10.共同作業所「ほっとはうす」

分野:福祉

  • 胎児性水俣病患者などが通う共同作業所であり、市民と交流しながら患者の生活のサポートや、水俣病問題について啓発活動を行っている事例である。
  • 水俣病患者が直接子どもたちと接し生の声を届けることで、この問題に対する理解と啓発を効果的に行っている点が特徴である。

1.主体活動団体

  社会福祉法人さかえの杜・ほっとはうす

2.関係者・関係団体・活動場所

協力者・協力団体

  ほっとはうすの「メンバー」(水俣病患者など)

ボランティア参加者・参加団体

  地元高校生、県内大学生、小学校教師、福祉施設・病院職員、主婦、小学生など

活動場所

  ほっとはうす、地域の学校、水俣市役所など

3.活動のきっかけ・問題意識

経緯

  ほっとはうすの前身は1992年2月に結成されたカシオペア会である。水俣市では1951年5月に水俣病が公式発見され、大変悲惨な被害をもたらした。1991年の水俣国際会議の場で、胎児性水俣病患者である半永一光氏が水俣病を訴える写真展を開くことになり、同じ胎児性患者たちがその準備・応援を行った。そのメンバーたちによってスタートしたのが同会である。ここでは月に一度の例会や、研修旅行などが行われ、共通の悩みを語り合ったり、一般市民との交流を図ったりしていた。
  その後、もっと自然に水俣病患者や障がいを持つ人と市民が交流できる場を望む声が大きくなり、水俣病問題解決策に基づき建てられた水俣市総合もやい直しセンター「もやい館」内に喫茶コーナーの設置を目指したが、その希望はかなえられなかった。そのため、自ら喫茶コーナーを立ち上げることになり、1998年11月に働く場としての共同作業所「ほっとはうす」が開設された。2000年4月からは水俣市の小規模作業所として認可され、2003年10月にはほっとはうすを運営する「さかえの杜」が社会福祉法人として認可を受けている。

背景

  水俣病事件、そしてそれがもたらした人権・環境・福祉の大切さという教訓を、地域の宝物として、子どもたちを始め多くの地域住民に伝え続けたい、そして、患者に対しボランティアの立場でも可能なサポートを体験することで、水俣病に対する理解を深めてもらいたい、という思いが活動のきっかけとなっている。また、現実的に、30代後半から40代の患者の中には身体機能の低下が著しい人もおり、日常的なサポートが早急に求められている状況であった。

活動のねらい

  活動の目的として、同団体では以下の5点を掲げている。

  • 水俣病事件を語り伝える
  • 障がいを抱える人が働き・出会い・交流する場
  • 障がいを持つ人が広く社会に関わる事を大切にする
  • 障がいの種別や程度にとらわれない、誰でも参加できる地域に開放されている場
  • どんなに障がいが重くても、地域に暮らし続ける意志を支え応援する

4.事前準備として行った主な取り組み(企画段階)

連携・協力

  小学校との連携は、子どもたちに社会の中で様々な生き方をしている人々のことを学ばせることに積極的な教師たちとの出会いがきっかけとなった。彼らが学年や職員会議で話をし、学校長などの理解や共感を得て、学校単位で取り組みがスタートした。この取り組みの様子が他の教師にも伝わり、別の学校からも依頼が来るようになった。
  高校生・大学生については、サークル単位での活動協力が長年継続している。きっかけは、ほっとはうすの活動が新聞などで取り上げられたことや、高校については顧問の先生が積極的な意識を持っていたことなどである。

募集方法

  ボランティアの募集は、市の広報誌、ボランティアニュースへの掲載や、友の会会員などによる口コミなどによる。学校で行った出前授業がきっかけで、児童や生徒がボランティアとして参加してくれることもある。また、必要に応じて、ボランティアセンターにコーディネートを依頼している。

活動資金・資材の確保

  2000年度から水俣市の小規模作業所として認可されているため、行政から助成金がおりている。その他、ほっとはうす内にある喫茶コーナーでの営業や、障がいを持つ人による自主製品の製造・販売などによって資金を確保している。

5.活動の概要(活動段階)

  ほっとはうすは胎児性水俣病患者などの障がいを持つ人の共同作業所であり、喫茶コーナーの営業、押し花、ポプリなど自主製品の製造・販売、市役所や高校などでのパンの出張販売などを行っている。活動は、受け入れたボランティアが行なうものと、ボランティアと仕事とを兼ねた活動に大別される。

(1)ボランティアの活動

  受け入れたボランティアの活動としては以下のようなものがある。

1.自主製品の下準備作業

  ほっとはうす内の作業コーナーにおいて、患者たちが野花を中心とした押し花作品やラベンダーポプリなどを製造しているが、ボランティアはその下準備作業を手伝っている。作られた製品はほっとはうすで販売されている。

2.出前喫茶での運搬、洗い場、ウェイトレスなど

  喫茶コーナーで客を待つだけではなく、地域で行われる会議、音楽会、各種イベントなどに出前喫茶コーナーを出している。その場において、主に高校生が患者たちのサポートを行っている。

3.押し花栞作りワークショップの準備

  後述の出前授業において、地域の環境問題をポジティブに伝えるものとして、水俣の野花による押し花栞作りのワークショップを開催している。ボランティアはその開催準備を行なう。

4.研修旅行の介護ボランティア

  普段なかなか遠出のできない患者たちのために、ほっとはうすのメンバーとスタッフによって宿泊を含む研修旅行が行われている。その場に、介護ボランティアとして主に大学生が参加している。

  その他、ほっとはうすが関わる様々なイベントでの手伝いや、車椅子での踊り(2001・水俣ハイヤ節)における介添えなどがある。

(2)ボランティアと仕事を兼ねた活動

  患者である「メンバー」と、同団体のスタッフが共同で行なう活動として、水俣病の多発地区を中心とした地域の学校に出向き、総合的学習の時間などにおいて「水俣病を伝えるプログラム」を行なう出前授業がある。これは、メンバーとスタッフが一緒に話をすることで、水俣病事件とその患者として障がいを持つ人への理解を深めるための啓発活動となっており、ほっとはうすの活動の中でも最も重要なものである。

6.事業の成果

  様々な活動を通して、将来に向けて希望の見える宝物としての水俣病を伝えることができた。これは、水俣病を地域のタブーから開放し、地域福祉に一石を投じる役割を果たしたと言える。実際、喫茶コーナーを訪れる人の中にも、水俣病の問題を話す機会が増えてきている。
  子どもたちは放課後や休日にほっとはうすを気軽に訪れるようになり、街中で出会ったときはあいさつをしてくるなど、障がいを持つ人に積極的に接するようになっている。また、学校で行った出前授業がきっかけで、児童や生徒がボランティアとして参加してくれることもある。このため、同団体の活動は地域の人々やPTAの間で好評である。

7.活動にあたって留意したこと

  学校との連携に際しては、初期の段階で教師側に無理をさせることなく、受け入れ準備が整うのを待つことにしている。また、ほっとはうす内にある喫茶コーナーを利用して教師との打ち合わせを綿密に行い、出前授業がスムーズに進行するよう十分な準備を心がけている。
  学校に出向くだけではなく、子どもたちが放課後や休日に遊びに来やすい雰囲気を作り、ほっとはうすでの交流を促すようにもしている。前述の教師との打ち合わせを行なうこともその一環である。
  出前授業などでの啓発活動は、水俣病患者とスタッフが共同で行い、障がいを持つ人の生の声を子どもたちに伝えるようにしている。そのことにより、「水俣病を伝え、障がいを持つ人の暮らしを伝える」という「ほっとはうす」オリジナルのプログラムを提供している。

8.活動後の評価・今後の課題・展開など

活動上の課題

  ほっとはうすにボランティアに来てもらうとき、またこちらから出前授業のために学校に出かけるときに、移動手段を確保するのが大変である。

今後の展開

  施設ではなく、地域で暮らし続けることを実現させるため、有償・無償の地域人材を活用していきたいと考えている。そして、水俣病の教訓を人権・環境の問題から福祉へ広げ、障がいを持つ人の福祉の充実へとつなげていきたい。

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課

-- 登録:平成21年以前 --