に国民のボランティア活動に対する関心は大きく高まってきたが、その一方で、「時間に余裕のある人がやるもの、自己犠牲をともなうもの」というイメージも根強く残っているのが実態といえる。これは、ボランティア活動が「団体に参加して行なうもの」というように限定的に捉えられる傾向があることも一因と考えられる。
  稲作の伝統をもつ我が国において、本来地域社会での相互扶助意識は日常的に行なわれてきたものであり現代人の中にもその精神自体は受け継がれている。他方、価値観の多様化した現代においては、生涯学習活動や趣味活動、職業生活で培った技能などを社会に還元する活動を行なう人も多く、「ボランティア活動」という意識を持たないだけで、自発的な社会への貢献活動の潜在意識は決して少なくないものと考えられる。
  この潜在意識を顕在化し、ボランティア活動をより一層活性化するためには、ボランティア活動が、巷間捉えられているものより多様であることを訴求するとともに、一人一人がボランティア活動を身近なものとして捉え日常生活の一部として継続的に取り組んでいくような社会的気運が醸成される必要がある。
  また、社会的気運を醸成するという国民意識に訴える活動の一方で、個々人ボランティア活動を支える体制づくりを両輪として進めていく必要がある。文部科学省では、ボランティア活動の活性化に向けて、2002年度から3年計画で全国的に推進体制の整備を進めている。現在、国の機関として「全国体験活動ボランティア活動総合推進センター」、全都道府県及び全国の約半数の市町村に「体験活動ボランティア活動支援センター(以下、「支援センター」)」が設置され、ボランティア活動に関する情報収集・提供等を行っている。しかしながら、この支援センターがより有効に活用されるためには、ボランティア活動そのものの社会的気運をより醸成していくとともに、類似の組織にはないセンター固有の役割をより明確化し、提示していく必要がある。
  これらの点を踏まえ、本調査では、支援センターを中心とする地域でのボランティア活動の支援体制のありかたを検討した上で、そこで供給されるボランティア活動に国民が積極的に参加するよう、国民の興味・関心を高め参加への社会的気運を醸成するための効果的な手法を明らかにし、今後の取り組みの指針とすることを目的とする。

1‐2 調査の視点

(1)マーケティング戦略を援用した効果的な社会的プロモーション戦略の検討

  本調査では「ボランティア活動を促進する社会的気運の醸成」を、「住民がボランティア活動に興味関心を抱き、行動を起こすに至る意思決定の段階的プロセスを促進するための、一連のプロモーション活動」として捉える。この「意思決定の段階的プロセス」は、AIDMA(アイドマ)の法則1として知られる、マーケティング戦略上の概念であり、「気づき」から「行動」までの5段階がある。
  本調査でもこの枠組みを援用し、一つの段階を次の段階に移行させるための、効果的な社会的プロモーション手法の在り方について検討する。

  1 AIDMAとは、Attention(気づき)、Interest(関心)、Desire(要求)、Memory(記憶)、Action(行動)の頭文字をとったもの。詳細は2‐2‐1(P.12)を参照。

(2)体験活動ボランティア活動支援センターを中心とした地域体制の在り方の検討

  一般に、国民が社会的行動を行うかどうかについては、企業や学校、自治会、趣味のサークルなどその人が日常的に所属している集団(中間集団)に実践者がいたり勧められたりするかどうかが大きく影響すると考えられ、ボランティア活動も同様だと考えられる。
  従って、ボランティア活動へのプロモーションを考えるに当たっては、国民一般へのプロモーションのみならず中間集団へのプロモーションも重要と考える。
  本調査では、企業や地域での従業員・地域住民に対するボランティアの取り組みの支援について先進事例をレビューする。
  また、前述のとおり、文部科学省が整備を進めてきている「体験活動ボランティア活動支援センター」は地域でのボランティア活動の支援体制の中心としての役割が期待されるが、より住民に頼られる存在として認知され活用されるためには、既存機関の活動と差別化した、 固有の役割を果たす必要がある。
  本調査では、支援センターへのアンケートから、支援センターの活動の実態ならびに地域の期待する連携相手や問題点等を整理し、ボランティア活動促進に果たすべき固有の役割(ミッション)を明確化する。

(3)他分野における社会的気運醸成に向けたプロモーション事例からの要素抽出

  何らかの社会的課題に対し、広く一般住民の関心を高め実際の行動を促すようなプロモーションは、ボランティア活動以外の分野でも行われてきている。近年では環境や健康づくりなど、国民一人一人の行動変化が不可欠な課題に対してプロモーションが盛んになってきている。
  本調査では、「環境」「健康」「福祉」の3つの社会的な課題に対するプロモーションの既存事例を調査し、ボランティア活動に対するプロモーションに対する示唆を得る。

1‐3 調査フロー

  以上の調査の視点に基づき、調査は以下の手順で実施した。

図表1‐1 調査フロー

調査フロー

1‐4 調査体制

  本調査を進めるにあたり、ボランティア活動、NPO、社会的プロモーション等に関する有識者から構成される調査研究委員会を組織し、調査内容や方法、考察等に対し助言を受けながら調査を実施した。委員会メンバーとスケジュールは以下のとおりである。

  氏名 所属 役職
委員長 田中 雅文 日本女子大学人間社会学部教育学科 教授
委員 池田 克弘 交通ボランティア・ネットワーク 事務局長
小野打 恵 株式会社ヒューマンメディア 代表取締役社長
黒沼 迪子 長野県体験活動ボランティア活動支援センター コーディネーター
富永 一夫 特定非営利活動法人FUSION長池 理事長
事務局 樋口 健 三井情報開発株式会社総合研究所調査研究部 主任研究員
濱田 大器 三井情報開発株式会社総合研究所調査研究部 副主任研究員
傍島 久弥 三井情報開発株式会社総合研究所調査研究部 研究員
菅 正史 三井情報開発株式会社総合研究所調査研究部 研究助手
オブザーバー 高杉 良知 文部科学省生涯学習政策局 社会教育官
内山祐二郎 文部科学省生涯学習政策局社会教育課 ボランティア活動推進専門官
野沢 和也 文部科学省生涯学習政策局社会教育課 ボランティア活動推進専門官
市川 恵理 文部科学省生涯学習政策局社会教育課
  社会奉仕活動企画係
係長
毛利るみこ 文部科学省生涯学習政策局社会教育課
  社会奉仕活動企画係
係員

(委員は五十音順、敬称略)

議題
第1回
  • 調査研究計画について
  • ボランティア促進の現況と課題について
  • 住民アンケートの調査項目について
第2回
  • 住民アンケートの調査結果について
  • 支援センターアンケートの調査票案について
第3回
  • 支援センターアンケートの調査結果について
  • プロモーション手法について
第4回
  • 報告書案について

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課

-- 登録:平成21年以前 --