推進地域・推進校 【中学校・進路学習に関わる農業体験活動】 農家生活体験学習 神奈川県川崎市立東高津中学校

学校の概要
  1. 学校規模
    • 学級数:11学級(内特殊学級1学級)
    • 生徒数:339人
    • 教職員数:27人
    • 活動の対象学年:2年生・116人
  2. 体験学習の観点からみた学校環境
    • 人口130万人の川崎市のほぼ中央に位置し、JR南武線と東急田園都市線が交差する武蔵溝ノ口駅と大きな商業地帯に近接している。
    • 20数年前までは一部に田畑もあったが、近年は宅地化が進み、マンション建設も盛んである。多くの子どもたちは核家族で育ち、三世代同居や大家族での生活体験がない。
  3. 連絡先
体験活動の概要
  1. 活動のねらい
    • 農家生活の体験を通して、勤労の意義や生産活動の大切さについて理解を深める。
    • ホームステイによる人々とのふれあいを通して心の豊かさを高めるとともに、社会性や自主性を養う。
    • 職業としての農業を体験的にとらえ、今後の進路学習に主体的に取り組む態度を身につける。
    • 東北地方の自然や文化に触れ、見識を深めるとともに、豊かな感性を育む。
  2. 内容と教育課程上の位置付け
    • 農家体験学習(古代米の栽培、岩手県東和町での宿泊など)
      ・・・総合的な学習の時間40/70時間
    • 職業体験学習(進路学習、市内各所での技能職体験など)
      ・・・総合的な学習の時間30/70時間

1 活動に関する学校の全体計画

活動のねらい

  本校では、教育方針のひとつである「生きる力を育成する教育活動の推進」を実践するために、生徒一人ひとりの思考力、判断力、技能・表現力を高めることを目指して学習活動の工夫改善に取り組んでいる。
  1学年では「情報教育」に取り組み、様々なメディアを通した調べ学習の基礎を身につけ、「自ら調べ、自ら考える」生徒の育成に向けての足がかりとする。
  2年生では、10月に行われる岩手県東和町での農家生活体験学習に向けて、年度当初から東和町についての調べ学習や稲(古代米)の栽培を中心に学習する。
  古代米については、様々なメディアを通してその栽培法の模索から始め、「米づくり」を通して、農家の人々の知恵や工夫に気づかせる。また、自然と向き合うなかで農業を営む人々の願いや思いについて考えさせ、「自ら調べ、自ら考える」生徒の育成を図る。
  農家生活体験学習の後は、文化祭での発表に向けてそのまとめを行う。また、次のステップとして職場体験学習等を行い、市内の自動車整備や理容・美容の職業としての技能を体験したり、お話を聞いたりする学習を通して、自らの進路に対して主体的に関わっていく生徒の育成を図っていく。

  稲づくり(田植え)の写真

  小雨のなかの稲刈りの写真

全体の指導計画(農家生活体験学習に関して)

※ 東和町「農村振興課」とは随時連絡をとりながらすすめた。

  1. 東北地方・岩手県・東和町の学習(4月)
  2. 農業・林業・酪農などについての学習・稲づくり(5月~10月)
  3. ホームステイグループのホームステイ農家の決定(8月~9月上旬)
  4. ホースステイ農家との手紙や電話交流・ビデオレター発送(9月~)
  5. 入村式、離村式などの準備(9月)
  6. 農家生活体験(10月8日~10日・2泊3日)
  7. ホ-ムステイ先への礼状発送(10月)
  8. 体験学習のまとめ(文化祭発表、10月)
  9. 総合的な学習個人ファイルのまとめ

2 活動の実際

(1)日程

  平成16年10月8日(金曜日)~10日(日曜日) 2泊3日
  宿泊場所 岩手県和賀郡東和町の農家に2名ずつ分宿
  引率教諭 7名

日程の概要

1日目 10月8日(金曜日) 2日目 10月9日(土曜日) 3日目 10月10日(日曜日)
  • 9時 JR武蔵新城集合
  • 11時16分 東京駅発
  • 14時30分 新花巻駅着
  • 15時 東和町到着、見学
■開村式・歓迎会・対面式
■農家生活体験開始
※2~3人ずつ農家50家庭にホームステイ
■ 終日農家生活体験活動
※ 農業体験は、前日に続き、各農家ごとに、りんごや米、野菜類の収穫や出荷作業、田や畑の手入れ、家畜の世話、そして日常の家事手伝いなどを行う。
■ 教員は各農家を巡回訪問
(生徒観察、農家への挨拶等)
■ 農家生活体験終了
■ 地区別お別れ会・離村式
12時 東和町出発
12時41分 新花巻駅発
16時 東京駅着
17時 JR武蔵新城駅
到着、解散

(2)農家生活の体験を終えて

  生徒一人ひとりの体験をもとにパネルにまとめ、文化祭で発表した。
  そこからは、農家生活の体験を通して勤労の意義や生産活動の大切さを学ぶことができる体験学習であったことや、また学校で学んだ知識や学習の成果を確認したり定着するためにも有効な機会であったなどの感想がまとめられている。
  事前に取り組んだ古代米の栽培では、田植えから刈り入れまでの約半年間、台風に対する防護など様々な問題に生徒は真剣に取り組んできた。今秋は例年になく台風による被害が多かったため、自然に向き合って生きる農業の厳しさをより一層認識したようである。こんなとき、東和町の農家ではどのような思いで農作業をしているのであろうか。また、どのような対応をしているのだろうかと思いをめぐらす生徒も多数見受けられた。
  農家生活の実際では、東和町の豊かな自然が、実は人間の手で長い時間をかけて作り上げられ、守りぬかれてきた自然であること。稲刈りや野菜の収穫作業では、人力だけでなくコンバインなどを用いた農業の機械化が進んでいること。生活のために兼業化が進む農家の実態があることなどを目の当たりにしながら、学校での古代米の栽培では得られない農家の現実や農業や自然について見識を深め、さらに新たな課題をつかんだ生徒も少なくなかったようである。
  さらに、作業で床に落ちたもみをひと粒ひと粒拾い集める生徒、農業についてつっこんだ質問してくる生徒の姿から、一人ひとりの生徒に感じるものがそれぞれあったようで、体験学習後の生徒の発表も興味深いものとなった。
  また、短期間ではあるが、農家でのホームステイを通して地元の人々の優しい気持ちにふれ、お別れ会では感激して涙する生徒も多く見られた。
  卒業生のなかには、実際に職業としての農業を選び、東和町に移り住んで生活している者もいること考えると、こうした体験が子どもたちに大きな影響を与えていることを実感するものである。
  なお、今回東和町では「和紙漉き体験」「郷土料理の調理体験」など、東北地方の文化に接する体験も行うことができた。

保護者の反応

  8年前から続いているこの取り組みに対して、生徒の保護者からは、「中学生時代に自分の家庭を離れ、よそのお宅で寝起きさせていただけることはとても良い経験になると思う。」「働くことの意義を身をもって体験する中で考えて欲しい。」「社会性や自主性が少しでも身に付くのでは……。」などの意見が例年寄せられており、非常に好意的に受け止められている。

  りんごの出荷作業体験の写真

  お別れ会でのひとコマの写真

(3)チャンス教育として

  こうした体験学習は、日頃の学校生活に参加できないでいる生徒、いわゆる不登校生徒に対するチャンス教育の実践の場にもなっている。
  普段の授業には参加できない不登校生徒にとっては、教科学習とは違い作業的な活動が中心とあること、ホームステイが2~3人の少人数で行われることなどから、本人のやる気があれば参加しやすい学習活動である。担任が事前学習の日程や作業行程を家庭や本人に連絡することで何人かの生徒がこの体験学習に対して意欲を見せ、準備段階のビデオレターの撮影、農家への手紙による交流などに積極的に取り組み、当日も休まず元気に参加してきた。
  こうした事前活動を通じて、集団活動へも徐々に加わることができる生徒も出てきたことは、副次的な効果として注目したい。

3 体験活動の実施体制

農家生活体験学習支援委員会の体制

    農家生活体験学習支援委員会の体制の図

配慮事項など

  • 予算の確保
  • 日程調整(テスト、学校行事、刈り入れ時期など)
  • 実施期間中の特別時程
  • 救急体制

4 体験活動の評価の工夫と指導の改善

  • 稲作観察カード
  • 体験学習のまとめと発表
  • 担任による個別訪問・観察
    ※ 日頃の学校生活では見ることができない生徒のいきいきとした活動は生徒理解の良い資料となった。

  稲づくり観察カードの写真  稲づくり(刈り入れ前)の写真

5 活動の成果と課題

  この「農家生活体験学習」の実施については課題も少なくない。まず、東和町との連絡調整などの事務的処理を小規模の本校ですべてまかなうのは職員の負担がたいへん大きい。また、東和町では活性化事業の一環として町全体を上げて「農家生活体験学習」の支援に取り組んでくれているものの、町民の高齢化、兼業農家(土日農業)化、離農家庭の増加で、受け入れ農家が減少しているのが実状である。例えば、今年度のホームステイ受け入れ地区の一つは東和町の中心部に位置した住宅地域であり、農業体験は別の農家や施設を利用するケースも出てきている。
  しかしながら、この「農家生活体験学習」に期待する保護者は非常に多い。この活動があるために本校に入学してくる生徒もおり、本校の大きな特色となっている。密度の高い体験ができる貴重な機会だけに、こうした課題を克服して今後とも継続していくことが望まれる。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課生徒指導室

(初等中等教育局児童生徒課生徒指導室)

-- 登録:平成21年以前 --