5.伊万里市民図書館

分野:教育

  • 当初は新図書館の設置を要望する活動を行っていたが、新図書館の開館後の現在は、車を利用した移動図書館や子ども達への本の読み聞かせなど、図書館を活用したボランティア活動を行っている。
  • 図書館を舞台とした各イベントを提供することによって、長年住んでいる住民と比較的新しい住民との間に新たな交流が生まれるなど、市民参加型図書館として成功している。

1.主体活動団体

  伊万里市民図書館

2.活動のきっかけ・問題意識

  現在の図書館の設置を願う市民活動が契機である。
  それまでの小さな図書館に不満を持つ、子どもを持つ母親を中心とした市民が、もう一歩進んだ図書館サービスを望むために「図書館を学ぶ会」を結成。わずか5名で結成されたグループは急速に参加者を増やし、短期間で150名に至った。「学ぶ会」は昭和61年に「図書館づくりを進める会」となり、図書館の使い方、他都市の先進事例の見学会、外部講師を招いての図書館サービスのあり方等の勉強会、設置要望の行政への働きかけなどの活動を、平成2年に図書館建設が決定するまで行った。
  建設までの過程には、自動車図書館の展示などを行い、実現に向けての働きかけを行った。
  新図書館建設決定後は、その具体的計画の策定のため、市の幹部が中心となる「図書館建設委員会」と住民が中心となる「図書館懇話会」が設置された。「懇話会」では、住民の立場からの提言を行なうなど、積極的に関与を行った。
  図書館建設後は、「進める会」は「図書館フレンズ伊万里」に改組、運営に対し協力や提言を行っている。
  この「図書館フレンズ伊万里」が中心となり、他の具体的な活動を行なうボランティア、サークルなどが生まれるに至っている。

3.活動の概要(活動段階)

  「図書館フレンズ伊万里」が図書館の応援団として活動している他、以下の活動がなされている。

  • 「おはなしキャラバン」:地域を巡回して本の読み聞かせを行なう活動をしている。自動車による移動図書館での「出前お話し会」として発足。
  • 「朗読ボランティア」:視覚障害者等に朗読を行なうボランティアである。
  • 「風21」:小学校の場で子どもに書物を読み聞かせるボランティアである。
    ※上記の3つのボランティアはいずれも「読み聞かせ」的な活動であるが、活動の対象、目的の違いにより別の組織として活動している。
  • 「布絵本の会」:布を使った絵本を作成し、子どもが触れることで体験できるよう、図書館に展示、常備している。
  • 「点訳」:視覚障害者のために書物を点字に訳すボランティアである。
  • 「三○(さんわ)会」:伊万里地域に伝わる昔話を収集し、書物を出版したり、イベント等で語部をつとめるボランティアである。
  • 「イスノキ合唱団」:日本の歌を合唱することで正しい日本語を伝えていくことを目的に活動。指導者もボランティアで参加し、イベント等に出演している。

  これらの活動には、いわゆる「市民サークル」的な側面もあるが、活動の目的が大きくは「図書館を舞台にした社会貢献」であることは間違いなく、図書館としては広い意味でのボランティアと捉えている。
  また、図書館に対するボランティアとして、地元ライオンズクラブの有志が月に2度、図書館の清掃活動を行っている。
  こうした活動の基盤を支えているのは「図書館フレンズ伊万里」であり、コーディネーター的な役割を担うとともに、図書館の施設の一角で古書の販売などを行い資金を集めている。また、各ボランティアグループに年間1~3万円程度の活動費助成を行っている。なお、「図書館フレンズ伊万里」は250名の会員から徴収する年会費(1,000円)のみで運営しており、公的な補助などはなされていない。なお、「図書館フレンズ伊万里」を除く各グループへの参加者の総数は約200名となっている。

4.事業の成果

  現在の伊万里市民図書館は、「図書館づくりを進める会」を中心とした市民と行政との協働の形で成り立っている。
  現在、「図書館フレンズ伊万里」への参加者は約250人、図書館でのボランティアに参加している市民は200人近くになる。(双方に参加している場合も多い)これらの活動により、図書館の魅力が格段に向上していることは間違いない。
  伊万里市民図書館の取り組みは、市民参加の図書館として注目を集め、多方面に紹介され、視察も相次いでいる。

5.活動にあたって留意したこと

  • 伊万里市民図書館は、市民自らが参画して作った、という意識が強いため、自分たちのできることはする、という考えが根付いている。特に活動の母体的組織である「図書館フレンズ伊万里」では、図書館運営の精神的なパトロンとして機能する、という意識が参加者の共通のものとなっており、「図書館を育てていく」という高いレベルの意識を持っている。
  • 図書館は公的な施設であるため、任意団体であるボランティアグループに対して、金銭的なインセンティブを付与すること等は難しいが、図書館運営に参画する「図書館フレンズ伊万里」が活動資金の助成を行なうことで、各グループも活動しやすくなる。このような点は、公的な図書館と任意組織である「図書館フレンズ伊万里」との組み合わせによるメリットである。また、図書館でセミナー等を実施する際にも、セミナーの企画と実施は図書館が行い、「図書館フレンズ伊万里」がセミナー終了後の懇親会の開催を担当するというように、公的な面と、その先のすみわけがなされながら活動が行われている。
  • ボランティアに対しては図書館として担当職員を決めて、要望等に対応しやすくしている。また、館長室に直接ボランティアが出入りできるよう開かれた雰囲気づくりを心掛けている。実際に、館長室には様々なボランティアグループの参加者が出入りしており、日々の情報交換などに役立っている。
  • ボランティアの活動は、図書館の活動に対して付加価値を付けるものととらえており、基本となる図書館の本来業務については必ず正規職員が行なうこととしている。

6.活動後の評価・今後の課題・展開など

活動にあたって障害になったこと

  • 現在に至る活動については、図書館で行なうことを前提に考え、その枠組みのもとで行えることをしているので特段の障害は感じていない。
  • 但し、一部ではあるが、図書館にボランティアが参加することを運営コストの削減につなげようとする意見がある。ボランティアの参加は重要であるが、図書館の本来業務は専門的な知識とスキルを持つ職員が行なうことで機能を維持することができる。そのことは、コストの削減とはまったく別の問題である。コスト削減という「下心」を行政側が持つとボランティアも離れていく。

事後評価について・今後の展開・課題

  図書館のもともとの役割は、「本と人との出会い」であるが、さらにそれを進めて「人と人との出会いの場」となることによって生涯学習の拠点となり、よりよい市を作っていくことに寄与するものと考えている。
  実際に当初の「図書館づくりを進める会」の活動では、それまで比較的交流のなかった新住民(外部からの転入者)と旧住民が共通の目的の元に会したことで交流が生まれるなどの効果がもたらされ、そのことは現在の各ボランティアグループにも引き継がれている。
  図書館の価値を高める展示などは外部の力を借りることでより良いものができるため、図書館では引き続き多くの人間が集う「場」としての機能を高めていきたい。
  これまでの「地縁」、「血縁」に加えて、「文化縁」とでもいうような新しい人間関係を目指している。

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課

-- 登録:平成21年以前 --