推進地域・推進校 【高等学校・農業体験に関わる体験活動】 「農業をとおして心豊かに」体験活動 高知県立幡多農業(はたのうぎょう)高等学校

学校の概要
  1. 学校規模
    • 学級数:12学級
    • 生徒数:424人
    • 教職員数:44人
    • 活動の対象学年:1年生・149人
  2. 体験活動の観点などからみた学校環境
    学校のある中村市は県西部に位置し,人口約3万人,昔から自然豊かな地域で,第一次産業を中心に栄えてきた。特に緑豊かな山や清流四万十川,そして黒潮流れる太平洋が身近にあり,本来自然と触れあう様々な体験の機会を多くもてる地域であるが,近年,子どもたちは日々の生活に追われ体験の機会が少なくなっている。
  3. 連絡先
体験活動の概要
  1. 活動のねらい
      本校の施設を活用し,高校生が地域の小中学校の児童・生徒の体験学習の指導や支援を行いながら交流を深め,豊かな人間性を育む。
      また,非農家出身の生徒が増加しているなかで,専門高校の学科の特色を生かし,学科の枠にとらわれない体験を通して,農業高校に学ぶ意義を考える。そして,学習意欲の向上や将来の進路選択に役立たせ,卒業後の生活が充実するような取り組みを行う。特に平素の学校生活や学習では学ぶことのできない体験に積極的に取り組む。
  2. 活動内容と教育課程上の位置付け
    • 農業体験活動 40時間
      「総合実習2」2単位
      「農業科学基礎」2単位
      「環境科学基礎」2単位
    • 社会体験活動 14時間
      「総合実習2」2単位
      「学校行事」 12時間
    • 校種を越えた交流活動
      「総合実習2」2単位

1 活動に関する学校の全体計画

(1)活動のねらい

  非農家出身の在学生が多くなり,農業高校で学ぶ意義やその魅力について第1学年で学ぶことは非常に重要である。そこで学科や教科にとらわれることなく生徒が興味関心を持って取り組むことができ,また継続的な内容とすることで,日々の高校生活が充実できるようにした。

  1. 動植物の飼育・栽培を通して広く人間教育を行う。
  2. 農業高校ならではの体験学習を学科を超えて行い,農業の魅力について学ぶ。
  3. 地域の小中学校の体験学習を支援したり,生産物対面販売を通して地域との交流を図ったりすることで,農業高校で学ぶ楽しさを感じる。
  4. 活動は継続的内容とし,参加生徒が達成感を感じることのできる体験とするなど,体験するなかで「生きる力」を育むことを目標とした。

(2)全体の指導計画

  • ア 農業体験活動
      第1学年で学習する「農業科学基礎」「環境科学基礎」の学習内容にあわせて体験することで,初めて学ぶ専門教科の学習に対する興味関心を育てる。
    1. 搾乳体験・・・「総合実習2」2単位(6時間)
      放課後,当番で飼育する乳牛の搾乳を行い,「食」や「命」についても考える。
    2. 野菜の作付け・管理・収穫・・・「農業科学基礎」2単位(18時間)
      作物の栽培から加工,試食までの一連の体験を通して,達成感を得る。
      (スイカの担当栽培,白菜の担当栽培と白菜の漬け物,大豆の栽培と豆腐の製造)
    3. 葉ボタンの栽培・・・「農業科学基礎」2単位(16時間)
      全員が一鉢ホームプロジェクトとして,家庭で家族と協力して葉ボタンを栽培し,文化祭で品評会を実施し,育てる喜びを体験する。
  • イ 社会体験活動
    学校外での体験や一般の方々との交流を通して,農業の魅力を感じ,日々の学習の必要性を考える。
    1. 見学・実習体験・・・「総合実習2」2単位(6時間)
      各科の学習内容に合った見学や実習体験を通して,日々の学習を充実させる。
      (契約栽培トマト温室の企業等・乳牛共進会・牧場等・木工所や菌床栽培施設等福祉施設等)
    2. 販売体験(はたのう市場)・・・「学校行事」(8時間)
      授業で生産した生産物を一般来校者に対面販売するこで,達成感や充実感を得,次の学習意欲につなげる。
  • ウ 校種を超えた交流活動・・・「総合実習2」2単位(12時間)
    1. 小中学生との交流(ボランティア活動)
      小中学生の体験学習の指導を高校生が行うことで「農業」や学校の理解を高める。
      具体的内容:搾乳体験・田植え・甘藷栽培・バター作り・家畜の世話・豆腐作り・巣箱作り・宿泊研修・シイタケ作り・環境学習・竹細工・木工細工等
    2. 大学生との交流
      本校出身の大学生の授業や講演などにより,充実した高校生活を送るための長期計画をたて,ライフプラン作成の参考にする。

2 活動の実際

  計画すべてがまだ完了していないが,次の点に留意し実施した。

(1)事前指導

  該当する事業で,その目的や目標など十分理解した後に体験するように指導した。

  • 例1:小学校との交流
    予測される質問等について学習し,小学生の質問に十分対応できるようにした。また対象学年に応じた説明ができるように,言葉や表現も工夫した。
  • 例2:販売体験
      販売物の詳しい説明ができるように,その品種や作付け方法,加工方法など販売物について詳しく学習した。また対面販売ということで,言葉遣い等の対人マナーについても学習を深めるとともに,金銭を扱うことの責任の重要性を理解させた。

(2)活動の展開

  • 例1:スイカの作付け
      入学後すぐにスイカの担当栽培を実施した。担当者がわかるように工夫したり,観察日記を準備し,日毎に成長する作物に接して自然や農作物の営みを肌で感じる体験を目指した。
  • 例2:葉ボタンの品評会
      苗を各家庭に持って帰り,約2ヶ月間家庭で育てた。その結果,家族全員で協力した生徒もいたが,ほとんど世話をせず成長があまりみられないものもあった。11月の文化祭に全てを回収し,株の大きさによる品評会を実施した。

(3)事後指導

  • 例1:野菜等の担当栽培
      スイカの栽培では,各自に栽培歴を渡し受粉など重要な部分を任せたが,積極的に取り組んだ生徒と,そうでない生徒では,収穫の差となって顕著に現れた。
      これらをもとに3年間農業高校で学ぶうえで重要な動植物に接する姿勢や学習の取り組み方を指導した。
  • 例2:搾乳体験
      飼育する乳牛の搾乳体験だけにとどまらず,牛乳の温かさから命の尊さを考える指導をした。試飲を通して食の安全や,食物生産の大変さ等も指導した。

  農産物の販売体験の写真  葉ボタンの品評会の写真  スイカの収穫の写真

3 体験活動の実施体制

  基本的には校内に新たな組織を作らず,既存の学科主任会が中心になり計画を作成した。そして,専門教科の全教職員が指導にあたることとした。また,支援委員会は,保護者や地域の方々にも参加していただき,広く意見を出していただく体制で設置した。

4 体験活動の評価

  全ての体験活動において,対応する科目での評価を実施している。その内容は,事前指導で提示した事柄を十分に理解し実行できたか,また感じることができたか。そして本事業の大きな目標である,農業高校生として農業に対する興味関心が持てるようになったかを,生徒の感想文などで評価するようにしている。

実施上の工夫

  体験そのものにとらわれ,単に「楽しい」で終わることなく,その体験の基にあるもの,あるいは先にあるものを考えることができるように指導方法や内容を工夫した。
  参考:畜産関係の体験では

  • 乳房内で真っ赤な血液から真っ白な牛乳ができることを例にし,動物の体の機能のすばらしさを学ぶことから,人間の体の健康について学習するように工夫した。
  • 豚では乳頭の数以上の子豚は,兄弟であっても生存競争のため育たないことを例にして,人間の持つ「他人を思いやることのできる心」の素晴らしさを考えさせた。
  • 畜舎での体験時必ず出る「臭い」という何気ない言葉から,「飼育者や家畜の気持ちになった場合を考えてみよう。」と問いかけ,人権について考えさせた。

  参考:宿泊体験の受け入れでは
  本校では年間,延べ30校以上の小中学校の体験学習を受け入れ,1,500名以上の参加者がある。これらの実施にあたり高校生も「総合実習」などで様々な協力をした。

  • 本校の宿泊施設を使っての宿泊体験では,生活コーディネート科の生徒が食事などの準備をしたが,日ごろの調理実習と違い,参加者に喜んで食べてもらえることから,授業以上に熱心に取り組むなど,ボランティアについても認識が深まった。
  • 来校時高校生が玄関や駅まで迎えに行き,班別で小学生を担当するなど,個別の関わりを持つ工夫をした。その結果,小学生との手紙のやりとり等の交流が深まるなど,様々な波及効果もあった。

  参考:農業を通した「食育」の積極的な導入
積極的に「食育」に取り組んだ。これはただ単に体験するのではなく,参加者の理解や興味関心を高めることを目的とし,身近な「食」と関連付けた学習内容にした。
例:搾乳した牛乳の試飲やソフトクリームの試食。大豆の作付けと豆腐やおからの試食。稲作と新米の試食。苗から育て収穫したサツマイモの調理及び試食。 等

5 体験活動の成果と課題

ア 成果

  生徒の感想から,自然の中で起こる様々な事象や動植物の生命に触れることは教材として有効であると考えられる。また,地域において様々な体験をする機会が少なくなった現在,農業を通して「食」に関わりながら体験することは素晴らしい学習であることが理解できた。特に,本校の生徒をはじめ小中学生にとって搾乳体験は最も驚きや感動があったようだ。また,搾りたての牛乳の温かさはまさに生きた教材で,その牛乳を使ってバターを作りパンに塗って食べるとその味は格別であり,達成感や充実感を味わい,生徒の心にしっかり刻まれ,牛乳が飲めなかった生徒が飲めるようになったなどの成果もあった。
  今回様々な活動を通して,「体験」の重要性を再認識できた。生徒が実際に「見て」「触れて」「感じた」ことは,机上の学習以上に,生徒の心にしっかりと刻み込まれていると思われる。

イ 課題

  事前指導が十分でない場合,取り組む姿勢が不十分であったり,ただ単に「楽しい」で終わってしまったりすることがあった。最終的な目標は生徒の「生きる力」を育むことであり,そのためには十分な準備と計画が必要で,教員主導型から生徒主導型となるような取り組みが重要である。そして,生徒の感想に対して個別にアドバイスなどを与える等の一歩踏み込んだ指導が必要であり,来年度に向けての課題である。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室

(初等中等教育局児童生徒課生徒指導室)

-- 登録:平成21年以前 --