郷土を愛し、豊かな心を育む体験活動の創造‐地域連携、異校種間連携の推進‐ 伊万里市豊かな体験活動推進地域協議会(伊万里市教育委員会)

概要

地域の概要

  • 伊万里市は、農業が基幹産業であり、伊万里梨や伊万里牛などは、産地としてのブランドも確立している。また、全国的に有名な「伊万里焼」の産地として陶磁器の生産も盛んである。
  • 伊万里湾を懐に抱き、山、河、海それぞれ自然環境に恵まれている。特に、カブトガニの産卵地である「多々良海岸」や、京都の壬生寺から持ち帰ったと言われている「明星桜」等、既に、地域学習の素材として活用されている。

地域の学校における状況

  • 各学校においては、地域の特性(産業、自然環境、文化等)を生かした学習活動を展開しつつあり、地域素材の教材化には前向きである。しかし、一方で伊万里の伝統産業や伝統文化等の扱った学習については、学校間の格差等もあり、地域やふるさとへの誇りがなくなってきているという指摘もある。

内容

1 活動に関する全体計画

(1)取組のねらい

1年次の成果や課題を踏まえ、また、2つの中学校区に属する小・中・高等学校を推進校としていることから、2年次は、次のねらいの下、研究を進めていった。

  1. 校種間の連携を図り、校種間交流の在り方を追究する。
  2. 地域の人との交流に重きを置いた活動や地域に働きかけるような活動を工夫する。
  3. 伝統産業や伝統文化を守り、継承する体験活動を工夫する。
  4. 市内の小・中・高校における豊かな体験活動の円滑な展開を推進するため、啓発に努める。

(2)地域全体の計画

ア 活動内容及び実施期間等
推進校 学年等 体験活動の種類・内容 期間・日数・単位時間数 教育課程城の位置付け 活動の場所 活動の対象 学校間の連携
伊万里
小学校
6年 ゴミ拾い体験 7日 18時間 総合的な学習の時間 学校、地域 地域の自然・環境 地域及び関係公共機関との連携を中心に取り組む
6年 伊万里川等の水質調査 7日 18時間 総合的な学習の時間 学校、地域 地域の自然
6年 焼き物作り体験 7日 18時間 総合的な学習の時間 学校、地域 伝統・文化・芸術
6年 祭り体験 7日 18時間 総合的な学習の時間 学校、地域 伝統・文化・芸術
6年 白壁土蔵等の調査 7日 18時間 総合的な学習の時間 学校、地域 伝統・文化・芸術
6年 地域の方々との交流 10日 10時間 総合的な学習の時間 学校、地域 地域の人々との交流
6年 茶道 15日 15時間 学級活動、道徳 学校、地域 伝統・文化・芸術
牧島
小学校
4~6年 りんりんロード調査
多々良海岸調査
2日 10時間 総合的な学習の時間 りんりんロード多々良海岸 りんりんロード
多々良海岸
カブトガニの調査等については、伊万里高等学校の教諭、生物部の生徒から指導を受けている。
4~6年 「カブトガニ」
パンフレット作成
1日 5時間 総合的な学習の時間国語 教室 カブトガニ
4~6年 多々良海岸清掃 1日時間 総合的な学習の時間 多々良海岸 多々良海岸
4~6年 りんりんロード除草作業 2日 10時間 総合的な学習の時間 りんりんロード りんりんロード
4~6年 カブトガニの産卵を見る会 1日 4時間 総合的な学習の時間 多々良海岸 多々良海岸
4~6年 学習のまとめ(9月) 1日 4時間 総合的な学習の時間 教室 活動全般
4~6年 運動会への招待(9月)
感謝の会への招待(11月)
1日 4時間
2日 10時間
特別活動
特別活動、音楽
学校 支援委員会
指導者
二里
小学校
1年 芋を作る(畑作り~収穫)
花育て、6年生に贈る
6~10月
10~3月 (7日間)
生活科 生活科畑
学級園
植物 伊万里農林高等学校の生徒から指導を受ける。
3年生、4年生
2年 生き物とともだち 6~9月 (7日間) 生活科 学校及び周辺
田平昆虫館
昆虫及び生物
3年 大豆を栽培し、豆腐・納豆等を作る 4~3月 (7日間) 総合的な学習の時間 学校及び周辺 植物(大豆)
4年 身の回り菌について調べ、発酵食品を作るまでの活動 4~3月 (95時間) 総合的な学習の時間 学校、伊万里農林高等学校 微生物(菌)
5年 二里町の自然・地域の人々を知ろう
宿泊自然教室
4~3月 (40時間) 総合的な学習の時間 公民館、地域、学校、波戸岬少年自然の家 自然・地域
6年 やじりや土器、石器等を作り縄文体験をする 4~3月 (7日間) 社会科、図工、理科 腰岳学校 自然(土、黒曜石等)
東山代
小学校
5年 ○ 勤労生産体験~花の栽培○ 社会奉仕体験
地域の美化清掃
栽培した花の定植
約45時間 総合的な学習の時間 校区内 地域の環境 伊万里農林高等学校の生徒から指導を受ける。
啓成
中学校
全学年 ボランティアなど社会奉仕に関わる体験活動 半日で学期に1回
(4時間×3)
計12時間
総合的な学習の時間 伊万里市内 本町商店街
公共の広場
通学路
地域や関係機関との連携を中心に取り組む。
2年 職場、職業、就業に関わる体験活動 6日間 36時間
(1,2学期に3日ずつ)
総合的な学習の時間 伊万里市内 商店街、小売店
サービス業
公共施設、保育園
1年 職場の様子、職場の内容、就業に関わる調査活動 3日間 18時間 総合的な学習の時間 伊万里市内 商店街、小売店
サービス業
公共施設,保育園
1年 宿泊訓練 3日間 18時間 総合的な学習の時間 黒髪少年自然の家  
国見
中学校
1年 宿泊体験学習 3日間 特別活動 黒髪少年自然の家 地域の環境 伊万里農林高等学校の生徒から指導を受ける。
二里小学校との共同作業。
1年 有田川河畔等清掃活動 2時間 総合的な学習の時間 有田川河畔 地域の環境
1年 花いっぱい運動 18時間 総合的な学習の時間 校区内国道沿い 地域の環境
1年 校内環境整備活動 10時間 総合的な学習の時間 学校 地域の環境
伊万里
農林高等学校
2年全員 職場・職業・就業に関わる体験活動インターンシップ活動 事前(2日)
インターンシップ(4日)
事後(2日) 56時間
教科「農業」
科目「就業体験」
1~2単位
校内、各事業所 各事業所における関係者および業務に関わる場所 二里小学校、東山代小学校、国見中学校3校との連携を図りながら活動に取り組む。
3年森林工学科 交流に関わる体験活動
森林・木材加工体験
7日間 35時間 教科「農業」
科目「課題研究」
校内、近隣小学校 小学生および保護者
3年食品化学科 交流に関わる体験活動
食品製造・加工体験
7日間 35時間 教科「農業」
科目「課題研究」
校内、近隣小学校 小学生
3年生物生産科 交流に関わる体験活動
国道204号線花いっぱい運動
7日間 35時間 教科「農業」
科目「課題研究」
校内、近隣小学校 小学生、地域住民、老人クラブ
3年生活文化科 交流に関わる体験活動
被服製作体験
7日間 35時間 教科「農業」
科目「課題研究」
校内、近隣小学校、近隣保育園 小学生、保育園児、
伊万里
高等学校
1年 腰岳周辺散策による俳句・短歌作り 1日 6単位時間 特別活動 腰岳周辺 腰岳周辺の自然 地域や関係機関との連携を中心に取り組む。
1年 カブトガニ保護活動
産卵地清掃
1日 4単位時間 総合的な学習の時間 産卵地海岸 産卵地砂浜
1年 ボランティア活動
市内公共施設清掃
1日 4単位時間 総合的な学習の時間 市内公共施設 市内公共施設
1年 伊万里学1
伊万里焼作成体験
1日 6単位時間 総合的な学習の時間 伝統産業会館
伊万里焼窯元
陶器
1年 伊万里学2
伊万里の歴史・文化体験
1日 4単位時間 総合的な学習の時間 市内学校近隣地区 市内の史跡
1年 伊万里学3
居住地域の歴史・文化体験
1日 6単位時間 特別活動 生徒の居住地区 生徒の居住地区、史跡
1年 触れあい体験幼稚園訪問 1日 6単位時間 総合的な学習の時間 市内幼稚園 園児・園職員
イ 各学校間の連携体制

異校種連携については、伊万里農林高等学校と隣接する小中学校において特に重点的に推進している。専門高校としての特色を生かし、活動内容の連携を行っている。 各学校間の連携体制

イ 各学校間の連携体制

(3)学校段階に応じた体験活動の工夫

ア 小学校

小・中・高校、さらに地域の老人会との連携を図り、道路沿いや駅舎に花苗を植えるボランティア活動や、農業高校生との交流による農業体験や食品づくりの体験を行うこととしている。
また、伝統文化の継承活動として、焼き物作りや祭り体験、茶道などを地域の方々をゲストティチャーをして招聘して行うことを計画している。

イ 中学校

職業・就業に関わる体験活動を中心に計画をしており、地域の職場での体験を通して地域の方々との交流も行うこともねらっている。また、学校周辺の清掃活動を定期的に実施することでボランティア精神の育成や、郷土愛を育成したいと考えている。
また、他校種との交流によるボランティア活動も実施する予定である。

ウ 高等学校

高校は普通科高校と農業高校の2校であることから、体験内容が大きく2つに分かれており、小学生に対して、農業体験や食品加工体験の場を提供しての交流に関わる体験と生息地が限られ、貴重な生物であるカブトガニを守る、海浜清掃などのボランティア活動を計画している。さらに、カブトガニについては、調査した内容などを近隣の小・中学校に講演にいくことも考えている。

2 体験活動の実施体制

(1)地域・学校や学校の体制、家庭や地域、関係団体・施設・機関等との連携

  推進地域としては、年間3回程度の推進協議会を開催している。協議会には、ボランティア協議会、青少年育成市民会議、小中学校連合PTA、青年会議所、公民館連合会など関係機関の方々を委員とし、各学校における体験活動が円滑に行えるように配慮している。
また、各学校においても、学校支援委員会を組織している。委員としては、例えば、老人クラブや婦人会、公民館長など、地域での活動に関係の深い方々にお願いしている。

(2)活動の場や指導者の確保等の手だてや工夫

  各学校それぞれ、学校支援委員会等を通じて活動の場や指導者の確保を行っている。特に、伊万里農林高校に隣接した学校では、伊万里農林高校生徒との交流学習(実習指導など)や職員の出前授業など、専門高校の機能を活用した取組がなされている。

(3)配慮事項

  推進地域としての配慮事項は、伊万里市教育委員会に事務局を置き、校種間・地域・関係機関の連絡調整を行いながら協力体制を築き、事業の推進を図っていくことに重点を置いた。また、各学校における学校支援委員会の配慮事項の主なものは、次のとおりである。

  • 体験活動の場の開拓について支援を行う。
  • 指導者の確保について支援を行う。
  • 体験活動の円滑な実施への協力・調整を行う。
  • 体験活動の充実に資する活動を行う。
  • 地域の各団体や機関が主催する行事との連携を図る。
  • 児童の豊かな体験活動の地域への啓蒙活動を行う。
  • 各種団体との協力関係の指導とそのための協議の場の設定を行う。
  • 活動時の関係団体との連絡・調整を行う。
  • 活動予算の執行を行う。
  • 適宜、体験活動の企画・立案及び助言・提言を行う。
  • 状況報告・実績報告・決算報告を行う。

3 体験活動の評価の工夫と指導の改善

事業については、今後右記の表にある観点にしたがって評価を行うようにしている。

※ ある小学校の事例

 ある小学校の事例

【カリキュラム及び事業評価観点】

評価観点 評価項目
学習活動について
(単元のねらいや育成すべき資質・能力、触れさせたい価値内容など)
  • 設定した単元目標が実現できたか。
  • 単元の実施時期や期間は適当であったか。
  • 児童生徒の発達段階に合った内容であったか。
地域との連携について
(地域の「ひと」「もの」「こと」との連携)
  • 地域の関連施設等を十分活用できたか。
  • 地域の人材の活用は計画通り行うことができたか。
    (繰り返し関わりを持つことができたか。)
  • 施設及び人材の活用に関して、課題は何か。
異校種間の連携について
(隣接する学校同士の交流など)
  • 効率的な交流ができたか。
  • 双方とも教育課程上の位置付けは明確になされていたか。
    (無理のない計画であったか。)
  • 双方ともに意味のある活動であった。
  • 交流における課題は、何か。
推進地域協議会及び学校支援委員会について
(体験活動を支援する視点での観点)
  • 推進協議会、支援委員会の機能は十分に果たしていたか。
  • 会議上で出された助言等については、事業の運営に取り入れることができたか。
  • 推進協議会、支援委員会の運営に関する課題は何か。

カリキュラムの検討を受けて、各学校間の担当者会の回数を増やし、できるだけ、双方にとって意味のある活動になるように心掛けている。また、推進協議会でも、会議終了後は必ず担当者の連絡会の時間を設けるように配慮した。

4 成果と課題

(1)成果

本年度は、地域や異校種間の連携に重点を置き取組を展開した。その結果次のような成果が挙げられる。

  • 地域の方々と触れ合う機会が増したことから、郷土に対する児童生徒の意識を高めることができた。(例:ある児童の感想[花いっぱい活動の取組から]「自分たちが知らないところで、老人会の人や中学高校の人が頑張ってるんだと分かった。これからも下級生が続けてくれたらいいと思った。」)
  • 異校種の連携について、お互いに意味がある活動の在り方について確かめることができた。
    (例:ある高校の生徒の感想[花いっぱい活動の取組から]「小学生が鋭い質問をするので、自分もたくさん調べた。ちゃんと答えることができてよかったが、教えるのはなかなか難しい。」)
  • 受け入れ側の方々も、「児童生徒は、地域で育てる。」という意識を持って取り組んで頂き、学校と地域との距離が縮まったように感じる。また、異校種連携については、各学校の特色を知るいい機会になった。

(2)課題

課題としては、次の3点が挙げられる。

  • 体験活動に掛かる費用について、教育委員会で的確な予算措置を取ること。
  • 校種間の連携について、お互いに意味のある活動でなければ長続きしない。お互いの児童生徒にとって学びのある活動にするために、活動内容を十分に検討しなければならないこと。
  • 体験活動を支援するための関係機関のリストづくりと係る手続きの簡略化、各学校等で提供できるサービスの集約など、教育委員会が中心になって環境整備に努めること。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --