【小学校・勤労生産に関わる体験活動】 地域の人・もの・文化に感動する体験活動 ‐イワフネチャレンジ‐ 新潟県村上市立岩船小学校
学校の概要
- 学校の規模
- 学級数:12学級(内特殊学級1学級)
- 児童数:273人
- 教職員数:26人
- 活動の対象学年:5年・45人
- 体験活動の観点からみた学校環境
- 県北に位置し、海・山・川・平野に囲まれた自然豊かな地域であり、「磐舟の柵」で知られた古い歴史と伝統の町である。
- 創立130年を迎えた学校であり、それを支えてきた地域の人や保護者の思いは今も強く、子どもたちの育成に関わる教育活動に惜しみなく協力する姿として現れている。
- 産業や文化面においては、地場産物を生かした伝統的な食品産業、漁業や農業、江戸時代から続く「岩船大祭」等、子どもたちの周りには価値ある営みが多く存在する。
- 連絡先
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体験活動の概要
- 活動のねらい
- 自分たちが住む岩船の人とのふれ合いを通して知恵や技を学び、相手や地域を思いやる心を育成する。
- 自分で考え、自分で判断し、自信をもって主体的に人やものに関わる態度や能力を育成する。
- 活動内容と教育課程上の位置付け
- 地域の人に学ぶ技と心
- 地引網体験(学校裁量4時間)
- 鮭の塩引き作り(総合的な学習の時間4時間)
- ヒラメの稚魚放流(社会3時間)
- 田植え、稲刈り(社会3時間、学校裁量7時間)
- 地域を思うやさしい心
<社会奉仕的要素も含む>
- フラワーボランティア(学校裁量9時間)
- 岩船クリーン作戦(特別活動6時間)
- まごころ交流(総合的な学習の時間4時間)
等
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1 活動に関する学校の全体計画
(1)活動のねらい
- 体験を通して、地域の人とふれ合いを深めたり、知恵や技に感動したりしながら、相手や地域を思いやる心をさらにはぐくむ。
- 自分で考え、判断し、自信をもってより主体的に人やものに関わる態度や能力を育てる。
(2)全体の指導計画
- ア 活動の名称 「イワフネチャレンジ」
- イ 実施学年・活動内容・教育課程上の位置付け・期間等
学年 |
活動内容 |
教育課程上の位置付け |
期間・単位時間数 |
5,6年 |
地引網体験 |
学校裁量(わくわく) |
9月 4時間 |
5年 |
ヒラメの稚魚放流 |
社会科 |
7月 3時間 |
4年 |
鮭の塩引き作り体験 |
総合的な学習の時間 |
12月 4時間 |
5年 |
田植え・稲刈り体験 |
社会科 学校裁量(わくわく) |
5~9月
3時間 7時間 |
全校 |
フラワーボランティア (自分で選んだ花を育て、学校や地域を花いっぱいにする活動) |
学校裁量(わくわく) |
6~8月 9時間 |
全校 |
岩船クリーン作戦 (自分たちで計画し、地域に呼びかけて行う海岸清掃活動) |
特別活動 |
5~8月 6時間 |
5年 |
まごころ交 (特別養護老人ホームで、自分たちが考えた内容で入所者と交流する活動) |
総合的な学習の時間 |
9~10月 4時間 |
2 活動の実際
(1)事前指導
- 年度当初、今年度のイワフネチャレンジ推進計画について全教職員で共通理解を図る。そして、教科、領域等の年間プランを作成した上で、活動時期、指導者依頼、指導過程等を検討し、見通しをもって事前指導や実際の活動に取り組めるようにしている。
- 学年や学年部の活動は、学年担任が教科等との関連を考慮し、教科の発展として活動できるようにゲストティーチャ-を招いたり、時期を考慮したりしている。
- 全校活動では、校務分掌の担当者と中心になる子どもたちで計画を立て、全校の子どもたちに活動の目的や計画を提案、説明している。
(2)活動の展開
地域の人に学ぶ技と心
ア 鮭の塩引き作り(4年総合的な学習の時間「サケ博士になろう」に位置付けて実施)
岩船漁協での水揚げも多い鮭。それを使った伝統料理の一つに「塩引き鮭」がある。
子どもたちは「サケ博士になろう」の学習の中で自分の課題とした鮭に関する調べ学習を進める。その過程において、一人一本の鮭(4kg台)の塩引き作りを体験する。そして、この体験によって膨らんだ鮭に対する興味・関心を自分の課題追究に生かしていく。
この体験では、漁協関係者、塩引き職人(漁師)、ボランティアの協力を得、経費も格安で実施している。また、実際の活動では1m近い鮭を相手にすることや刃物を使用することから、ほぼ全家庭の保護者からも協力を得て実施している。
12月中旬に出来上がった塩引き鮭は、各自持ち帰り、家族みんなで食する。中には年越しの魚として食べたという家庭もあり、この体験で深まった地域への思いや願いが家庭でも話題にされ、ふるさとのよさを実感するよい機会となる。
イ ヒラメの稚魚放流(5年社会科「水産業の盛んな地域を訪ねて」に位置付けて実施)
水産業の学習の終末段階で、地域における育てる漁業の実際を体験する。学習の過程でゲストティーチャ-として、漁協関係者、漁師、水産業改良普及委員等の方々を迎え、子どもたちの疑問に答えてもらっている。その上で、わが国の水産業が抱える諸問題の一つを地域の海、地域の漁業に置き換えて学習し、ヒラメの放流活動を地域に出かけて実施している。子どもたちには、身近な問題として関心を高めることができた。
この活動は、学習内容の深まりへの期待と地域の漁業関係者の願いが正に融合した形となり、学校と地域が双方向で連携した活動となっている。
地域を思うやさしい心
ア フラワーボランティア(全校学校裁量「わくわくタイム」に位置付けて実施)
児童会の環境委員会からの「みんなで学校を明るくきれいにしよう」という呼びかけを受け、自分で花を選び、自分で世話をして学校に飾る一人一鉢栽培活動を実施している。また、町内子ども会ごとにプランターに植える花を選び、役割や分担を決めて育て、その花を飾る場所を考えて町内に飾る活動を実施している。子どもたちは、登校すると自分たちの鉢やプランターに忘れず水をやり、成長を楽しみにしながら育てている。
町内への花の運搬や長期休業中の管理についても子どもたちが担当し、保護者には活動の趣旨を説明して見守ってもらっている。
(3)事後指導
- 一つの体験活動が終わるたびに、子どもたちに感想や思いを書かせ、道徳の授業を中心とした心の教育に生きるようにしている。
- 全ての活動が終わった段階で、一年間の活動を振り返る場やそれを伝える学習活動を単元化し、活動を通して獲得した知識や培ってきた心や態度を保護者や地域の人に発信している。(学習発表会:2月第1日曜日、約700人参加)
3 体験活動の実施体制
(1)学校支援委員会の体制
- 学校支援委員からも体験活動に参加してもらい、運営面・指導面での具体的な示唆がもらえるようにした。また、地域の関係機関(漁協、水産普及委員、漁師、区長会、PTA等)との連携に当たり、指導者の紹介等、ネットワークを生かせるようにした。
- 指導者とは、事あるたびに学校職員が出向き、打合せを含めた連携を密にしラポート関係を築くようにした。
(2)配慮事項等
- 活動場所までの移動、活動中等における安全面や運営面での補助として学習ボランティア(保護者)の参加があるとよい。また、天候の変化に対応できる準備や連絡体制作りが必要である。
4 体験活動の評価の工夫と指導の改善
- 活動終了後に子どもたちに感想等を書かせている。また、指導者や参加した保護者からも感想をもらい、それらの成果、教育活動への位置付け等を検討する材料にしている。
- 総合的な学習の時間での体験活動については、評価カードを使って子どもと担任がそれぞれに自己評価を行い、それを総合して分析し、単元構成の改善に生かしている。
- 体験活動の様子を毎月「イワフネチャレンジ」便りとして発信している。学区全戸1,500戸へ配付し、活動の様子を伝えている。年度末には、学習発表会や保護者、地域へのアンケートを実施し、指導過程の改善に生かしてきた。
5 活動の成果と課題
イワフネチャレンジでの体験活動は、平成3~15年の伝統ある活動であり、子どもたちも楽しみにしていると同時に、多くの保護者や地域の方もぜひ体験させたいと思っている(アンケート結果)。
体験活動を通して、子どもたちは地域のよさやすばらしさ、そして、地域の人からの自分たちへのあたたかい思いを実感することができた。また、自分たちで考えた活動への地域の人からの声が意欲を高め、関わりを深める様子が随所に見られるようになってきた。指導者や関係者からは、「岩船の子を共に育てる」という立場で全面的な協力が得られていることを確信している。
今後も、保護者、地域の人とのラポートを大切にしながら、体験活動と教科・道徳・特別活動等との関連をより明確にして教育課程に位置付けなければならない。また、そのために体験活動の価値と教科等の目標や内容をどう関連させることがベストなのか検討していきたい。